「まだステージ1勝したことすら信じることが出来ていないのに」。笑いながら記者会見でそう話す21歳のワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)が、再びブエルタ・ア・エスパーニャのステージ優勝に輝いた。総合争いにも動きが見られた第16ステージを振り返る。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第16ステージ高低図ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第16ステージ高低図 image:Unipublicピレネー3連戦を締めくくるのは、フォルミガルスキー場に至る1級山岳サジェント・デ・ガジェゴの山頂フィニッシュ。フランス国境に近い標高1800mのスキー場で2週目が幕を下ろす。

スタート前に入念にバイクをチェックするワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)スタート前に入念にバイクをチェックするワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsujiステージ全長は短めの146.8kmで、前日&前々日の悪夢のようなステージと比べると山岳の難易度は低く、しかも雨の心配がない好コンディション。しかしそれらが単純にイージーなステージを意味するわけではなかった。

スタート前に話し込むヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)スタート前に話し込むヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiグラウスの街をスタートしてすぐ、断続的なアタックが集団先頭で繰り広げられる。ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)がレース後に「今日は150人の選手のうち120人がアタックしていた。スタートから全開だ」と振り返るほどの激しい攻防。

数名〜数十名が飛び出しては吸収を繰り返す。積極的に逃げに選手を送り込んだのはモビスターで、アスタナがこの動きを封じ込める。

62km地点でフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)やアメツ・チュルカ(スペイン、カハルーラル)ら9名が飛び出しても、メイン集団の先頭ではカチューシャやモビスターが攻撃を続行する。続いてメイン集団を飛び出したウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)やワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)ら8名が先頭9名に合流したところで、ようやくレース落ち着きを取り戻した。

レース中盤に形成されたこの大きな逃げグループは、アスタナとエウスカルテルが牽引するメイン集団から2〜3分のリードで1級山岳サジェント・デ・ガジェゴを目指す。しかし人数の多さから上手く協調体制を築くことが出来ない。

業を煮やしたフアンマヌエル・ガラーテ(スペイン、ベルキンプロサイクリング)のアタックを切っ掛けに、逃げグループではステージ優勝争いが本格化。単独で逃げグループを飛び出したバーギルが、残り9kmから独走を開始した。



1級山岳サジェント・デ・ガジェゴを登るグルペット1級山岳サジェント・デ・ガジェゴを登るグルペット photo:Kei Tsuji
1級山岳サジェント・デ・ガジェゴで独走するワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)1級山岳サジェント・デ・ガジェゴで独走するワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji逃げグループから遅れたウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)がロドリゲスをエスコート逃げグループから遅れたウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)がロドリゲスをエスコート photo:Kei Tsuji


ハンドルを投げ込んでゴールするリゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)とワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)ハンドルを投げ込んでゴールするリゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)とワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ) photo:Cor Vos小刻みに勾配が変化する1級山岳サジェント・デ・ガジェゴを登るバーギル。後方ではリゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)とドミニク・ネルツ(ドイツ、BMCレーシングチーム)の2人が追撃体制に。

スキー場の斜面をジグザグに登る九十九折りを進むうちにバーギルはリードを失い、残り1kmでウランが単独で合流に成功する。牽制するバーギルとウランの後方にネルツとバルトス・フザルスキー(ポーランド、ネットアップ・エンドゥーラ)が迫ったところで、2人のスプリント勝負がスタート。シューズのバックルが外れながらも、落ち着いてスプリントに持ち込んだバーギルが先着した。

第13ステージで逃げグループからタイミングの良いアタックを成功させ、グランツール初勝利を飾った21歳が再びステージ優勝に輝いた。事態を上手く飲み込めていないような表情でバーギルは「きっと来週帰宅してようやくステージ2勝したことを理解するんだと思う。しかもまだチャンスがある。もう一度チャレンジしたい」と記者たちの質問に答える。フランス新時代を象徴するクライマーとして、今後の活躍に期待が集まる。



1級山岳サジェント・デ・ガジェゴでライバルたちに遅れを取るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)1級山岳サジェント・デ・ガジェゴでライバルたちに遅れを取るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiニーバリを引き離すクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ニーバリを引き離すクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Vuelta a Espana/Graham Watson


1級山岳サジェント・デ・ガジェゴでアタックを仕掛けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)1級山岳サジェント・デ・ガジェゴでアタックを仕掛けるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiバーギルから遅れた逃げメンバーが個人タイムトライアル状態でフィニッシュするその後方では、マイヨロホ争いが加熱。前日に「2日間の厳しいコンディションの影響を見ながら走りたい」と弱気な発言をしていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)に対し、ライバルたちが攻撃に出た。

タイムを惜しんでスプリントでゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)タイムを惜しんでスプリントでゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Cor Vosまずはホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がアタックを仕掛けたが、ニーバリは反応しない。ロドリゲスは逃げグループから脱落したグセフにアシストされて登りを突き進む。

続くクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)のアタックにも反応しないニーバリ。反応しないのではなく、反応出来ないことを悟ったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がアタックすると、ニーバリは苦しみながら視線を落とした。

マイヨロホの失速に色めき立ち、我先にフィニッシュラインを目指したライバルたち。精彩を欠いたニーバリに対し、ロドリゲスは28秒、バルベルデは25秒、ホーナーは22秒のタイムを奪うことに成功する。ニーバリはマイヨロホを守ったが、総合2位ホーナーとの総合タイム差が28秒まで縮まった。

「ニーバリの失速は一時的なものなのかも知れないが、もし疲労感に苛まれているのなら、僕のやる気はアップする」と語るホーナーと、「楽観的に捉えている。この先のステージに登場する登りは今日よりも厳しくて僕向き」と語るニーバリ。この2人にバルベルデを加えた三強が、マイヨロホ争いの土俵に立っている。

なお、ニーバリとアスタナのチームメイトたちは、ゴール地点から180km離れたホテルまでチャーターヘリで移動。他チームが3時間かける道のりを30分で終えている。圧倒的なリーダーの姿が霞んだまま、ブエルタは2回目の休息日を迎える。



レースの到着に合わせるように太陽が山に沈むレースの到着に合わせるように太陽が山に沈む photo:Kei Tsuji馬に乗ってブエルタを観戦馬に乗ってブエルタを観戦 photo:Kei Tsuji



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第16ステージ結果
1位 ワレン・バーギル(フランス、アルゴス・シマノ)              3h43'31"
2位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)
3位 バルトス・フザルスキー(ポーランド、ネットアップ・エンドゥーラ)      +03"
4位 ドミニク・ネルツ(ドイツ、BMCレーシングチーム)              +08"
5位 ホセ・エラーダ(スペイン、モビスター)                   +20"
6位 ミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)            +37"
7位 マチェイ・パテルスキー(ポーランド、キャノンデールプロサイクリング)    
8位 アンドレ・カルドソ(ポルトガル、カハルーラル)               +40"
9位 アメツ・チュルカ(スペイン、カハルーラル)                 +42"
10位 クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソ・ティンコフ)        +45"

17位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)              +1'41"
18位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             +1'44"
19位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                    +1'47"
20位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)
21位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)             +1'56"
22位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)          +2'03"
23位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)              +2'04"
24位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)
25位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)       +2'08"
26位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)             +2'09"

敢闘賞
フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)

マイヨロホ(個人総合成績)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)            64h06'01"
2位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)      +28"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +1'14"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               +2'29"
5位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)       +3'38"
6位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           +3'43"
7位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)                     +4'37"
8位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)        +6'17"
9位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)              +7'33"
10位 タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)                +9'21"

マイヨプントス(ポイント賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              118pts
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           105pts
3位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                98pts

マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                   36pts
2位 ダニエーレ・ラット(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)       30pts
3位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     22pts

マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)     9pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)              13pts
3位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           13pts

チーム総合成績
1位 エウスカルテル                            191h46'16"
2位 アスタナ                                 +1'07"
3位 モビスター                                +1'26"

text&photo:Kei Tsuji in Sallent de Gallego, Spain

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