2月11~12日にかけて行われたシクロクロス東京。普段はカップルや家族連れで賑わうお台場海浜公園を泥と砂を愛するシクロクロッサーが埋め尽くした2日間となった。今年、新設された種目「サンドスイッチエンデューロ」に出走したレポートをお届けしよう。



初開催のサンドスイッチエンデューロ 砂浜を自転車抜きで駆け抜ける第一走者たち初開催のサンドスイッチエンデューロ 砂浜を自転車抜きで駆け抜ける第一走者たち
さて今回、編集部の私・ヤスオカとフジワラがお邪魔したのは、シクロクロス東京に今年から加わった新種目「サンドスイッチエンデューロ」。決してサンドイッチを咥えて「遅刻、遅刻〜」とか言いながら走る競技ではない(やった人もいたみたいですが)。「ス」の一文字が重要で、つまり砂区間で交代する耐久レースである。

試走に臨むCWチーム試走に臨むCWチーム やってやるぜ!と勇ましいCWチームの2人やってやるぜ!と勇ましいCWチームの2人 サイクルスポーツチームと火花を散らすヤスオカサイクルスポーツチームと火花を散らすヤスオカ シクロクロス東京と言えば「砂地獄」というのは、全国のクロスフレンズにとっては、もはや常識。例年延々と続く真冬のビーチを自転車を押したり担いだり、たまに乗ったりしている参加者たちを取材しながら「ご苦労様です」と心の内で呟いてきた私だが、ふと考えてみるとシクロクロス東京を走ったことが無い。

イベントの本当の楽しさを伝えるには実走してナンボ!というのは、シクロワイアード鉄の掟である。エクストリームウェザープロトコルが適用されることもよくあるけれど。しかし、やはり特徴的なコース、しかも新種目で新ルールとなれば実際に体験しないといけないだろう、という理由で藤原”ヘタレ”岳人を誘い出場することに。要は、楽しそうだったので遊びに行こうぜ!ということで、かなーり気楽な気持ちでエントリーを行った。

さて、待ちに待ったシクロクロス東京当日。午前から行われたカテゴリーレーサーたちの様子を観戦していると、砂区間は基本的に押しのよう。乗っていくには、まあ相当テクニックとパワーが求められそうだ。しかもよくよく考えなくとも、砂浜を走った経験というのが、自分には無い。しかし、今回の相棒となるフジワラは東海CXのワイルドネイチャープラザで脱砂地獄童貞を果たしており、どこか余裕の表情である。うーん、これはまずいかも。

そんな感じで、不安いっぱいのまま招集エリアへ。ただし、自転車を持っていない手ぶら状態である。そう、この種目はスタートがル・マン方式となっており、スタート地点からピットまで約600mをランニングする必要があるのだ。この際なので改めてルールを説明すると、チームは2人(それ以上でも以下でもダメ)、1周ごとに必ず交代、ピットエリアで自転車を渡してから砂浜区間を200mランニングした後に走者交代という3つがサンドスイッチエンデューロの基本ルールである。

しかし、ヘルメットとレーパン、ビンディングシューズと完全装備に身を固めたレーサーたちが、自転車を持たずに固まっている光景は、なんとも落ち着かない。そして、号砲が鳴らされると同時に文字通りの全力ダッシュを決める参加者たち。たった50人ほどだが、ダダダダダ、とクリートが路面を削る音が周りを包み込む。2週間後に開催を控えた東京マラソンだって、ここまでうるさくはないだろう、という妙に冷静な思いと、このペースで600m先のピットまで走るの?という焦りとが入り混じりながらも、なんとか喰らいつく。

砂浜のランニング区間は予想以上のハードさだった砂浜のランニング区間は予想以上のハードさだった やっとバイクにありつけたヤスオカやっとバイクにありつけたヤスオカ

ピットで待っているみんなは超楽しそうピットで待っているみんなは超楽しそう
砂浜に入ると同時に騒音は消え去るが、替わりに聞こえてくるのは荒い呼吸音。普段、自分の脚で走ることなんて無かったことを否が応でも思い知らされる。砂に足を取られてしまい、前に進むのに必要な力は舗装路の倍以上。目指すピットははるか彼方だが、いつの間にやら先頭はその彼方に差し掛かろうとしている。

発祥となった24時間耐久レースでは、スタート時に混乱してしまい、事故が多発するという理由で取りやめになったル・マン方式スタートだが、ことシクロクロス東京においては自転車に乗る前からすでに決定的な差がついており、そんな混乱による事故が起こりそうな気配は欠片もない。ただ、酸欠でぶっ倒れそうな気配は濃厚である。

這うほうの体でピットエリアにたどり着くが、一刻も早く会いたい愛しのバイクが待っているのは100m先を折り返しもう一度戻ってきたところ。誰だこんなコース設定をしたのは。きっと真性のサディストに違いない。ふかふかの砂浜とコースディレクター、そして笑顔で応援してくれる皆さんと自分より速いペースで走る他のライダーを呪いつつ、何とか自転車が置いてあるピットに辿りつく。すでにフジワラに交代したいがここまでは前座。シン・ゴジラで言えば、蒲田くんが一度海に帰ったあたりである。

軽やかに走る女性ライダー(いや、この場合はランナーなのか?)軽やかに走る女性ライダー(いや、この場合はランナーなのか?) ファットバイクは砂浜では圧倒的に有利だファットバイクは砂浜では圧倒的に有利だ

砂浜エリアは基本押しである砂浜エリアは基本押しである マグロは速かった、きっと止まると死ぬのだマグロは速かった、きっと止まると死ぬのだ


砂浜に転がっていたMTBを起こし、朦朧とした頭で走りだそうとするが、そこは未だに砂浜。ついつい愛車を手にした安堵感から跨ってしまったが、もちろん漕ぎだせるはずもなく慌てて押しに切り替える。何とか森林区間に入ったところで、やっと乗車。スタートしてからたぶん5分も経っていないはずなのに、すでにオールアウト寸前なので、シングルトラック区間もそんなに踏んではいけない。というより、乗車区間は基本的に休憩区間、くらいの認識である。

フライオーバーを抜けて、一つ目のサンドエリアに突入。勢いで突っ込んで、行けるところまで乗ってみるが、1/4も進まないうちに撃沈。押して走って再びのシングルトラックへと突入するが、その前にシケインが現れるのでよっこらせっと、乗り越える。

後半のシングルトラックはかなりイージーなので気持ちよく。土嚢が詰まれたモーグルエリアがサンドエリアの入口で待ち構えている。午前中に取材していた時は、ドラマチックな走りを演出してくれる絶好の観戦スポットだったが、立場を変えれば感想も変わる。ただでさえも難しい砂区間なのに、よくもまあこんな物体を置いてくれたな、というのが正直な感想である。とはいえ、意外に土嚢のほうが硬いので乗り越えられれば、まっすぐ突っ込んだほうがスムーズ。もちろん突っ込んで前転、というリスクもあるけれど。

ヤスオカさん、おっせーなという表情のフジワラヤスオカさん、おっせーなという表情のフジワラ ヤスオカ「も、もう無理!」フジワラ「早く折り返してきてくださいねー」 鬼かヤスオカ「も、もう無理!」フジワラ「早く折り返してきてくださいねー」 鬼か

最初の1周を終え、このザマである最初の1周を終え、このザマである まあ、全日本チャンプも苦しそうだし、多少はねまあ、全日本チャンプも苦しそうだし、多少はね


いじわるなモーグルエリアを抜けると、再び目前に広がるは広大な砂地獄。また走るのか……という絶望的な気分に浸りつつも、もはや前の人が走っているから自動的についていくだけのマシンとなって自転車を押す。だが、あまりの辛さに(ちょっとでも乗れないかな)という甘い誘惑に駆られて乗車にチャレンジしてみたり。少し乗れはするものの、すぐにタイヤを取られて再びの押し。

フジワラは担ぎスタイルで砂浜を走るフジワラは担ぎスタイルで砂浜を走る 砂浜を乗車でクリアしようとするヤスオカ 砂浜を乗車でクリアしようとするヤスオカ  90度コーナーを曲がり、自転車を渡す区間が近づいてくると、(ヤスオカさん、遅っせーな)と顔に書いたフジワラが待っている。このヤロー、「ランニングとかできないっすよー!」とかなんとか言って第一走者を押し付けておいてこの態度である。しかし、自分が遅いのも事実。自転車を投げるようにして渡し、ラスト200mのランニング区間へ。

自転車を渡すことで少しは楽になるかと思いきや、そうは問屋が卸さない。むしろ杖代わりにしていた自転車がなくなることで、負荷が増しているようにすら感じる。折り返した後の100mが遠いが、とりあえずあそこまでいけば休める。それだけを念じながら、ピットへと倒れ込んだ。

「もー無理!あとは頼んだ!ゆっくり走ってきてえーよ!」と言ったつもりだが、呂律も回っておらず伝わっているかは甚だ怪しい。砂まみれになることもかまわず、倒れこむ。なんとか息が落ち着いてくるころ、砂浜には自転車を担いで走ってくるフジワラの姿が。

インターバルトレーニングの常だが、レストは短いものである。あっという間に近づいてきたフジワラは「たーのしー!」とか言いながら自転車を渡してくる。すっごーい!フジワラは砂が大好きなんだね!なんて胸の内で呟きつつ、ランニングエリアをこなすフジワラを眺める。

あの一歩一歩が、地獄へのカウントダウンなのだ。思えばフジワラも成長したものである。何もないところで転んでいた新人が、いつの間にやら死の宣告人にクラスチェンジしているのだから。

そんな成長著しい後輩が、ピットに戻ってくる。1周交代というルールすら恨みつつ、チップを着けて再びコースイン。最終的には、2人とも3周づつをこなし、何とか完走。僅差で競っていたサイクルスポーツ誌の本誌チームにフジワラが最後で差されるというオチをつけつつ、無事に1時間のレースを終えた。

サイクルスポーツチームの滝沢選手に差を付けるフジワラ△サイクルスポーツチームの滝沢選手に差を付けるフジワラ△ さすが砂コース経験者、どこか余裕の表情であるさすが砂コース経験者、どこか余裕の表情である


しかし、最後は余裕を決めすぎてサイスポチームに差されるしかし、最後は余裕を決めすぎてサイスポチームに差される
初開催となったサンドスイッチエンデューロはランニング半分、バイク半分のオフロードデュアスロンのようなイメージのレースで、普段ペダルを回しているだけのサイクリストにとっては新鮮な気持ちで楽しめる(苦しめる?)種目だった。

走っているときは苦しさしか感じなかったが、思い返せばそれもまた楽しかった(ような気もする)。靴のメッシュに入り込んだ砂を落とすたびに、しばらくあの辛さと楽しさがリフレインするのだろう。


text.Naoki.Yasuoka

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