サイクリングパラダイス長野をアピールする「Japan Alps Cycling」プロジェクトがスタートした。12月12日に長野で開催されたフォーラムにおいて3つのアルプスを周遊する800kmモデルルートなどを発表、長野県でのサイクリングの魅力を発信していく。

Japan Alps Cyclingプロジェクト 「ジャパンアルプスサイクリングロード」マップや道路標識を前にJapan Alps Cyclingプロジェクト 「ジャパンアルプスサイクリングロード」マップや道路標識を前に
12月12日に長野市において「サイクルツーリズムフォーラム」が開催され、「Japan Alps Cycling」プロジェクトが発表。概要や制作された情報発信Webサイトが紹介されたほか、サイクリストの聖地と称される「しまなみ海道」より講師を招いて講演とパネルディスカッションを開催。自転車を活用した観光地域づくりについて理解を深め、各地域で取組んでいく活動へのヒントを探った。

長野県知事の阿部守一氏長野県知事の阿部守一氏 Japan Alps Cyclingプロジェクト代表 鈴木雷太さんJapan Alps Cyclingプロジェクト代表 鈴木雷太さん


長野県の各自治体のサイクリング関係者、メディア等が出席した「サイクルツーリズムフォーラム」の冒頭挨拶に立ったのは長野県知事の阿部守一氏。昨今の気候変動問題を受けて、2050年に「二酸化炭素排出量・実質ゼロ」を実現することを目標に掲げ、「脱炭素社会」を目指すためにも長野県全体で交通手段として自転車を活用、サイクルツーリズムを推進していく方針を述べた。

Japan Alps Cycling Road ジャパンアルプスサイクリングロードの発表

長野県の魅力を満喫するダイナミックなサイクリングルート長野県の魅力を満喫するダイナミックなサイクリングルート
「Japan Alps Cycling」プロジェクト代表の鈴木雷太さんからは、長野県でのサイクリングをPRするプロジェクトの概要が説明された。官民連携・オール長野で「サイクリストに選ばれる長野」をつくることを目的としたこのプロジェクトでは、北アルプス、中央アルプス、南アルプスの3つのアルプス山岳を走る長野県一周800km、獲得標高12,000mのモデルルート「Japan Alps Cycling Road(ジャパンアルプスサイクリングロード)」を設定した。

長野県一周800km、獲得標高12,000mのモデルルート「Japan Alps Cycling Road(ジャパンアルプスサイクリングロード)」長野県一周800km、獲得標高12,000mのモデルルート「Japan Alps Cycling Road(ジャパンアルプスサイクリングロード)」 北アルプス、中央アルプス、南アルプスの3つのアルプス山岳を走る北アルプス、中央アルプス、南アルプスの3つのアルプス山岳を走る


信州のゆるキャラ「アルクマ」のサイクリングバージョン信州のゆるキャラ「アルクマ」のサイクリングバージョン ルート上に設置する自転車用のサインや看板などの道路標示デザインルート上に設置する自転車用のサインや看板などの道路標示デザイン


アルプスを眺めながらのサイクリングが楽しめる「Japan Alps Cycling Road」を整備するアルプスを眺めながらのサイクリングが楽しめる「Japan Alps Cycling Road」を整備する photo:Makoto.AYANO
Japan Alps Cycling Roadの概要

「日本の屋根」と呼ばれる標高 3,000m 級の⼭々がそびえ、豊かな森林と清流が織りなす雄⼤な⾃然に抱かれた⽇本を代表する⼭岳県・森林県である長野県。このスケールメリットを活かし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスの3つのアルプス(総称して「日本アルプス」と呼ぶ。)を中心に据えた、県内を周遊するサイクリングのモデルルート、⻑野県1周『Japan Alps Cycling Road』を設定。

Japan Alps Cycling Road  ジャパンアルプスサイクリングロード計画図Japan Alps Cycling Road ジャパンアルプスサイクリングロード計画図
Japan Alps Cycling Road おもな特徴
・日本アルプスの魅力をどこからでも楽しめる1周800kmのロングルート
・変化に富んだ地形を利用することで飽きのこないルートを設定
・北陸新幹線や中央本線など、関東、中京、北陸各圏からのアクセスに優れた鉄道網と並走する区間が多く、ルートのどの部分にもアクセスしやすい
・信州まつもと空港を経由しており、海外からのアクセスも容易
・北海道や瀬戸内海と並ぶ少雨地域の東信は天気に悩まされず楽しめる
・標高2,000m超えの高原ルート部は夏でも涼しい
・中南部は積雪が少なく、冬季でも自転車を楽しめる(北部地域は積雪が多く、これを活かした『雪チャリ』も)

長野県のサイクリングの魅力として、日本アルプスを眺めながら走れる景観の素晴らしさ、川、湖、花、田園、そして雪の織りなす風景、そばを代表とするグルメ、松本城や旧跡によって感じる歴史、そして素朴な人情が育む人とのふれあいなど、自転車で走ることで感じる長野ならではの魅力の数々が挙げられる。

ジャパンアルプスサイクリングロードに設置される標識のデザインジャパンアルプスサイクリングロードに設置される標識のデザイン 現在「Japan Alps Cycling Road」としては、日本アルプスを眺めながら長野県を一周する800kmの周遊コースを代表として、諏訪湖周辺、アルプスあづみのセンチュリーライドでおなじみの安曇野市〜北安曇郡小谷村一帯の「北アルプス地域」、千曲川流域(上田市〜長野市)が先行整備区画に指定され、整備が進められている。

この日は信州の3つのアルプスをイメージしたロゴマークにくわえ、信州のゆるキャラとして人気の「アルクマ」のサイクリングバージョンも公開。そしてルート上に設置する自転車用のサインや看板などの道路標示デザインも公開された。

ルート上に桜が咲き誇る春もサイクリングに最高の季節だルート上に桜が咲き誇る春もサイクリングに最高の季節だ photo:Makoto.AYANO田園風景を楽しみながら清らかな流れの水路と花咲く小道を往く田園風景を楽しみながら清らかな流れの水路と花咲く小道を往く


川沿いのサイクリングロードなども再整備される川沿いのサイクリングロードなども再整備される のどかな風景のあずみ野やまびこ自転車道のどかな風景のあずみ野やまびこ自転車道


Japan Alps Cyclingウェブサイトの公開

また同日には長野サイクリングのポータルサイト、Japan Alps Cycling ウェブサイトが公開された。サイトでは山岳を含む景観の素晴らしさを動画で紹介。各地域のサイクリングルート、長野県で楽しめるイベントのカレンダーと取材レポート、長野県で楽しめるアクティビティ施設やガイドツアーの紹介などが掲載されている。今後、サイクリングコース上のトイレの設置場所、周辺観光施設などを紹介。空気入れや工具などを備えたサイクルステーションや自転車利用者が利用しやすい飲食店などの情報も提供していく。

今後は宿泊施設やレンタサイクル、ガイドツアーの充実などによるサイクリスト受け入れ環境の充実を図り、コンテンツとしてもその魅力を発信して国内外に「サイクリングパラダイス長野」をPRしていくという。自転車関連の団体や事業者のつながりを強化することで、広域的な情報発信やイベント開催につなげる。また、同時に世界水準のサイクリングを楽しめる安全性と快適性を目指し、自転車通行空間の整備を進めるという。

NPO法人シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さんNPO法人シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さん しまなみ海道に学ぶサイクルツーリズム

フォーラムの第1部として、NPO法人シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さんを招いた基調講演が行われた。「住民参加で行うしまなみ海道を活かした自転車まちづくり」と題したこの講演では、約20年前からしなまみ街道が歩んできたサイクルツーリズム醸成の道のりが説明された。「チーム愛媛」によるブランド化、「シクロツーリズム」という考え方、小さなビジネスモデルを重ねる持続可能なしくみの構築、サイクリスト目線のマップの作成と配布・販売、「サイクルオアシス」施設の運営や拡充、鉄道など2次交通とのコラボ、そして住民参画で行う自転車まちづくりなど、しなまみ街道の例をもって説明された。

しまなみ海道のシクロツーリズムのここまでの歩みが説明されたしまなみ海道のシクロツーリズムのここまでの歩みが説明された
サイクルオアシスはもともと地元の人が自発的に始めたサービスをヒントにしたサイクルオアシスはもともと地元の人が自発的に始めたサービスをヒントにした サイクルトレインなど2次交通とのコラボも欠かせないサイクルトレインなど2次交通とのコラボも欠かせない


パネルディスカッション 「長野県の自転車活用の取り組み」

Japan Alps Cyclingプロジェクト副代表の小口良平さん(諏訪湖八ケ岳自転車活用推進協議会)、長野県観光部長の中村正人さん、鈴木雷太さん、宇都宮一成さんによるパネルディスカッションも行われた。

パネルディスカッション「長野県における自転車活用と地域振興に向けた具体的な取り組み」パネルディスカッション「長野県における自転車活用と地域振興に向けた具体的な取り組み」
「長野県における自転車活用と地域振興に向けた具体的な取り組み」をテーマとしたこのディスカッション。自転車で157ヵ国・16万kmの旅を経験した小口良平さんによる、自転車先進国オランダの自転車の活用事例やサイクルルートの認定制度などが紹介され、長野県においてもサイクリングと生活圏内での自転車の活用が提案された。また、「魅力ある土地だけでは成功しない、地元の人々が自発的に取り組むことが大切」というしまなみ海道の例を参考に、長野県でもサイクリストの目線をもってプロジェクトを推進すること、住民参画型かつ官民連携・オール長野で「サイクリストに選ばれる長野」をつくることがJapan Alps Cyclingを成功に導く、といった話が展開された。

Japan Alps Cyclingプロジェクト代表の鈴木雷太さんJapan Alps Cyclingプロジェクト代表の鈴木雷太さん Japan Alps Cyclingプロジェクト代表 鈴木雷太さんのコメント

長野県は自転車で走ってこそ魅力を十分に感じられる場所だと思っています。初めて自転車で長野県に来たのは中学生のとき。出身の愛知県岡崎市から松本市まで走ってきて、美ヶ原高原を自転車で疾走しました。その計画段階で、長野県はたくさんの峠がある非常に起伏に富んだ山岳地帯であることを知ったのです。

ロードレースとMTBの選手に。すると山がたくさんある長野県は練習場所も多くて非常に恵まれた場所だと感じるようになり、20歳の頃に松本に引っ越してきて以降、ずっと可能性を秘めた土地だと思って過ごしてきました。プロとして13年間自転車競技に打ち込み、現役を引退した後は自転車の普及に力を注ぐようになりました。

2009年にアルプスあづみのセンチュリーライドをスタートさせ、好評を博して年々参加者は右肩上がりとなっています。その理由はやはり北アルプスの威容や田園風景などの豊かな自然。こうした環境は、国内では他に類を見ないほど自転車に適しているのではないかと自負しています。インバウンド事業として海外7カ国からもこのイベントに参加してもらいましたが、皆さん「最高」の連発。日本国内のみならず、世界的にもすごく可能性がある、という手応えもつかみました。

長野県を自転車で走る楽しみは、空気が澄んでいて景色が変化に富んでいるという点が大きいです。南北に200キロ以上ある非常に大きな県で、アルプスを3つ戴く日本で唯一の場所。どんなコースを設定してもある程度の高低差があり、同じ山でも季節によって見せる表情は全く違います。寒い冬の朝の澄んだ空気の中でそびえる北アルプスも、春先に田植え前の田んぼに映り込む北アルプスも、それぞれがオンリーワン。自転車ならではの空気を感じ、その土地に暮らす人々や息づく文化なども感じながら走ってもらえたらうれしいです。

小口良平さん(JACP副代表・諏訪湖八ケ岳自転車活用推進協議会)小口良平さん(JACP副代表・諏訪湖八ケ岳自転車活用推進協議会) 小口良平副代表のコメント

生まれた岡谷市には、目の前に諏訪湖がありました。8歳のとき、兄と諏訪湖一周をしたのが僕の原風景。それで自転車の魅力に気付きました。そして8年半かけて世界157の国と地域を自転車で巡りました。2016年10月に旅を終え、気付いたことがありました。若い頃は「何もないし早く出たい」としか思っていなかった長野には、3000メートル級の山々があって地形的にも食べ物も四季折々の魅力があるし、こんなに恵まれた場所はないと思うようになりました。そしてガイドサイクリングを始めました。

地元をガイドしながら観光客に自転車で巡ってもらうツーリズム。ガイドだからこそ知っている細道や地元の名店などを紹介し、自転車の魅力と地元の文化を同時に味わってもらいます。それを普及するため、ガイドの養成やサイクルスタンドの設置なども並行して行っています。同時に、長野県で自転車を満喫してもらうことも考えています。長野は山岳地帯に限ればヨーロッパアルプスや南米アンデスと同程度のブランド力を出せるポテンシャルがあると感じています。南北に長く、ルートによっては信号をかわせてノンストレスなコース設定が可能。さらにE-bikeも普及させ、一つの切り口にしたいと考えています。


photo&text:Makoto.AYANO