「全日本選手権」。競技に本気で取り組んでいる者であれば、誰もが目指し、打ちのめされ、だからこそ勝者には賞賛と名誉が与えられる最高の舞台だ。今年、この舞台で那須ブラーゼンの佐野淳哉は雄叫びを上げて勝利し、表彰台で涙した。

「雄叫び」と「涙」に込められたのは「歓喜」と「苦労」。その感情が、勝利の陰に秘められていたストーリーが今、ここに語られる。

決意 「自分で、自分を変えるしかない」

2014年6月29日。私は全日本選手権ロードレースで優勝しました。しかし、今考えても「私が1番強かった」とは思えないでいます。

ただあの日、私は「ベストを尽くしたい」と思って走りました。自分のためにも、支えてくれる人達のためにも。その気持ちが結果に繋がったのではないかと思っています。

ナショナルチャンピオンジャージを着て走る佐野淳哉ナショナルチャンピオンジャージを着て走る佐野淳哉 photo:Satoru.KATO
今年初戦の宇都宮。それなりに走れても、かつての自分の走りとはかけ離れた走りに、心の中で「もう、かつてほどの力はないから、チームメイトと連携してうまく走ろう」ー そんなことを考えることが多くなりました。それで結果が出せれば、私も、チームも満足するのではないか、と。

ただ、その後のレースでは私に独りよがりの走りが多く、チームにも経験の少ない若い選手が多いため、連携するどころか、それぞれが自分の走りをすることが多くなってしまい、成績どころか「チームが連携して動く」ということさえ出来ていない状態が続きました。

今季、佐野はエースとして発足2年目の那須ブラーゼンに加入今季、佐野はエースとして発足2年目の那須ブラーゼンに加入 (c)Makoto.AYANO春先は思うような展開にならず、レース後にストレスを抱えてしまうことも春先は思うような展開にならず、レース後にストレスを抱えてしまうことも photo:Hideaki TAKAGI

レース後に思うことは、自分のエースとしての実力不足より、自分の思うような展開にならなかったことへの不満。それを監督に愚痴として言う、そんな事が何回かあり、お互いストレスを抱えてしまう様な状態でした。

しかし、群馬でのレースを自滅するような形でリタイアした私は、今の状況を変えるには「自分が変わるしかない、自分で切り拓いて行くしかない」と思うようになりました。

と言うのも、自滅リタイアしたことで、チームよりも何よりも、一番の問題は自分の実力不足だったことを痛感したからです。

チームメイトにアシストして欲しいのなら、まずは自分がそれだけ価値のある人間であることを、自分自身で示さなければならない。そのためには、自分で、自分を変えるしかない。

トレーニングの日々 今やれることは嫌でもやる

その後、私はコーチング会社 Bluewych(ブルーウィッチ:コーチングの専門会社)の協力を得て、再び自分の能力を引き出すべく、パワートレーニングに打ち込んで行くようになりました。

もちろん始めは思うように練習をこなすことが出来ず、以前の自分とのギャップに失望することもありました。心のどこかに「辞めたい」という気持ちがあった時もあります。それでも諦めずにやってこれたのは、いつも私の近くに協力者がいてくれたからです。一人では出来ない練習でも、同行して付いてくれたり、一緒に練習してくれる方々がいましたから。

身体というのは不思議なもので、嫌でも続けていると少しづつ感覚を取り戻し始め、レースを重ねる度に力が戻って来るようになりました。

6月に入り、栂池高原ヒルクライムで5位入賞6月に入り、栂池高原ヒルクライムで5位入賞 photo:Hideaki TAKAGI全日本選手権前週の西日本ロードクラシック広島大会でも先頭集団で最終周回まで展開。調子を取り戻しているところを見せた全日本選手権前週の西日本ロードクラシック広島大会でも先頭集団で最終周回まで展開。調子を取り戻しているところを見せた photo:Hideaki TAKAGI

そこで、シーズン前半の最も大きなレース、全日本選手権を目標と定めることになりました。その目標達成のためには、全日本選手権までにいかに自分を良い状態に作りあげられるかが最大の課題。そのために今やれることは嫌でもやりました。

非常につらい日もありましたが、協力者の方々の支えもあって今やれることはすべてこなすことができ、全日本の会場である岩手県八幡平に入りました。後はレースに向けて落ち着くだけ、どれだけ集中できるかが問題でした。

一年前、そして

TTの前日、練習を終えて休んでいると、一年前の事を思い出しました。
昨年、この大会でパレードスタートさえ走れなくてリタイアした事を。

あの後の私は「もうレースなんかしたくない」と思い、一度は自転車競技を引退しようと考え、恐らくはこのチームから誘いが来なかったら本当に辞めていたと思います。そんな私が、今は全日本で戦おうとしている…何とも不思議な気持ちになりました。

ロードレース前日のタイムトライアルで2位。ギャラリーにも仕上がりの良さを感じさせる走りを見せたロードレース前日のタイムトライアルで2位。ギャラリーにも仕上がりの良さを感じさせる走りを見せた (c)Makoto.AYANO
そして、先に土曜に行われた個人タイムトライアル。比較的得意な種目ではありましたが、コースレイアウトも私に向いており、集中も出来ていたため、優勝には届きませんでしたが、2位という成績を収めることが出来ました。個人的にはこれだけでも満足でしたが、レースはもう一つあります。日曜のロードレースです。

距離も長く、個人TTとは違い、レース展開にも大きく影響されるため、自信はありませんでしたが、とにかく今までの努力を無駄にしたくないし、自分のベストを尽くしたい。勝てなくても、家族のもとに帰った時に「頑張った」と言えるように走ろう、そんな気持ちで臨みました。

レース展開についてはここで書きませんが、結果は最高の形で走りきることが出来ました。

全日本選手権ロード、最終局面で3人に絞られた先頭集団から佐野がアタックを仕掛ける全日本選手権ロード、最終局面で3人に絞られた先頭集団から佐野がアタックを仕掛ける (c)Makoto.AYANO最後は独走でライバルを突き放し、優勝を決めた最後は独走でライバルを突き放し、優勝を決めた (c)Makoto.AYANO

歓喜の雄叫びを上げてゴールに飛び込む佐野歓喜の雄叫びを上げてゴールに飛び込む佐野 (c)Makoto.AYANO

栄誉よりも大切なものとは

表彰も終え、帰宅途上の電車の中。
「このレースで、この結果をもたらしてくれたのは、あの一緒に逃げた10人の選手のお陰だな。それがなければ逃げ切る事は非常に困難だったな」なんてことを考えたりしていると、今ここに自分がいることさえも、自分ひとりでできた話ではまったくないと改めて感じました。

一人ひとりに思いを書くことは出来ませんが、昨年の状態の僕を拾ってくれたこのチーム、所属する選手。さらには、このチームを立ち上げてくれた那須の方々、スポンサー、ファンの方々。そして、私を信じてトレーニングを指示して下さり、付き合ってくれた方々、もっと身近で考えれば常に傍にいてくれる家族。普段忘れがちな大切な存在に気づかされました。

チームに誘ってくれた清水良行監督に大きな初勝利をプレゼントした佐野チームに誘ってくれた清水良行監督に大きな初勝利をプレゼントした佐野 (c)Makoto.AYANO表彰台では思わず涙を流した表彰台では思わず涙を流した (c)Makoto.AYANO

10数年来応援し続けたファンとともに10数年来応援し続けたファンとともに (c)Yuichiro Hosoda那須ブラーゼンのファンと喜びを分かち合う那須ブラーゼンのファンと喜びを分かち合う (c)Yuichiro Hosoda

確かにレースを走ったのは私ですし、レースに向けて努力してきたのも私かも知れません。そこには自信を持ちたいと思います。しかし、そのために支えてくれたのは先述した皆さんですし、これをご覧頂いている皆さんだと思います。そうでなければ今の私はないと思います。

私が今回のレースで得た一番大きなもの。それは、優勝という栄誉よりも、その存在に気付くことができたことかも知れません。

歳月を重ねるにつれて今の気持ちを忘れがちにはなりますが、これだけは心のどこかに常に持ち続けたい。いつか自分も、そのような支えの一つになれるように生きていきたいと思います。

プロフィール
佐野 淳哉 さの じゅんや
1982年1月9日生(32歳)
オーケストラ部から大学3年生の時に本格的な自転車競技の道へ。その後プロチームを渡る度に海外経験を積み重ね、13年にはイタリアのプロコンチネンタルチーム「ヴィーニファンティーニ」に所属。14年からは心機一転「那須ブラーゼン」の一員となりエースを託され、全日本選手権ロードレースを制覇。チームに発足以来初の勝利をもたらした。


2010年
ツール・ド・熊野(UCI 2.2) 第2ステージ優勝 個人総合10位
ブエルタ・シクレスタ・ア・レオン(UCI 2.2) 個人総合3位
ツール・ド・北海道(UCI 2.2) 個人総合2位
ツール・ド・おきなわ(UCI 2.2) 個人総合3位

2011年
ツール・ド・台湾(UCI 2.2) 個人総合3位
全日本選手権個人タイムトライアル 2位
ジャパンカップ(UCI 1.HC) 3位
2012年
全日本選手権個人タイムトライアル 2位
ツアー・オブ・ジャパン(UCI 2.2) 個人総合9位
ツール・ド・熊野(UCI 2.2) 個人総合7位

2014年
全日本選手権個人タイムトライアル 2位
全日本選手権ロードレース 優勝

Panaracer「RACE L EVO2 700×25C」 新製品!

パナレーサー RACE L EVO2 25Cパナレーサー RACE L EVO2 25C (c)パナレーサー
グリップ力と耐パンク性能の高さで人気のパナレーサー「RACE EVO2」シリーズ。軽量タイプである「RACE L(Light) EVO2」は、トレッド下部に“PTベルト” を配することで、耐貫通パンクにも配慮されており、ヒルクライム以外でも安心して使える軽量タイヤ。

この「RACE L EVO2」のサイズバリエーションに25Cが追加。25Cでありながら200g(ave)の軽さを実現しており、ヒルクライムやタイムトライアルのみならず“太いタイヤで軽く走りたい”とお考えの方にもオススメの一品。

以前よりモニターテストを行ってくれていた佐野淳哉選手からのコメント

「走りの軽さを持ちながら、25C効果で安定感も良く、コーナーでもしっかりと路面を捉えてくれる。空気圧を無理やり上げなくても軽さを感じることができ、レースでも練習でも安心して使えるタイヤですね。よほど危ない道でない限り、私ならレースでもこれを使いたいと強く思います。」

トレッドパターンは溝なしのスリックタイプトレッドパターンは溝なしのスリックタイプ (c)パナレーサー

■ RACE L EVO2 スペック

平均重量700×25C 200g [NEW!]
700×23C 180g
700×20C 175g
※アラミドビード仕様
カラーブラック
価格4,858円(税抜)

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Panaracer 2014年度サポートチーム&選手情報
Jプロツアー第10戦 東日本ロードクラシック大会2014
優勝鈴木譲選手(宇都宮ブリッツェン)
5位増田成幸選手(宇都宮ブリッツェン)
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全日本MTB選手権 XCO 2014 女子エリート
2位中込由香里選手(team SY-Nak)
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Jプロツアー第11戦 石川サイクルロードレース2014
 3位増田成幸選手(宇都宮ブリッツェン)
 5位佐野淳哉選手(那須ブラーゼン)
Fクラスタ2位針谷千紗子選手(Live GARDEN BICI STELLE)
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Jプロツアー第12戦 JBCF湾岸クリテリウム2014
 優勝阿部嵩之選手(宇都宮ブリッツェン)
 4位雨澤毅明選手(那須ブラーゼン)
Fクラスタ優勝上野みなみ選手(鹿屋体育大院)
Fクラスタ2位塚越さくら選手(鹿屋体育大院)
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提供:パナソニック ポリテクノロジー株式会社