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ライダーとバイク相互のパフォーマンスを最大限に発揮するための製品作り

海外ブランドのロードバイクが市場を賑わせているなか、それらと互角に渡り合い多くのライダーの支持を集めるドメスティックブランドがアンカーである。理由は多岐に渡るが、なかでも注目すべきはヒューマンライクな物造りだ。その基礎となっているものは「人を知ること」だ。

バイクを走らせるのは人であり、いかに優れた製品でも人とのマッチングが最適で無い以上、互いの能力は100%発揮できない。バイク開発は製品への技術的アプローチだけでなく、ライダーそのものの研究が不可欠だとアンカーは考えている。

そのコンセプトを元に90年代半、後のアンカーラボとなる研究施設を社内に設置。専用の自転車用トレッドミル、ポジションとペダリングトルクを計測できるポジショニングマシンを設計し、契約プロから一般ライダーまで数多くの身体データとペダリングスキルを測定してきた。さらにライダーのインプレッションといった性能の感覚的な表現は、バイオメカニズムの駆使により数値化して解明。こうしたライダーとバイクの科学的解析により両者の関係を最適化した製品作りがなされている。

ライダーのパフォーマンスとポジションを測定するためのフィッティングマシンライダーのパフォーマンスとポジションを測定するためのフィッティングマシン
そして現時点での集大成ともいえる製品が、一昨年に登場したフラッグシップの「RMZ」だ。すべてのライダーに最高の性能を発揮させるために「パーソナルマッチング」のコンセプトを掲げ、専用に開発されたフィッティングマシンとPCソフトにより、ライダー個々のレベルや使用目的に応じた最適なライディングポジションを提示し、そのためのジオメトリーオーダーを実現。さらにはフィッティングマシンによる有酸素パワーの計測に基づいて7種類のフレーム剛性を選べるという、カーボンフレームとしてかつてないオーダーメイドを可能にした。

加えて今年はRMZのオーダー過程で構築したシステムを元に、レディメイドのモデルに「アンカーフィッティングシステム」を新たに展開している(対応不可能なモデルも一部あり)。このシステムはRMZのようなジオメトリーと剛性のオーダーメイドではなく、最適なモデル選びと理想的なポジションを提供するためのものだ。

ユーザーはバイクを購入する前に、フィッティングマシンとソフトにより自分の理想のポジションが導き出され、それを実現できるフレームジオメトリーを持つバイクを選ぶこととなる。その上でステム長さやコラムスペーサーの量など、フィッティングマシンで提示された理想のポジションを実現するセッティングが施され、バイクはユーザーの元へと届けられる。この「アンカーフィティングシステム」は、購入してから自分のポジションに合わせてバイクをセッティングする従来の方式とは逆転した方法となる。

最適なライディングポジションの確定は、大腿と下腿、腕、腰の関節角度を計測して決定される最適なライディングポジションの確定は、大腿と下腿、腕、腰の関節角度を計測して決定される オーダーシステムには専用のPCソフトが用いられるオーダーシステムには専用のPCソフトが用いられる

「アンカーフィティングシステム」により手にしたバイクは、理想のポジションが出ない、もしくは成立してもフレーム本来の性能を発揮できないという不具合が起こりえない。時間をかけたポジション調整、パーツ交換のための手間と出費を無くし、納車後すぐさま快適なライディングポジションでバイクライドを楽しむことを可能にしている。

これまでライディングポジションといえば第三者と自らの経験、感覚によって決定することがほとんどだったが、アンカーフィティングシステムはこれまでのアンカーラボの豊富な科学的解析の蓄積をもとに、ライダーの目的や体力レベルに合わせた精度の高いフィティングが可能になった。最先端のテクノロジーを駆使してライダーに最適なバイクとライディングポジションを実現すること。ハードだけでなくそれを生かすためのソフトの提供をすることでアンカーのバイクは完成されるのだ。

ヘッドチューブ長と剛性レベルが
レーシングモデルとロングライドモデルの違い

きめ細かなラインナップを誇るのもアンカーの大きな魅力の1つだ。レースやロングライドといった目的はもちろん、素材についてもカーボン、アルミ、クロモリが用意され、価格帯も幅広く設定されているので、自分の用途や予算に応じて最適なモデルを見つけやすい。

とはいえ、実際に選ぶとなると迷ってしまうのも事実だ。そこでここからはブリヂストンサイクルの営業担当である藤田晃三さんに、今回紹介&試乗を行なう全7台(RMZ、RHM9 RS 、RCS6、RA6、RFX8、RAF5、RCN7)の各モデルの位置づけ、バイクの選び方について教えていただこう。

藤田晃三さん(アンカー営業課)
92年のバルセロナ五輪、個人ロード種目で完走を果たすなど、日本のトップ選手のひとりとして活躍した経験を持つ藤田晃三さん。現在はブリヂストンサイクルで営業職に就きながらも、限られた時間を有効に活用して数々のヒルクライムレースで優勝を獲得しているのは御存知の通り。
藤田:まずは、何をするかによって選ぶモデルは変わります。アンカーのロードバイクでは大きく分けて2つのカテゴリーがあり、目的に合わせて最適なモデルが選べます。1つはロードレース。もうひとつはロングライドなどに代表される用途です。 レース参加を考えるのなら、RMZにはじまりRHM9RS、RCS6、RA6シリーズの選択になります。一方ロングライド的な走り方を目指すのなら、RFX8、RFA5シリーズ、そしてネオコットのRNC7となります。

レーシングモデルとロングライドモデルの違いは、まずジオメトリーが挙げられます。レースモデルでは常用速度域は高くなるので、深い前傾姿勢を確保できるようヘッドチューブは短めの設計にしています。
対するロングライドモデルはそれを長くしています。アンカーフィティングシステムでは、ライダーの目的とレベルなどの入力項目があり、ライディングポジションにおける各部の関節角度から理想的なセッティングを算出した上で最適なモデルを選ぶことができます。

したがってロングライドが主な目的なのにレーシングモデルを選び、コラムスペーサーを数多く挿入して無理矢理アップライトなポジションを確保するような不自然な状態は、フィッテイングソフト上で不適切(コラムスペーサーの上限は40㎜)と判断されるため、最適なバイクを選ぶことができます。ただしネオコットのRNC7については、ホリゾンタルフレームなので、ジオメトリー自体はレーシングモデルになるため、ちょっと選び方が変わってきます。あくまでもスタイルとクロモリ素材を使っているという面においてロングライドに適しているということです。

ハンドリングについては、ロングライドモデルであってもほとんどレーシングモデルと変わらない味付けです。ロングライド用だからといって直進安定性の強すぎる設計では、ロードバイクらしい軽快な走りを失ってしまうからです。それよりも乗車姿勢をアップライトにして乗りやすさを確保しています。

ジオメトリーの次に異なるのが剛性面です。これはレーシングモデルの場合、剛性を高めにして反応性を高めています。一方のロングライドモデルでは、レーシングモデルに比べてカーボンの積層を変えたり、フレーム形状を工夫したり、剛性や反応性を最大限落とすことなく乗り心地を高めています。

自分用に特化した性能にこだわり抜くRMZ
トータルバランスを追求したRHM9 RS

藤田:レーシングモデルについては、まずはオーダーメイドとレディメイドの2つのタイプに分けられます。最高峰のRMZはパーソナルマッチングをテーマに、ユーザーの目的、脚質や脚力に合わせてジオメトリーと剛性のオーダーができます。7種類の剛性を選べるので、走りの特徴を言い表せません。つまり性能はその人次第でいろいろな調整が効くものなのですから。

他社のトップモデルでは、特に一般の方が乗ると”剛性が高過ぎる”という意見も聞かれます。RMZもレース向けに剛性を高めにしていますが、フィティングマシンでライダーの有酸素パワーを計測して最適な剛性を提案するので、剛性が高過ぎるといった問題は回避できます。したがって、選手だけでなく一般の方にも最適だと言えます。

パーソナルマッチングをテーマに、ジオメトリーと剛性のオーダーを可能にしたRMZパーソナルマッチングをテーマに、ジオメトリーと剛性のオーダーを可能にしたRMZ レディメイドの最高グレードであるRHM9 RS。性能のトータルバランスは非常に優れるレディメイドの最高グレードであるRHM9 RS。性能のトータルバランスは非常に優れる

もう1つの特徴であるジオメトリーのオーダーは、5mm刻みのトップチューブ長、0.5度の刻みでシート角の変更をはじめ、レディメイドでポジションがしっくりこない方にも対応できます。選手やこだわりを持つ一般の方ですとレディメイドは最大公約数のフィッティングなので、突き詰めると「あと少しこうしたい」という部分が生じるものです。小さなフレームサイズに乗る方だと、そういう悩みも比較的多いようですね。

アンカーチームでも狩野智也選手は遠いハンドル位置を好むため、トップチューブを長めに設定しますし、井上和郎選手は剛性の高いタイプを選んでいます。
RMZはオーダーメイドによってあとちょっとの希望や好みに答えを出せるモデルだと思います。価格は高くなりますが、こうした希望を叶えるカーボンフレームは他に無いので、金額を投じる価値はあると思います。

トップチューブを長めに設定する狩野智也選手(チームブリヂストン・アンカー)トップチューブを長めに設定する狩野智也選手(チームブリヂストン・アンカー) 剛性の高いタイプを選択する井上和郎選手(チームブリヂストン・アンカー)剛性の高いタイプを選択する井上和郎選手(チームブリヂストン・アンカー)

既製品のジオメトリーで適切なポジションを実現できる、剛性の調整を必要としないユーザーであれば、レディメイドの最高グレードであるRHM9 RSに乗っていただいても十分に満足できるでしょう。価格的にもRMZより大幅に抑えていますし。RMZの開発のベースになっているモデルで、フレーム剛性もRMZの真ん中のレベルと同じハンガー横剛性で、ジオメトリーの基本も同じくオーソドックスに設計されるため、性能のトータルバランスは非常に優れています。今シーズン、うちのチームではRHM9 RSを使う選手もいるのは、こうしたトータルバランスの良さによるものでしょう。日本人の平均的体型と一般的なロードレースの走り方であれば、まずRHM9で対応できないことはないと思います。また重量的にもRMZに比べると軽量なので、重量を気にするならRHM9 RSは良い選択です。

日本のホビーレースシーンにも
マッチするアルミフレーム

藤田:はじめてスポーツバイクを購入される方だと、「価格が上がると耐久性も増す」と勘違いされる場合もあるのですが、それは逆になりますね。高級なモデルほど重量が軽くなり、フレームやパーツでもカーボンが主流になり、より慎重な扱いを必要とされます。

フルアルミのRA6 Equipe。耐久性にも配慮された設計で、ビギナーにも安心だフルアルミのRA6 Equipe。耐久性にも配慮された設計で、ビギナーにも安心だ カーボンバックを搭載して快適性を高めたRCS6 Equipe。長距離ライドなどで身体の負担が軽減されるカーボンバックを搭載して快適性を高めたRCS6 Equipe。長距離ライドなどで身体の負担が軽減される

スポーツバイクを楽しむのは乗るだけでなく所有する喜びもあるので、ビギナーの方が最初からRMZやRHM9 RSを購入するのは間違ったことではありません。その場合、未熟なライディングテクニックによる落車も多く、またバイクの自体の扱いにも慣れていないので、フレームやパーツを壊してしまうことが多いのも事実です。したがって高級なモデルを選ぶよりも、耐久性のセーフティマージンも多く確保しているエントリーグレードは安心して乗れますね。RCS6やRA6といったアルミ素材のモデルは、価格を抑えてロードレースを始めたいビギナーの方に向けて耐久性という部分にも十分配慮しています。

アルミモデルのRA6、RCS6は上位モデルのジオメトリーを受け継ぎ、ロードバイクの醍醐味をリーズナブルに味わえる点でもおすすめだアルミモデルのRA6、RCS6は上位モデルのジオメトリーを受け継ぎ、ロードバイクの醍醐味をリーズナブルに味わえる点でもおすすめだ ジオメトリーはRHM9 RSを受け継いでいるため、ハンドリングや安定感など性能の基本となる部分は同様なので、バランスの良い性能が追求されています。重量面ではカーボンに及ばないものの、反応性という部分では決して大きく劣るものではありません。

逆にアルミフレームらしいしっかりとしたフレーム剛性もあるので、よく進みます。また日本のホビーレースは比較的距離が短いので、反応性のいいアルミフレームは十分に活躍できると思います。

RA6とRCS6の性能差については、振動吸収性に最も現れます。やはりフルアルミのRA6の方が剛性感は高くなります。そこからもう少し快適性が欲しい方には、価格は若干上がりますが、カーボンバックを搭載したRCS6が対応しています。カーボンバックのモデルは他社では少なくなりましたが、やはり長距離や長い上りを走ると振動吸収性の良さはもちろんのこと、ねじれ剛性も違ってくるので体への負担は少なくなります。



以上がアンカーの主要レーシングモデルのラインナップとその選び方だ。
次ページは、ロングライドバイクの選び方について藤田さんに解説いただく。


提供:ブリヂストンサイクル株式会社 企画/制作:シクロワイアード