北海道は道東オホーツク。豊かで雄大、そして時折厳しい顔を覗かせる自然が広がる冬のオホーツクを舞台に、この時期この地域だからこそ楽しめる自転車の魅力がある。迫る流氷や降り積もる雪上を体験したレポートをお届け。



冬のオホーツク海 流氷のおかげで静かな海面だ冬のオホーツク海 流氷のおかげで静かな海面だ
流氷が観測できる世界最南端の海域であるオホーツク海。2月には多くの流氷が接岸し、その珍しい光景を一目見ようと観光客が世界中からやってくる。ただ、感染症の流行もあり今年は「密」になりやすい行動は避けられている。例年であれば満員御礼の砕氷船も、出来れば遠慮したい、そう思っている方が多いのではないだろうか。

そんな中でも流氷を、そして冬のオホーツクを楽しむことはできないか。そこで脚光を浴びているのが「自転車」だ。厳寒期にはマイナス20℃にもなる真冬のオホーツクと自転車、よほどの酔狂な命知らずのためのエクストリームライドを想像してしまいそうになるけれど、実はもっと気軽に楽しめるアクティビティとして整備されつつあるのだ。

スノーシーズンのバイクアクティビティとして、ここ数年一気に広まり出しているのがファットバイクライド。スキー場の一部を走れるようにコースを整備したりと、日本各地で様々な取り組みが行われている。

そんな中で、オホーツクが打ち出すのが「流氷ライド」。日本でも2月のオホーツク沿岸にのみ現れる希少な気象現象を、自分の脚で楽しめるという唯一無二の体験として注目を集めるアクティビティだ。



再び厳寒の北見に降り立つも……

早朝の常呂川。川が凍るほどの寒さである。早朝の常呂川。川が凍るほどの寒さである。
常呂のバスターミナル しっかりした建物で冬場の休憩所としても便利常呂のバスターミナル しっかりした建物で冬場の休憩所としても便利 常呂の商店シャッターにはポップなアートが描かれている 朝散歩するのも面白い常呂の商店シャッターにはポップなアートが描かれている 朝散歩するのも面白い


さて、そんな熱い(気温は氷点下ですが)注目を集める流氷ライドへ参加すべく2月はじめの女満別空港へ。一面の銀世界が広がっているのを着陸前の機内から見届け、いざ機外へ。今年もめちゃくちゃ寒いんだろうなあ、と覚悟しつつ空港の外へと出ると、案外そうでもない。

もちろん、マイナス5℃くらいには冷えているのだけれど、マイナス20℃を覚悟してきた装備だとあたたかいと思ってしまうほどである。半分安心、半分残念、といったところであるが、過ごしやすいに越したことはない。早速、流氷迫る北見市の常呂へと向かうのであった。

1日目は流氷は遠い沖合に。うっすらと白い線が見えていた1日目は流氷は遠い沖合に。うっすらと白い線が見えていた
ソチ五輪でブレイクしたカーリングチーム「ロコ・ソラーレ」の本拠地でもある常呂は、北海道最大の湖であるサロマ湖の東側に位置するエリア。バスターミナルの裏手に広がる、「ところ常南ビーチ」はおそらく日本でも最も東にある海水浴場。1か月にも満たないオホーツクの夏には、多くの人が訪れるのだという人気スポットとのことだが、目の前に広がるのは一面真っ白な雪原だ。

初日となるこの日、残念ながら流氷は少し沖合に。一方、消波ブロックとの間には接岸時に取り残された流氷が残っている。岸に流氷、沖合に流氷、間に静かなオホーツク海。白と青のコントラストが何とも言えない景観を生み出している。

真っ白な雪原となった常南ビーチ コースをつけるために一足先に降りていくインストラクターの田中さん真っ白な雪原となった常南ビーチ コースをつけるために一足先に降りていくインストラクターの田中さん
そんな絶景に居ても立っても居られず、早速ファットバイクにまたがり出動!ちなみに「流氷ライド」と名付けられているものの、流石に海に浮かぶ流氷の上は危ないので岸を走るのがルール。なんとなれば、毎年流氷に乗り移った観光客がそのまま沖に流されてしまう、というのはこの季節に何度か流れるニュースなのだという。

そんなわけで、今回も流氷を良く知るガイドのもと、安全地帯を走っていく。そうすると「流氷ライド」というのは誇大広告なんじゃないか?「砂浜雪上ライド」では?という批判の声もあるかもしれない。だが、さにあらず。接岸した流氷が陸地に乗り上げて取り残されており、その上を走っていくのだ。なので、安全でありながら、正真正銘の流氷ライドでもある、という寸法だ。

真っ白な世界に思わず見入ってしまう真っ白な世界に思わず見入ってしまう
波打ち際を走っていく。この岩のようなもの、全部氷なんです波打ち際を走っていく。この岩のようなもの、全部氷なんです
ちなみに、この常南ビーチは決して圧雪された整地ではなく、降り積もったままの雪を楽しめるダイナミックなロケーション。ぽつぽつと残る観光客の踏み跡以外は完全に真っ白な絨毯のよう。ちなみに雪が深いところはいかなファットバイクとはいえ埋まってしまうので、雪が浅いところを狙って走る必要がある。調子よく走っていると、いきなりズボッと埋もれてしまう、なんてこともありなかなかスリリング。

手つかずの自然が残るワッカ原生花園へ

ワッカ原生花園の砂丘からダウンヒル!ワッカ原生花園の砂丘からダウンヒル! 雪が深いところはやっぱり難しい(笑)雪が深いところはやっぱり難しい(笑)


しかしそこから再挑戦、かっこよく下ってもらいましたしかしそこから再挑戦、かっこよく下ってもらいました
ひとしきり常南ビーチの流氷を堪能した私たちだが、なんと常呂にはここを越える大自然を感じられるスポットがあるのだという。それが、サロマ湖の東側に位置する「ワッカ原生花園」だ。夏にはハマナスなどオホーツクの海岸に自生する花々が咲くワッカ原生花園だが、流氷の時期にはよりダイナミックな警官が広がるのだという。

冬季は基本的に車両進入禁止なのだが、なんと今回のために特別に許可を得て自転車で中を走らせていただくことに。サロマ湖を左手に眺めながらしばらく走り、小高い丘を越えるとその先には、常南ビーチとはまた違った光景が広がっている。

波によって磨かれ、小さくなった流氷のカケラたち 丸く艶めいた姿が可愛らしい波によって磨かれ、小さくなった流氷のカケラたち 丸く艶めいた姿が可愛らしい
冬のワッカ原生花園 夏とは違った静謐な空気がまた心地いい冬のワッカ原生花園 夏とは違った静謐な空気がまた心地いい
人の手が入っていたビーチと比べると、完全に自然のままの姿を残すワッカ原生花園の海岸線は荒々しさすら感じるほど。吹き付ける風によって波のように形作られた砂丘に雪が降り積もり、まるで大きな雪の波のよう。

その雪波を駆け下りて、本来の波打ち際を走っていく。打ち上げられた流氷の間を掻き分け走っていく。波によって磨き上げられたのか、ところどころに透明な丸い氷が散在しており、まるで水晶のよう。一帯に広がる幻想的な光景に圧倒されつつ、ギュムギュムと誰も足跡を残していなかった雪原を踏みしめつつ走っていると、あっという間に陽が落ちていく。

夕焼けが迫るサロマ湖 思わず無言になる美しさだ夕焼けが迫るサロマ湖 思わず無言になる美しさだ
サロマ湖の向こう側に沈んでいく夕陽を横目に見つつ駐車場へ向かっていると、「何か動いた!」と誰かが声を上げる。なんと凍り付いたサロマ湖の上をキタキツネの子供が走っていくのだった。

起きてみると、一面に流氷が!

2日目、流氷が接岸し昨日とは打って変わった景色を見せた常南ビーチ 海が完全に氷原となっていた 2日目、流氷が接岸し昨日とは打って変わった景色を見せた常南ビーチ 海が完全に氷原となっていた 
そりゃあテンションも上がろうというものですそりゃあテンションも上がろうというものです
さて、あくる朝。もうひとっ走りすべや!っと、常南ビーチへ繰り出すと、なんと驚くべき光景が目の前に。昨日はあんなに遠くにいた流氷が完全に接岸、海だったハズの場所は陸と間違えそうなくらい真っ白な氷原に変貌していた。

これには皆さんも大はしゃぎ、もちろん自分もテンションアップ。更に言えば、今回の撮れ高としても完璧な景色とあって、だいぶ肩の荷も下りたというところ(笑)しかも、昨日走った轍が良い感じに固まっており、走りやすさも更にアップしており、景色良し、走りよしと最高の一日に。

取り残された流氷でゴツゴツした海岸沿いを走っていく。 取り残された流氷でゴツゴツした海岸沿いを走っていく。 
THEオホーツク!といった景色に笑顔がこぼれてしまうTHEオホーツク!といった景色に笑顔がこぼれてしまう あんまり海に近づくとどこまでが陸でどこまでが海なのかわからなくなりそうだあんまり海に近づくとどこまでが陸でどこまでが海なのかわからなくなりそうだ


地元の方にとっては「流氷が来ると冷えるからねえ」なんて、ちょっと厄介モノ扱いくらいの流氷だけど、私たちにとってはここでしか見れない特別なモノ。しかも気温も今回はそこまで高くないので、悪いところは一切ナシという奇跡的な一日を堪能。

距離自体はそう大した数字にならないものの、かなり体力を消耗するのが雪上ライド。路面抵抗の大きさもさることながら、急に変化する雪質に対応するため気を張っているのも疲労の原因だ。そんあ疲れた体が欲するものと言えば、甘いもの!そして常南ビーチのすぐそばには、そんな雪上ライダーにぴったりのスポットがあるのだ。

常南ビーチからもほど近い人気のカフェ「しゃべりたい」常南ビーチからもほど近い人気のカフェ「しゃべりたい」 名物の流氷ソーダを支度中名物の流氷ソーダを支度中


青いオホーツク海と分厚い流氷をイメージした流氷ソーダ 青いオホーツク海と分厚い流氷をイメージした流氷ソーダ 
今回お邪魔した「しゃべりたい」というカフェは、地元の方々に愛されてきた老舗。その名物メニューがその名もずばりの「流氷ソーダ」だ。オホーツク海をイメージした青色のソーダに流氷を模したアイスクリームがドカンとトッピングされた一杯は、まさに「映える」こと間違いなし。

もちろん味もなかなかのもの。真冬にフロート?と思っている方もいるかもしれないが、結構厚着して走っているとかなり暑く、クールダウンにもぴったりなのだ(笑)。今回はいただけなかったのだけれど、流氷ソーダ以外のフードなどもかなり美味しそうで、個人的には、次回はシーフードカレーを試してみたいところ。

常呂の老舗菓子店「竹岡菓子舗」へ 店を代表する銘菓アーモンドチョコがけのカステラ「TEA TIME」常呂の老舗菓子店「竹岡菓子舗」へ 店を代表する銘菓アーモンドチョコがけのカステラ「TEA TIME」
人気商品のシュークリーム、ちなみにライバルはエクレアだ人気商品のシュークリーム、ちなみにライバルはエクレアだ 常呂の老舗、竹岡菓子舗常呂の老舗、竹岡菓子舗


一路内陸へ 専用コースが整備されたノーザンアークリゾートで〆

ノーザンアークリゾートでは整備されたコースを楽しく走れるノーザンアークリゾートでは整備されたコースを楽しく走れる
さて、ここで一度内陸へと移動。とはいっても、同じ北見市なのだけれども。端野エリアにあるスキー場「ノーザンアークリゾート」には、ファットバイク専用コースの「HERO'S PARK」が営業中なのだ。ちなみにグリーンシーズンはゲレンデダウンヒルが楽しめるという、1年通してMTBを楽しめるロケーションでもある。

自然そのものの流氷ライドとはまた異なるスノーライドの楽しみ方を味わえるのがノーザンアークリゾートだ。基本的にフラットだった海岸とは異なり、アップダウンが連続するコースは走りごたえもたっぷり。

林間のスノーライドを楽しめる林間のスノーライドを楽しめる スラロームを交えながら下っていくノーザンアークのダウンヒルスラロームを交えながら下っていくノーザンアークのダウンヒル


フカフカの雪に思わずテンション上がってしまう一行フカフカの雪に思わずテンション上がってしまう一行
林の間を走る場所もあれば、端野の景色を望む開けた場所もあり、景色の変化も目を楽しませてくれる。下りは下りで雪上のグリップに慣れないうちはおそるおそる走ってはこけてしまうのだけど、雪もフカフカなので全然痛くない。身体で覚える、というハードルがかなり低い環境なので、ある意味練習にももってこい、かもしれない(笑)

このアップダウンコースは一周3km程度と、数字にすれば大したことは無い距離なのだけれど、実際走ってみるとかなり満足感がある。

コースの奥まで行くとあとは下り基調だコースの奥まで行くとあとは下り基調だ
今年から新設されたダウンヒルセクションは、フローなスノートレイル今年から新設されたダウンヒルセクションは、フローなスノートレイル
一方、今年から新設されたダウンヒルセクションは、フローなスノートレイルで、慣れてきたらかなり浮遊感を味わいつつ下っていけるゴキゲンなコースに仕上がっている。こちらは下った後は舗装路(もちろん雪に覆われてはいるのですがある程度除雪されている)をペダルアップして戻ることになる。下り好きならこの区間を何度も往復しても楽しいだろう。

ファットバイクを堪能したら、ノーザンアークリゾート自慢の温泉「金の湯」で汗を流すことも出来る。漕いでいると暑いのだけど、止まると途端に冷えてくるので、暖かい温泉のありがたみは文字通り身に染みる。

コースを設計したHero's Parkの田中さん 流石のライディングだコースを設計したHero's Parkの田中さん 流石のライディングだ
海も山も、夏も冬も楽しめる北見。一度訪れてみては

流氷を走るもよし、専用コースで遊ぶもよし。冬の北見を遊びつくすのに、ファットバイクは欠かせない存在となりつつある。レンタル環境も整備されており、今回紹介した常南ビーチでは流氷体験ライドとして事前に予約すればファットバイクライドを楽しめる体制が築かれている。

凍り付いたサロマ湖に夕陽が映える しっかり結氷している時期はライドも楽しめそうだ凍り付いたサロマ湖に夕陽が映える しっかり結氷している時期はライドも楽しめそうだ
もちろんノーザンアークリゾートは言うまでもなく、レンタルバイクも完備。ヘルメットなども用意されているので、防寒具だけしっかり用意していれば誰でも手ぶらでスノーライドを楽しめる。

グリーンシーズンとはまた違った表情を見せる冬の北見。ぜひ一度遊びに訪れてみては?

text&photo:Naoki.Yasuoka