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「これ、TCRを喰ってるかも」。PROPELのADVANCED SL完成車に乗って、登り坂に入った瞬間、私はTCRの存在意義を心配してしまうほどの衝撃を感じた。先代モデルの印象を大きく覆す軽い加速と俊敏さ。そしてどっしり構えたフロント周りが生み出す安定感。新型PROPELには、易々とホビーレーサーの選択肢の中心に据わる走りが確かにある。CWスタッフ2名によるインプレッショントークで、注目の走行性能をお伝えしていきたい。

インプレッションライダー プロフィール

高木三千成(左)と磯部聡(右、共にシクロワイアード編集スタッフ)高木三千成(左)と磯部聡(右、共にシクロワイアード編集スタッフ) photo:Makoto AYANO
高木三千成(シクロワイアード編集部)

さいたまディレーブ所属選手兼シクロワイアード編集スタッフ。学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経てさいたまディレーブへと移籍。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。愛用するシューズはジャイアントのSURGE PRO。

磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。2014年以降ジャイアントの発表会は国内外を合わせて全て参加し、同社ロードモデルを全て乗り込んだ経験を持つ。特にPROPELは2014年の初代(国内)、2017年の先代モデル(フランス)、そして2022年の本作と全て担当している。

「従来のPROPELのイメージを完全に脱却」

磯部:いや、正直言って、ここまでキャラを変えてくると思わなかった。先代モデルを試した時には「剛性至上主義で、魅力を引き出すためには脚力はあればあっただけ良い」と率直に書いたけれど、これはもう、2世代続いたPROPELのイメージを完全に脱却してる。

新型PROPELの2モデルを乗り比べた2人新型PROPELの2モデルを乗り比べた2人 photo:Makoto AYANO
高木:エアロロードなのに、こんなに登れるんだ、と驚きました。特にSLグレードの軽快ぶりは凄いですね。軽量バイクらしくシャキシャキ登れるし、軽いからこそダンシングやコーナリングでも機敏に反応してくれます。正直、先代PROPELに登れるイメージはなかったのですが...。いい意味で驚きました。

磯部:SLグレードはもはや軽量ロードのTCRに匹敵する軽快さがあって、加えて特にハンドリングに重要なフロント周りは細身のTCRと比べて見た目もしっかりと太いし、乗っても先代PROPELに似通った剛性感やしっかり感が備わっている。以前TCRのADVANCED SLグレードを試した際に「相当とんがった、乗り手のスキルを求めるピーキーなレースマシン」と書いたけれど、新型PROPELは尖った部分はそのままに、慣れるまではシャープさゆえの怖さを感じた部分が上手くカバーされている。バイクエクスチェンジ・ジェイコはツール・ド・フランスでのお披露目以降、全レースを新型PROPELで走っているけれど、それも納得できちゃう。

デュラエースDI2とカデックス50 ULTRAで武装したPROPEL ADVANCED SL 0デュラエースDI2とカデックス50 ULTRAで武装したPROPEL ADVANCED SL 0 photo:Makoto AYANO
美しく、かつ精悍なフォルムに生まれ変わったPROPEL最新モデル美しく、かつ精悍なフォルムに生まれ変わったPROPEL最新モデル photo:Makoto AYANO専用開発のエアロボトルケージ。ダウンチューブ用とシートチューブ用で設計が異なる専用開発のエアロボトルケージ。ダウンチューブ用とシートチューブ用で設計が異なる photo:Makoto AYANO

高木:SLグレードはすごく反応が良くて、挙動が軽いから登坂中のダンシングの鋭い加速も得意だし、スプリントもしっかりかかります。誰が乗ってもその魅力は感じられるはず。でも、本当に性能を引き出すならば、ある程度スペックの高いバイクに乗り慣れている方がいいと思いますね。やはりBBの踏み応えはしっかりあるからペダリングスキルを持っている方がベストかと。

磯部:そうかもしれない。車体も動きも軽いので、例えばコーナーを曲がろうとした時、バイクを倒し込もうかというほんの僅かな体重移動に対して機敏に反応するので、特に先代PROPELの乗り味を知っている人ならその挙動に驚くと思う。それでもTCRよりも安定感はあるし、平坦での伸びもいい感じ。これはセットされるカデックスの50 ULTRAホイールもかなり効いてる。

「軽さと素早さのSL、どっしりと構えつつ現代進化したPRO」

高木:一方PROグレードは、同じモデルなのかと思うほどキャラ設定が違っていて、とても興味深かったですね。

PROPEL ADVANCED PRO 0 FORCE ETAPPROPEL ADVANCED PRO 0 FORCE ETAP photo:Makoto AYANO
SLとPROは見比べると微妙にチューブシェイプが異なる。細かく設計を作り替えている様子が見て取れるSLとPROは見比べると微妙にチューブシェイプが異なる。細かく設計を作り替えている様子が見て取れる photo:Makoto AYANOジャイアントのSLR 1 50 DISCホイールをセットジャイアントのSLR 1 50 DISCホイールをセット photo:Makoto AYANO

SLとPRO間で最も作りに差があるシートチューブ。PROグレードには先代の雰囲気がより強く残っているSLとPRO間で最も作りに差があるシートチューブ。PROグレードには先代の雰囲気がより強く残っている photo:Makoto AYANO磯部:PROグレードを最初に試した時に「あ、これ先代PROPELの進化版だ」って思った。先代モデルは剛性至上主義というか、頭の先から爪先まで剛性に満ち溢れていて、ハンドリングもすごく「立ち」が強くて、一度決めたバンク角にビターッと沿って走る。まるでTTバイクみたいな雰囲気が強かった。

でも、今回のPROグレードはその感覚をヘッドチューブを中心としたフレーム前側に残しつつ、フレーム後側がシェイプアップしたことでオールラウンダーに近い走りの軽さが加わっている。PROPELらしいパワフルな前側と、軽量バイクを感じるリア側。先代PROPELの上位互換で、正常進化。そしてキャラクター設定の現代化を感じ取れた気がします。

高木:すごくヒラヒラ走るSLと比べるとPROグレードは物理的に重量が増しますが、それが走りの重さという悪い意味ではなく、安定感というポジティブな面に繋がっているのが好印象でした。SLは完全にレーサーやヒルクライマー向けですが、PROは重量バランスに優れていて、誰にでも乗りこなしやすい懐の広さを感じます。

PROはSLよりも剛性が少し落ちる分足当たりはマイルドですよ。ハンドリングもダンシングもピーキーじゃなくて、安定感がある。PROグレードなら長距離走ってもSLほど疲れないと思いますね。

磯部:ピーキーな自転車って、諸刃の剣で気づかないうちに体力を消費してしまう。例えば、まっすぐ走っている時にも意識しないレベルで修正舵を当て続けたりとか。SLはどちらかというとそっちだけれど、PROグレードはどしりと構えた、誰でも乗りこなしやすく、それでいてエアロロードらしいスピードの伸びを体感できるバイク。

PROPEL ADVANCED SL 0(左)とPROPEL ADVANCED PRO 0 FORCE ETAP(右) PROPEL ADVANCED SL 0(左)とPROPEL ADVANCED PRO 0 FORCE ETAP(右) photo:Makoto AYANO
高木:やっぱりエアロロードらしいキャラクター設定ですから、例えば河川敷のサイクリングロードを走ったり、サーキットエンデューロに出たい人はすごく良いでしょうね。前述したように足当たりもいいので、距離が伸びるほど効果は大きくなるいいバイクだな、と。ナチュラルな性格なのでセットするホイールも左右しないでしょう。軽量ホイールも合うでしょうし、超ディープリムで平坦仕様を作っても面白いな、と。硬いSLは、瞬発力では優れているけれど、同じコースで100kmくらい走った時にはPROグレードの方が脚を残せる。

「資料は剛性向上を謳っているけれど...」

「踏み応えはあるけれど、嫌な硬さにはつながっていない」「踏み応えはあるけれど、嫌な硬さにはつながっていない」 photo:Makoto AYANO
磯部:不思議なのは、広報資料では先代モデルよりフレーム剛性を上げていると書いてあったのに、実際乗るとそうは感じなかったこと。先代はもう快適性って何?くらいの「一枚岩感」が強かったけれど、やはりトップチューブ〜リアバックのシェイプアップが効いていて、適度な「いなし」を感じるので、その分硬さを感じないのかもしれない。乗り心地も踏み心地もどちらも含めて、嫌な硬さを感じることはなかった。

高木:確かに、これは乗りこなすの厳しそうだぞ、とは一度も思いませんでした。BB周辺のウィップっていうのはあまり感じませんでしたが、乗りにくさには繋がってません。これって現代レーサーバイクの主流になっていることですが、そのトレンドを上手く掴んでいる。そして、各ブランドのハイエンドバイクの中でもすごく競争力はある。

磯部:例えばエアロと軽量を融合させた旗振り役といえばスペシャライズドのTarmacですが、PROPELはもっとフロント周りがどっしりと構えていて、エアロロードらしい挙動がある。どちらの方が優れているという話ではなく、PROPELの方がより安定感があって、Tarmacは軽量バイクらしい動きという住み分け。PROPELはエアロロードらしい骨太さを感じるし、ルーラーやスプリンター向きかなと。

「日本のレーサーに歓迎される走りに生まれ変わった」

「登りが多いレースはもちろん、ヒルクライムレースの選択肢にもなる」「登りが多いレースはもちろん、ヒルクライムレースの選択肢にもなる」 photo:Makoto AYANO
高木:PROPELのエアロ感は強くて、下りでスルスルとスピードが乗っていくし、スプリントを掛けても安定している。コントロールしやすいから、ロードレースでもいい味方になってくれると思いますよ。

磯部:軽量で、かつエアロというコンセプトは日本のホビーレーサーにすごくマッチすると思う。サーキットエンデューロを含めてもド平坦レースって少ないし、そこでエアロロードなのに軽いPROPELはすごく活きるはず。

極太カーボンスポークを投入し、ペア重量1349gを実現したカデックス 50 ULTRA DISC極太カーボンスポークを投入し、ペア重量1349gを実現したカデックス 50 ULTRA DISC photo:Makoto AYANO
それにカーボンスポークのカデックス50 ULTRA DISC TUBELESSホイールに、デュラエースのパワーメーターをセットしたSL完成車のパッケージングはすごく魅力的だし、何より極太カーボンスポークだけが放つオーラというか、特別感がイイ。カデックスホイールは従来からカーボンスポークを採用していたけれど、あまりにも普通な見た目ゆえにスルーされがちだったので...。

高木:面白かったのは、知り合いのアマチュア選手が何人もPROPELに惹かれていて、いざ注文しようと思ったらもう受注終了になっていた...という話をちらほら聞いたこと。特にSLのデュラエースDI2完成車のパッケージングに魅力を感じる人がすごく多いようです。やはりツール・ド・フランスで、スプリントだろうが山岳だろうが1台で勝利したイメージが大きいようですね。

S Lのコーナリングのキレ味は鋭い。一方PROグレードは安心感あるフィーリングS Lのコーナリングのキレ味は鋭い。一方PROグレードは安心感あるフィーリング photo:Makoto AYANO
磯部:それから、ステム/ハンドルの整備性が従来よりもずっと良くなったのも良い。エアロロード興盛期だった先代発表当時は、ハンドルを切った際、内装ケーブルを逃がす「蓋」がステムについていたり、今思えば少し無理な設計も見てとれた(その時はすげえ!と思いました)けれど、今回は多少の制限こそあれどポジションの自由度や整備性が飛躍的に向上している。下側がガバッと開いたステムも(当然)走りに不安はないし、さすが世界ナンバーワンブランドの親切心を感じる部分。

高木:整備性はスタンダードレベルですし、それを嫌ってPROPELを選ばない、というユーザーはほぼいないと思いますよ。

磯部:ジャイアントはエントリーグレードのコストパフォーマンスに注目が集まりがちだけど、実はコンペティションモデルの性能が非常に優れていて、しかもかなり尖った味付けがなされているのはあまり知られていない事実。「ウチの国ではエントリーグレードではなく、スペシャライズドやサーヴェロと同じハイエンドブランドに数えられている」と、以前参加した国際発表会でオーストラリア人のジャーナリストから聞いたこともあるし。

「エアロと軽量という2カテゴリーを跨いだ新型PROPELは、日本のレーサーに歓迎されるべき存在」「エアロと軽量という2カテゴリーを跨いだ新型PROPELは、日本のレーサーに歓迎されるべき存在」 photo:Makoto AYANO
高木:今までのPROPELは平坦番長、TCRは軽量ヒルクライムモデル、DEFYはエンデュランスと、ロード3車種のイメージがかなり分かれていたように思います。だからこそ、1台で全てをこなさなければいけないレーサーからはちょっと選ばれにくかった。

磯部:確かにそうかもしれない。エアロと軽量という2カテゴリーを跨いだ新型PROPELの登場によって、これまで以上にジャイアントがレーサー層から注目される存在になりそう。ジャイアントがサポートするシマノレーシングも今後乗ることになるだろうし、これからの勢力分布図にも影響を与える存在になりそう。

提供:ジャイアント・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部