意外にも日本からアクセスしやすいサイパン島を舞台に開催されたレース「ヘルオブマリアナ」。アットホームな大会運営に心地よさを覚えた大会前日が終わり、いよいよレースが始まる。南の地獄のレポート後篇をお届けします。



レース当日の受付は日の出前に始まるため、ヘッドライトを装着し計測チップの取り付けを行うレース当日の受付は日の出前に始まるため、ヘッドライトを装着し計測チップの取り付けを行う プロカテゴリーに参戦する森本選手、福本選手、中村選手プロカテゴリーに参戦する森本選手、福本選手、中村選手

日の出前にヘルオブマリアナのレースはスタートする。参加人数は170名とこじんまりしていることが特徴だ日の出前にヘルオブマリアナのレースはスタートする。参加人数は170名とこじんまりしていることが特徴だ
朝4時、携帯電話から鳴るアラームを止め、窓の外に目を向けてもあたりは闇に包まれている。サイクリストの朝は早い。前日、森本さんが「レースにもよりますが、朝食はレース開始の2時間前にはとるようにしています」と教えてくれたことを思い出し、参加者たちが目覚めているなら私もベッドから抜け出す。

この日私の取材体制はマリアナ観光局が用意してくれたピックアップトラックの荷台からカメラを構えることになっていた。しかし、私は実走取材を諦めきれず、荷台にバイクを載せ、途中から取材方法を切り替える用意も整えた。トップ集団と後続の参加者を捉えようという算段だ。

取材準備を終えスタート地点へ足を運ぶと既に参加者が集まっている。当日受付や簡易的なブリーフィングが行われており、こじんまりとしたスタート会場にしては活気を感じられる。いつの間にか約170名のサイクリストたちがスタートラインに並び、レース開始を今か今かと待ちわびている。北東方面のスーサイドクリフ一体のマッピ山が白み始めた6時半頃、オープン(プロ)カテゴリーと一般カテゴリーが一斉にスタートする。

MTBの方はマイペースでサイクリングを楽しんでいるMTBの方はマイペースでサイクリングを楽しんでいる 道路の一部が陥没している部分も通過する道路の一部が陥没している部分も通過する

先頭集団はあっという間に7名に絞られたようだ先頭集団はあっという間に7名に絞られたようだ レース序盤は1車線利用することができるレース序盤は1車線利用することができる


マリアナリゾート&スパを出発した集団は、まず最高標高地点のレーダードームへの登坂(距離3.6km/平均勾配6.8%)を往復する。1発めの登りを終えた段階で、14名がエントリーしていたプロカテゴリーですら7名の小集団に絞られていた。一般カテゴリーは言うまでもなく集団となっておらず、一人ひとりが懸命に足を進めている。

道端に佇む牛の脇を通り過ぎる牧歌的風景が現れたかと思うと、第二次世界大戦時の戦車や高射砲がそのまま残されたラストコマンドポストが目に飛び込んでくる。切り立った崖を見上げると砲撃を受けたのだろう穴が開けられているなど、様々な風景が目に飛び込んでくるのはサイパンならではだ。レース中は見ることができないが、シャカリキに走らないならば色々なところへ目を向けてみても良いだろう。

スーサイドクリフを上り詰める一歩手前から、サイパンの中心地ガラパン方面を見下ろす光景は圧巻の一言。陸地近くの浅瀬部分はエメラルドグリーン、サンゴ礁によって侵入を阻まれた白波、その外縁にはディープブルーの外洋。日本では見ることができない、風光明媚な光景は価値が高いように思わされた。

朝日に照らされながらマッピ山を登っていく朝日に照らされながらマッピ山を登っていく
朝日に照らされながらマッピ山を攻略した選手たちは、ジェットコースターのような急コーナーや登り返しを経て、サイパンらしい観光名所バードアイランド、グロットを巡り、バンザイクリフへと向かう。下りにも関わらずペダルを回し続けなければ減速するほどの強烈な風は、サイクリストたちを苦しめたはずだ。

バンザイクリフを折り返すと、第二次世界大戦時サイパンを拠点にしていた日本人の影を感じる北部地域から、島の南端へと一気に下る。アップダウンが厳しいエリアから抜け出し、海岸線を行くこの区間は平坦基調で気持ち良く走る。この時、交通量が多い幹線道路を走るが、片側2車線の場合は1車線を交通規制してくれており、スムーズに走ることができるのだ。

ラグーン内に停泊している民間船や軍用貨物船を眺めているといつの間にか、パシフィック・アイランド・クラブ(PIC)の補給地点まで到達している。選手たちはスタッフたちからボトルを受け取ることができるため、レース中の補給は心配ない。フィリピンやロシアの選手たちは、仲間たちが車で伴走しケアしていたため、そういう手段を選んでも良さそうだ。

ラストコマンドポストに佇む朽ちた戦車の脇を駆け抜けていくラストコマンドポストに佇む朽ちた戦車の脇を駆け抜けていく ラストコマンドポストの高射砲を横目に駆け抜けるラストコマンドポストの高射砲を横目に駆け抜ける

ライトブルーに彩られた珍しい教会の脇を駆け上がっていくライトブルーに彩られた珍しい教会の脇を駆け上がっていく 直線が長いのはアメリカの道路らしい。脇には南国らしい植栽が植えられている直線が長いのはアメリカの道路らしい。脇には南国らしい植栽が植えられている


PICを通過すると島の南端まではもうすぐそこまで来ている。サイパン国際空港から北上しライトブルーに彩られた教会が現れると平坦区間の終わりが告げられ、残り30kmの間アップダウンが続く山岳地帯へと入っていく。

トップ集団にとっては勝負どころとなりうる終盤の山岳地帯は、距離3km未満、勾配10%以上が度々現れ、登っては下りを繰り返し、消耗させられる。このイベントが地獄たる理由が凝縮された区間と言っても良いだろう。

ラオラオベイからキングフィッシャーに向かう途中に現れる道路工事区間も、サイクリストたちに試練を与えてくる。凹凸にハンドルをとられないように目を凝らし、パンクを回避しながら、ヘルオブマリアナ最後のキングフィッシャー・ゴルフリンクスへの登りへと差し掛かる。キングフィッシャー・ゴルフリンクスに至る下りは急峻かつコーナーが連続し、まるでジェットコースターに乗っているよう。折り返すと快調に飛ばしてきた下りを登ることになっているのは辛い。

強い日差しの中急斜面を駆け上がる強い日差しの中急斜面を駆け上がる フィリピンの選手と2人で抜け出した森本選手が、最後の登坂に差し掛かるフィリピンの選手と2人で抜け出した森本選手が、最後の登坂に差し掛かる

レース最終盤に向けて先頭を牽く森本選手レース最終盤に向けて先頭を牽く森本選手 優勝はフィリピンの選手でした優勝はフィリピンの選手でした


5名の小集団のままレースが推移していたプロカテゴリーは、キングフィッシャーに差し掛かる手前で、集団内に2名残していたフィリピンチームと日本の森本誠さんが抜け出す。あっという間に先頭と追走集団との差は縮まるどころか、開いていく一方。キングフィッシャーの最終登坂で1分以上の差が開き、勝負のゆくへはこの2人に託された。

海に飛び込むかのように錯覚させられる急勾配の下り坂を終えると、島の南北をつなぐメインストリートを7km北上するとフィニッシュだ。延々と直線が続くこの道は、無心になり淡々と踏む区間。緩やかな丘を幾つか超えるとマリアナリゾート&スパが目に飛び込んでくる。

中国からのサポーターたちが応援してくれる中国からのサポーターたちが応援してくれる キングフィッシャー付近でペットボトルの水を配っていたボランティアたち。非常に気さくでノリがいい18歳でしたキングフィッシャー付近でペットボトルの水を配っていたボランティアたち。非常に気さくでノリがいい18歳でした

ニュートラルサポートはいないものの、参加チームのスタッフに声をかけたらパンク修理を手伝ってくれたニュートラルサポートはいないものの、参加チームのスタッフに声をかけたらパンク修理を手伝ってくれた 優勝しなくても上位入賞者は人気者だ優勝しなくても上位入賞者は人気者だ


厳しい厳しい100kmの終了だ。ピックアップトラックに乗り、プロカテゴリーの到着を待つ私は、森本さんが先頭でフィニッシュすることを期待しながらカメラを構える。ドッと会場をわかせたのはフィリピン勢だった。約1分の差をつけ、森本さんを振り切っている。トップのフィニッシュタイムは3時間4分ほど。距離100km、獲得標高1,700mのハードコースでこのタイムは驚愕だが、普段選手として走っている人にとっては普通というから驚きだ。

数分後に中村龍太郎さんもマリアナリゾートに帰ってきた。勝つことは叶わなかったが、二人の顔にはどこか清々しさも感じられる。フィニッシュ後間もなく、森本さんと中村さんは様々な人に囲まれ、写真をねだられる。ヘルオブマリアナで活躍した選手は尊敬されていると実感させられた。

プロカテゴリーの選手たちが帰ってきた後も、一般カテゴリーの選手はまだまだ走っているため、私は自転車をトラックに載せ、キングフィッシャー付近まで戻ることに。一般カテゴリーの選手たちは、プロ選手とは異なり1人で淡々と己と闘っている様子だ。あまりにも勾配が厳しく押し歩いてしまう選手の姿も見かけられる。

ヘルオブマリアナは海を眺めながらのダウンヒルと、その折り返した上りが待っているヘルオブマリアナは海を眺めながらのダウンヒルと、その折り返した上りが待っている
実際に走り出してみると想像以上に気温が高く、水分補給を行う回数が多いことに気がつく。私の500mlのボトルはあっという間に空になってしまう事態に。カラカラに乾いた口が限界に達しようかというタイミングで、ボランティアがペットボトルの水を配っているテントにたどり着く。

私が英語を話す前に「Water?」と話しかけてくれ、気軽に水を欲していること気軽に伝えることができる。ペットボトル1本ではボトルをいっぱいにすることができなかったが、ボランティアの方が「One more?」とやはり声を掛けてくれる配慮は嬉しい。若さあふれる18歳のボランティアたちから元気も分けてもらったところで、コースに戻る。

あまりの急坂に押し歩きが入る参加者もあまりの急坂に押し歩きが入る参加者も 「Welcome to Koconut Ville」ココナッツを堪能できるのだろう「Welcome to Koconut Ville」ココナッツを堪能できるのだろう

未舗装の下りと登りが用意されており、参加者の精神力を削ってくる未舗装の下りと登りが用意されており、参加者の精神力を削ってくる 引き締まった未舗装路も走らなければならないヘルオブマリアナ。中々タフである引き締まった未舗装路も走らなければならないヘルオブマリアナ。中々タフである


走行中、対向車線を走っているライダーが手を振ってくれるのも心があたたまる。ほっこりとした気持ちでマリアナリゾートまで帰ってくると時刻は丁度12時だった。ホテルに顔をだすとヘルオブマリアナの参加者たちは、選手とその家族たちに振る舞われたビュッフェに舌鼓を打ち、優雅なランチタイムを過ごしている。ビールを片手にレースを振り返っているのだろうか。どこのテーブルも会話の華が咲き、大盛り上がりだ。

料理を一通り楽しんだ13時から表彰式が始まる。ヘルオブマリアナの表彰対象はとにかく多く、車種別、チームリレー、年代別など把握しきれないほどで、数多くの人が次々に表彰台へ上がっていく。誰でも表彰されるチャンスでもある。中にはテンションが上りすぎてホテルのプールに飛び込む人も。日本から参加した石松さんはなんと2回も表彰された!あまりにも対象が多すぎるせいか途中でブレイクタイムや、地元歌手やチャモロダンサーによるショータイムが挟まれ、会は進行していく。

仲間たちの晴れ姿を収めようと表彰台前には人が殺到する仲間たちの晴れ姿を収めようと表彰台前には人が殺到する
いい感じに日が傾いてきた頃、オープン(プロ)カテゴリーの表彰が始まった。日本から参加した森本誠選手(2位)と中村龍太郎選手(6位)、福本千佳選手(レディース3位)が表彰台に登り、森本選手と福本選手は賞金を手に握りしめて帰ってきた。一体どれほどの札束がその手に握りしめられていたのだろうか…?

朝6時から始まったヘルオブマリアナもついに大団円。レース中はしのぎを削りあった選手同士も、レースが終われば友達のようだ。健闘を称え合う握手とともにセルフィーが恒例行事かといわんばかり、会場の至る所で行われ日が暮れていった。

翌日日曜日の帰国便は午後4時頃出発のため、日本からの参加者はほぼフリーとなる。マリアナリゾート&スパからほど近い、世界的に有名なダイビングスポット「グロット」でシュノーケリングしてもよし、バギーをレンタルして遊んでもよし。レース後に思う存分にサイパンを満喫できるご褒美が待っているのが、ヘルオブマリアナのいいところだ。

レース後の火照った体にはあっさりとした和食が染み渡るレース後の火照った体にはあっさりとした和食が染み渡る 日本の皆さんでレース終了乾杯!日本の皆さんでレース終了乾杯!

石松さんは8年連続参加という猛者。今年も表彰台に乗っていました!石松さんは8年連続参加という猛者。今年も表彰台に乗っていました! 賞金を手にしたままプールへダイブ。歓喜の声をあげる賞金を手にしたままプールへダイブ。歓喜の声をあげる

地元歌手によるコンサートもたっぷりと堪能地元歌手によるコンサートもたっぷりと堪能 チャモロダンスのパフォーマンスも披露されたチャモロダンスのパフォーマンスも披露された


ヘルオブマリアナはサイパン島の美しい海、自然、風をたっぷりと味わえるローカルレースだ。走りごたえのあるコースは、シリアスレーサーからファンライド派まで充実感をもたらしてくれるだろう。

もしレーサーならば、日本からわずか3時間半で参加できる、海外ロードレースに参加し賞金を獲得しシーズンを締めくくってはいかがだろうか。プロカテゴリー以外も、チャレンジングなライドを楽しみたい方におすすめできる。頑張って完走すればきっと表彰してくれるはずだ。


report&photo:Gakuto.Fujiwara
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