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ついにスラムの新型RED AXSが正式発表される。既にプロレースシーンでも目撃され、話題を呼んでいる新モデルが目指したのは、"effortless"なプロダクトであること。5年に及ぶ開発期間を経てリリースされた、New RED AXSを徹底紹介。

掲げるテーマは“effortless”。軽く、快適で、簡単に。

「effortless」なコンポーネントへ。スラムRED AXSがフルモデルチェンジを果たした (c)メニーズ

2015年のRED eTapで無線電動変速を世に問い、2019年のRED eTap AXSでは12速化と、新たなギア構成、ロード/MTBの垣根を壊す共通規格化を実現。スラムのフラッグシップロードコンポーネントはエポックメイキングなプロダクトとして常に世界中のサイクリストが注目し、その動向がトレンドに大きな影響を与えてきた。

そして2024年5月15日、RED AXSは待望のモデルチェンジを果たした。正式発表前からプロレースに投入されて注目を浴び、女子版ブエルタ(フェメニーナ)ではSDワークス・プロタイムのデミ・フォレリング(オランダ)がフルセットの製品版を使用し、総合優勝を決めた最終ステージではフィニッシュライン上でバイクを掲揚。さらに現在開催中のジロ・デ・イタリアでは新型RED AXSを使うジョナサン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) やオラフ・コーイ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)がステージ優勝を量産中だ。

ジロ・デ・イタリアでステージ優勝を量産中のジョナサン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos

女子ブエルタ覇者、デミ・フォレリング(オランダ、SDワークス)が使用した新型RED AXS。最終日にはバイクを高々とアピールした photo:CorVos
ジロでグランツール初勝利を掴んだオラフ・コーイ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos



今回のモデルチェンジにあたり、スラムが掲げたテーマは"effortless"。日本語に直訳すれば、努力が要らない、楽な、といった概念が、新型RED AXSを貫くコンセプトだという。

このeffortlessというコンセプトを通じてスラムが実現しようとしているのは、ユーザーがコンポーネントについて思い煩うことなく、快適に、少ない力で扱うことが出来ること。

シフトチェンジ、ブレーキ操作、パワー測定、充電、サイクルコンピューターとの接続、そしてバイクの組立てやメンテナンス……。無数に存在するサイクリストとコンポーネントの関わりにおいて、ユーザーが投入するコストを最小限に抑え、一滴も無駄にしないために新型RED AXSは開発されたのだ。

あらゆるレベルのライダーにとって大きなメリットをもたらすよう設計されている (c)メニーズ

この考え方は、極限の速さを求めるプロレーサーはもちろんのこと、あらゆるシーン、あらゆるレベルのライダーにとっても大きなメリットをもたらす。実際、スラムが想定する新型RED AXSのユーザーは、ワールドツアーを筆頭としたパフォーマンスを求めるロードサイクリストだけでなく、オールロードやグラベルといったカテゴリーまで包含している。(※グラベルについてはXPLRドライブトレインとの組み合わせを推奨している)

それでは、effortlessを実現するための各要素について、掘り下げていこう。

より快適で、パワフルで、そして軽い。内部構造を一新したレバーブラケット

形状を一新したシフト/ブレーキレバー。現代レーサーのライドポジション変化に合わせたデザインだ photo:Makoto AYANO

新型RED AXSにおいて、最も大きく変わったのはマシンインターフェイスであるシフト/ブレーキレバーだ。4年にわたる開発期間を経て生み出されたブラケット形状は圧倒的にスリム化され、特に大きく張り出していた"ツノ"が無くなっているのが決定的な違いだ。

これは下ハンドルではなくブラケットを握り込むエアロポジションが一般的となってきたプロレース界を鑑みて、ブラケットのリーチを伸ばし、かつレバーの頭部分を被せるように握りこめるよう配慮されたもの。「新世代のプロ選手たちは常にブラケットポジションを多用している。ブラケットポジションから握り変えることなくブレーキやシフト操作ができるよう、あらゆる側面から設計を見直した」と、発表前の本社プレゼンにおいて、スラムのロード部長であるマイケル・ゼルマン氏は開発意図をアピールする。

大きく内部構造をリニューアル。左が旧型、右が新型だ (c)メニーズ

内部の油圧ブレーキのメインピストンは、前作ではツノの中にピストンを縦置きしていたのに対し、今作では握りこむボディ内部に横置きする形に。さらにプルロッドからプッシュロッドへの変更、そしてレバーピボットを高い位置に配置しレバー比を改善することで、ブレーキレバーの引きの軽さを大幅に向上させた。

前作に比べ、ブラケットポジションからブレーキを引く際に必要な力をなんと8割、ドロップポジションでも3割以上軽い操作感を実現することに成功したという。ゼルマン氏は、この驚くべき省力化によって「史上初となる、あらゆる場面で1フィンガーでのブレーキ操作を可能にしたコンポーネントとなりました」と自負する。

レバーは外側に張り出した形状に。選手からのニーズを反映させたものだ photo:Makoto AYANO

スリム化したブラケット。手の小さなライダーもしっかり握れるように変化した photo:Makoto AYANO
グリップ部の下側のスペースが拡大し、4本指での保持ができる photo:Makoto AYANO



ブラケットの形状変更は握りやすさにも繋がる部分だ。人間工学に基づいて設計されたブラケット形状はニュートラルで快適な手首のポジションを実現すべく、スラムが推奨する組付け方をした場合に7度のライズアングルがつくように設計されている。

グリップ部分の外周はより細くなり、手の小さなライダーもしっかり握れるように変化。さらにブレーキレバーの付け根が前方へと移動していることで、グリップ部の下側のスペースが拡大。手のサイズによるものの、ブラケットに指を3~4本かけられるようになり、より安定感ある握りを実現した。もちろんレバーの初期位置を調整するリーチアジャストと、ストローク量を調整するコンタクトポイントアジャストは引き続き搭載されている。それぞれを独立して調整できるため、手の大きさや好みに応じたセッティングが可能となっている。

レバー上部に配置されたボーナスボタン。シフト操作はもちろん、設定したサイクルコンピューターの操作も可能だ photo:Makoto AYANO

レバーの初期位置を調整するリーチアジャスト photo:Makoto AYANO
リーチアジャストとコンタクトポイントアジャストを継続搭載する photo:Makoto AYANO


大胆な肉抜きデザインが施されたブレーキキャリパー。軽さのみならず制動力・コントロール性強化のために内部構造の見直しも図った photo:Makoto AYANO

目を引く新機構は、レバー上部に新しい"ボーナスボタン"が配置されたことだ。親指で押すことが出来るこのボタンには、デフォルトではメインシフターパドルと同じ方式でギアチェンジを行えるように機能が割り当てられている。更に、AXSアプリから設定することで、サイクルコンピューターの操作やReverb AXS(無線ドロッパーポスト)のコントローラーとしても活用できる。

より複雑な肉抜きが施されたブレーキキャリパーは2ピース構造ながら、剛性を向上させると同時に、ピストン位置をローターの外側に移動させることで、より効率的にパッド圧力をかけられるように改良されているまた、新しい「Paceline Xローター」は中央部のアルミキャリアのデザインをブラッシュアップし、従来のCenterline XRよりも軽量化を果たしている。

ピストン周辺の素材と加工を工夫して摺動抵抗を減らし、パッドを確実に戻しきるアプローチで意図しないブレーキタッチを防いでいる photo:Makoto AYANO

中央のアルミキャリアを一新し軽量化を果たしたPaceline Xローター photo:Makoto AYANO
美しい切削加工が施される photo:Makoto AYANO



効率的なブレーキング、人間工学に基づいた快適な握り心地、更なる拡張性により、"effortless"を体現する新型レバーだが、よりシンプルなアプローチとも言える軽量化を実行。新型RED AXSでは、レバーおよびブレーキキャリパーの合計で83gも軽量になっており、より軽いハンドリングを実現。ダンシングの振りの軽さにも貢献することは間違いないだろう。

オートトリム機構搭載で素早く、音鳴りの無い変速へ。ビッグプーリー採用で効率性も向上したドライブトレイン

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素早い変速と優れた駆動効率を手に入れたドライブトレイン photo:Makoto AYANO

ブレーキと並ぶ、コンポーネントの重要な要素がドライブトレインだ。新型RED AXSでは、フロントディレイラーに待望のオートトリム機能が搭載されることとなった。

オートトリムとは、リアディレイラーの位置に応じてフロントディレイラーの位置を自動で微調整する機能。新型RED AXSでは、オートトリム採用によりケージの幅を従来よりも狭めに設計。結果として、より素早く、正確な変速を可能としている。また、悩む人も多いフロントディレイラーセッティングをより簡単にするため、スラムは専用ツールを開発。チェーンリングのサイズにより2種類が用意されるセットアップツールを用いれば、誰でも容易に正確な位置にFDを組付けられる。

フロントディレイラーはオートトリム機能を新規採用。セットアップツールも用意される photo:Makoto AYANO

セラミックベアリング搭載ビッグプーリーを採用したリアディレイラー photo:Makoto AYANO

ビッグプーリー化で摺動抵抗を削減 photo:Makoto AYANO
前後ディレイラーに搭載されるバッテリーは従来同様。全世代の電動REDに共用できる photo:Makoto AYANO



AXSの心臓部とも言えるリアディレイラーは最大36Tのスプロケットに対応する。ロワープーリーをセラミックベアリング採用のビッグプーリーとすることで駆動効率を向上させつつ、前作よりも重量を16g削減。また、荒れた路面でもチェーン暴れを抑えるフルードダンパー「Orbit」も続投し、メカトラブルの可能性を引き下げる。従来は適合カセット別に2種類のリアディレイラーが用意されていたが、今回は1種類に統一。スラムらしくオンロード、オフロードどちらにも対応するマルチなディレイラーへと変化している。

デザイン面のマイナーチェンジが図られたクランクセット。大幅な軽量化を遂げている photo:Makoto AYANO

クランクアームはカーボン積層を変えることで軽量化。チェーンリングの軽量化と合わせて29gを削ぎ落とした photo:Makoto AYANO
フラットトップチェーンはアウター/インナープレート両方に肉抜き加工を施し13g軽量化 photo:Makoto AYANO



コンポーネントの顔とも言われるクランクも大きく軽量化が進められた。高剛性で軽量なダイレクトマウントチェーンリングの改良と、クランクアームのカーボン積層の見直しにより、セットで29gの軽量化を実現。組み合わせるフラットトップチェーンも新型となり、アウター/インナープレートに肉抜きが施され、13gの軽量化を果たした。

更に、歴代REDとしては初となる160mmのショートクランクもラインアップに加わった。チェーンリング歯数は変更なく、50/37T、48/35T、46/33Tの3サイズに加え、別売のパワーメーターチェーンリング(計測精度±1.5%)では52/39T、54/41T、56/43Tのビッグギアも使用可能だ。

一方、リアカセットは10-28Tと10-33Tに加え、新たに10-30Tと10-36Tが投入される。特に10-36Tは昨年のツール・ド・フランスで総合優勝したヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)が使用したことで話題になった歯数。特にハイケイデンスを好むクライマーにとっては注目のスペックとなるだろう。

ワンピース構造のスプロケット。10-30Tと10-36Tを新規投入する(画像は10-30T) photo:Makoto AYANO

レインボーカラーのスプロケットも用意される (c)メニーズ
FDのセットアップを容易にする専用ツール (c)メニーズ



6種類のチェーンリングと4種類のスプロケットの組み合わせによって、あらゆるシーンに対応するRED AXSだが、ディレイラーについてはフロント、リア共にワンモデルで対応できる。このシンプルさもまた、"effortless"の側面と言えるだろう。

レバー、前後ディレイラー、クランクセット、そしてブレーキ回りなどをトータルしたコンポーネント総重量は2649gに。前作より153gものダイエットを遂げ、世界最軽量の電子制御コンポとして「RED」の名を再び轟かせている。

コネクテッドバイクの新基準へ Android搭載のハンマーヘッド Karooが実現するエフォートレスなセットアップ

シームレスにコンポーネントと接続できるハンマーヘッド Karoo (c)メニーズ

あらゆるもののコネクテッド化が進む世界で、スポーツバイクも例外ではない。スラムは既にAXSアプリによってバッテリー状態の確認や、シフトボタン/サテライトスイッチの割り当て、2種類あるシフト拡張モードの選択、ファームウェアの更新、マニュアルの閲覧、スマートフォンへのプッシュ通知といった機能を提供してきたが、新型RED AXSではスラム傘下となったハンマーヘッドとのコラボレーションによって、更に一歩先へと踏み出した。

様々な情報を表示するインターフェイスとなる新型サイクルコンピューター「Karoo」も新型RED AXSと同時開発している。アンドロイドベースのKarooは、スラムAXSプロダクトとダイレクトに接続でき、スマートフォンを介することなくシフトボタンの割り当て等を設定可能。逆に、ボーナスボタンの項でも触れたように、AXSシフターからKarooを操作することも出来る。煩わしいペアリングは自動接続で、各種データ送受信も極めて速いという。ゼルマン氏は同時開発だからこそ叶えられるメリットであり、適合を謳う他ブランドでは絶対に不可能な領域まで追い込んで開発したとアピールする。

ライド後にログを確認し、分析することも可能だ (c)メニーズ

また、AXSアプリでは、ハンマーヘッドやガーミン、ワフーのアカウントと連携することで走行ログを確認可能。FD/RDのシフト回数、ギア毎の使用距離/使用時間といった、コンポーネントにまつわる詳細な情報も確認できるため、自分のライドをより精確に分析できるようになる。

一般販売も同時に開始。グループセットは504,600円~


正式発表と同時に一般販売が開始されるスラム RED AXS。国内の初期の販売に関しては、グループセットとクランク、カセット、チェーンでの展開となる。グループセットにはシフト/ブレーキセット/FD/RD/バッテリー/充電器/160mmローター/チェーン/ハンマーヘッド Karooサイクルコンピューターが含まれている。

また、カセットスプロケットとチェーンにはゴージャスなレインボーカラーバージョンも用意される。これまで、スラムサポートチームの中でもエース級選手だけに供給されてきた、フラッグシップモデルにふさわしいカラーだ。

シフターやディレイラーの単体販売は今夏以降を予定している。新型RED AXSは、これまでリリースされてきた全てのスラム AXSコンポーネントと互換性を有しており、Force eTap AXSやRivaleTap AXS、グラベル用のXPLR(エクスプロア)、さらにMTB用のEagle AXSとコンポーネント間を通して使うことができる(各リアディレイラーは対応スプロケットのキャパシティがあるため、詳しくは最寄りのプロショップに確認されたい)。

既存のAXSユーザーのためにレバーとキャリパー、そしてKarooが同封されたアップグレードキットが発売(税込302,900円)されるほか、レバーのみを交換することも可能。スラムユーザーにとって楽しみな夏となるだろう。
スラム RED AXS
販売モデル 内容 価格(税込)
グループセット シフトブレーキレバー&キャリパー(左右)、FD、RD、チェーン(114link)、バッテリー×2、充電器、Paceline ローター(160mm)×2、Hammerhead Karoo、FDセットアップツール、ブリードブロック付属 504,600円
クランクセット 歯数:50/37T、48/35T、46/33T クランク長:160mm、165mm、167.5mm、170mm、172.5mm、175mm 111,800円
パワーメータークランクセット 歯数:50/37T、48/35T、46/33T クランク長:160mm、165mm、167.5mm、170mm、172.5mm、175mm 205,600円
カセットスプロケット(シルバー) 10-28T、10-30T、10-33T、10-36T 61,710円(10-36Tのみ、65,170円)
カセットスプロケット(レインボー) 10-28T、10-30T、10-33T、10-36T 71,330円(10-36Tのみ、74,880円)
チェーン(シルバー) 126リンク 15,880円
チェーン(レインボー) 126リンク 17,680円
次章では新型スラム RED AXSのインプレッションを紹介。先代RED eTap AXS、そしてForce eTap AXSを所有するCWスタッフがそのポテンシャルを試します。
text:Naoki Yasuoka 提供:メニーズ