津軽の奥座敷として知られる温泉地、大鰐町。世界遺産白神山地にもほど近く、青森ヒバと秋田スギの混合林が広がるエリアの歴史と文化、そして自然を体感するスノーバイクガイドツアーへ参加したレポートをお届け。



東北新幹線で新青森へ。普段であれば3時間台で東京と新青森を結ぶ東北新幹線で新青森へ。普段であれば3時間台で東京と新青森を結ぶ
東京から常盤グリーンの新幹線で新青森へ。普段であれば3時間台と驚くような速さのはやぶさだが、過日発生した地震の影響もあり4時間半ほど電車に揺られて到着。改札階には「ねぶた」が展示されており、早速青森に来たのだな、と実感できる。

駅から外に出ると、深々と雪が降り積もる一面の銀世界。今年は相当な大雪だったという報道は見ていたが、うずたかく積まれた道路脇の雪に認識を深くする。

実際に使用されたねぶたの一部が展示されている。青森に来たことを早速実感。実際に使用されたねぶたの一部が展示されている。青森に来たことを早速実感。
さて、今回の目的地である大鰐は、海に面した青森市から南へ東北自動車道で約40分、八甲田山と岩木山の間に広がる津軽平野の更に奥に位置する町。中心街に広がるのが、津軽藩の湯治場として親しまれ800年以上の歴史を誇る大鰐温泉郷。多くの温泉宿が立ち並び旧津軽藩の奥座敷として知られ、今に至るまで人気の温泉街だ。

青森市内からひと山越えて、津軽平野へ入ると雪の勢いもだいぶ弱まったよう。周囲を山に囲まれた盆地であるためか、このエリアは雪量はそこまで多くないのだとか。とはいえ銀世界であることには変わりなく、雪に覆われたリンゴ畑がどこまでも広がる景色は「津軽」らしい。

太宰が幼少期に訪れたという仙遊館太宰が幼少期に訪れたという仙遊館
当時の面影を今に残す客室当時の面影を今に残す客室 客室からは町を流れる川を望むことができる客室からは町を流れる川を望むことができる


大鰐へと到着するころには陽もだいぶ傾いており、まずはこの日の宿となる「ヤマニ仙遊館」へ。創業は明治5年と大鰐温泉のなかでも最も古い宿であり、太宰治も宿泊したという当時の建物を今に残す貴重な旅館だという。

夕餉となるのは豚しゃぶをメインとした御膳。なんと豚肉は地元産で、大鰐の元観光リンゴ園を利用して豚を放牧している「大鰐自然村」のものなのだという。食品ロスを減らすエコ・フィードと、のびのびとした自然で育てられた豚は、とても柔らかで甘い口当たり。

大鰐名物の温泉もやしがたっぷり入った豚しゃぶが夕食に供された大鰐名物の温泉もやしがたっぷり入った豚しゃぶが夕食に供された
そしてもう一つ、鍋の中でその存在を主張しているのが「もやし」だ。もやしといっても、普段私たちが良く食べているものよりもっと細軸で長いのが特徴の「大鰐もやし」は、なんと温泉水で育てられたもの。冬の間しか収穫できず、一方でその独特な食感で人気を博したことで需給が逼迫、県内ですら「幻のもやし」と呼ばれる貴重品。

なんて説明を受けつつも、もやしはもやしでしょ……などとひねくれた思いを抱えつつ頂いたところ、これがすごいシャキシャキ感。嵩増し用の具材とか、スーパー最安の野菜とか、もやしというものに対する固定観念はガラガラと崩壊。聞けば100g800円は下らないという高級食材ということで、更に衝撃を受けるのであった。

そんなもやし観を改めさせられる夕食後は、もちろん温泉で旅の疲れを癒す。硫酸泉の大鰐温泉で身も心も温まったら、いつの間にか夢の世界へ旅立っているのだった。



「大鰐の大日様」として知られる大円寺へ「大鰐の大日様」として知られる大円寺へ
大鰐の大日様を拝んでいくみなさん大鰐の大日様を拝んでいくみなさん 鐘撞きも体験できた鐘撞きも体験できた


鰐が描かれたご当地マンホール鰐が描かれたご当地マンホール
明くる朝、朝ごはんをいただいたのち、早速ファットバイクに乗りに行くのかと思いきや、その前に朝の大鰐温泉を巡る散歩ツアーへ。まずは宿にほど近い「大鰐の大日様」として知られる大円寺へ。

重要文化財に指定された本尊は、青森ヒバから作られた阿弥陀如来坐像。大日様と呼ばれているのに、なぜ阿弥陀如来なのか?という疑問は、未だに謎のままなのだとか。そんなちょっぴりディープな地元ガイドの解説を受けつつ町を歩いていく。その土地で紡がれてきた歴史の一端に触れられるのは旅の醍醐味でもある。

町中には多くの公衆浴場が点在している町中には多くの公衆浴場が点在している
目の病に効果があると伝えられる温泉だ目の病に効果があると伝えられる温泉だ 地熱を利用して熟成するマルシチ味噌醤油地熱を利用して熟成するマルシチ味噌醤油


温泉の由来や3つの源泉、大鰐もやしの作り方、温泉で熟成するマルシチ味噌醤油、黒蜜団子が地元サイクリストにも人気の八木橋菓子餅店など、歩いて行ける範囲だけでもいろんなスポットやエピソードが詰まっており、大鰐という街のポテンシャルにびっくり。

中心部を流れる平川には、この時期多くの渡り鳥がおり、時折編隊を組んだハクチョウたちが頭上を飛んでいく。迫力のある低空飛行に一同テンション上がりつつ、テクテク歩いていくと大鰐駅へと到着。

サイクリストにも人気があるというやぎはし餅菓子店サイクリストにも人気があるというやぎはし餅菓子店 黒蜜団子が地元サイクリストにも人気なのだとか黒蜜団子が地元サイクリストにも人気なのだとか 平川にはたくさんの渡り鳥が。町内には編隊を組んだ白鳥が飛び交っている平川にはたくさんの渡り鳥が。町内には編隊を組んだ白鳥が飛び交っている


駅前には「鰐COME」という地域交流センターがあり、ここでは大鰐もやしやマルシチ醤油など地域の特産品を使ったレストランや物産館、さらに日帰り温泉なども楽しめる。ちなみに大鰐もやしは入荷するとすぐに売り切れてしまうとのことで、ねらい目は朝一なのだとか。

大鰐の交流センター、鰐COME大鰐の交流センター、鰐COME
青森といえば、のリンゴ。ちなみにお隣の弘前が全国の6割を生産しているのだという。青森といえば、のリンゴ。ちなみにお隣の弘前が全国の6割を生産しているのだという。 駅前には大鰐町らしく、大きな鰐の像が(笑)駅前には大鰐町らしく、大きな鰐の像が(笑)




さて、大鰐駅から車で15分ほど山間の道を行くと、ファットバイクツアーのスタート地点であるひばのくに迎賓館に到着。ずらっと並べられたファットバイクをみて「タイヤふとい!」と、参加者のみなさんも盛り上がる(笑)

ひばのくに迎賓館へと到着ひばのくに迎賓館へと到着 過去に訪れた人々が机に彫り込んでいったようだ過去に訪れた人々が机に彫り込んでいったようだ


JCGAのガイド資格をもつ花田さんが出発前にしっかりレクチャーしてくれる。JCGAのガイド資格をもつ花田さんが出発前にしっかりレクチャーしてくれる。
今回のツアーガイドを務めてくれるのは、お隣の弘前市出身の花田カズオさん。JCGAの公認ガイドでもあり、他にも登山やスキーのガイド資格を有する青森のアウトドアアクティビティの達人だ。

ちょっとイカツメのヘアスタイルとは裏腹に、ガイドはとにかくフレンドリー。今回のツアーでは初心者の方も多かったけれど、ブレーキのかけ方や変速方法など基本的なところから懇切丁寧に説明してくれる。

さて、それでは出発です!さて、それでは出発です!
最初は早瀬野の集落を通り抜けていく最初は早瀬野の集落を通り抜けていく
コースとして用意されるのは、迎賓館から早瀬野ダムに至る公道。距離も往復で5~6km程度の平坦なコースで、初めてのファットバイク、スノーライドという方でも安心して楽しめる。

確り圧雪された雪道に昨夜降った新雪がうっすらと乗っており、ファットバイクには最高に走りやすいコンディション。ギュムギュムと雪を押しつぶす音をさせながらコースイン。集落の中の道を走っていくと、雪かきに精を出す地元の皆さんにご挨拶。なぜこんな時期に自転車で走っているのかと、ちょっと理解不能なものを見る雰囲気を感じつつも、頑張ってね!と暖かい声掛けをいただく。どちらかといえば雪かきのほうが大変そうではあるのだけれど(笑)

鮮やかな朱色の鳥居が雪景色に映えます鮮やかな朱色の鳥居が雪景色に映えます
雪をかぶっているのが大鰐の誇る混合林だろうか雪をかぶっているのが大鰐の誇る混合林だろうか 目的地である早瀬野ダムに到着!楽しい時間はあっという間だ目的地である早瀬野ダムに到着!楽しい時間はあっという間だ


雪解け水が流れはじめた川を渡っていく雪解け水が流れはじめた川を渡っていく
雪が降ったり止んだりと、気まぐれな北国の天気を楽しみつつしばらく漕いでいくとあっという間にダムへと到着。途中には青森のブランド鶏「シャモロック」を育てるシャモロックファームなんてのも登場。今回はいただく機会が無かったのだけれど、まだまだ色んな名物が大鰐にはあるようだ。

ここ数日で気温も上がってきており、ダムの斜面に積もった雪も緩み始めているとのことで、確かにところどころに黒い堤体が覗いている。陽も高くなってきたこともあり、折り返して戻っていくことに。

突然現れた未圧雪路に突入突然現れた未圧雪路に突入
除雪されていない道はもはや舗装路ではない、下がアスファルトでももはやトレイルのようなものだ除雪されていない道はもはや舗装路ではない、下がアスファルトでももはやトレイルのようなものだ
そのまま迎賓館に向かうのかと思いきや、すこし寄り道しましょう、ということでダムから流れる虹貝川沿いの道へと下っていくことに。本当に車通りも無い道のようで、一切除雪が入っていないフカフカ状態の道を下っていく。

下りは重力のおかげで進めるのだけど、平坦になるとスリップしてしまって全く進めない(笑)。なるほど、タイヤが太いからといって、どんな状況でも走れるのではないのだな、と皆さん納得された様子だ。川と里山の風景を満喫した後、下りで出来た轍を辿りコースへ復帰すれば迎賓館はもうすぐそこ。

雪に包まれた大鰐の里山風景を堪能雪に包まれた大鰐の里山風景を堪能
ファットバイクを返したら、もう一つのアクティビティである木工体験へ。日本三大美林のうち青森ヒバと秋田杉という2つが混在する混淆林が広がる大鰐は、その稀有な環境もあって木工も盛ん。

今回は、オーダー家具やテーブルウェアなどを手掛ける「わにもっこ」さんの指導の下、青森ヒバのスプーンを製作することに。ヒバには抗菌作用があるため、食器にはもってこいなのだとか。ちなみに、木工といっても、ノコギリや鑿などの刃物は扱わないのでご安心を。大まかな形に切り出されたスプーンの原型を、サンドペーパーでひたすら磨き上げていく。

木工体験ではヒバのスプーンを作成できる木工体験ではヒバのスプーンを作成できる 各自真剣な目でスプーンを磨いていく各自真剣な目でスプーンを磨いていく


それぞれの自信作とともにピース!それぞれの自信作とともにピース!
120番のペーパーで形を整えたら、番手を上げて表面を滑らかに仕上げていく。ワイワイと楽しんでいたファットバイクから一転、黙々とスプーンを磨いていく。削った粉まみれになることもいとわず、無心に磨いては形を確かめ、また磨いていく様子は既に皆さん職人のよう。30分ほど一心不乱に磨き続けた甲斐あって、皆さんピカピカのスプーンをゲットできたようだ。

しっかり遊んだ後は、もちろん再び温泉に浸かるもよし、大鰐もやしラーメンを食べに繰り出すもよし。歴史ある温泉、地場産づくしの食、そして豊かな自然を体験できるアクティビティ。小さい町ながらも、たくさんの魅力が詰まっているのが大鰐だ。

5月のウェルネスツアーには地元の伝統的な料理を味わえるお弁当が用意されるのだとか5月のウェルネスツアーには地元の伝統的な料理を味わえるお弁当が用意されるのだとか
また、今回は冬の顔を見ることが出来たけれども、四季折々で楽しめるとも。5月には混合林のトレイルを行くツアーも企画されている。(※ツアーの案内はこちら)雪に閉ざされていた森林がどういった表情を見せてくれるのか、大鰐の春が今から楽しみで仕方ない。

text&photo:Naoki.Yasuoka