言わずと知れたピナレロのフラッグシップレーサー、DOGMA(ドグマ)。その最新モデル「F8」がデビューを果たした。ここ数年細かな仕様変更が続けられてきた同モデルだが、今回は完全なるフルモデルチェンジを成し遂げた。北イタリア、トレヴィーゾで開催されたプレスローンチの模様を通し、DOGMA F8の詳細に迫っていく。

「New best bike of the world.Again」DOGMA F8のデビュー

北イタリア、ヴェネツィア・マルコポーロ空港から車で内陸に約1時間ほど。幾つかの街を抜け、ヴェネト平野を過ぎて標高を増すと、レンガ造りの古い街並みが見えてくる。「ヴェネツィアの奥座敷」とも呼ばれるアーゾロの小さな街は、小高い丘の頂上にあった。

エアロを纏いフルモデルチェンジを果たした「DOGMA F8」エアロを纏いフルモデルチェンジを果たした「DOGMA F8」 photo:So.Isobe
ピナレロのプレスローンチが行われたのは、アーゾロの中心部分に建つ五つ星ホテル「アルベルゴ・アル・ソーレ」。周囲を山々が囲むこの場所に、ヨーロッパやアメリカを中心とした各国のサイクルジャーナリストが集ってくる。ホテルの一室に通されると、そこには完全なる変貌を遂げたバイクが我々の到着を待っていた。

ピナレロのフラッグシップ(=最高級)モデル、DOGMAが初めて世にデビューしたのは2002年のこと。世界初のマグネシウム合金製フレームとして独特な形状を持つONDAシステムを掲げデビューし、大口径BBシステムの採用や軽量化などの進化を経て、2009年にはフルカーボンフレームへと素材を変更、世界初の左右非対称ロードバイクである「DOGMA 60.1」が登場した。そして2011年には 「DOGMA 2」、2012年には現行モデルである「DOGMA 65.1 Think 2」がデビューするなど、年を重ねるごとにアップグレード。

その中でクリス・フルームとブラドレー・ウィギンズによるツール・ド・フランス制覇やルイ・コスタによる世界選手権優勝など、グランツールからスプリント、クラシックレースまで、持ち前のオールラウンドな性能で幾多の勝利をサポートしてきた。まさに、名実ともに世界最高のピュアレーシングバイクである。

DOGMAを駆りツール・ド・フランスを制したクリス・フルームDOGMAを駆りツール・ド・フランスを制したクリス・フルーム (c)Makoto.AYANO現世界王者、ルイ・コスタもDOGMAで栄冠を手にした現世界王者、ルイ・コスタもDOGMAで栄冠を手にした photo:TDWsport/Kei Tsuji

ピナレロと言ってすぐに思い浮かぶのは、ONDAシステム(湾曲したフロントフォークとシートステー)ではなかろうか。2014年モデルまで続いたピナレロフラッグシップモデルの基本形は、2007年にデビューした「プリンスカーボン」によって形作られ、以来歴代トップモデルは改良を加えつつもそのフォルムを固持してきた。

しかし、今回のプレスローンチで姿を現したのは「ピナレロの定型」とは全く異なるDOGMA F8の姿。イギリスの名門高級自動車ブランド、ジャガーとコラボレーションしたアグレッシブなエアロデザインが最大のトピックスだ。



ジャガーとのコラボレーションで生まれたエアロフォルム

翼断面の後端を切り落としたかのようなFlatBack形状を纏う各チューブとフロントフォーク、グッと落ち着いたF8 ONDAシステムなど、大いなる変貌を遂げた新型DOGMA。リアブレーキの空気抵抗を削減するようデザインされたシートステー、ボトルの空気抵抗を減少させるダウンチューブのデザインや、3つボルト式のボトルケージ台座など徹底的な空力対策を行ってきた。

ただしDOGMA F8はエアロに重点を置きつつも、それに特化したエアロロードではない。純粋なオールラウンドモデルとして軽量化と剛性強化を押し進め、更にDOGMA 65.1 Think 2と同じジオメトリー、ハンドリング性能を身につけるべく開発は進められたという。

ジャガーとの共同開発によって生まれたエアロフォルムを纏うDOGMA F8ジャガーとの共同開発によって生まれたエアロフォルムを纏うDOGMA F8 リアバックの形状も大きく変わった。シートチューブとの取り付け位置が下げられているリアバックの形状も大きく変わった。シートチューブとの取り付け位置が下げられている

コンパクトなリア三角は最近のトレンドに乗ったものであり、ピナレロのお家芸であるアシンメトリカル(左右非対称)デザインは16%増と、一見して分かるほど顕著なものになった。こうした形状変更に加え、素材に東レの最新カーボンファイバー「T1100」を採用したことも大きな話題だ。

DOGMA F8の開発にあたってはCFD解析と風洞実験を繰り返し、風洞ではより現実世界に近い状態を再現するべくマネキンを乗車させてテスト。その結果DOGMA 65.1 Think 2と比較して重量を9.1%、ねじれを28.1%削減(53サイズでのテスト)。また横風に対する風洞実験においては平均で26.1%減と言う実験結果を叩き出している。

緩やかに湾曲したトップチューブに先代の面影を残すが、チューブの断面形状は全く異なっている緩やかに湾曲したトップチューブに先代の面影を残すが、チューブの断面形状は全く異なっている
非常にがっしりとした造りのヘッド周り。ベアリング径は従来と同じ1-1/8と1-1/2で、同様のハンドリング性能を目指している非常にがっしりとした造りのヘッド周り。ベアリング径は従来と同じ1-1/8と1-1/2で、同様のハンドリング性能を目指している
BOLIDEにならい緩やかなシェイプに生まれ変わったONDA F8 フォークBOLIDEにならい緩やかなシェイプに生まれ変わったONDA F8 フォーク

BBはピナレロのトップモデルが頑に守ってきたイタリアン式だ。2014モデルではピナレロのバイクラインナップ中、DOGMA 65.1 Think 2のみがイタリアンだったが、整備性や信頼性、剛性を考慮した結果、2015年ではほぼ全てのモデルがプレスフィットからイタリアンへと変更されるという。

機械式/電動コンポーネントに両対応する「Think 2」システムはDOGMA F8にも引き継がれており、エアロシェイプの「Air8」シートポストはシマノの内蔵式バッテリー用にデザインされたもの。フロント変速が必要無い場合のタイムトライアル使用を考慮し、フロントディレイラー台座を取り外し可能としている点もユニークだ。実際にDOGMA F8を目の当たりにすると、隅々まで妥協無く緻密な設計が行われていることに驚かされる。

ピナレロ DOGMA F8ピナレロ DOGMA F8 Cicli Pinarello SpA
ちなみに車名として与えられた「F8」とは、現社長であるファウスト・ピナレロ氏のイニシャル「F」と、彼のラッキーナンバーである「8」、DOGMA 8代目の意味を組み合わせたもの。「つまりDOGMA F8は、ピナレロの威信を背負い誕生したフラッグシップロードなんだ。」とプレゼンターの一人は加えた。

次ページでは、DOGMA F8に投入されたテクノロジーの詳細を紹介していく。

提供:ピナレロ・ジャパン text:シクロワイアード編集部