2016/10/28(金) - 11:19
4年ぶりのフルモデルチェンジを遂げたシマノDURA-ACE。”R9100”として全面的な進化を遂げた最先端の機械式コンポーネントの全貌を、ブリヂストンアンカーの中山メカニックと共に解き明かしていこう。
前作となる9000シリーズから大幅な変更が加えられた新型DURA-ACE。初となるDURA-ACEグレードの油圧ディスクブレーキや、シンクロシフトを搭載したDi2、リム形状が刷新されたホイール群など、語り始めればキリがないほど多岐に渡る進化を果たしたDURA-ACEだが、その中でも核となるのは、やはり機械式モデルだろう。
前モデルである9000系が高い完成度を誇っていたこともあり、どのような進化を遂げるのか、登場前から熱く厳しい視線を集めていたR9100系DURA-ACEは、これまでのシマノロード用コンポーネントの系譜から大きな変革の一歩を踏み出すこととなった。それでは、各パーツについて概略を説明していこう。
9000系から劇的な進化を遂げたのはシフトに関わる各パーツ達。インターフェースとなるSTIレバーはレバー部を再設計することで、よりクイックな操作が可能に。従来モデルと変速レバーのストロークを比較すると、左側のメインレバーは-24%、左右のリリース(張力解除)レバーは-14%となっている。
フロントディレイラーも、レバーに合わせて再設計されており、前作とトータルの操作力は変わらないものの、変速動作がよりスムーズになっている。また、セットアップが簡単になったことも大きな特徴だ。9000系では2通りあったケーブルのルーティングが1通りとなり、ケーブルテンションの調整機能を新たに搭載することで、ワイヤーの途中にかませるアジャスターが不要となった。
リアディレイラーはDi2と同じくシャドーデザインとなり、外側への張り出しが少なく、落車時の破損リスクを軽減。また、スプロケットとの間隔が常に一定になるようにガイドプーリーの軌道を設定することで、変速の安定性を高めている。
デュアルコントロールレバー ST-R9100、ST-R9120
フロントディレイラー FD-R9100
リアディレイラー RD-R9100
ライダーの踏力を受け止めるという非常に重要な役割を担うのがクランク、スプロケット、そしてペダルだ。この3点に関しては9000系から基本設計を受け継いだ堅実な設計によって、高い信頼性はそのままに、より軽く、そしてより高い剛性感を持ったモデルとしてリファインされた。
クランクは9000シリーズでデビューした4アーム構造はそのままに、クランクアーム部分の設計を変更することで駆動効率を最大限に高めつつも、BB込みで7gの軽量化に成功している。リアエンド幅142mmのディスクブレーキ用フレームでは、リアセンター410mm(最短)まで対応。歯数構成は5種類をラインアップする。
スプロケットは、CFRPとアルミ合金を組み合わせたスパイダーや、チタン製コグ(ロー側5枚)などによって、優れた軽量性を実現。歯数構成は11-25T、12-25T、11-28T、12-28T、新登場の11-30Tという5種類がラインアップされる。
ペダルも各部の設計を見直し、クリート固定ボルトを肉抜きするなど細部にわたる努力の結果、前作より20gの軽量化を実現。また、クリートとの接触面積も増加しており、更なるスタビリティの向上を果たしている。
クランクセット FC-R9100
カセットスプロケット CS-R9100
ペダル PD-R9100
油圧ディスクにとかく注目が集まりがちな新型DURA-ACEだが、まだまだ主流であるキャリパーブレーキも最新のテクノロジーを駆使し、より強力なストッピングパワーを手に入れている。
新たに左右のピボットを接続するブースタープレートが内蔵され、アームのたわみ量を最大43%低減することに成功。ケーブルに高い張力が加わった状態でも、かっちりとしたフィーリングをキープしてくれるという。また、従来モデルに対してアーム間の距離は縮まっているものの、28Cタイヤが装着可能なクリアランスが確保されている。
リムブレーキ用キャリパー BR-R9100
今回、R9100系DURA-ACEコンポ一式を実際に用意し、ブリヂストンアンカーの中山直紀メカニックにイチからフレームに組み付ける作業を行ってもらった。そしてその行程のなかで気づいた点を、レースという実戦の場で使用されるコンポという視点で語ってもらった。
中山メカはまず「現代のコンポはまずマニュアル通りに組み付けることでその性能を発揮してくれます。しかしマニュアル通りといっても非常に繊細な作業になるため、一般ユーザーがご自分で組むのは避け、組付けはプロショップのメカニックに任せてください」と断ってから、レースという実戦の場で使用されるコンポーネントという視点でそのディテールを語ってくれた。
最も大きな変化が見られるのは、コンポーネントのコアバリューとなる変速周りだ。「特にディレイラーに関しては根本となる設計思想から大幅な変更が加えられています」と中山メカは切り出した。
見た目にも大きな変化を果たしたのはフロントディレイラーだ。スイングアームを延長し、テコ比を大きくすることでより軽い力での変速を実現した前モデルに対し、複雑なリンク構造を駆使し、非常にコンパクトにまとめられている。
FD-R9100について、まず「以前のモデルよりずっとコンパクトになっても、軽い引きを実現しているのは凄いですね。」と中山メカ。「見た目ももちろんなのですが、組み付けに関しても従来のセッティング方法とは異なる手順が求められます。これまでは、まずロー側の位置調整、続いてトップ側を調整し、最後にワイヤーのテンションを調整していました。しかし、R9100は完全に逆の順序で組み付けるようになっているんです。つまり、最初にワイヤーテンションを設定し、それからトップ側、ロー側の位置を決めるという順序でセッティングするようになっているんです。」
そして、フロントディレイラーの組み付けで重要となるのがワイヤーテンションだ。従来のフロントディレイラーでは、ケーブルの途中にアジャスターを設けることでテンションの微調整を可能としてきたが、R9100ではディレイラーにアジャスターを内蔵することで、より容易に適切なワイヤーテンションを得ることが出来るようになった。
「視覚的にワイヤーのテンションが調整できるようになっているので、セッティングの出しやすさは格段に向上していると感じます。まず、ワイヤーをディレイラーに留め、アウターから一段階トリムしたポジションへ入れます。この状態で、ワイヤーテンションアジャストボルトを調整します。ディレイラーの側面に刻印されたインジケーターラインが一直線になるまでボルトを回せば、ワイヤーの調整は完了です。」
また、ディレイラーの位置調整も従来とは異なる基準となるようだ。これまではアウター✕トップを基準とし、チェーンクリアランスを調整していたが、R9100ではアウター✕ローの状態で内側の羽にチェーンが当たらないように調整するという。
「チェーン落ちのリスクが一番高いのがアウターローですが、今回のDURA-ACEでは、チェーン落ちを軽減すべく、こういったセッティング方法になっているようですね。これもMTBからのフィードバックが活かされていると感じます。」そして、インナーロー状態で位置を調整し、最後にインナーワイヤーを通したキャップをすれば完了だ。
対となるリアディレイラーも、シマノのロード用コンポーネントとしては初めてとなるシングルテンション構造を採用。変速機としての根本的な設計思想が転換されているため、組み付けについても新たな注意点が必要となるようだ。
「リアディレイラーも、今までのものとは動きが全く違います。ダイレクトマウントに対応するため、Bテンションアジャストボルトの位置がこれまでのシマノロードコンポーネントとは異なります。取り付ける際にはリアエンドにディレイラー取り付け部のツメをしっかりと当てて、位置を決める事が重要です。」
加えて、シングルテンション化したことにより、アウター受けの位置が固定されることとなった。従来のディレイラーではロー側に入れた時を想定し、余裕を持ったアウターワイヤーの長さを設定する必要があったが、R9100ではその必要は無いという。
また、最近の電動と機械式両対応のフレームでは、ワイヤーの出口がリアエンド付近に来るものが多く、どうしてもワイヤーのアールが小さくなってしまう場合がある。そのために、柔軟性に優れた専用のアウターが用意される。鋼線が平行に並んでいたこれまでのシフトアウターとは異なり、コイル状に巻かれることで、よりしなやかになっている。このアウターの扱いにも注意が必要だと、中山メカニックは語る。
「柔軟性を出すために、この専用アウターではライナーが溶着されていません。差し込み式となっているため、ワイヤーをカットするときには注意が必要です。具体的にはSHIMANOロゴが書かれていない側をカットしてください。そうしないとインナーストローが抜けてしまうので、この点は非常に大切です。」と新たな注意点を教えてくれた。
大胆な変化を遂げたディレイラー周りに比べて、STIレバーやクランクなどに大きな設計変更は行われず。「実際に組み付けてみても、従来通りの手順で全く問題ありません。」と中山メカニック。「より軽く、形状が薄くなった印象のチェーンホイールは、選手たちに踏んでもらって印象を聞きたいと思います。メカニックが語れる前モデルとの違いはありません。」
ブーストプレートが組み込まれ、剛性向上を果たしたブレーキキャリパーについても、基本的な構造は9000系から受け継いでいる。
ブレーキキャリパーについて一点注意したいのが、ブレーキ開放レバーだ。「これまで、開放レバーで引き代を調整する方もいらっしゃいましたが、R9100では完全にNGです。本来の目的であるホイール脱着のためのものとなっているので、引き代を調整するときにはワイヤーアジャスターを用いるようにしてください。」とのことなので、これまでレバーをアジャスター代わりにしていた方は注意して欲しい。
さて、前後ディレイラーを中心に大きな変化を遂げた新型DURA-ACEだが、その狙いはどこにあるのだろうか? 中山メカニックは、分かりやすい要因としてエアロダイナミクスの追求を挙げる。
「空気抵抗を削減することが一つの目標になっているのかな、という印象をまず受けました。前後ディレイラー共に前方投影面積が少なくなっているので、これまでのデュラエースの中でも、優れたエアロダイナミクスを発揮してくれるでしょう。ワイヤーも飛び出しが少なくなっているのも、空気抵抗を意識しているのだと感じました。同時にワイヤー末端もバイクの内側や後方へ向いており、外側への突起が少なく、トラブルの減少にもつながるはずです。シャドータイプのRDもそのひとつ、落車でバイクが地面に接しても、今までのRDより破損する確率は減るでしょう。」
また中山メカは、昨今のロードバイクを取り巻く環境の多様化によって、独自の設計を持つフレームが増加してきたことに対するシマノからの回答がこのR9100シリーズであるとも言う。
「例えば前モデルのフロントディレイラーは、フレームによってケーブルを留める金具の位置を変更することでフレーム毎の寸法差を吸収してきました。R9100ではそういった手間は省かれています。また、最先端のエアロフレームではケーブル類を完全内装するモデルも出てきました。アジャスターを内蔵することで、そういったフレームでもしっかりとセッティングが出せるようなったことも大きいですね。
以前であれば、リアディレイラー用アウター受けの基本的な位置はどのフレームも一緒でしたが、最近はフレーム毎にバラバラです。R9100のリアディレイラーはアウターワイヤーの長さの影響を排除した設計になっており、どんなフレームでも100%の性能を発揮できるようになっています。
シングルテンション化によって、チェーン暴れも減っています。ロードレースでもパヴェ(石畳)が登場することが多くなりましたし、グラベルロードやシクロクロスバイクへも対応する必要もあります。こういった環境の変化もあり、ロードバイクコンポーネントでもチェーンのバタつきを抑えることがより重要なファクターとしてクローズアップされています。そういった、多様化するライドシチュエーションやフレームに対応するべく開発されたのがこのR9100シリーズなのでしょう。」
これまでのDURA-ACEの設計を根本から見直し、多様なフレーム、そしてライディングスタイルへ対応する、全く新たなコンポーネントとして誕生したR9100シリーズ。次回は、チームブリヂストンアンカーの井上和郎と鈴木龍の2選手によるライディングインプレッションをお届けしよう。
よりストレスフリーとなった機械式デュラエース
前作となる9000シリーズから大幅な変更が加えられた新型DURA-ACE。初となるDURA-ACEグレードの油圧ディスクブレーキや、シンクロシフトを搭載したDi2、リム形状が刷新されたホイール群など、語り始めればキリがないほど多岐に渡る進化を果たしたDURA-ACEだが、その中でも核となるのは、やはり機械式モデルだろう。
前モデルである9000系が高い完成度を誇っていたこともあり、どのような進化を遂げるのか、登場前から熱く厳しい視線を集めていたR9100系DURA-ACEは、これまでのシマノロード用コンポーネントの系譜から大きな変革の一歩を踏み出すこととなった。それでは、各パーツについて概略を説明していこう。
大きく手が加えられた変速周り
9000系から劇的な進化を遂げたのはシフトに関わる各パーツ達。インターフェースとなるSTIレバーはレバー部を再設計することで、よりクイックな操作が可能に。従来モデルと変速レバーのストロークを比較すると、左側のメインレバーは-24%、左右のリリース(張力解除)レバーは-14%となっている。
フロントディレイラーも、レバーに合わせて再設計されており、前作とトータルの操作力は変わらないものの、変速動作がよりスムーズになっている。また、セットアップが簡単になったことも大きな特徴だ。9000系では2通りあったケーブルのルーティングが1通りとなり、ケーブルテンションの調整機能を新たに搭載することで、ワイヤーの途中にかませるアジャスターが不要となった。
リアディレイラーはDi2と同じくシャドーデザインとなり、外側への張り出しが少なく、落車時の破損リスクを軽減。また、スプロケットとの間隔が常に一定になるようにガイドプーリーの軌道を設定することで、変速の安定性を高めている。
デュアルコントロールレバー ST-R9100、ST-R9120
ST-R9100(機械式変速/リムブレーキ、前後セット) | 51,644円(税抜) |
ST-R9120R(機械式変速/油圧ディスクブレーキ、右のみ) | 32,076円(税抜) |
ST-R9120L(機械式変速/油圧ディスクブレーキ、左のみ) | 32,076円(税抜) |
フロントディレイラー FD-R9100
取り付けタイプ / 税抜価格 | 34.9mmバンド | 12,131円 |
31.8/28.6mmバンド | 12,190円 | |
直付 | 11,226円 |
リアディレイラー RD-R9100
価格 | 21,492円(税抜) |
より軽く、より高剛性に パワーを受け止めるドライブトレイン
ライダーの踏力を受け止めるという非常に重要な役割を担うのがクランク、スプロケット、そしてペダルだ。この3点に関しては9000系から基本設計を受け継いだ堅実な設計によって、高い信頼性はそのままに、より軽く、そしてより高い剛性感を持ったモデルとしてリファインされた。
クランクは9000シリーズでデビューした4アーム構造はそのままに、クランクアーム部分の設計を変更することで駆動効率を最大限に高めつつも、BB込みで7gの軽量化に成功している。リアエンド幅142mmのディスクブレーキ用フレームでは、リアセンター410mm(最短)まで対応。歯数構成は5種類をラインアップする。
スプロケットは、CFRPとアルミ合金を組み合わせたスパイダーや、チタン製コグ(ロー側5枚)などによって、優れた軽量性を実現。歯数構成は11-25T、12-25T、11-28T、12-28T、新登場の11-30Tという5種類がラインアップされる。
ペダルも各部の設計を見直し、クリート固定ボルトを肉抜きするなど細部にわたる努力の結果、前作より20gの軽量化を実現。また、クリートとの接触面積も増加しており、更なるスタビリティの向上を果たしている。
クランクセット FC-R9100
アーム長 | 165~180mm |
歯数 | 50-34T、52-36T、53-39T、54-42T、55-42T |
税抜価格(歯数) | 55,980円(50-34T、52-36T、53-39T) 58,239円(54-42T、55-42T) |
カセットスプロケット CS-R9100
歯数/税抜価格 | 11-25T | 24,056円 |
11-28T | 25,242円 | |
11-30T | 26,089円 | |
12-25T | 24,056円 | |
12-28T | 25,242円 |
ペダル PD-R9100
軸長 | ノーマル、+4mm |
税抜価格 | 23,322円(ノーマル)、23,560円(+4mm) |
着実な進化を遂げたキャリパーブレーキ
油圧ディスクにとかく注目が集まりがちな新型DURA-ACEだが、まだまだ主流であるキャリパーブレーキも最新のテクノロジーを駆使し、より強力なストッピングパワーを手に入れている。
新たに左右のピボットを接続するブースタープレートが内蔵され、アームのたわみ量を最大43%低減することに成功。ケーブルに高い張力が加わった状態でも、かっちりとしたフィーリングをキープしてくれるという。また、従来モデルに対してアーム間の距離は縮まっているものの、28Cタイヤが装着可能なクリアランスが確保されている。
リムブレーキ用キャリパー BR-R9100
BR-R9100(沈頭ナット取付タイプ、前後セット) | 35,883円(税抜) |
BR-R9110-F(ダイレクトマウント、フロント) | 18,816円(税抜) |
BR-R9110-R(ダイレクトマウント/BB下取付、リア) | 18,365円(税抜) |
BR-R9110-RS(ダイレクトマウント/シートステー取付、リア) | 18,816円(税抜) |
ブリヂストンアンカー中山メカニックが見た新型DURA-ACE
今回、R9100系DURA-ACEコンポ一式を実際に用意し、ブリヂストンアンカーの中山直紀メカニックにイチからフレームに組み付ける作業を行ってもらった。そしてその行程のなかで気づいた点を、レースという実戦の場で使用されるコンポという視点で語ってもらった。
中山メカはまず「現代のコンポはまずマニュアル通りに組み付けることでその性能を発揮してくれます。しかしマニュアル通りといっても非常に繊細な作業になるため、一般ユーザーがご自分で組むのは避け、組付けはプロショップのメカニックに任せてください」と断ってから、レースという実戦の場で使用されるコンポーネントという視点でそのディテールを語ってくれた。
最も大きな変化が見られるのは、コンポーネントのコアバリューとなる変速周りだ。「特にディレイラーに関しては根本となる設計思想から大幅な変更が加えられています」と中山メカは切り出した。
見た目にも大きな変化を果たしたのはフロントディレイラーだ。スイングアームを延長し、テコ比を大きくすることでより軽い力での変速を実現した前モデルに対し、複雑なリンク構造を駆使し、非常にコンパクトにまとめられている。
FD-R9100について、まず「以前のモデルよりずっとコンパクトになっても、軽い引きを実現しているのは凄いですね。」と中山メカ。「見た目ももちろんなのですが、組み付けに関しても従来のセッティング方法とは異なる手順が求められます。これまでは、まずロー側の位置調整、続いてトップ側を調整し、最後にワイヤーのテンションを調整していました。しかし、R9100は完全に逆の順序で組み付けるようになっているんです。つまり、最初にワイヤーテンションを設定し、それからトップ側、ロー側の位置を決めるという順序でセッティングするようになっているんです。」
そして、フロントディレイラーの組み付けで重要となるのがワイヤーテンションだ。従来のフロントディレイラーでは、ケーブルの途中にアジャスターを設けることでテンションの微調整を可能としてきたが、R9100ではディレイラーにアジャスターを内蔵することで、より容易に適切なワイヤーテンションを得ることが出来るようになった。
「視覚的にワイヤーのテンションが調整できるようになっているので、セッティングの出しやすさは格段に向上していると感じます。まず、ワイヤーをディレイラーに留め、アウターから一段階トリムしたポジションへ入れます。この状態で、ワイヤーテンションアジャストボルトを調整します。ディレイラーの側面に刻印されたインジケーターラインが一直線になるまでボルトを回せば、ワイヤーの調整は完了です。」
また、ディレイラーの位置調整も従来とは異なる基準となるようだ。これまではアウター✕トップを基準とし、チェーンクリアランスを調整していたが、R9100ではアウター✕ローの状態で内側の羽にチェーンが当たらないように調整するという。
「チェーン落ちのリスクが一番高いのがアウターローですが、今回のDURA-ACEでは、チェーン落ちを軽減すべく、こういったセッティング方法になっているようですね。これもMTBからのフィードバックが活かされていると感じます。」そして、インナーロー状態で位置を調整し、最後にインナーワイヤーを通したキャップをすれば完了だ。
対となるリアディレイラーも、シマノのロード用コンポーネントとしては初めてとなるシングルテンション構造を採用。変速機としての根本的な設計思想が転換されているため、組み付けについても新たな注意点が必要となるようだ。
「リアディレイラーも、今までのものとは動きが全く違います。ダイレクトマウントに対応するため、Bテンションアジャストボルトの位置がこれまでのシマノロードコンポーネントとは異なります。取り付ける際にはリアエンドにディレイラー取り付け部のツメをしっかりと当てて、位置を決める事が重要です。」
加えて、シングルテンション化したことにより、アウター受けの位置が固定されることとなった。従来のディレイラーではロー側に入れた時を想定し、余裕を持ったアウターワイヤーの長さを設定する必要があったが、R9100ではその必要は無いという。
また、最近の電動と機械式両対応のフレームでは、ワイヤーの出口がリアエンド付近に来るものが多く、どうしてもワイヤーのアールが小さくなってしまう場合がある。そのために、柔軟性に優れた専用のアウターが用意される。鋼線が平行に並んでいたこれまでのシフトアウターとは異なり、コイル状に巻かれることで、よりしなやかになっている。このアウターの扱いにも注意が必要だと、中山メカニックは語る。
「柔軟性を出すために、この専用アウターではライナーが溶着されていません。差し込み式となっているため、ワイヤーをカットするときには注意が必要です。具体的にはSHIMANOロゴが書かれていない側をカットしてください。そうしないとインナーストローが抜けてしまうので、この点は非常に大切です。」と新たな注意点を教えてくれた。
大胆な変化を遂げたディレイラー周りに比べて、STIレバーやクランクなどに大きな設計変更は行われず。「実際に組み付けてみても、従来通りの手順で全く問題ありません。」と中山メカニック。「より軽く、形状が薄くなった印象のチェーンホイールは、選手たちに踏んでもらって印象を聞きたいと思います。メカニックが語れる前モデルとの違いはありません。」
ブーストプレートが組み込まれ、剛性向上を果たしたブレーキキャリパーについても、基本的な構造は9000系から受け継いでいる。
ブレーキキャリパーについて一点注意したいのが、ブレーキ開放レバーだ。「これまで、開放レバーで引き代を調整する方もいらっしゃいましたが、R9100では完全にNGです。本来の目的であるホイール脱着のためのものとなっているので、引き代を調整するときにはワイヤーアジャスターを用いるようにしてください。」とのことなので、これまでレバーをアジャスター代わりにしていた方は注意して欲しい。
多様化するロードバイクの楽しみ方をカバーする新型DURA-ACE
さて、前後ディレイラーを中心に大きな変化を遂げた新型DURA-ACEだが、その狙いはどこにあるのだろうか? 中山メカニックは、分かりやすい要因としてエアロダイナミクスの追求を挙げる。
「空気抵抗を削減することが一つの目標になっているのかな、という印象をまず受けました。前後ディレイラー共に前方投影面積が少なくなっているので、これまでのデュラエースの中でも、優れたエアロダイナミクスを発揮してくれるでしょう。ワイヤーも飛び出しが少なくなっているのも、空気抵抗を意識しているのだと感じました。同時にワイヤー末端もバイクの内側や後方へ向いており、外側への突起が少なく、トラブルの減少にもつながるはずです。シャドータイプのRDもそのひとつ、落車でバイクが地面に接しても、今までのRDより破損する確率は減るでしょう。」
また中山メカは、昨今のロードバイクを取り巻く環境の多様化によって、独自の設計を持つフレームが増加してきたことに対するシマノからの回答がこのR9100シリーズであるとも言う。
「例えば前モデルのフロントディレイラーは、フレームによってケーブルを留める金具の位置を変更することでフレーム毎の寸法差を吸収してきました。R9100ではそういった手間は省かれています。また、最先端のエアロフレームではケーブル類を完全内装するモデルも出てきました。アジャスターを内蔵することで、そういったフレームでもしっかりとセッティングが出せるようなったことも大きいですね。
以前であれば、リアディレイラー用アウター受けの基本的な位置はどのフレームも一緒でしたが、最近はフレーム毎にバラバラです。R9100のリアディレイラーはアウターワイヤーの長さの影響を排除した設計になっており、どんなフレームでも100%の性能を発揮できるようになっています。
シングルテンション化によって、チェーン暴れも減っています。ロードレースでもパヴェ(石畳)が登場することが多くなりましたし、グラベルロードやシクロクロスバイクへも対応する必要もあります。こういった環境の変化もあり、ロードバイクコンポーネントでもチェーンのバタつきを抑えることがより重要なファクターとしてクローズアップされています。そういった、多様化するライドシチュエーションやフレームに対応するべく開発されたのがこのR9100シリーズなのでしょう。」
これまでのDURA-ACEの設計を根本から見直し、多様なフレーム、そしてライディングスタイルへ対応する、全く新たなコンポーネントとして誕生したR9100シリーズ。次回は、チームブリヂストンアンカーの井上和郎と鈴木龍の2選手によるライディングインプレッションをお届けしよう。
提供:シマノ 制作:シクロワイアード編集部