国内でも希少なコウノトリの生息地として知られる兵庫県豊岡市にて、全国で初めてVélo MICHELIN(ヴェロミシュラン)のレンタサイクルが開始された。今回は、北には日本海が広がりながらも、南にはスキーが楽しめる程の広大な山々が連なるという特異な風土を持つこの地のサイクリングガイドをお届けしよう。



出石の城下町とミシュラングリーンガイドのイメージカラーを纏ったParis-Brest Sport出石の城下町とミシュラングリーンガイドのイメージカラーを纏ったParis-Brest Sport photo:Yuya.Yamamoto
ミシュランが発行する海外向けの国内観光ガイド「ミシュラングリーンガイドジャポン」の2013年度版にて2つ星(★★)を獲得し、ヨーロッパを中心とした多くの外国人観光客から注目を集めている豊岡市。南北ともに海に接する兵庫県の最北部に位置し、北には日本海が、南には山々が広がるという自然には事欠かない土地だ。

関西圏の太平洋側に住む人々にとっては温泉地として知られ、関東では那須高原や草津という位置づけと言えよう。列車では関西の都市圏からはJRの在来線特急に揺られて福知山経由で豊岡駅まで2時間半ほど、飛行機では市内のコウノトリ但馬空港まで大阪伊丹空港から40分ほどの距離にある。また、ミシュラングリーンガイドジャポンの掲載を記念して、昨年7月からは大阪発着のバスの運行が開始されている。

僅かであったがツーリング中のサイクリストの姿も僅かであったがツーリング中のサイクリストの姿も 市街地の周りには小高い山々が連なる市街地の周りには小高い山々が連なる

豊岡市のほぼ中央に位置するJR豊岡駅。京都から特急に乗って2時間半程の距離にある豊岡市のほぼ中央に位置するJR豊岡駅。京都から特急に乗って2時間半程の距離にある 出石名物という色とりどりの和傘出石名物という色とりどりの和傘

日本最古の時計台として知られる出石のシンボル辰鼓楼日本最古の時計台として知られる出石のシンボル辰鼓楼 土曜の朝には、ほのぼのとした昔ながらの朝市が開催されている土曜の朝には、ほのぼのとした昔ながらの朝市が開催されている


そして、ゴールデンウィークを前に日本ミシュランと、自転車用ミシュランタイヤを25年に渡って輸入してきた日直商会が共同制作した18台の「Vélo MICHELIN Paris-Brest Sport」が市内6つの観光スポットにてレンタサイクルとして運用され始めた。この施策はミシュラングリーンガイドに豊岡市が掲載されたことを受け、2次交通手段の不足に悩む同市を日本ミシュランが自転車でサポートするというもの。また、メーカーの協力によるスポーツバイクのレンタルは全国的に見ても希少なケースだ。

スポーツサイクルの活用と聞くと、自転車文化が栄えている地域と考えてしまうが、今回の取材中に見かけたのは実用車のみ。市内には本格的なスポーツバイクを扱うショップは存在しないそうだ。しかしながら、豊岡駅を中心に四方にサイクリングにも適した環境が広がっている。

豊岡市のシンボルであるコウノトリ豊岡市のシンボルであるコウノトリ (c)豊岡市市内の至る所にコウノトリのオブジェが飾られている市内の至る所にコウノトリのオブジェが飾られている

コウノトリの郷公園での一コマ。鐘を鳴らせば子宝に恵まれるとのことコウノトリの郷公園での一コマ。鐘を鳴らせば子宝に恵まれるとのこと photo:Yuya.Yamamoto
まず、その代表となるのが日本海にも程近い城崎(きのさき)温泉だろう。1300年以上の歴史を持ち、平安時代から市民に親しまれている市内屈指の観光スポットで、7つある外湯をVélo MICHELINと一緒に巡り、温泉街と日本海を一挙に楽しめるロープウェイに乗るのがおすすめだ。

城崎温泉と並ぶもう一つの代表的な観光スポットが出石城下町だ。関東では川越が小江戸として知られる様に、小京都と呼ばれている。木造建築が連なる町並みに加え、日本最古の時計台である辰鼓楼(しんころう)などどこを見回しても風情豊か。クラシカルなVélo MICHELINと一緒に町並みを写真に収めれば、どこでも絵になるだろう。

かばんの街としても知られる豊岡市。国内シェアは7割を誇るそうだかばんの街としても知られる豊岡市。国内シェアは7割を誇るそうだ 市内のかばんメーカーが集まって結成されたA&D27というブランド市内のかばんメーカーが集まって結成されたA&D27というブランド

処女作としてパニアバッグなど自転車用アイテムを数種類リリース処女作としてパニアバッグなど自転車用アイテムを数種類リリース 豊岡市の名所の1つである玄武洞公園豊岡市の名所の1つである玄武洞公園 (c)豊岡市


もちろん、豊岡市街とその周辺もサイクリングにはおすすめ。中でもサイクリストなら訪れておきたいのが、自転車用のパニアバッグやフレームバッグを展開する「A&D27」という鞄専門店だ。このショップの国内生産量の7割を占めるという「鞄の街」でもある豊岡市に居を構える数社の工房や関連企業が手を組んだブランドが運営。建物は元アマチュアロードレーサーで、現在は大阪市内でヴィンテージバイク専門店を主宰するイタリア人のルイジ・ヴェラーティ氏によってデサインが行われたそうだ。

加えて日本海を横目に見ながらのサイクリングも気持ち良いだろう。豊岡市の2分する様に流れる円山川の西側の河口に隣接する竹野海岸には砂浜に沿う一直線の道が通っており、思わずペダルに力を込めてしまうほど見晴らしだ。また、ダイナミックな景観が魅力の玄武洞公園や、勾配が僅か0.01%という緩やかな流れを持つ円山川の川沿い、市街から近いコウノトリの郷公園も是非訪れておきたい場所と言えよう。



全国で初めてレンタサイクルとして運用が開始された特別仕様のVélo MICHELIN

ここからは、全国で初めてレンタサイクルとして運用が開始されたVélo MICHELIN Paris-Brest Sportについて紹介しよう。上記の通り、このバイクは日本ミシュランと日直商会が共同でプロデュースし、東京都荒川区で競輪用フレームなどを手がける「LEVEL」を主宰するフレームビルダーの松田志行氏が設計を行っている(バイクのより細やかな情報についてはこちらから)。

豊岡市にレンタサイクルとして配備されたVélo MICHELIN Paris-Brest Sport豊岡市にレンタサイクルとして配備されたVélo MICHELIN Paris-Brest Sport photo:Yuya.Yamamoto
シートチューブにはコウノトリのバッジがあしらわれるシートチューブにはコウノトリのバッジがあしらわれる ヘッドチューブにはクラシカルなミシュランマンのロゴが配されたヘッドチューブにはクラシカルなミシュランマンのロゴが配された


フレームデザインは豊岡市の町並みに馴染みやすいトラディショナルなスタッガード型とされ、ヘッドチューブを筆頭に各チューブにはクラシカルなミシュランロゴが配されている。ハンドルには1890年代のスポーツサイクルでは主流であったセミドロップハンドルを、タイヤにはサイドウォールの大胆なロゴが特徴のミシュラン・ダイナミックスポーツを採用した。

そしてレンタサイクルとして導入されたParis-Brest Sportは市販品とは異なる特別仕様とされている。カラーはミシュラングリーンガイドの「グリーン(かつてミシュランから発売されていたAXIAL PROに近い色味)」を纏い、シートチューブには市のシンボルであるコウノトリのバッジがあしらわれている。そして観光の際の使い勝手を考慮して前カゴや前後のフェンダー、鍵などが取り付けられている。

「自転車で走るならば円山川沿いがおすすめ」と語った豊岡市の中貝宗治市長「自転車で走るならば円山川沿いがおすすめ」と語った豊岡市の中貝宗治市長 「本場から来た外国人観光客にも満足してもらえるバイクに仕上がっている」森田哲史氏(日本ミシュラン)「本場から来た外国人観光客にも満足してもらえるバイクに仕上がっている」森田哲史氏(日本ミシュラン)


特別仕様のParis-Brest SportはSMサイズが14台、MLサイズが4台の計18台が市内に配備され、上記のサイクリングガイドにて紹介した豊岡市街、城崎温泉、竹野海岸、出石に神鍋高原と但東シルクロードの2箇所を加えた計6箇所にて借りることができる。利用料金は時間と場所によって異なるものの1日最大1,000円だ。

4月20日(日)のレンタサイクル運用開始に先立って、豊岡市役所にてお披露目会見が開催された。会見に出席した日本ミシュランの森田哲史氏はParis-Brest Sportについて自信をのぞかせる。「ミシュランは自転車用タイヤを起源とするブランドなので、半端なモノは作れません。そこでLEVELの松田氏に設計をお願いしました。ヨーロッパを始め自転車の本場から来た外国人観光客にも満足してもらえる乗り味に仕上がっていると自負しています。特にダウンヒルのコーナーが気持ち良いバイクですね。」

フレームはクラシカルなスタッガード型。ダウンチューブは双胴だフレームはクラシカルなスタッガード型。ダウンチューブは双胴だ もちろんタイヤはミシュランを採用。仏英式変換アダプターが標準装備されるもちろんタイヤはミシュランを採用。仏英式変換アダプターが標準装備される

設計を行ったのは東京都荒川区でLEVELを主宰するフレームビルダーの松田志行氏設計を行ったのは東京都荒川区でLEVELを主宰するフレームビルダーの松田志行氏 ハンドルはセミドロップ型。市販車には異なり前カゴやフェンダーが装備されるハンドルはセミドロップ型。市販車には異なり前カゴやフェンダーが装備される


また会見に同席した中貝宗治市長は「こんなカッコ良いバイクで豊岡を走れるのはとても素敵なこと。市内には多くの観光スポットがありますが、特に円山川沿いをサイクリングするのがおすすめ。穏やかな流れをただ眺めるもよし、川沿いにある玄武洞公園や城崎温泉に立ち寄って見るのもよしですね」と語った。



今回の取材では、日本にはあまり認知度が高くないながらもサイクリングに適した土地があるのだと驚かされた。これからのゴールデンウィーク、そして夏休みに向けて旅行の行き先リストに豊岡市を加えてみては如何だろうか。Vélo MICHELINと走れば、きっと誰もが風情あふれる町並みと広大な自然に癒され楽しむことができるだろう。

text&photo:Yuya.Yamamoto


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