大里屋本店の四里餅でしっかりと糖分補給を終え、心身ともに回復を果たした私たちは、いよいよ帰路に向かうこととなった。編集長がチョイスした帰路ルートは小さな峠越えが1つだけの初心者向けの楽チンコースだ。このルート選択が同行する私たちには残念でならない。

皆さんもスピードの出し過ぎには注意してくださいね。皆さんもスピードの出し過ぎには注意してくださいね。 私たちにとって残念なこの楽チンルートは、往路で最後に通った小さな峠越えが1つだけで、残りは全て5%未満の勾配しかないクールダウン用のコースで、中級以上のサイクリストにとってはかなり物足りないコースだ。

先ほどの休憩中に「やっぱ、膝がちょっぴり痛くなってきた。」と訴えかけるメタボ会長を気遣った編集長のチョイスなのだが、このあたりに悪い意味での編集長らしい人の良さが露呈している。

往路をそのまま引き返すコースを選択すれば、膝の痛みを訴え始めているメタボ会長には、かなりのダメージを与えられるはずである。私たちからしてみれば、ワガママ放題のメタボ会長を完膚無きまでに叩き潰す絶好のチャンスにしか見えないのに、いつもウチの編集長は最後の詰めが甘い。

帰路唯一の丘越えに差し掛かったところで、編集長から声が掛かる。「帰り道で登りはここだけですから、ケイデンスを維持しながら登る練習をしてみましょうか?まずはギアをインナーローに落としてください。」やっとお待ちかねの仕返しが始まりそうだ。

めったに使わないインナーローを廻す。案外楽しそう?めったに使わないインナーローを廻す。案外楽しそう? そんな言葉にただちに反応したメタボ会長が、インナーローをクルクルと回し始める。先ほどの糖分補給のおかげで、いまの彼は元気満タンだ。

「おいおい、言われた通りに75回転/分を維持してっけど、たった15km/hしか出ないぞ?」
相も変わらず文句を垂れる事だけは決して忘れない会長に対して、編集長もサラリと答える。彼もまた追撃の手を緩める気は無さそうだ。

「回転をもう少しだけ上げられませんか?できれば90回転/分あたりが理想的なんですけど。」

メタボ会長に、その言葉に素直に従おうとする姿勢は見て取れるのだが、脚の動きにスムーズさは一切なく、ギクシャクしたペダリングが続く。チェーンに掛かるテンションが一定に保てない為、チェーンが張りと緩みを繰り返しながら、初心者にありがちなカンカンという音を立て続けるありさまだ。

回すというよりは、明らかにペダルを踏みつけている状態だ。どうやら、脚に力を掛けずに、ただ廻すだけという動作の意図が上手く把握できない様子だ。そんなド素人丸出しのオヤジから、すぐに泣きが入った。

「うお~!脚が乳酸でパンパンだ。みんな本当に90回転とかで登ってんのか?俺には信じられないよ。せめて60回転/分くらいまで落としちゃダメなものなのかい?」こんな調子では、廻しながら登れるようになるまでにどれだけの歳月を要するのか見当もつかない。ここで編集長が信じがたい言葉を発する。

これがお得意の変な立ちコギ。ケイデンスは40回転/分あたりだ。これがお得意の変な立ちコギ。ケイデンスは40回転/分あたりだ。 ずっとこんな調子だが、本人は何故か楽しそうだ。ずっとこんな調子だが、本人は何故か楽しそうだ。


「今日は此処までにしましょう!あとは自分で一番ラクな方法で登ってください。」
え~??せっかく苦しみ始めたメタボ会長を、わずか1kmで解放してしまうとは、私たちには到底納得がいかない。ウチの編集長は全く詰めの甘いダメな人である。

一方、編集長から出された助け船にワガモノ顔で乗り込んだオヤジは、満面の笑みを浮かべながら言い放つ。
「オッケー!助かったぜ!!」 そう言うや否や、たちまちギアをアウターに掛け直し、お得意の変な立ち漕ぎで、BB周りからギシギシと嫌な音を立てながら登り始める。残り1kmの坂道をあっさりと登りきったメタボ会長が、笑顔で私に話しかけてくる。

「平地なら、たとえ先頭になっても、いくらでも回せるんだけど、登りになるととたんにキツイな。」
本人はいくらでも回せると豪語してはいるが、追走する私が計測した限りではオヤジの上限は90回転/分だった事を報告しておこう。

会社を出発してから、およそ2時間。ようやく埼玉県を脱出し、再び東京都に戻ってきた。会社を出発してから、およそ2時間。ようやく埼玉県を脱出し、再び東京都に戻ってきた。

帰路唯一の峠越えを終えた私たち一行は、再び、往路で休憩に立ち寄った岩蔵温泉郷に差し掛かる。
「俺の左ヒザがブッ壊れそうだから休憩していこうぜ!」
そう叫ぶなり、自販機に駆け寄り、ホット缶コーヒーを幸せそうに流し込む。これは明らかに糖分の過補給だ。

岩蔵温泉郷にある老舗旅館のままだや。創業は明治16年だそうだ。岩蔵温泉郷にある老舗旅館のままだや。創業は明治16年だそうだ。 この岩蔵温泉(いわくらおんせん)は、東京都青梅市(旧国武蔵国)にある温泉で、公式サイトでは都内にある唯一の温泉郷と記されている。

開湯伝説では、ヤマトタケル(日本武尊)が入湯したとされ、その際に岩でできた蔵に鎧を収めたことが"岩蔵"の名前の由来であるという。

一般には1200年前の開湯とされる。源泉は青梅市の史跡に指定されており、江戸時代の"新編 武蔵風土記稿"にも、この温泉の効能についての記載があるほど由緒正しい温泉郷のようだ。

こうして、今日1日だけでは決して消費しきれない糖分補給を済ませたメタボ会長とともに再び走り始める。ただ残念ながらこの先には平坦路しかない。

恐れ知らずのバカ者が事件をおこした瞬間がコレだ!恐れ知らずのバカ者が事件をおこした瞬間がコレだ! 再び"インナー縛り"の令を受けたメタボ会長を先頭に、淡々と続く無難なサイクリング。ここで恐れ知らずの新人磯部が驚きの行動にでる。調子に乗って会長のギアをチェックしていた彼が、あろうことか編集長に大声で告げ口をする。

「編集長!会長がまたズルしてますよ!」

これには私もビックリである。社内の上下関係を考えると、彼の言動は懲戒解雇に値してもおかしくない振る舞いである。たちまち現場にはピーンと緊張の糸が張り詰める。

許される事なら私だけでもルートを離脱して、一刻も早くこの恐ろしい現場から逃げ出したい衝動に駆られるほどの状況だ。全くイマドキの若者は何を考えているのか見当もつかない。これでは若者ならぬただのバカ者である。どうやら彼は会長の事を友達かなにかと誤解しているらしい。

「もうダメだぁ!いますぐタクシー呼んでくれ!」「もうダメだぁ!いますぐタクシー呼んでくれ!」 そんな張り詰めた空気の中で、閻魔様の顔色を覗いながらのサイクリングが淡々と続く・・・はずだったのだが。
ものの15分も経たないうちに、先頭を走っていたメタボ会長が急にストップ。愛車を路肩に投げ出しその場に座り込む。

「ダメだぁ!左ヒザが痛くて堪らん!君たちがこんな無茶な練習ばっかりさせるから俺の大切なヒザがぶっ壊れちゃったぞ!タクシー呼んでくれ!」

さっそく、お得意の泣き言を並べる始末だ。確かにヒザの具合が良くない様子ではあるが、本人が言うほど深刻な状況には見えない。

「う~ん、困りましたね。タクシーを呼ぼうにもココは駅前じゃありませんからね。アウターギアを使っても会社まで帰れそうにありませんか?」メタボ会長の悲痛な訴えに、困惑しながら編集長が問いかけると、

「おっ?インナー縛りさえ止めてくれれば全然平気だよ。とっとと帰ろ~ぜ!」
そう言うなり、愛車に跨り漕ぎ出してしまった。何なんだこのオヤジは!人にはやたら厳しいくせに自分を甘やかす事に関しては躊躇ない。全くもって大人げない男である。

専属の風除係を獲得したエンマ様と自業自得の若者。専属の風除係を獲得したエンマ様と自業自得の若者。 何事も無かったかのように走り出したオヤジに、さっきまでの苦痛に歪む表情は一切見受けられない。つい先程までの仕草は、明らかに小学生レベルの仮病に違いない。いや、小学生ですらもっとマシな仮病の使い方を知っているハズだ。

そんなメタボ会長のワガママは止まらない。
「俺はヒザが痛いんだから、君たちで前を牽いてくれよ。おい新人!君が一番若いんだから、先頭固定で牽きなさい!」
調子に乗り過ぎた新人磯部が、ついにその毒牙に掛かる。だから言わんこっちゃない。

相変わらず嫌な緊張感が漂よう中、エンマ様の顔色を覗いながらのサイクリングは続く。とはいえ専属の風よけ係を獲得したエンマ様のご機嫌は、かなり良さそうに見える。私たちにとっては気分良く走ってくれさえすれば、とばっちりを食うことも無さそうなのが唯一の救いといえる。

メタボ会長の変わり身の早さに呆れながらも、淡々と走ることに退屈になった編集長が声をかける。
「久し振りに会長の走りを見ましたけど、下ハンドルを持つ比率が相当増えてますよね。なんでそんなに下ハンドルが好きになっちゃったんですか?」

空気抵抗を避けるべく、できるだけ低い体勢をキープする。空気抵抗を避けるべく、できるだけ低い体勢をキープする。 さすが編集長!この険悪な空気の流れを変えるナイスな行動だ。そんな彼の術中にまんまと嵌った会長が、緊張感の欠片も感じさせずに答える。

「俺には空気抵抗こそが一番の敵なんだよ。いつも独りで走ってるから、空気の壁を避けるには下ハンドル持つのがかなり有効だぞ。ブラケット持ってる時と下ハンドル持ってる時だと確実にギア1枚変わってくる!」

確かにメタボ会長の前方投影面積はかなりデカいため、走行時の空気抵抗もかなりのものであろう。並走する私たちもこの言葉にだけは納得できる。先程までの嫌な緊張感が解ける糸口を見つけた編集長がたたみかける。

「空気抵抗を減らしたい会長が、なんでまたゴルフ用のジャンパーを着て走ってるんですか?後ろから見てるとジャンパーが風船みたいに膨らんでますから、かなりの空気抵抗になってると思いますよ。」

「だって寒いじゃないか!」
そう答える表情はいつもの陽気なメタボ会長のそれに戻っていた。これで一安心。どうやら私たちの緊急防御態勢も解除してよさそうである。

結局は風船のごとく膨らんだまま走る。ダメじゃね?結局は風船のごとく膨らんだまま走る。ダメじゃね? 最後は他力本願で進む。まったくダメな男である。最後は他力本願で進む。まったくダメな男である。


編集部で時々出かける登坂メインの練習も良いのだが、今日みたくのんびりサイクリングも案外悪くはない。多少の悪い緊張感こそあったものの、都会の喧騒を離れ自然を感じることの心地良さを改めて見直す一日になった気がする。大袈裟に言えば"簡単な命の洗濯"になった感すら覚えているほどだ。

決して走り応えがあったわけでもなく、絶景ポイントや絶品料理に触れたわけでもないのだが、終わってみると何故か充実感が高い。何故かは判らないが、メタボ会長と出掛けたサイクリングはいつも楽しいのだ。この不思議な充実感の正体に辿り着けた時に、私の人生観にも何かしらの変化が顕れるのかも知れない。

そんな事を考えながら、目前に迫った会社を目指しチンタラ走り続ける私であった。

今回の走行コース。のんびりサイクリングには持って来いの60kmだ。今回の走行コース。のんびりサイクリングには持って来いの60kmだ。 ルートラボより引用



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「ポイ捨てはダメだぞ!」「ポイ捨てはダメだぞ!」 メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 2年

当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。

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