10月10日(月・祝)、神奈川県川崎市にある向ヶ丘自動車学校にて第3回となるサイクルテクニックスクールが開催された。様々な選手をサポートするスマートコーチングが主催となった、地域密着型の自転車スクールの様子を紹介しよう。



向ヶ丘自動車教学校を舞台に開催されたサイクルテクニックスクール向ヶ丘自動車教学校を舞台に開催されたサイクルテクニックスクール
東急田園都市線、たまプラーザ駅から1.2kmほど、東名川崎ICから西に1kmほどの場所にある向ヶ丘自動車学校。多摩地区のサイクリストのなじみ深い所でいうと、よみうりランドを越えた向こうだとか、多摩水道橋を渡り、生田緑地を越えた先、というと伝わりやすいかもしれない。

そんな都心からもほど近い立地の教習所で、今年から開催されている新たな試みが「サイクルテクニックスクール」である。教習所が休みとなる祝日、普段は免許を取るべく教習生たちがエンストしたり、坂道発進で後進してみたり、縦列駐車で四苦八苦してみたりする教習コースが、サイクリストのための学校となるのだ。

エンデューロの部がコースインエンデューロの部がコースイン 各クラスごとに色分けされたゼッケンを着用します各クラスごとに色分けされたゼッケンを着用します

スタート前にレクチャーを受けますスタート前にレクチャーを受けます ブザーでリアルスタートを知らせる安藤さんブザーでリアルスタートを知らせる安藤さん


主催するのは数々の有名選手のサポートで知られるパーソナルコーチングスタジオ「スマートコーチング」。今年に7月に初開催されたのを皮切りに、9月に第2回が開催されており、今回で3回目となる。初回と第2回では座学を交えつつ、道交法の解説に始まり、バイクコントロールに習熟するためのドリル、集団走行に慣れるための並走コーナーリングの練習といった、普段の練習からレースまで、自転車を楽しむうえで必要となるスキルを学ぶことができるスクールとして開催されてきた。

その流れを受けて開催される第3回は、より実践的な形式として、エンデューロ及びクリテリウムのレース形式で行われることに。午前と午後の2部構成となり、それぞれエンデューロ方式の部とクリテリウム方式の部が行われる。

脚力や経験別で4クラスに分けられた参加者のみなさん。エンデューロでは速い2クラスが左レーンを、残りの2クラスが右レーンを走ることに。これは、富士スピードウェイやつくばサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイなど、関東のサーキットエンデューロでは右側にピットレーンが設けられることが多く、左からの追い越しが推奨されるレースが多いため。

クラス1の先導を務めるのは群馬グリフィンの管選手クラス1の先導を務めるのは群馬グリフィンの管選手 ヘアピン直後に登りという、テクニカルなレイアウトヘアピン直後に登りという、テクニカルなレイアウト

コーナーの手前での手信号の出し方をレクチャーコーナーの手前での手信号の出し方をレクチャー 女性ライダーもかなり参加されていらっしゃいました女性ライダーもかなり参加されていらっしゃいました


さて、集まった参加者たちにはそれぞれのクラスに色分けされたビブスが配られ、まるで自動二輪の教習生たちのよう。グループごとにコースインし、それぞれのクラスを担当するコーチ達からのレクチャーを受けていく。ある程度レース経験のある1クラスではコーナーのスムースな抜け方や位置取りなどが、レース経験の少ないクラスでは、集団での走り方や合図の出し方など、レベルに合わせて必要となる基礎がレクチャーされていく。

一通りのレクチャーが終われば、実戦形式でローリングスタート。それぞれのペースでコースを周回していく。コーナーが苦手そうな参加者がいればコーチがすかさず声を掛け、ブレーキングポイントやポジショニングなど、さまざまなアドバイスをくれる。もちろんコーナーだけでなく、集団への付き方であったり、シフトのタイミングであったり、エンデューロを楽に走るためのアドバイスが次々と投げかけられる。

エンデューロはクラス別に左レーンと右レーンに分かれて走るエンデューロはクラス別に左レーンと右レーンに分かれて走る 坂道発進のための登り坂は短いが、スキルの差が出やすいポイント坂道発進のための登り坂は短いが、スキルの差が出やすいポイント

川崎の住宅街をバックに教習所のストレートを走り抜ける川崎の住宅街をバックに教習所のストレートを走り抜ける レクチャーで学んだことを早速活かしながら走るレクチャーで学んだことを早速活かしながら走る


教習所を利用したコースはテクニカルで、走りがいのあるもの。大まかに言えば、外周路から一度内側に入り、ヘアピンを曲がった後、坂道発進用の登りをこなして外周路に戻る凹型のコース。だが、現れるコーナーの曲率が全て異なるほか、減速が必要なヘアピンの後に登りが現れるため、シフトダウンの歯数や前走者の動き等にも気を配らないと余計な脚を使う事になる。

つまり、脚以上に頭を使う必要のあるコースレイアウトであり、少しの脚力差であれば簡単に覆すことができるトリッキーなコースなのだ。テクニックの差が出やすいため、傍目で観察していても面白い。実際に走らずとも、見学にくるだけでも上達に繋がりそうだ。

マヴィックブースではテストシューズが並べられていたマヴィックブースではテストシューズが並べられていた マヴィックブースではシューズのフィッティングも行える一方、最新ホイールのレンタルもマヴィックブースではシューズのフィッティングも行える一方、最新ホイールのレンタルも 無線を通して話しかける管コーチ無線を通して話しかける管コーチ


45分のエンデューロが終わった後は、クリテリウムの部の始まりだ。サイクルテクニックスクールのクリテリウムの特長はなんと、全員が無線機を付けて走るという点。無線機によって、コーチや沿道で見守るスタッフがタイム差を伝えてくれたり、斜行などへの警告をしてくれたり、はたまた良いアタックについては応援してくれたり、後ろに残された集団に対しては檄を飛ばしてくれたりと、気分はさながらツールを走るプロ選手。

700mのコースをどのクラスも10周する。速いクラスであれば10分足らずでレースが終わるが、レース後にはしっかりとクールダウンし、その後に担当コーチによる講評が行われる。どうしてアタックが決まったのか、後続の集団はどうすれば良かったのか、どういった箇所で差がつきやすいのか、なぜ落車してしまったのか、一つ一つの問題をしっかりと解きほぐしてくれるので、その後の改善へと繋げやすい。

「講習中」「講習中」 周回ボードによって残り周回をカウント 着順判定は目視だ周回ボードによって残り周回をカウント 着順判定は目視だ

クリテリウムの一周目はローリングスタートクリテリウムの一周目はローリングスタート
クリテリウム終了後はみなでフィードバックを行うクリテリウム終了後はみなでフィードバックを行う どのクラスでもフィードバックは行われる。レース終了後直ぐに行い、またその経験を次のレースで直ぐに反映できるどのクラスでもフィードバックは行われる。レース終了後直ぐに行い、またその経験を次のレースで直ぐに反映できる


そして、そのフィードバックを活かすため、もう1度クリテリウムが行われる。1度目のレースの反省点を活かして走ることで、動きも洗練され、より速く、より安全にレースを楽しむことができるのだ。実際、2度目のクリテリウムではどの回でも落車する参加者はおらず、参加者全体のレベルが上がっているように感じられた。

2度目のクリテリウムを終えたあとも、再度コーチとともに振り返りを行う。1度目とはまた異なる反省点が浮かび上がってくる。コーチからの指摘もあれば、参加者同士での意見交換もあり、自分では見過ごしていた問題にも気づく機会があったようだ。

一連のプログラムが終わったら、同様のプログラムが午後から始まる。午前中にスクールを済ませて、午後から別の用事をするのもよし、午前中にロングライドに出て、午後からスクールを受ける自転車三昧の1日も良し。楽しみ方は人それぞれだろう。

サイクルテクニックスクールへと集まった参加者のみなさんサイクルテクニックスクールへと集まった参加者のみなさん



現役の自動車教習所を舞台に開催されるサイクルテクニックスクール。仕掛け人であるスマートコーチング代表の安藤隼人さんは、この取り組みを全国に広げていきたいという。

このイベントの仕掛け人であるスマートコーチング代表の安藤隼人さんこのイベントの仕掛け人であるスマートコーチング代表の安藤隼人さん クリテリウムでは簡単な表彰も行われたクリテリウムでは簡単な表彰も行われた 「自転車が本当の意味で地域に根差すために、こういったスクールは必要だと思います。ただレースをやるだけでは、地域の人には響かないですから。交通ルールの教育というレベルから地域の子供たちを交えてスクールを開催していくことは、かならず地域に受け入れられる取り組みだと考えています。

そういった想いもあって、前回はキッズクラスも開催したんです。そうすると面白いことに、大人たちも良い影響を受けて、反応が良いんですよ。分かりましたか?と問いかけると「はい!」と答える声が大きいんですよね(笑)そういう形での相乗効果もあります。

大人向けのスクール、子供向けのスクール、大人向けの模擬レース、子供向けの模擬レース。できればこの4つのテンプレートを作り上げて、組み合わせることで継続的に開催できるようになればいいですよね。プログラムを体系化して、このテストを受けると進級できるといった、スイミングスクールのような形態の自転車学校を作りたいんです。それが全国各地に出来て、その上の方が実業団や強豪クラブチームに繋がっていくような形ができれば、自転車競技自体が本格的なリーグとして認知され、地域からも有形無形を問わず支援されるようになるのではないでしょうか。

そして、そのためのホームグラウンドとしてうってつけなのが教習所であると思っています。交通ルールを学ぶための施設ですから、信号や横断歩道といったものも用意されているので交通ルールの教育にはぴったりでしょうし、模擬レースを行うためのレイアウトだってとりやすい。全国的に整備されている施設でもありますから、上手く関係を築くことが出来ればとても心強い存在だと思っています。」

より自転車競技が地域に根差したものとなるための一歩目を踏み出したサイクルテクニックスクール。実際、京都の宝池自動車教習所で大規模な自転車試乗会が行われていたりもする。自動車教習所×自転車という組み合わせは、まだまだ大きな可能性を秘めているのではないだろうか。今後の取り組みにも注目していきたい。

text&photo:Naoki.YASUOKA


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