10月8日に香港で開催された総合サイクルイベント「香港サイクロソン」。50kmライドの部にレンタサイクルで参加したサイクルライフナビゲーターの絹代さんからレポートが届きました。



10月8日、香港政府観光局が主催するサイクルイベント「香港サイクロソン」に参加してきた。今年で3回目を迎えるというこのイベントには一般のライドイベント、市民レース、プロ選手によるレースが組み込まれている。使用するのは全て公道。全面交通規制をかけての開催だ。すべてのイベントの中心は九龍半島の中心街、チムサアチョイ!プロのレースは今年からUCIレースに昇格し、しかも1-1クラスでの開催。香港の本気度が見え、どうしても自分の目で見てみたいと思ったからだ。

高速道路を走る特別なライドを無事に完走!達成感は満点!ごほうびはメダル!高速道路を走る特別なライドを無事に完走!達成感は満点!ごほうびはメダル! photo:Kinuyo
香港と日本は意外と近い。数千円の格安フライトで飛べるLCCも含めると、毎週360本以上の直行便が飛んでおり、気軽に訪れられる場所だ。実はサイクリングロードも整備されており、愛好家も多いそうだ。長寿世界一の地域とあって、運動や食への関心は高いのだとか。恥ずかしながら、香港にサイクリングのイメージはなかったのだけれど、香港は十分自転車旅の行き先になる要素を持つ場所じゃないか!……いまさらの気づきである。

チップはゼッケンの裏側に貼られたシール。なんと使い捨て!チップはゼッケンの裏側に貼られたシール。なんと使い捨て! photo:Kinuyoキャセイパシフィックにて香港入り。スケジュールの都合で夜入りになったが、先に入っていた知人が参加キットやレンタサイクル等も受け取ってくれていて、問題なし。キャセイは輪行袋の積み込みも問題無いそうで輪行を計画していたのだが、トレックの女性専用設計ロードバイク”Lexa”が借りられることになり、計画をレンタサイクルに切り替えた。

参加キットを開けると、計測チップが組み込まれたシートポストシールが入っていた。なんと使い捨てチップ!ホテルでは全室にスマートフォンがあり、無料で国内外への通話や、デザリングもできる。早くも香港の先進度に圧倒され始めていた。

サイクリングながら、レースのような疾走感サイクリングながら、レースのような疾走感 photo:香港政府観光局
私が走るのはメインイベントとなる、一般参加の50kmライド。エントリーにあたり、基本的には実技試験や講習会への参加を求められる。海外エントリーは同等イベントの完走証の提出でクリアできるそうで、私は事前にロングライドイベントの完走証を送り、許可を得ていた。実技試験は「狭い道で障害物にぶつからず、16秒以内にUターンできること」などらしい。このライドの推奨速度は時速29km。気になることだらけだけど、4時45分にスタートに整列しなければならないため、少しでも長く寝よう。

3時22分。強烈なピンポンに起こされる。朝食BOXの配達だ。中身はおにぎり、真空パックのゆでたまご、フルーツ、きのこソテー。大会ロゴ入りのチョコがアクセントでかわいい。よし、しゃけおにぎりパワーでがんばろう!

夜明け前のホテルの外に出ると、繁華街の中はローディーだらけ!あっちもこっちも広東語。2500名の参加者のうち、多くが香港人だという。みんないいバイクに乗り、いいウェアを着ている!列に着いて、スタートを待つ。私の隣にいた方は香港在住だけど、沖縄に1週間滞在して走りまわったり、日本にも何度も行っているとか。よく見たら「大阪」と描いたY’sRoadのジャージを着て、バイクには春日大社のお守りがついていた。日本好きな方が多いんだなぁ。

高速道路上を快適に走る!高速道路上を快適に走る! photo:香港政府観光局
定刻5時半を少し回り、スタートが始まったようだ。先頭グループにはワンカンポなどが含まれているとか。昨年の先頭は時速45kmだったそうで……。きっと今年も速いのだろう。100名ほどのグループごとにスタートしていく。

5時50分ごろ私もスタート。関門制限がかなりシビアとの噂。「45km地点を7時45分までに越えないとアウト」という足切りラインをしっかり頭に入れて行こう。レンタサイクルにはサイコンがついていないのでちょっと不安。

補給はパープルのパラソルで補給はパープルのパラソルで photo:Kinuyoビル街を抜けると、すぐに高速道路に入った。いきなり?どうやら、このライドは交通規制をかけた高速道路を走らせるものらしい。中心街から空港方面に向かい、折り返して九龍の北部まで行ってから、チムサアチョイに戻る。いわば、日曜の朝に首都高と湾岸線を止めるようなもの!そんなことができてしまうなんて!!関門がシビアなのも、開催時間が早いのも当然だ。

灯りのともるコンテナ船が停泊する港や、高層ビルが立ち並ぶ香港島を眺めつつ走る。こんな眺めを自転車から楽しむ日が来るなんて。複数の車線を自由に走れるだけでも、一列走行に慣れた自分にはすごく新鮮!次第に夜が明けてきて、周りの色味が見えてきた。景観も都心部から次第に緑が増えてくる。

器具を使ったセルフマッサージブース。激痛に笑う器具を使ったセルフマッサージブース。激痛に笑う photo:Kinuyoこのコースの見所は3つの橋、3つのトンネル。橋やトンネルの先端で折り返し、うまく高速道路をつないでコースを作っている。長青トンネルを抜けると、前を行く参加者らが平行する他の高速を走っており、自転車同士が高速道路間で平行に走る形になった。不思議な感覚!

いよいよこのコースの目玉となる鉄道道路併用の吊り橋としては世界で最も長いという青馬(チンマー)大橋へ差し掛かる。ちなみに空港との往復に使われる非常に重要なルートである。車線で仕切られ、対面通行となるが、復路になる参加者も速くて、いろんなことに圧倒される。しまなみとはまた違う感動!!橋を渡りきったところで180度ターン。参加者のマナーが良く、全員が確実に減速し、他人の邪魔にならないようなラインで旋回してくれる。

復路に入り、往路の参加者を見て、数がまばらなことに気がついた。完走が危ういことに気づき、強烈な向かい風の中、一気にペースアップ。どうやらまだ30km近くあるらしい。すぐに次の汀九(ティンカウ)橋へ。橋の上は眺めもよく、爽快!しかもこんなに気持ちよいスピードで走れるなんて!

ストーンカッターズ大橋からは摩天楼が望めるストーンカッターズ大橋からは摩天楼が望める photo:Kinuyo
南湾トンネルを抜け、ストーンカッターズ大橋へ。ここは3車線すべてが一方向に開放されていた。橋の向こうには摩天楼が霞んで見え、眺めも最高!橋を自転車で占拠できるが、橋の規模が大きいので混み合うこともない。夢のようだ。きっとあの摩天楼がゴールに違いない。

最後のトンネル、イーグルズネストトンネルに近づくと、ピッピッという笛の音とかけ声が聞こえてきた。どうやら地元の若者ボランティアたちが全力で「加油!(がんばれ)」コールをしてくれていた。日本のお神輿と同じリズム!文化の近さを感じる。

注意喚起やこういった掛け声は広東語だけれど、ピクトグラム等も使われているし、日本人の我々にはおおよその意味をつかむことができるので不安はなかった。次第にビルが増えてきて、中心街に近づいたことを知る。嬉しいことに完走は確実だけど、このライドが終わってしまうのも切ない。高速道路すれすれに立つビル群を間近で仰ぎ見て、「高速ライド」の最後のパートを惜しみながら楽しんだ。香港らしい金ピカのビルがあったりして、楽しい。

次第に市街地に近づいてくる。ゴールは近い次第に市街地に近づいてくる。ゴールは近い photo:Kinuyo
そしてついにゴール!やった!ショートパンツの学生ボランティアがメダルを渡してくれた。ノンストップの50km。走破の達成感と、ルートへの驚きと感動とを噛みしめる。全行程を通じて参加者のマナーがよく、無理な割り込みや不安を感じるようなライン取りなどは一度もなかった。香港のサイクリストたちに敬服。

ゴール後は洋ナシやスナック、パンやドリンクがふるまわれた。レンタサイクルを返却し、走行完了。ウェアがぬれぞうきんみたいに汗で濡れていて、それなりの運動量だったことに気づく。亜熱帯だしね。当然、気持ちよく乗れる時期も長いんだろうな。いいことづくめだ!

ホテルに向かうと、地下道に向かうエスカレーターが自転車を担いだウェア姿の人たちで溢れている。驚いて政府観光局の担当者さんに聞くと「香港では地下のショッピング街にもみな自転車を持ち込んでますし、前輪を外せば、地下鉄にも乗れるんです」。先頭車両など推奨車両はあるらしいが、輪行袋は不要とのこと。

バイクを担ぎ、地下道へと下っていく参加者たちバイクを担ぎ、地下道へと下っていく参加者たち photo:Kinuyoスペシャルなコースを走り抜けた参加者たちは九龍の中心へとゴール!スペシャルなコースを走り抜けた参加者たちは九龍の中心へとゴール! photo:Kinuyo地下鉄は前輪を外せば先頭、最後尾車両には乗車可能。多くの参加者がウェアのまま地下鉄で帰って行った地下鉄は前輪を外せば先頭、最後尾車両には乗車可能。多くの参加者がウェアのまま地下鉄で帰って行った photo:Kinuyo


地下鉄の改札前にも、ホームに向かうエレベーターにも、前輪を外した自転車を持つ人がいっぱい!自主的に車輪を束ねている人も多く、譲り合いの精神が根付いていることを感じる。輪行袋が不要なこともあいまってか、サイクリストと一般の乗客との間にもトラブルは少ないんだとか。このあと、青馬大橋や汀九橋を除いたコンパクトなコースの30kmライドが開催された。二つのライドの参加者は4600名!

同時進行で、イーストチムサアチョイの中心街に作られたコースでファミリーライドが開催された。人気ホテルが並ぶ、まさに繁華街のど真ん中だ。ファミリー、キッズ、CEOライドのサーキットはチムサアチョイの中心街に設定された1.2kmのもの。もちろん公道。

市民レースも公道サーキット。大声援を受けながら気持ちよく走る市民レースも公道サーキット。大声援を受けながら気持ちよく走る photo:Kinuyo
市民レースで大歓声を受けて走るフェンチュンカイ市民レースで大歓声を受けて走るフェンチュンカイ photo:Kinuyo希望者全員がスポーツバイクの貸し出しを受け、交通規制した中心街のサーキットを走った。走るキッズたちは満面の笑顔!希望者全員がスポーツバイクの貸し出しを受け、交通規制した中心街のサーキットを走った。走るキッズたちは満面の笑顔! photo:Kinuyo


キッズライドは、希望者全員にスポーツバイクのレンタサイクルが用意された。つまり、子供達は誰でも、この観光地の中心街の公道サーキットをスポーツバイクで走り抜けることができるのだ。そんなキッズライドは3回開催された。白と赤のウェアを着て、思い思いのペースでサーキットを走り抜ける子供達の表情の明るいこと!こんな経験をした子供達は、これから自転車への関わり方が変わってくることだろう。

市民レースからは1周5.15kmのレース用の公道サーキットに変更されて開催。市民レースながら、プロと同じコースで催され、大声援が飛ぶかなりの白熱ぶり。先頭を走るバーレーン・メリダのジャージを着た選手がやけに人気があるなと思っていたら、本物のフェン・チュン・カイだった。どうやらゲスト参加していたらしい。女子、チームTTとレースが続く。

選手たちが力強く駆け抜けたチームTTも観客には大人気だった。選手たちが力強く駆け抜けたチームTTも観客には大人気だった。 photo:Kinuyo
さて、最後は国際レース。ここからは国内TVの生中継も始まる。イーストチムサアチョイエリアの人気ホテルが並ぶモディロードからスタートし、バイパスと、ビクトリアハーバーの前で展開する5.15kmのサーキットを20周する103kmのレースだ。ワールドツアーチームのUAE・エミレーツとオリカ・スコットも参戦、日本からも新城幸也をエースに編成された日本ナショナルチームをはじめ、チーム右京、愛三工業レーシングチームが参戦した。

見どころとなる海沿いのソールズベリーロードは、道幅の広さを活かして車線ごとに仕切りを付けてうねらせる迷路のようなコンパクトなコースとなり、シクロクロスを思わせるようなレイアウト。当然180度ターンに近いターンが連発することになる。陸橋に上がると、選手たちが器用に走り抜けて行くさまが一望でき、老若男女、皆大喜び!バイパス部分は高層ビルが立ち並ぶ近代的な自動車道。

小さなサーキットながら、様々な要素が盛り込まれており、レースに慣れていない方々でも、十分観戦を楽しめたようだ。自転車が駆け抜ける景観は、純粋に美しかった。コース沿いから、陸橋の上から、海の見えるカフェから、思い思いのスタイルで観戦を楽しむ人々から、大きな声援が飛んでいた。

常に好位置で積極的に走った入部選手常に好位置で積極的に走った入部選手 photo:Kinuyo
優勝はマテイ・モホリッチ(UAE チームエミレーツ)。新城はさすがの走りで3位表彰台。小野寺玲(日本代表)、岡本隼(愛三工業)が新人賞1位、2位となる健闘を見せた。表彰式まで終えた頃には、陽も落ちかかっていた。早朝からなんと壮大なイベントだったことか!

ライド参加者は計4900名。ボランティアスタッフは1000名!若いスタッフがとても多く、イベント全体がエネルギーにあふれていた。九龍の中心街を終日使用し、主要道路を開放し、これだけのイベントを開催する香港のパワーには、心底圧倒された。会場周辺には飲食店も多く、高速道路を走って、観て、食べて楽しめる魅力的な1日だった。

各所に設置された中継カメラが迫力ある映像を狙う各所に設置された中継カメラが迫力ある映像を狙う photo:Kinuyo
香港はLCCなら日本から数千円で飛ぶことができ、渡航のハードルも低い。今回はキャセイパシフィックを利用したが、預け荷物の許容重量に収まれば、輪行袋も無料で積み込むことができるそうだ。空港から九龍までもエアポートシャトルやホテル街までの無料シャトルバスで大きな苦労なくたどり着くことができ、海外自転車旅ビギナーでも挑戦しやすいだろう。

サイクリングは早朝からのスタートなので、自転車に乗らない家族と来たとしてもお昼からは皆で香港ステイを楽しめる。今後、世界からの参加者が増える人気イベントへ成長していくのではないかと思う、そんな香港サイクロソンは来年も同時期に開催予定とのこと。みなさんも来年は参加を検討してみては?

text&photo:kinuyo
Amazon.co.jp

香港: 返還20年の相克

日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
¥1,980