昨年の現地レポートでもこのネタを書いた気がするが…ゴール地点ニースの天気が気になったので、前の晩にGoogleで「Nice Weather」と検索する。すると、検索名の通り「ナイス・ウェザー」という予報が出てきた。

ローラー台でアップするリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)ローラー台でアップするリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング) photo:Kei.Tsuji地中海性気候のゴールは天気が良くても、内陸部のスタート地点マノスクは話しが違う。夜分から降り出した雨に、スタッフも選手も皆一様に表情を曇らせる。それでも、ゴール地点が晴れていて、レースの進行とともに天候が回復して行くのは気が楽だ。

出走サインを済ませ、オリーブの枝を受け取った別府史之(オリカ・グリーンエッジ)出走サインを済ませ、オリーブの枝を受け取った別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei.Tsujiマイヨジョーヌのリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)は早いタイミングで出走サインを済ませ、チームバスに戻ってローラー台で入念にアップする。ローラー台で少し脚を回すと、それまで周囲と笑顔で話していたポルトの表情がガラリと変わる。ポルトだけでなく、最終アシストのシウトソウとロペスガルシアを除いて全員ローラー台でアップしていた。

別府史之(オリカ・グリーンエッジ)のバーテープは左右で厚さが異なる別府史之(オリカ・グリーンエッジ)のバーテープは左右で厚さが異なる photo:Kei.Tsujiこのオートプロヴァンスからプロヴァンスにかけてが第二の故郷とも言える別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、会場で引っ張りだこだった。チームバスから出走サインに向かう数十メートルの間に、何度も何度も「フミー」や「ベップー」と呼び止められては昔話に興じたり、一緒に写真を撮ったり。

ベルギー人マッサージャーのヨアキムは「フミはいつでも笑顔を絶やさずにファンサービスしている。ヨーロッパであそこまで親身な選手はいない。関心する。あれこそプロフェッショナルだ」と証言する。

よく見るとフミのバーテープは左右で厚さが異なる。明らかに右側が分厚い。でもこれはメカニックのミスではなく、今年から始めた試みだと言う。「過去に右の鎖骨を折っているので、左と比べて右腕が僅かに短いんです。だから右のバーテープを厚くすることで調整しています」。

この日もフミはレース序盤からアタックする作戦。例年逃げが決まりやすいだけにその意気込みは強い。他のチームのローラー台でアップする選手の数や選手の表情、出走サインを済ませてから近くの丘に走りに行く選手を見ると、逃げを狙う選手が多いということを痛感する。

マノスクからニースまでの220kmはアップダウンの繰り返し。雨は小降りになったものの、山間部のワインディングは濡れている。選手たちは5時間以上ずっと神経を研ぎすまさなければならない。この日だけでDNSは2名、DNFは12名。すでに32名がレースを去った。

水、コーラ、ファンタ、そして暖かい紅茶まで用意するオリカ・グリーンエッジスタッフ水、コーラ、ファンタ、そして暖かい紅茶まで用意するオリカ・グリーンエッジスタッフ photo:Kei.Tsujiリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)のバイクには黄色いテープが巻かれたリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)のバイクには黄色いテープが巻かれた photo:Kei.Tsuji

スカイプロサイクリングが率いるメイン集団がオートプロヴァンスの山岳地帯を行くスカイプロサイクリングが率いるメイン集団がオートプロヴァンスの山岳地帯を行く photo:Kei.Tsuji

20km地点で撮影していると、9名が先行し、2名が追走する姿が見える。逃げが決まりかけのタイミング。しかしその中にフミの姿は無かった。

メイン集団内で1級山岳カブリ峠の頂上を目指す別府史之(オリカ・グリーンエッジ)メイン集団内で1級山岳カブリ峠の頂上を目指す別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei.Tsujiゴール後に聞くと「スタート直後の平坦路で全開でアタックしたんですけど決まらず、最初の3級山岳でそのツケが回ってしまった」と言う。フミはスカイプロサイクリングが徹底的にコントロールするメイン集団の中で一日を過ごした。

ゴール81km手前の1級山岳カブリ峠では集団内で走るフミの姿を確認したが、そのあと遅れてしまったフミ。「他の遅れた選手と一緒に追走したものの、前の集団には追いつかなかった」。21分34秒遅れの集団でゴールしたフミは、雨と埃で真っ黒になった顔で話す。第6ステージを終えてフミの総合順位は109位。最終日のタイムトライアルは、44番目、14時22分(日本時間22時22分)のスタートだ。

雨に濡れた1級山岳カブリ峠を登るプロトン雨に濡れた1級山岳カブリ峠を登るプロトン photo:Kei.Tsuji

スプリントで競り合うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)とシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)スプリントで競り合うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)とシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei.Tsuji雨雲を背に、太陽が射し込むニースの海岸通プロムナード・デ・ザングレで繰り広げられたゴールスプリント。会場のMCは、BMCレーシングチームのメンバーに上手く解き放たれたフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)の名前を連呼する。しかし世界チャンピオンの仕掛けるタイミングは早すぎた。

ボーナスタイムによって総合3位の座も同時に得たシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)ボーナスタイムによって総合3位の座も同時に得たシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei.Tsuji少しタイミングを遅らせてスプリントしたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)がまくる。フランス人の勝利に、沿道に詰めかけた(ロードレースをよく知らない)観光客も沸く。その陰に隠れて、マイヨジョーヌはしっかりと集団内でゴールした。

マイヨジョーヌを守ったリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)マイヨジョーヌを守ったリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング) photo:Kei.Tsuji昨年同様、最終日はニースから地中海を見下ろす「鷹の巣」エズの村まで登る山岳個人タイムトライアル。すぐ近くのモナコに住むポルトにとってはローカルコースだと言っていい。「出場選手の中で最も遠い国(オーストラリア)から来た、最もホームに近い選手」というレースリリースの言葉は間違っていない。

第6ステージのスタート前、最終日のコースについてポルトに聞くと「毎日のように走る定番のコース。スタートからゴールまで、勾配の変化からコーナーの深さまで全て記憶しているよ」と言う。

小柄ながら平坦な個人タイムトライアルでも速さを見せるポルト。今大会最も登れていることは第5ステージの頂上ゴールで証明済み。独走力と登坂力と32秒の総合リードをもって、ポルトは最終個人タイムトライアルに臨む。

と言ってもポルトの総合リードが安泰とは言えない。総合2位のアンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)は、昨年ツール・ド・ロマンディ最終山岳個人タイムトライアルでウィギンズから0.7秒差の2位に入った実力者。42秒差には、シャヴァネルも、昨年パリ〜ニース最終山岳個人タイムトライアルでウィギンズから2秒差の2位に入ったリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)もいる。

キラキラした地中海を見下ろす絶景コースで、マイヨジョーヌをかけた最後の闘いが始まる。

21分34秒遅れのグルペットでゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ)21分34秒遅れのグルペットでゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei.Tsujiイタリア人スタッフとおどけて話す別府史之(オリカ・グリーンエッジ)イタリア人スタッフとおどけて話す別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei.Tsuji


text&photo:Kei Tsuji in Nice, France