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革新的でハイスペック マキシスのロードタイヤを掘り下げる

ロード系フラッグシップモデルであるHigh Road SL。マキシスが誇る自信作だ (c)MAXXIS

マキシスは、1967年に台湾で創業したチェンシン(正新)ラバー社が1992年にアメリカで立ち上げた自社ブランドだ。チェンシンラバーは今やグローバル企業として自転車や自動車、トラック、オートバイ、重機、産業機械用まで、ありとあらゆる種類のタイヤ製造を手がけ、自社テスト施設や世界有数のタイヤ研究開発施設を保有し、最高のパフォーマンスをもつタイヤの生産を目指し活動している。

スポーツサイクル部門において、マウンテンバイク界でのタイヤ評価は極めて高く、クロスカントリーからダウンヒルまでチャンピオンたちに愛されるブランドとして認知されているマキシスだが、ロードバイク界ではその認知度は今ひとつというのが現実だろう。

MTB界では確固たるトップブランドとして定着するマキシス。世界選手権10勝のニノ・シューターら、幾多のチャンピオンを支え続けている (c)MAXXIS

各種イベントやレースを積極的にサポート。オレンジのロゴが会場を盛り上げる (c)MAXXIS
自転車だけでなく、自動車やオートバイなど多種多様なタイヤを製造開発。特にオフロードタイヤは非常に大きなシェアを獲得している (c)MAXXIS



しかし思い返してみれば、マキシスは、いつだって斬新なアプローチでロードタイヤに新風を吹き込んできた。黎明期からロード用タイヤのチューブレス化に積極的に取り組み、2010年には世界初のロードバイク用ラジアルタイヤ「ラディエール」をリリース。現時点ではワールドチームへのサポートこそないものの、ヨーロッパブランドとは一味違うアイディアと、その製品開発力から着実に評価を高めつつある。

筆者は先に台湾で開催された台北ショーで、マキシス本社のスタッフと話し、開発ストーリーを聞くことができたのでシクロワイアード読者にもシェアする次第だ。ライバルブランドとの違いや差、チャレンジャーたる企業姿勢とは?

小回りの効く大企業の強みを活かした製品開発

マキシス本社サイクル部門営業部の梁裕峰さん。台北ショーで話を聞いた photo:So Isobe

「我々マキシスの強みは、自転車だけでなく、自動車やモーターサイクル、大型トラックやバス、オートバイ、ATVなど、ありとあらゆる乗り物のタイヤを開発製造し、社内でそのノウハウを共有できることにあります」。そう言うのはマキシス本社、サイクル部門営業部の梁裕峰さん。実際に各部署を跨いだ活動も活発で、新しいテクノロジーや製造方法を常時シェアしあえる環境にあるという。

「我々マキシス自転車チームは、自転車の楽しさ、そして可能性を見出している人たちばかり。台湾の素材メーカーとの関係性も親密ですし、サポートするプロチームとも、ただの選手とサプライヤーという関係ではなく、共により良い製品を作ることを目指すファミリーとして活動できていることが他ブランドとの違いであると感じます」とも。ロードでは現在トップチームへのサポートは無いが、かつてはユナイテッドヘルスケアや、イスラエル・プレミアテックといったUCIチームと協業体制を組んできた。

ロード用のハイパフォーマンスモデル「High Road」。SLのテクノロジーを継ぐオールラウンドモデルだ photo:So Isobe

現在マキシスがラインナップするロードタイヤは、レース用のハイパフォーマンスモデル「High Road」と、コンパウンドを進化させて大幅な転がり抵抗減に成功したレーススペックモデル「High Road SL」の2モデルを頂点に、耐パンク性能を高めたオールロードモデル「Re-Fuse(リフューズ)」、そして高耐久モデル「Pursuer(パーサー)」という合計4モデル。他ブランドに比べてラインナップは少ないものの、それは各モデルの完成度が如何に高いかの証明だという見方が正しいようだ。

「我々のライバルブランドは、同じナイロンケーシングタイヤを作るコンチネンタルです」と梁さんは言い切る。特にGRAND PRIX5000シリーズはマキシスのテストでも優秀な性能を確認しているが、High Road SLはロードバイクユーザーが最も重要視する転がり抵抗値のテストにおいて、GP5000に限りなく近い、ほぼ同じと言っても良い数値まで到達することができているという。

トレッドやケーシング、耐パンクベルトなど、ロードタイヤは一見シンプルな構成だが、シンプルであるからこそ素材構成の妙が性能を左右する。マキシスの持つテクノロジーや製造方法、素材はどこに出しても恥ずかしくない一級品であり、それをどう組み合わせ、新製品に繋げていくかが今後のチャレンジなのだという。

安心安全、作業性に優れるチューブレスタイヤを作るために

台湾にあるマキシスの研究開発部門。各部署を跨いでテクノロジーや製造方法をシェアしているという (c)MAXXIS

積極的にチューブレス化に取り組んできたマキシスだけに、High Roadシリーズにはもちろんチューブレスレディがラインナップされている。マキシスは同じ台湾ブランドであるジャイアントとタッグを組み、あらゆる側面からホイールとタイヤの各種形状やサイズを組み合わせてテストし、安全性を第一に作業性の両立、さらにエアリーク量の研究など、多岐にわたる研究を進めているという。

「チューブレス一つとってもフックドorフックレス、リムの内幅や外幅、リム内側の溝の形状は各社様々で、加えてフックレスリムの安全性も取り沙汰されている複雑な状況です。ジャイアントは非常に厳しい安全性規格を運用していますから、性能はもちろんのこと、安全性や作業性にも突出したものがあります」と梁さんは説明する。とあるショップによれば、実際にマキシス製チューブレスタイヤの作業性は良く、ビードの伸びも少ないため外れる不安もかなり少ないのだそうだ。

課題はロードタイヤのイメージアップ。そのために打ち出す2つの秘策とは...?

近年ではイスラエル・プレミアテックをサポート (c)MAXXIS

先述した通り、マキシスといえばマウンテンバイク用タイヤのイメージが強く、それと比べればロードタイヤのイメージは希薄だ。ヨーロッパでの売り上げは上々だというものの、相反して現在UCIワールドチームでの使用率はゼロ。梁さん曰く、それはヨーロッパロードレースが非常に保守的だからだという。

「我々が今取り組んでいるのは"マキシスのロードタイヤ"のイメージアップなんです。MTB界では他の追随を許さないトップブランドとして確立しましたが、その一方ロードカテゴリーでは他ブランドに食い込めていません。High-Road SLを筆頭にする我々のレーシングタイヤは試験機上の数値で他社に負けませんし、実際にプロ選手に渡してのロードテストでも良い評価を得ています。でもディスクブレーキ導入に時間がかかったように、ヨーロッパのロード界は新しいものを取り込むのに時間が掛かってしまう。MTBならば選手もチームもオープンマインドで新しいものをどんどん使ってくれますが、ロードだとチーム人数も多いし、何より昔ながらの伝統が強く、なかなか難しい側面があるのです」。

「しかし、ヨーロッパの老舗ブランドが多い自転車タイヤ界において、我々は台湾に本拠地を置く若いブランドです。あくまでチャレンジャーとして積極的な姿勢を崩さず、引き続き進化を続けていきたいと強く考えています」と梁さんは言う。

High Road SLをセットしたイスラエル・プレミアテックのマシン (c)MAXXIS

さて、梁さんによれば、これまで水面下で進めてきた交渉の末、2025年以降でのUCIワールドチームへのサポートを計画中。さらに先立ってロードタイヤラインナップにも新しいフラッグシップモデルを投入する準備を進めているという。こちらのリリース時期は未定だが、そう遠くない将来に一般購入できる予定だという。2つのニュースの正式発表を心待ちにしたいところだ。



次章はHigh Roadシリーズの乗り比べインプレッションを紹介。大のマキシスタイヤフリークであるフォーチュンバイク店主、錦織大祐さんが愛をもってマキシスを乗り、そして語る。
提供:マルイ/ text:So Isobe