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香港から鉄道で北上し、陸路で中国へと入国。国境からクルマで1時間ほどの深圳(しんせん)の近郊にチャンピオンシステムの工場はある。深圳は中国のシリコンバレーと呼ばれ、急速な発展を遂げている都市。10年後には世界最先端の都市となるだろうと言われているベンチャーの都だ。この街にある工場が同社最大のメイン工場となる。同社のマーケティング担当者ガーフ・モック氏が案内してくれた。



チャンピオンシステム中国工場を案内してくれた皆さんチャンピオンシステム中国工場を案内してくれた皆さん photo:Makoto.AYANO工場のオフィスに飾られた特別なジャージの数々。レースのストーリーが蘇ってくる工場のオフィスに飾られた特別なジャージの数々。レースのストーリーが蘇ってくる photo:Makoto.AYANO


工場は4階に分かれ、それぞれオフィス&デザインセクション、印刷、縫製、出荷などごとに分けられている。まずはデザイン部門からだが、ここでは香港オフィスでルイス氏が言ったとおり、私の名刺のロゴからシクロワイアードジャージのデザイン起こしが始まった。ここでつくるのはあくまで1着のみのサンプルだ。

素早いデザイン起こしとデータ管理 カスタマーのイメージをサポート

シクロワイアードのロゴをもとにデザインを作成してくれるガーフ氏シクロワイアードのロゴをもとにデザインを作成してくれるガーフ氏 photo:Makoto.AYANOイラストレーターソフトを使用して手早くデザインをアレンジしていくイラストレーターソフトを使用して手早くデザインをアレンジしていく photo:Makoto.AYANO

朝のうちに香港からメールで連絡を受け、名刺のスキャンデータを受け取ったガーフ氏。しかし以前にシクロワイアードのロゴを使用した「RIDER OF THE YEAR」ジャージの製作履歴があったため、その際に入稿したロゴのai(イラストレータ)データをPCに用意してくれていたのだ。それは5年前のやりとりで、他件のジャージに一部CWロゴを使用した程度の注文案件(私は完全に忘れていた)。その履歴とデータが完全に整理されて保存され、それがすぐに引き出されていたことに驚く。

デザインルームのフロアには50人を越えるデザイナーが稼働しているデザインルームのフロアには50人を越えるデザイナーが稼働している photo:Makoto.AYANO「デザイナーの優秀さこそブランドの強みだ」と言うガーフ氏「デザイナーの優秀さこそブランドの強みだ」と言うガーフ氏 photo:Makoto.AYANO

「カスタムウェアはインターネットで注文を受けて製造を行うため、デザインのやり取りに関してもデータで管理しています。それを常に整理してリファレンスしていますよ」とガーフ氏。

このデザインセクションではパソコンによりイラストレータ(アドビ社のソフト)を使用してデザインを作成する。ここでは生産工程を実体験するため、サンプルとしてCWジャージを一着つくる前提でガーフ氏自らデザインを起こしくれた。色の配置や希望を伝えると、すぐにデザインに起こしてくれる。その手早さといったら!

「ここはカスタマーの考えるコンセプトやイメージを形にするセクションです。お客様と共に考え、アートワークとしてカタチにします。やり取りやコミュニケーションの重要なセクションです」とガーフ氏。カスタマー側から提出されたデザインがプロが作成したものでなくても、伝えられたイメージをもとにデザイナー側でうまくアレンジしてくれるのだ。

デザインルームには真剣な空気が張り詰めているデザインルームには真剣な空気が張り詰めている photo:Makoto.AYANOジャージに入るマークやロゴ、文字のスペルなどに細心の注意を払うジャージに入るマークやロゴ、文字のスペルなどに細心の注意を払う photo:Makoto.AYANO

デザイン部署のアートワーク部門には50人以上のデザイナーが従事する。その50人がフル稼働で、PC画面とにらめっこでジャージのデザインを作成していた。そのデザイナーの優秀さこそブランドの強みだという。オーダーする側のデザイン力の不足をうまく補ってアレンジしてくれるのだとか。

ガーフ氏は言う。「ロゴがデザインされた名刺などがあれば、そこからコピーしてデータに起こすことができますが、ロゴについてはaiファイル(イラストレータのデータ)であることが理想です。JPEGなどよりaiデータのほうが再現性に優れ、大小の自由が効きますから」。データが無ければスキャンをもとに作ることもできる。また、「中国の工場ですから、たとえば漢字ロゴなども当社は得意です」とも。

様々なアイテムに応用できるマルチテンプレート

また、デザインやロゴの配置に関しては「マルチテンプレート」という考えを採用している。これは半袖ジャージだけでなく、長袖、ウィンドブレイカー、ベスト、シクロクロススーツ、ポロシャツなどなど、デザインの応用が効くようにベースを用意するという考え方。

工場の研究室には特別なプロジェクトのジャージ開発が進行している 工場の研究室には特別なプロジェクトのジャージ開発が進行している  photo:Makoto.AYANO日本のイベント「GREAT EARTH」オフィシャルジャージの再現性は素晴らしいの一言日本のイベント「GREAT EARTH」オフィシャルジャージの再現性は素晴らしいの一言 photo:Makoto.AYANO

「カスタマーはジャージが良ければ他のアイテムも欲しくなりますからね。『ジャージと同じデザインのウィンドブレイカーが追加で1枚欲しい』それに応えるのが当社なのです。基本デザインを多くのアイテムに反映できるようなテンプレートですから、そのために私達から提案するカスタマイズもあります」。

また、デザインはサイズが違ってもスタイルやロゴの配置、見え方が変わらないようにしている。XSからXXLまで、同じ比率を保ちながらデザインをプリントするという。

徹底した品質管理 オーダーに正確に応えるために

オンラインで品質を管理する女性スタッフたちオンラインで品質を管理する女性スタッフたち photo:Makoto.AYANOデザイナーたちが並ぶフロアに、チェックだけを行う管理者が並ぶセクションがあった。デザインされたものがオーダーと同じかを第三者の目で厳密にチェックする役割だ。

「ロゴの配置が悪かったり、スペルが間違っているとしたらどうでしょう。スポンサーは機嫌を損ね、チームの来年の契約が無くなるかもしれません。プロでないアマチュアチームだったとしても、そこまで考えて慎重を期しています。人間はミスを起こすということを前提に、第3者によるチェックをしています。ヒューマンエラーを無くすべく、すべてが注文通りか、完璧かをチェックします」。

工場内には5つものQC部署がある(Quality Contorol=品質管理)。それぞれの工程のすべてで、チェックを経なければ進まない仕組みになっているのだ。「競合他社はここまでのチェックを行っていないはずです」とガーフ氏。

ルームの片隅にジャージのデザインを縮小して印刷した布片が積み上げられていた。これは「ミニマーカー」と呼ばれる。

過去オーダー分の「ミニマーカー」。ロゴの配置や配色なども一目瞭然だ過去オーダー分の「ミニマーカー」。ロゴの配置や配色なども一目瞭然だ photo:Makoto.AYANOオフィスに飾られたミニマーカーを用いたミニチュアジャージ。映画「破風(邦題:疾風スプリンター)」のものもオフィスに飾られたミニマーカーを用いたミニチュアジャージ。映画「破風(邦題:疾風スプリンター)」のものも photo:Makoto.AYANO


「ミニマーカーは注文記録でもあります。実際にプリントアウトされたプルーフとして確認できます。それぞれがナンバーで認識でき、過去のデータを即座に検索することができます。何年か毎に同じデザインで注文することができるオーダージャージですが、プリンターとインクを使用する宿命で、100%同じとは言えないのです。カスタマーは同じデザインとカラーの発色を求めますから、再注文による制作の際には過去のミニマーカーと突き合わせて確認します。当社では10年前のオーダーであってもミニマーカーは確実に保管しています」。

大量生産ながら丁寧さを忘れないプリント行程

生地への印刷を行うプリント部門は壮観だ。18台の超大型プリンターが稼働し、ジャージのもととなる生地が生み出されていく。台紙にプリントしたジャージのデザインを生地に転写していく。210℃に加熱、60秒で熱転写するプリント方法だ。

大型プリンターが並ぶプリントルーム大型プリンターが並ぶプリントルーム photo:Makoto.AYANOプリンターがシクロワイアードのロゴを出力する。これが熱転写シートとなるプリンターがシクロワイアードのロゴを出力する。これが熱転写シートとなる photo:Makoto.AYANO

それは、一枚一枚が手作業によるというのが驚きだ。丁寧な作業ながらも生産ラインの多さにより、この工場では1時間あたり126枚のジャージを生産することが可能だという。12時間ごとのシフト稼働により、1日で約2000枚のジャージを生産できる計算だ。

袖や脇のパーツごとに熱転写シートがプリントされていく袖や脇のパーツごとに熱転写シートがプリントされていく photo:Makoto.AYANO一枚一枚プリントアウトされてくるジャージの生地一枚一枚プリントアウトされてくるジャージの生地 photo:Makoto.AYANO

「オーダーを朝に受けたとして、翌日までに200枚のジャージを完成させることは十分可能です。もちろん一般のご注文では対応していませんが。他社は通常はデザイン部署や製造部署が別々の国にあったりするため、そこまでの仕事は不可能でしょう。部門がバラけているとデザイン修正や不具合があるごとに遅れが生じます。チャンピオンシステムはすべての行程を自社工場内で完結できるため、そういったことも可能なのです」とガーフ氏。同社の強みはそんなところにありそうだ。

刷り上がったジャージのメイン生地を確認する刷り上がったジャージのメイン生地を確認する photo:Makoto.AYANOカラーが指定通りか、色ニジミなどが無いかを確認するカラーが指定通りか、色ニジミなどが無いかを確認する photo:Makoto.AYANO

プリントの行程でも品質管理は厳重だ。空気中のホコリが生地に舞い降り、印刷に「シミ」が生じるのは防ぎようがないが、厳重なチェックがシミのできた生地を見逃さず、次への行程への進行を許さない。

またプリントがオーダーされたものに近いかどうかをチェックするのがカラーマッチング部署だ。モニターで見たカラーとプリントされたカラーはしばしば違って見えるもの。その差を限りなく小さくしなければならない。カラーについては常にPANTONEで指定し、CMYKインクで再現される。

カラーマッチング部門では色指定とプリント生地の色の誤差を徹底的にチェックするカラーマッチング部門では色指定とプリント生地の色の誤差を徹底的にチェックする photo:Makoto.AYANOプリントされたものに間違いがないかを隅々まで確認するプリントされたものに間違いがないかを隅々まで確認する photo:Makoto.AYANO

刷り上がった生地をオーダーごとに取りまとめていく刷り上がった生地をオーダーごとに取りまとめていく photo:Makoto.AYANOソックスもジャージとは別ラインで生産される。カラフルなオーダーソックスが人気だソックスもジャージとは別ラインで生産される。カラフルなオーダーソックスが人気だ photo:Makoto.AYANO

最終工程の縫製にも正確さを徹底して求める

縫製部門のフロアには見渡す限りミシンが並び、作業が行われる縫製部門のフロアには見渡す限りミシンが並び、作業が行われる photo:Makoto.AYANO
数え切れない数のミシンが並ぶ縫製部門はまさに壮観だ。プリントされたパーツごとの生地をミシンで縫い合わせることでサイズごとのウェアに仕立てていくが、ここでも縫った端から品質管理のチェックを受けながら作業が進行していく。胴の前のファスナーで全開となるジャージでは、チームロゴやデザインパターンにズレが生じないように念入りにチェックされる。前述したとおり、スポンサーに関わる部分だけに精度が要求される部分だからだ。

ミシンがけを行う女性工員。丁寧な作業が印象的だミシンがけを行う女性工員。丁寧な作業が印象的だ photo:Makoto.AYANOファスナー合わせ面の精度にもこだわるファスナー合わせ面の精度にもこだわる photo:Makoto.AYANO

縫い上がった製品が揃えば最終チェックだ。再度、オーダー通りに仕上がっているか、ロゴの位置、カラー、サイズが適正かどうかなどをすべての点でチェックする。生産開始からここまで5段階の大きなチェックを経て、製品となる。オーダー品が揃えば、最後にマネキンに着せての写真撮影。これは記録のためと、生産したという証明のため。またこれは輸送中の紛失や行方不明などの事故に備える意味もあるという。最後までQCチェックの厳重さ、慎重さに感心してしまった。

寸法通りに仕上がっているかの採寸チェック寸法通りに仕上がっているかの採寸チェック photo:Makoto.AYANOオーダー通りかを最終的にチェックすればようやく出荷に回されるオーダー通りかを最終的にチェックすればようやく出荷に回される photo:Makoto.AYANO

パッケージにあるバーコードで生産のすべてを追跡できるパッケージにあるバーコードで生産のすべてを追跡できる photo:Makoto.AYANOキナンサイクリングチームの2017年のジャージが出荷を待っていたキナンサイクリングチームの2017年のジャージが出荷を待っていた photo:Makoto.AYANO

また工場内ではいくつか他社ブランドの製品をOEM製作している風景も見ることが出来た(もちろん写真はNGだ)。欧州有名ブランドのアパレルもあり、これは同社の高い技術力が信頼されている証明だろう。

あとがき

ジャージができるまでの行程をすべて紹介してもらうファクトリーツアーは約2時間ほどで終了した。工場の規模の大きさや生産能力に驚きつつも、そのすべての行程ひとつひとつが人の手による「手づくり」ということにも新鮮な驚きがあった。

実際のサンプルとしてシクロワイアードのロゴからデザイン起こしてもらったジャージはたった1枚、完成したものを受け取った。編集部では現在、春から着るための新ジャージのデザインを始めている。それは実際にチャンピオンシステムにオーダーするつもりだ。イベント取材の際などに活躍してくれるそのジャージのデビューも楽しみにして欲しい。
提供:チャンピオンシステム photo&text:綾野 真(シクロワイアード)