昨年の12月25日に開催されたサイクルセーフティーサミット。より安全に自転車レースやライドイベント、ガイドツアーを楽しむことが出来るように、緊急時の対応について実践形式で学ぶことの出来る貴重な講習会をレポートしよう。



40名の参加者が集まったサイクルセーフティーサミット40名の参加者が集まったサイクルセーフティーサミット
年々増加するサイクルイベント。ロードレース、クリテリウム、ヒルクライム、エンデューロといったレース系のイベントもあれば、グランフォンドやロングライド、ブルベといった非競技系のイベントも毎週末開催されている。

加えて、昨今注目を集めているサイクリングガイド付きのライドツアーや、有志が集うクラブライドなど、多くのサイクリストが集まって走る機会というのは、自転車を楽しむ上で欠かせないもの。もちろん、ソロライドも楽しいものだけれど、集団で走ることで空気抵抗を分け合い、ラクに遠くまで走っていけるのは自転車の醍醐味の一つだろう。

他のサイクリストと共に走ることは、多くの楽しさを生み出してくれるものだけれど、一方でアクシデントに遭遇するリスクも大きくなる。それは自分が当事者になることもあるだろうし、あるいは発見者になることもあるかもしれない。そんな時に、しっかりと対応してくれるイベントスタッフや、ツアーガイドがいればどれほど心強いだろう。そして、自分もその手伝いを出来れば、それに越したことはない。

今回レポートするサイクルセーフティーサミットは、まさにそういった心強く頼れる人材をサイクリストの中に増やしていこうというミッションをもって開催されている講習会で、関東では3度目の開催となる。2017年のクリスマスに、多摩川からすぐの向ヶ丘自動車教習所に、イベント主催者やショップスタッフ、ツアーガイド関係者などを中心に、40名の参加者が集まった。

クリスマスムードの向ヶ丘教習所にて座学が行われたクリスマスムードの向ヶ丘教習所にて座学が行われた
いわゆる安全対策とは、”アクシデントを防ぐ”ことと”起こったアクシデントに的確に対応する”ことの2つが求められる。もちろんどちらも大切なことであるが、このサイクルセーフティーサミットで学ぶことが出来るのは、後者。すなわち、起きてしまった事故による被害を最小限にとどめるための知識と技術を学ぶ機会となった。

わかりやすくイメージするとすれば、救急救命講習が近いだろう。だが、それよりももっと実践的で、サイクリストが遭遇するだろうアクシデントの実態に即した講習内容が、1日を通してみっちりと用意された。

横浜市消防局の実業団チームFar's代表の橋隅和明氏横浜市消防局の実業団チームFar's代表の橋隅和明氏 横浜市消防局の実業団チームFar'sのみなさんとBCFレース救護班で活動する高山真由子氏横浜市消防局の実業団チームFar'sのみなさんとBCFレース救護班で活動する高山真由子氏

昭和大学医学部の客員教授である平泉裕医師 東京マラソンなどの救護の現場に携わる昭和大学医学部の客員教授である平泉裕医師 東京マラソンなどの救護の現場に携わる 「安全確保と状況評価」パートでシナリオトレーニングを担当したウォークライドの須田コーチ「安全確保と状況評価」パートでシナリオトレーニングを担当したウォークライドの須田コーチ


多岐にわたる講習内容のため、サイクルセーフティーサミットには多くの救命の専門家が講師として駆け付けた。昭和大学医学部の客員教授である平泉裕氏、現役の横浜市消防局の救急救命士たちが集まった実業団チームFar'sとその代表の橋隅和明氏、看護師/保健師としてTOJの医療班やJBCFレース救護班で活動する高山真由子氏、様々なコーチ/インストラクター資格を持ち、スクーリングなども行うウォークライドの須田晋太郎氏、そしてこの講習会の主催であるスマートコーチングの代表であると同時に、体協公認コーチや日本登山医学会評議員でもある安藤隼人氏という錚々たる講師陣が顔を揃えた。

朝、会場に集まった参加者に対してまず行われたのは、橋隅氏や平泉氏らによる座学だ。横浜市消防局で司令課の経験を持つ橋隅氏は、救急隊の出動・搬送体制や通報を受ける立場から見た伝わりやすい通報の優先度といった内容を、多くのスポーツイベントでメディカルスタッフとして活動する平泉氏は、自転車競技特有の受傷傾向や救護フローについてのレクチャーを行ってくれた。

「安全確保と状況評価」パート。実際にレースをしている想定でのシナリオトレーニングを行った「安全確保と状況評価」パート。実際にレースをしている想定でのシナリオトレーニングを行った コーナーの出口で落車発生!この時どういった対応をするのかが問われるコーナーの出口で落車発生!この時どういった対応をするのかが問われる

ガイドツアー中に落車が発生、一人が崖から落ちてしまった!ガイドツアー中に落車が発生、一人が崖から落ちてしまった! かなり混乱した状況のシミュレーションとなったかなり混乱した状況のシミュレーションとなった


一通りの座学が終われば、このイベントの最も特徴的なパートである実践形式のスクールが始まる。10名ずつ4つのグループへと分かれ、ファーストエイドのプロセスを4つへと分解したユニットで実習していく。アクシデントの起きたタイミングから時系列に並べていくと、「安全確保と状況評価」、「初期評価とCPR」、「全身観察・詳細観察」、「処置と搬送」という4つのシーンに分けられ、それぞれ1時間にわたってみっちりと実習を受けていく。

各パートで何が行われるのか、簡単に説明しよう。「安全確保と状況評価」パートでは、アクシデントが起こった際、どのようにして事故現場の安全を確保するのか、そして誰がどの程度の受傷状況なのかを把握するシーンとなる。レースや、サイクリングなどそれぞれ異なるシチュエーションをシミュレーションするシナリオトレーニングが行われ、臨場感のある実習が行われた。

受傷者の意識レベルや心肺の状況を確認する「初期評価」受傷者の意識レベルや心肺の状況を確認する「初期評価」
CPR(心肺蘇生法) 心臓マッサージやAEDの使い方を学んだCPR(心肺蘇生法) 心臓マッサージやAEDの使い方を学んだ 「全身観察・詳細観察」パートでは受傷者の状態を把握するための方法がレクチャーされた「全身観察・詳細観察」パートでは受傷者の状態を把握するための方法がレクチャーされた


次の「初期評価とCPR」では、受傷者の心肺機能に関する容態の判断と、それらが止まっていた場合の対処方法について実習。傷つきやすい頸椎を保護しつつ、ヘルメットを脱がせ心臓マッサージやAEDを使用するトレーニングを行った。

3つ目の「全身観察・詳細観察」パートでは、より詳細な全身の受傷状況を判断していくための知識と技術を学んだ。胸部の骨折による気胸や骨盤骨折といった生命を脅かす傷を負っているか否かを判断するポイントについて、平泉医師の指導を受けた。

5人1組で、受傷者を持ち上げて担架を滑り込ませる「ログリフト」5人1組で、受傷者を持ち上げて担架を滑り込ませる「ログリフト」
こちらは「ログロール」と呼ばれる技術こちらは「ログロール」と呼ばれる技術 受傷者の身体を起こし、担架を差し込む受傷者の身体を起こし、担架を差し込む


最後の「処置と搬送」パートでは、一通りの処置を終えた患者を搬送する際の方法や注意点について重点的なレクチャーを受けた。受傷部位や状況、協力してくれる人の有無によって、どういった方法が最適なのかを実際に体験。搬送する側とされる側、どちらの状況も体験することで傷病者の感じる不安を味わうことも、重要なポイントだ。

そして、最後にはレースでの大規模な落車が起きたという設定でシナリオトレーニングを実施。ここまで学んできた4つのパートのノウハウを動員し、救急隊の到着・収容までをゴールとした実戦的なシミュレーションを行った。これにて、1日間の講習会は終了となるが、それぞれの参加者にとって得るものは大きかったようだ。

最後の総合シミュレーションはレース終盤、多重落車が起こった想定で最後の総合シミュレーションはレース終盤、多重落車が起こった想定で 後方の安全を確認も大切な任務だ後方の安全を確認も大切な任務だ

同時に複数の落車が起きた中で、それぞれの優先度をつけ、それに応じた対応を進めていく同時に複数の落車が起きた中で、それぞれの優先度をつけ、それに応じた対応を進めていく シナリオトレーニングの最後には講評が行われたシナリオトレーニングの最後には講評が行われた


ルーツスポーツジャパンの増田さんルーツスポーツジャパンの増田さん 数々のイベントを手掛けるルーツ・スポーツ・ジャパンから参加した増田さんは「改めて安全管理に関して学ぶ部分は大きかった。1000人規模の大会になると、自分だけがこの知識を知っていても仕方がないので、社内での講習やマニュアルの作成に反映し、実際に現場に立つスタッフたちへと伝えていきたい。」と手応えを感じられたいた様子。

はるばる滋賀県から参加したストラーダバイシクルの皆さんは、RIDAS(ライダス)というツアー会社を立ち上げ、ガイドツアーにも積極的に携わっているため、この講習会への興味はとても高かったのだとか。彦根店の店長を務める山本さんは、「とても実践的な内容でした。例えばショップライドでトレイルへと出かけたときに、怪我をした人がいて、その時救急隊に自分の位置を伝えるのに困ったことがあります。でも、今回のレクチャーでスマホのGPSを利用すれば正確な位置を伝えられるということを聞き、目からうろこでした。」とのこと。

草津本店の副店長を務める厚海さんは、「CPRや頸椎の保護など、自分には無かった視点を得ることが出来たのは大きかったです。ショップやガイドツアーをやっている以上、こういったアクシデントに遭遇する可能性は高いので、いつでも対処できるようにしておかないと、という思いを新たにしました。ライダスのツアーでも普段のショップライドでも、役に立つ知識を身に着けることが出来たと思います」

ストラーダバイクの井上代表(左)、厚海さん(中央)、山本さん(右)ストラーダバイクの井上代表(左)、厚海さん(中央)、山本さん(右)
そして、井上代表は「とにかく、自転車というのは予測不可能な事故が起こりうるものですよね。もともと救急救命の資格は持っていたけれど、よりサイクリングのシチュエーションにマッチしている講習だったと思います。ガイドなどを行う上では自転車ならではのアクシデントに備えていることが非常に大切。集団落車が起きた時に、一人でどうやって複数のけが人に対応するのか、そういった視点は救急救命じゃ身につかないポイントなので、とても勉強になりました」とのことだった。

茨城シクロクロスレーシングチームの山田ご夫妻茨城シクロクロスレーシングチームの山田ご夫妻 こちらは2人とも2度目の参加となる山田ご夫妻。茨城シクロクロスレーシングチームとして、シクロクロスレースを主催する立場でもあり、レーサーとしての目線も持っている。「初回に参加した時よりも、実際にやってみようというケーススタディが増えていて、とてもためになりました。事故に関する情報って、ネガティブな話題なので共有されづらいけれど、他の受講者との交流の中で様々な体験談を聞くことができるというの大きかったですね。救急救命講習は自分も受けていますが、道端で倒れている人を助けるのと、レースで落車した人を助けるのは絶対違う。また、チームメンバーにも共有していきたいです。」と明恵さん。

一方健太郎さんは、「実際に事故の対応に必要なことを、全体の流れに沿ってイメージしてトレーニングできるというのはめったにない機会です。2度目の受講を決めたのは、何度も復習することでより身体に定着させるためです。いち選手としても、落車に遭遇する確率は高いもの。実際そういった場面に遭遇した時、何もできなくて後悔するかもしれないのは嫌だ、という人にはぜひオススメしたいですね。」とのことだった。

「自転車って、リスクがあるけれど楽しいものじゃないですか。でも落車が怖いから、乗るのが怖くなってしまった、という人もいますよね。できれば、そういう人達を減らしたいという思いで、このサイクルセーフティーサミットを始めています。そもそも落車を起こさないためにライダーが必要とする基礎的なテクニックについては、サイクルテクニックスクールを開講していますから、こちらは万が一クラッシュしても、しっかりとした安全管理がされているのだと安心できる環境を作っていくための取り組みですね。」と主催者である安藤氏。

主催を務めるスマートコーチングの安藤隼人氏主催を務めるスマートコーチングの安藤隼人氏
「ただ、ファーストエイド講習というと普通の救命講習との違いが伝わりづらい。ですから、座学は極力少なくして、実際にいろいろと動いてもらって身体で覚えてもらうカリキュラムを組みました。その中で、その中で、自分が出来ること、出来ないこと、やりたいこと、やるべきことが見えてきます。

まず、自転車でのファーストエイドにはいろんな役割があるということを知ってもらうことが大切です。誰もがこの講習を受けて、完璧にリードできるようになるとは思っていません。でも、自分の出来ることを知っておけば、確実に力になれる時が来ますよね。例えば、後方の集団を誘導する安全確保に専念するのも大切な役割。搬送でも、ログロール、ログリフト、と言われてピンとくるようになるだけで救急隊員の負担が全然違います。

この内容を受講した人が、周りの人にも伝えて、だんだんと波及していってくれれば、実際の救護現場がもっとスムースにできるような未来が出来るかもしれません。そうなれば、もっと安心して自転車に乗ってもらえるようになる。リスクはあるからといって、乗るのが億劫にならないような、そんな雰囲気を作っていきたいですね」とこの講習会のビジョンを語ってくれた。

安全なサイクリングライフのために、よりよい体制を作っていくためのサイクルセーフティーサミット。普段、あまり注目されない”いざという時の備え”であるが、こういった努力がサイクリングスポーツをもっと親しみやすいものへとつなげてくれることは間違いない。もし、気になる方がいれば、ぜひ次回のサミットに出席してみては。

text&photo:Naoki.Yasuoka
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