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デローザは2012年1月27日、ウーゴの78回目の誕生日に合わせて新しいカーボンモデル、PROTOS(プロトス)を発表した。デローザの新たなるフォーミュラマシンは、どういった経緯で生み出されたものなのか。

ウーゴの78回目の誕生日に合わせて発表されたデローザ PROTOS。写真は発表直前のプロトタイプだウーゴの78回目の誕生日に合わせて発表されたデローザ PROTOS。写真は発表直前のプロトタイプだ

変わらないもの、変わらないこと

創業から59年を経たいま、デローザは大きく変わろうとしているのだろうか。スチール、チタン、アルミ、カーボン。4つの素材を駆使してフレーム作りを続けるデローザの特徴は今も変わらないが、フレームの8割以上がカーボンフレームとなったいま、創業者のウーゴ・デ・ローザは何を想うのか。

「新素材のフレームが台頭することは時代の流れだ。それには逆らえない。しかし変わらないものもある。変わらないこともある」

デローザの工房には、今も職人の魂が息づいているデローザの工房には、今も職人の魂が息づいている 熟練した職人の手作業で丁寧にフレームが仕上げられる熟練した職人の手作業で丁寧にフレームが仕上げられる

デローザのバイクづくりにおいて変わらないこと、変わらないもの。それは今もミラノ郊外の街クザーノ・ミラニーノの工房で生産される金属のフレームの「存在」を指す。ウーゴ自身の技術を次代の職人が引き継ぎ、そして彼の血脈、次男のドリアーノがそれをさらに昇華させる。カーボン全盛の現代においても、ここでは旧き良き時代の縮図を見ることができる。

カーボンフレームの開発に、職人の技は役に立たないかもしれない。しかしその「経験則」は大いに役に立つ。金属フレームに対する奥深い知識と理解があってこそ、最先端のカーボンフレームを作り上げることができるのだ。

プロトスは、デローザの誇る技術と経験の集大成なのだ。

2004年ジロに投入されたガルゼッリのPROTOTYPE 1d

ステファノ・ガルゼッリのPROTOTYPE 1dステファノ・ガルゼッリのPROTOTYPE 1d (c)Makoto.AYANO
ジロ・デ・イタリア2004でPROTOTYPE 1dを駆るステファノ・ガルゼッリジロ・デ・イタリア2004でPROTOTYPE 1dを駆るステファノ・ガルゼッリ (c)Makoto.AYANOプロトスの名を語るとき、忘れてならないのが、2004年のジロ・デ・イタリアでステファノ・ガルゼッリのためにデローザが用意したプロトタイプのバイク、その名も“PROTOTYPE 1d”だ。ガルゼッリはそのマシンを駆り、ジロの難関山岳ステージを制している。

その特別なフレームを市販化したものが最初のプロトスだった。フレーム素材には他社に先駆けてユニディレクショナル・カーボンファイバー(単一方向性カーボン繊維)を用い、当時フラッグシップだったキングを超える性能で、ロードバイク界にセンショーションを巻き起こした。フラッグシップを超えるポジションにあるバイク。それがプロトスだ。

2007年を最後にカタログから姿を消したプロトスは、2012年1月27日、ウーゴ・デローザ氏78回目の誕生日に再び表舞台に立った。それは永年にわたるレーシングフレーム作りのノウハウを注ぎ込んだ、斬新なデザインのカーボンフレーム。繊細な大胆さと荒々しい細心さで組み上げられるフレームは、デローザレースフレームの文法に沿った造り込みを魅せる。

科学的原理と美学的思想の融合、サイズを問わず一貫した快適な走行性、路面の不規則性を打ち消す能力とフラットなフォークとのデザインの調和、高いパフォーマンスを活かすための最先端システムとのフュージョン。

新しいプロトスには、デローザが60年にわたって蓄積したノウハウの全てが注ぎ込まれている。プロトスはまさに、デローザの永年に渡るバイクビルディングの集大成と言っても過言ではないスペシャルなマシンだ。

電子シフト カンパニョーロEPSとともに

プロトスは生粋のレーシングマシンであると同時に、カンパニョーロ社の電子シフト「EPS」を搭載した完成車を選べることが特徴だ。EPSに合わせて開発されたフレームは、通電コードを完全内蔵し、バッテリーの取り付け等も最適化されている専用設計だ。
細かなノウハウは公表されないが、デローザは今までも常にカンパニョーロ社とともに歩んできた。コンポの開発から係わるその親密な関係が、フレーム設計にも生かされていることは言うまでもないことだ。

ワイヤーは全てフレームの中を通り、造形の美しさを損なわないワイヤーは全てフレームの中を通り、造形の美しさを損なわない ダウンチューブ最下部にEPSのバッテリーが装着されるダウンチューブ最下部にEPSのバッテリーが装着される 動力系周辺にもコンポーネントとフレームとの統一感がある動力系周辺にもコンポーネントとフレームとの統一感がある

チューブtoチューブのジオメトリーオーダーが可能

また、プロトスはレギュラー8サイズに加えてカスタムサイズのオーダーも可能だ。カスタムサイズのメリットは、トップチューブ長、シートチューブ長、ヘッドチューブ長などのサイズを細かく注文できること。
つまり、より身体にあった、好みのジオメトリーで手に入れることができる。そして、その乗り味は剛性や衝撃吸収性などを含み、通常サイズと同じであるという。

プロトスのレギュラーサイズのジオメトリープロトスのレギュラーサイズのジオメトリー
デメリットとしては通常サイズより重量が20〜30g重くなることと、オーダーメイドのため製作時間が長くなることが挙げられるだろう。また、プロトスのデザイン上の特徴であるヘッドチューブとBB周りのシェイプが多少異なることになる。それらを受け入れたうえで、自分の身体にあったプロトスを手に入れられるメリットは魅力的だろう。まさにプロレーサーにとってそうであるように。

独特の造形をしたボリュームあるヘッドチューブ独特の造形をしたボリュームあるヘッドチューブ フォークの断面まで塗装がされており、ハンドルを切った時のデザインも考慮されているフォークの断面まで塗装がされており、ハンドルを切った時のデザインも考慮されている

見た目だけでも剛性の高さを感じられるBB周辺見た目だけでも剛性の高さを感じられるBB周辺 チェーンステーは縦方向に厚く、BBからのペダリングパワーを受け止めるチェーンステーは縦方向に厚く、BBからのペダリングパワーを受け止める

プロの中でも特別な選手だけが乗ることを許される

プロトスはプロチームにも供給される。2012年のシーズンはウテンシルノルド・ネームド、チームNIPPO、クリスティーナ・ウォッチズの3チームに、各3台づつ、市販車と同じカタログカラーで供給される。チームNIPPOでは佐野淳哉がプロトスを使用する。

プロチームにも市販モデルと同じカラーで限定供給されるプロトスプロチームにも市販モデルと同じカラーで限定供給されるプロトス
オレンジレッドのラインが洗練されたプロトスのイメージを一層引き立たせているオレンジレッドのラインが洗練されたプロトスのイメージを一層引き立たせている 金属フレームを思わせる、2つに分かれたシートステイの付け根金属フレームを思わせる、2つに分かれたシートステイの付け根 背面から見てもプロトスとすぐにわかる、シンプルかつハイエンドなデザイン背面から見てもプロトスとすぐにわかる、シンプルかつハイエンドなデザイン

プロトスは半年後に発表される2013年シーズンラインナップにおいても同色で継続販売される予定で、追加カラーの予定もない。他のフレームとは一線を画すモデルであるため、他のフレームにプロトスと同様のカラーリングやデザインを使用することもないという。

プロトスはプロチームにさえ限定台数で供給される車種だけあって、値段も特別なもの。残念ながら広く多くのサイクリストに向けて販売されるモデルではない。レース機材として最高のものを求めるユーザーや、向上心を持つユーザー、そしてデローザに対して情熱を持つユーザーだけがプロトスのオーナーとなりえるだろう。

DEROSA PROTOS - SPEC

サイズ(AF)44.5・47.5・49.5・51.5・52.5・54.5・56.5・58.5
カラーBlack Matt
完成車価格¥1,837,500(税込) SuperRecord EPS Bora ultra two Dark tub wheels
¥1,617,000(税込) SuperRecord 11v Bora ultra two Dark tub wheels

  • プロトスは完成車として販売されます。完成車仕様のクランクは、SUPER RECORD TITANで、BBタイプはBB86のみです。
  • CampagnoloのSuperRecordと Bora ultra two Dark Labelが組み合わされ、コンポーネントは機械式とEPSを選ぶことができます。
  • ハンドル幅、ステム長、クランク長、カセットの歯数を選ぶことができます。

次ページではプロトスの細部にスポットを当て、インプレッションをお届けする。
編集:シクロワイアード  協力:日直商会