いよいよ本格的な展開が始まったロードディスクブレーキコンポーネントを特集。本編ではUCIワールドツアーでのディスクブレーキの現状をサイクルフォトグラファー・辻啓氏の解説で読み解きつつ、2019シーズンの世界や日本のトップレースシーンでのディスクブレーキの動向を確認していこう。

ワールドツアーのプロトンで急速に普及を見せるディスクブレーキ

18あるUCIワールドチームのうち、5チームがディスクブレーキ化を果たしている18あるUCIワールドチームのうち、5チームがディスクブレーキ化を果たしている photo:Kei.Tsuji
ディスクブレーキが正式に解禁されてから2年目にあたる2019年シーズン、UCIワールドツアーのプロトンにディスクブレーキ化の波がやってきている。18あるUCIワールドチームのうち、すでに5チームが従来のリムブレーキに別れを告げ、完全ディスクブレーキ化を果たしている(タイムトライアルバイクを除く)。

残りのチームは、エアロ系バイクにはディスクブレーキを組み合わせ、軽量な山岳系バイクには従来のリムブレーキを使用しているという状況。このエアロ系バイク&ディスクブレーキの組み合わせが今シーズンのメインストリームだ。

機材をディスクブレーキに統一しているボーラ・ハンスグローエ機材をディスクブレーキに統一しているボーラ・ハンスグローエ photo:Kei.Tsuji
昔からディスクブレーキには慣れ親しんでいるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)昔からディスクブレーキには慣れ親しんでいるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei.Tsujiディスクロードでスプリント勝利を量産しているエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)ディスクロードでスプリント勝利を量産しているエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei.Tsuji

シマノのディスクブレーキだけを使ってシーズンを戦うのはドゥクーニンク・クイックステップ、ボーラ・ハンスグローエなどの3チーム。実際にツアー・ダウンアンダーでシマノのディスクブレーキ搭載バイクを駆ってステージ優勝を飾ったのはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)とペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の2人。

オフロード経験も豊富なサガンは早期からディスクブレーキをテストしていた選手の1人であり、R9170系DURA-ACEのディスクローターだけでなく、フィーリングを確認するためにR8070系ULTEGRAのディスクローターも機材投入前にテストしていた。現在はR9170系DURA-ACEのフルセットに落ち着いている。

ワールドチームから高い信頼を獲得しているDURA-ACEのディスクブレーキワールドチームから高い信頼を獲得しているDURA-ACEのディスクブレーキ photo:Kei.Tsuji
スルーアクスルの太さやローター径など、ディスクブレーキにも異なる規格が混在していたが、今シーズンはその統一がほぼ完了しているようだ。フロントが径12mm&エンド幅100mmのスルーアクスルで、ローター径は160mm。リアが径12mm&エンド幅142mmのスルーアクスルで、ローター径は140mm。

ロードレースであればフロントのローター径も140mmで十分な制動力が得られるという声も聞かれるが、アルプスやピレネーの20kmを超えるような長い下りでも確実なブレーキングを実現するために、160mmが必要であるという選手の声も大きい。なお、ダウンアンダーの直前に開催されていた女子レースでは一部のチームがフロントにローター径140mmを使用していたものの、男子レースでは前160/後140の組み合わせがプロトンの導き出した答えだ。

ディスクブレーキを常用するマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)。ディスクローターは前160mm、後140mmの組み合わせが一般的となっているディスクブレーキを常用するマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)。ディスクローターは前160mm、後140mmの組み合わせが一般的となっている (c)CorVos
ディスクブレーキ化に伴い、多くのチームはチームカーに搭載するスペアホイールの数を減らし、迅速に対応しやすいスペアバイクを増やしている。しかしシマノのニュートラルサービスは出場選手すべてにサービスを提供するために、開幕前に選手たちの機材パターンを徹底的にチェックし、多種多様なホイールをサービスカーに詰め込んでいた。6日間のダウンアンダーでは、レース中のディスクブレーキホイールのニュートラル交換を1回だけ実施したという。

ディスクブレーキ採用に踏み切れないチームの選手やメカニックに聞き込みを行ったところ、レース中のホイール交換に時間がかかること、レース中に選手自身で交換ができないこと、重量的なディスアドバンテージなどを理由に挙げる。しかし高いブレーキング性能は誰もが認めるところで、どのチームもどうすれば早くディスクブレーキ化を果たせるのかを模索しているといった状態だ。

ニュートラルカーに積まれたディスクブレーキホイールニュートラルカーに積まれたディスクブレーキホイール photo:Kei.Tsujiトラブル時にはバイク交換で対応するボーラ・ハンスグローエの選手トラブル時にはバイク交換で対応するボーラ・ハンスグローエの選手 (c)CorVos


ディスクロードでプロトンを制圧する”ウルフパック”ことドゥクーニンク・クイックステップディスクロードでプロトンを制圧する”ウルフパック”ことドゥクーニンク・クイックステップ (c)CorVos
ディスクブレーキが試験的に導入された際によく聞かれた「ローターが危険」という声はもはや全く聞かれなくなっていた。「性質やタイミングが異なる2種類のブレーキが集団内に混在することが落車の原因になる」という声もすっかり下火になっている印象。つまりはもう、レース中のサポートの問題だけと言った雰囲気だ。

ホイール交換時間のロスに関しては、迅速なスルーアクスルの脱着を目指すためにメカニックはトルク調整した充電式の電動ドライバーを導入。熟練者のフロントホイールの交換所要時間は15秒を切っており、今後この時間はますます短縮されていくと見られる。

ミッチェルトン・スコットもレースによってはディスクロードを使用。サブバイクまで全てディスクブレーキで揃っているミッチェルトン・スコットもレースによってはディスクロードを使用。サブバイクまで全てディスクブレーキで揃っている (c)CorVos
クールネ~ブリュッセル~クールネで勝利したボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、ドゥクーニンク・クイックステップ)クールネ~ブリュッセル~クールネで勝利したボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、ドゥクーニンク・クイックステップ) (c)CorVosディスクブレーキ仕様の新型TTバイクをレース投入しているサンウェブディスクブレーキ仕様の新型TTバイクをレース投入しているサンウェブ (c)CorVos

オーストラリアや南米、中東を舞台にしたシーズン序盤戦が終わり、ロードレースの舞台がヨーロッパに移るとディスクブレーキ使用率はさらに上がっているようだ。

ベルギーで春のクラシックが開幕すると、悪天候のなかディスクブレーキが本領を発揮。石畳のオンループ・ヘットニュースブラッドではゼネク・スティバル(チェコ)が、風との闘いのクールネ~ブリュッセル~クールネではボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が、そしてイタリア版パリ〜ルーベとも呼ばれる砂地の未舗装路を走り抜けるストラーデ・ビアンケではジュリアン・アラフィリップ(フランス)が、ディスクブレーキのバイクで勝利を挙げ、ドゥクーニンク・クイックステップに連戦連勝をもたらした。

エアロディスクロードでスプリントを制したケース・ボル(オランダ、サンウェブ)エアロディスクロードでスプリントを制したケース・ボル(オランダ、サンウェブ) (c)CorVos
格式高いミラノ〜サンレモで勝利したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)格式高いミラノ〜サンレモで勝利したジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) (c)CorVos
さらに1週間のステージレース、ティレーノ〜アドリアティコでアラフィリップが登りスプリントで勝利し、もはやディスクブレーキのネガを完全に払拭する勢いだ。ディスクブレーキを使うことはもはや特別なことではなくなった。また同レースでサンウェブはディスクブレーキ仕様の新型TTバイクを投入し、雨のチームタイムトライアルを走り抜けた。

グランツールの前哨戦的な重要レースにおいて、ワールドツアーチームも積極的にディスクブレーキを採用していく姿勢を見せている。今後もアクスルやローターの規格が統一され、ホイール交換のノウハウが蓄積され、剛性バランスを考慮した専用設計フレームが増えれば、加速度的にディスクブレーキ使用率は上がっていくはずだ。(レポート:辻啓)

勝利のためにリムブレーキを選択するチームスカイ

「フルームもディスクブレーキが好き。リムブレーキを使うチャンピオンのこだわりは一般サイクリストに当てはまらない」ファウスト・ピナレロ氏

シマノスポンサードチームの中でディスクブレーキの採用を見送ったのがチームスカイだ。ツール・ド・フランスで常勝を続けるチームがなぜディスクを採用しないのか?バイクスポンサーのピナレロ社代表、ファウスト・ピナレロ氏に話を伺った。

― クリストファー・フルームやチームスカイはなぜディスクブレーキを使用しないんでしょうか?

「チームスカイは勝利のためにリムブレーキを選択している」と語るファウスト・ピナレロ氏「チームスカイは勝利のためにリムブレーキを選択している」と語るファウスト・ピナレロ氏 photo:Makoto.AYANOフルームたちにはもちろんディスクブレーキロードに乗ることをオファーしています。しかしチームスカイがまだディスクを採用しないのは、レース中のパンクや落車時にホイール交換のタイムロスのデメリットとリスクがあると考えているからです。秒単位ですが、現状どうしてもホイール交換時に余計に時間がかかってしまいます。チームはツール・ド・フランスなどグランツールの勝利を狙うことを最重要に考えていて、その中でピナレロ社はマーケティング第一でなく、勝利のための機材選択はチームに任せているんです。

― ディスクブレーキのメリットをまだ十分に感じていないのでしょうか?

いいえ。何よりフルーム自身がディスクブレーキが好きなのです。彼はMTBにも乗るから、ディスクブレーキのメリットはよく知っている。もし彼がディスクに乗り換えたら、ダウンヒルでも誰も敵わなくなるでしょう。でも、たった一度のホイール交換のタイムロスでグランツールの勝利を逃してしまう可能性がある以上、まだディスクは使えないと言います。チームスカイにはフルームと同じバイクサイズの選手が5,6人居て、パンクの際にはそばに居るアシスト選手のバイクに乗り換えられるという点で他の選手よりリスクが少ないにもかかわらず、です。

今季もリムブレーキを選択しているクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)今季もリムブレーキを選択しているクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) (c)CorVos
グランツールでの勝利を最優先としているチームスカイグランツールでの勝利を最優先としているチームスカイ photo:Makoto.AYANO悪路のクラシックレースでもディスクロードは使用していない模様悪路のクラシックレースでもディスクロードは使用していない模様 (c)CorVos



― フルームは、「もしプロトンの全員がディスクブレーキになればもちろん使う」とも話していますね。ディスクが過半数となって、ホイール交換のロスタイムやリスクが減るなら採用するのでしょう。とても慎重ですね。ファウストさん自身はディスクのメリットをどう考えていますか?

フルームのようなケースは本当にトップ中のトップの場合で、1秒も無駄にできないチャンピオンならではの選択です。一般のサイクリストにはメリットしか無いですから、フルームやチームスカイがディスクを選ばないことを参考にする必要はまったくありません。ツール・ド・フランスに勝てるバイクを造るのはピナレロ社にとって最大の使命ですが、同様に一般サイクリストのために最高のバイクを造ることもまた使命なのです。(インタビュー:綾野 真)

国内でも続々とレース解禁を果たすディスクブレーキ

ディスクロードでツール・ド・おきなわ市民210kmを制した紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)ディスクロードでツール・ド・おきなわ市民210kmを制した紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
2018年7月より正式にUCIレースでの使用が認められたディスクブレーキ。国内に目を向けてみると、UCIルールに準拠したレース運営を行う「ニセコクラシック」が昨年いち早くディスクブレーキを解禁。それに続き「ツール・ド・おきなわ」も同様にディスクロードの使用を許可すると、市民210kmクラスにおいてディスクブレーキロードを投入した紺野元汰選手(SBC Vertex Racing Team)が優勝。まだまだリムブレーキバイクが圧倒的多数を占める中、市民レースの最高峰とも言える国内公式レースでのディスクロードの勝利は新しいトレンドとして大きな話題を呼んだ。

さらには今年からJBCF(全日本実業団自転車競技連盟)やJICF(日本学生自転車競技連盟)もディスクブレーキの使用を解禁。チームでの機材統一やニュートラルサポートなどの要因もあり、解禁と同時にレース投入している選手はごく僅かだが、それでも国内のサポート体制が今後整えられていくことは必至。2019年はまさに国内でのディスクブレーキ元年とも呼べる年になりそうだ。



次頁ではシマノがラインアップするロードディスクブレーキコンポーネントの各メカにフォーカス。実際にディスクブレーキロードを駆るショップ店長と、シクロワイアード編集長・綾野による対談インプレッションをお届けしよう。また女性ライダーを代表して、Livアンバサダーの武田和佳さんにシマノ105のショートリーチレバーを試してもらった。
提供:シマノ 制作:シクロワイアード編集部