2017/05/02(火) - 09:16
スポーツジャーナリストのハシケンこと橋本謙司が、南アフリカのケープタウンで毎年開催されている世界最大規模のロングライドイベントに2年連続で参加。強風による大会中止。その衝撃的な映像はSNS等で世界中を駆け抜けた。現場を体験したハシケンが今年の大会をリアルレポートする。
スケールが違う世界最大のロングライド
1年ぶりにネルソン・マンデラ氏が出迎えてくれた。街の中心にあるシビックセンターの壁に描かれた氏の肖像画に懐かしさを覚える。今年も再び南アフリカの南西端に位置するケープタウンへやってきた。日本からの長くも短い空の旅を楽しんだのち、無事に到着。日本との時差は7時間。市内のラグジュアリーなホテルのロビーで南アフリカ生まれの炭酸飲料アップルタイザーを一気に飲み干す。気温30℃、半袖1枚で過ごせる気候だ。キーンと冷えた炭酸に生き返った。
昨年に続き参加する世界最大の自転車イベント。しかも、今年で40回記念大会という伝統ある大会だ。イベントの名は「ケープタウンサイクルツアー」。南アフリカの観光都市ケープタウンで開催されている世界的に人気のロングライドイベントだ。さすがに行ったことがないと、やや地理感がつかめないと思うので簡単に場所を紹介しよう。
アフリカ大陸の南に位置する南アフリカ共和国。その南西端にあり全長約75kmのケープ半島が今回の舞台だ。ケープタウンのシグナルヒルからケープ半島の南端ケープポイントまで、約60kmにもわたり国立公園に指定されているケープ半島は、大西洋とインド洋に囲まれ、最南西端には、かの有名な喜望峰もある。ちなみに、ケープタウンの街は、半島の北部に位置する。
さて、ホテルでひと休憩したのち、大会のブースが出展しているサイクルエキスポ会場へ向かった。会場となるケープタウンスタジアムには、まだ大会2日前の金曜日だというのに大勢のサイクリストで溢れていた。
2010年にはサッカーW杯も開催された大きなスタジアム内にぎっしりと出展ブースが並ぶ。その数は100、いや120をゆうに超えていて、スケールの大きさを感じさせる。それもそのはず、世界40カ国以上から集まる参加者数は、なんと3万5000人だ。とにかくスケールが大きい。ボランティアスタッフは1000人体制で大会を支える。
ブースではホイールやタイヤ、あらゆるパーツが叩き売りされて活気づいている。ちょうど日本からフロアポンプを忘れたので、ちゃっかり格安で入手できて一安心。駆け足にブースを回ったつもりだったが、気がつけば3時間ほど経っていた。エキスポ会場ではレースの受付も行った。このイベントは基本的には距離109kmのロングライドイベントだが、受付時に計測チップを1500円ほどで購入すればタイムも計測してくれる。
逆に言えば、タイムや順位を目指したいなら、参加者はチップを装着する必要がある。毎年、優勝争いは現役バリバリのプロコンチネンタル選手たちだ。ちなみに、このチップは、一度購入してしまえば、翌年の大会や他のレースでも使用できる。やや話が脱線したが、この大会は日本でも人気の高いロングライドイベントでありながら、健脚自慢ならレベルの高いレースを楽しむこともできるスタイルになっているのだ。
いよいよ大会当日。しかし風が強い……
ケープタウン滞在3日目の深夜、すなわち大会当日の朝。まだ世が明けぬ午前3時に窓の外のヤシの木が揺れる音で目を覚ました。寝ぼけ眼の中で、前の晩、大会公式フェイスブック上で発信されていたメッセージを思い出した。「今後24時間はケープタウンに強風が吹く可能があります。参加者のみなさん気をつけましょう。風が弱まることを願う!」 真っ暗な世界に風音だけが聞こえてくる。一抹の不安を抱きながら、出発の準備を進めた。
まだ朝日が昇りだす前から、参加者は自転車を走らせて、街の中心にあるシビックセンター前のスタートエリアへと続々と集まってくる。3万5000人規模なので、トップレーサーたちの第1ウエーブのスタートが6時15分から始まり、最終グループは10時をすぎる。ウエーブ数70以上。そのオペレーションは、さすが世界最大規模のイベントを長年続けてきただけあると感心してしまう。
さて、予報どおり、ケープタウンから望む美しい山であるテーブルマウンテンからの吹き下ろしの風が強烈のようだ。ビルの間を抜けて、さらにその強さを増している印象。それでも、定刻通り6時15分に第1ウエーブがスタートした。
いよいよ1978年から始まり今年で40回の節目の大会を迎える世界最大のロングライドイベントがはじまった。スタート地点、はためく南アフリカ国旗がちぎれんばかりの強風だが、その後も、順次スタートが切られていく。
しかし、強風は収まる気配がないどころか、荒れ狂っていく。スタート付近で立っているだけでも大変な状態だ。第4ウエーブがスタートラインに並んだタイミングで、たまらず主催者もスタートを一時中断せざるをえなくなってしまった。まさかの強風中止!? 誰もがそう思ったにちがいない。早朝のケープタウンがざわめきだした。 しかし、その時、スタート地点から400mほど先では、すでにスタートした参加者たちに強風が牙を向いていたのだった。
強烈なビル風は、風速30~40mほどの横風となり、ライダーもろとも吹き飛ばしていた。バランスを崩したライダーが重なるようにして大規模な落車が発生し、その場で観念して出走を取りやめる参加者も続出。軽量なロードバイクはまるで凧のように空へと舞い上がり……。マウンテンバイクやタンデムバイクでさえも、なすすべなし。風の渦が至るところで発生し、ちょっと自転車で走るどころではない。
大会史上初の強風による大会中止!
一時中断は、5分、10分と続き、主催者は大会続行の決断を迫られた。そして、中断からおよそ20分後、40年の歴史上初めての大会中止となってしまったのだ。地元のタクシー運転手も「ケープタウンは風が強いことが多いけど、今日ほどの風は体験したことがない」と驚きの様子だった。地元テレビ局のアナウンサーも、スタート地点で横風に煽られながら必死に状況を説明……。かざされた風速計の表示は最高時速103km!!常時風速20~30mは吹き荒れている状況だった。
あまりの強風に大会中止に抗議する参加者などいない。半数近くは海外からこのイベントを楽しみにやって来たにもかかわらず、多くのサイクリストが苦笑いを浮かべて、ケープタウンの観光へとプラン変更したようだった。
しかし、1年前に味わったあの夢のような109kmの道のりを再び体験できると思っていた矢先の出来事に、すでにまばらとなったスタート地点でしばし立ち尽くしてしまった。今回は、この素晴らしい 世界的ロングライドを伝えることが使命だとも思っていたので、残念なことになってしまった。
自然も含めてのロングライドイベントであり自転車だ。何が起きるかわからない。仕方がない。ただ、このままでは日本へは帰れない。南アフリカまでせっかく来たのに走らないという選択肢はないのだ(笑)
まさかの大会中止となった世界最大のロングライドイベント「ケープタウンサイクルツアー」。レポート第2弾では、まったく途切れることのない沿道の応援や、世界有数のシーサイドラインを走る大会の魅力を、昨年大会を振り返りながらお伝えしたい。また、南アフリカ滞在中のワインランド巡りなど、観光の様子もレポートする。
report&photo:Kenji.Hashimoto
取材協力:南アフリカ観光局
スケールが違う世界最大のロングライド
1年ぶりにネルソン・マンデラ氏が出迎えてくれた。街の中心にあるシビックセンターの壁に描かれた氏の肖像画に懐かしさを覚える。今年も再び南アフリカの南西端に位置するケープタウンへやってきた。日本からの長くも短い空の旅を楽しんだのち、無事に到着。日本との時差は7時間。市内のラグジュアリーなホテルのロビーで南アフリカ生まれの炭酸飲料アップルタイザーを一気に飲み干す。気温30℃、半袖1枚で過ごせる気候だ。キーンと冷えた炭酸に生き返った。
昨年に続き参加する世界最大の自転車イベント。しかも、今年で40回記念大会という伝統ある大会だ。イベントの名は「ケープタウンサイクルツアー」。南アフリカの観光都市ケープタウンで開催されている世界的に人気のロングライドイベントだ。さすがに行ったことがないと、やや地理感がつかめないと思うので簡単に場所を紹介しよう。
アフリカ大陸の南に位置する南アフリカ共和国。その南西端にあり全長約75kmのケープ半島が今回の舞台だ。ケープタウンのシグナルヒルからケープ半島の南端ケープポイントまで、約60kmにもわたり国立公園に指定されているケープ半島は、大西洋とインド洋に囲まれ、最南西端には、かの有名な喜望峰もある。ちなみに、ケープタウンの街は、半島の北部に位置する。
さて、ホテルでひと休憩したのち、大会のブースが出展しているサイクルエキスポ会場へ向かった。会場となるケープタウンスタジアムには、まだ大会2日前の金曜日だというのに大勢のサイクリストで溢れていた。
2010年にはサッカーW杯も開催された大きなスタジアム内にぎっしりと出展ブースが並ぶ。その数は100、いや120をゆうに超えていて、スケールの大きさを感じさせる。それもそのはず、世界40カ国以上から集まる参加者数は、なんと3万5000人だ。とにかくスケールが大きい。ボランティアスタッフは1000人体制で大会を支える。
ブースではホイールやタイヤ、あらゆるパーツが叩き売りされて活気づいている。ちょうど日本からフロアポンプを忘れたので、ちゃっかり格安で入手できて一安心。駆け足にブースを回ったつもりだったが、気がつけば3時間ほど経っていた。エキスポ会場ではレースの受付も行った。このイベントは基本的には距離109kmのロングライドイベントだが、受付時に計測チップを1500円ほどで購入すればタイムも計測してくれる。
逆に言えば、タイムや順位を目指したいなら、参加者はチップを装着する必要がある。毎年、優勝争いは現役バリバリのプロコンチネンタル選手たちだ。ちなみに、このチップは、一度購入してしまえば、翌年の大会や他のレースでも使用できる。やや話が脱線したが、この大会は日本でも人気の高いロングライドイベントでありながら、健脚自慢ならレベルの高いレースを楽しむこともできるスタイルになっているのだ。
いよいよ大会当日。しかし風が強い……
ケープタウン滞在3日目の深夜、すなわち大会当日の朝。まだ世が明けぬ午前3時に窓の外のヤシの木が揺れる音で目を覚ました。寝ぼけ眼の中で、前の晩、大会公式フェイスブック上で発信されていたメッセージを思い出した。「今後24時間はケープタウンに強風が吹く可能があります。参加者のみなさん気をつけましょう。風が弱まることを願う!」 真っ暗な世界に風音だけが聞こえてくる。一抹の不安を抱きながら、出発の準備を進めた。
まだ朝日が昇りだす前から、参加者は自転車を走らせて、街の中心にあるシビックセンター前のスタートエリアへと続々と集まってくる。3万5000人規模なので、トップレーサーたちの第1ウエーブのスタートが6時15分から始まり、最終グループは10時をすぎる。ウエーブ数70以上。そのオペレーションは、さすが世界最大規模のイベントを長年続けてきただけあると感心してしまう。
さて、予報どおり、ケープタウンから望む美しい山であるテーブルマウンテンからの吹き下ろしの風が強烈のようだ。ビルの間を抜けて、さらにその強さを増している印象。それでも、定刻通り6時15分に第1ウエーブがスタートした。
いよいよ1978年から始まり今年で40回の節目の大会を迎える世界最大のロングライドイベントがはじまった。スタート地点、はためく南アフリカ国旗がちぎれんばかりの強風だが、その後も、順次スタートが切られていく。
しかし、強風は収まる気配がないどころか、荒れ狂っていく。スタート付近で立っているだけでも大変な状態だ。第4ウエーブがスタートラインに並んだタイミングで、たまらず主催者もスタートを一時中断せざるをえなくなってしまった。まさかの強風中止!? 誰もがそう思ったにちがいない。早朝のケープタウンがざわめきだした。 しかし、その時、スタート地点から400mほど先では、すでにスタートした参加者たちに強風が牙を向いていたのだった。
強烈なビル風は、風速30~40mほどの横風となり、ライダーもろとも吹き飛ばしていた。バランスを崩したライダーが重なるようにして大規模な落車が発生し、その場で観念して出走を取りやめる参加者も続出。軽量なロードバイクはまるで凧のように空へと舞い上がり……。マウンテンバイクやタンデムバイクでさえも、なすすべなし。風の渦が至るところで発生し、ちょっと自転車で走るどころではない。
大会史上初の強風による大会中止!
一時中断は、5分、10分と続き、主催者は大会続行の決断を迫られた。そして、中断からおよそ20分後、40年の歴史上初めての大会中止となってしまったのだ。地元のタクシー運転手も「ケープタウンは風が強いことが多いけど、今日ほどの風は体験したことがない」と驚きの様子だった。地元テレビ局のアナウンサーも、スタート地点で横風に煽られながら必死に状況を説明……。かざされた風速計の表示は最高時速103km!!常時風速20~30mは吹き荒れている状況だった。
あまりの強風に大会中止に抗議する参加者などいない。半数近くは海外からこのイベントを楽しみにやって来たにもかかわらず、多くのサイクリストが苦笑いを浮かべて、ケープタウンの観光へとプラン変更したようだった。
しかし、1年前に味わったあの夢のような109kmの道のりを再び体験できると思っていた矢先の出来事に、すでにまばらとなったスタート地点でしばし立ち尽くしてしまった。今回は、この素晴らしい 世界的ロングライドを伝えることが使命だとも思っていたので、残念なことになってしまった。
自然も含めてのロングライドイベントであり自転車だ。何が起きるかわからない。仕方がない。ただ、このままでは日本へは帰れない。南アフリカまでせっかく来たのに走らないという選択肢はないのだ(笑)
まさかの大会中止となった世界最大のロングライドイベント「ケープタウンサイクルツアー」。レポート第2弾では、まったく途切れることのない沿道の応援や、世界有数のシーサイドラインを走る大会の魅力を、昨年大会を振り返りながらお伝えしたい。また、南アフリカ滞在中のワインランド巡りなど、観光の様子もレポートする。
report&photo:Kenji.Hashimoto
取材協力:南アフリカ観光局
リンク
Amazon.co.jp