「ブルターニュのラルプ・デュエズ」と呼ばれる3級山岳ミュール・ド・ブルターニュの頂上ゴールで、ビッグネームによる激しいバトルが繰り広げられた。接戦を制したのはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。しかしトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)の健闘により、マイヨジョーヌは動かなかった。

雨のロリアンをスタートし、ニュートラル走行するプロトン雨のロリアンをスタートし、ニュートラル走行するプロトン photo:Makoto Ayanoレース主催者A.S.O.は平坦コースに分類しているが、終盤はアップダウンが続き、さながら「アルデンヌ・クラシック」。最後は3級山岳ミュール・ド・ブルターニュを駆け上がってゴールを迎える。平均勾配6.9%・登坂距離2kmの登りは、様々なタイプの選手に勝機を与える。

7月5日、フランス北西部のブルターニュ地方は生憎の、そしてブルターニュらしい雨降り。9km地点で5名が飛び出すと、メイン集団は直ぐさま容認の構えを見せた。

3分前後のリードを得て逃げるイマノル・エルビーティ(スペイン、モビスター)ら3分前後のリードを得て逃げるイマノル・エルビーティ(スペイン、モビスター)ら photo:Makoto Ayano逃げたのはイマノル・エルビーティ(スペイン、モビスター)、ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)、ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)の5名。タイム差は最大4分55秒に達した。

メイン集団をコントロールしたのは、マイヨジョーヌ擁するガーミン・サーヴェロではなく、登りスプリントでの勝利を狙うBMCレーシングチームとオメガファーマ・ロット。雨に濡れたブルターニュの丘陵地帯で、逃げとのタイム差を慎重に調整する。

雨に濡れたブルターニュ地方を進む雨に濡れたブルターニュ地方を進む photo:Cor Vos79km地点の4級山岳ラズ峠と92km地点のスプリントポイントは、いずれもフーガーランドが先頭通過。2分30秒遅れでスプリントポイントに達したメイン集団は、前日のステージ優勝者タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)を先頭にゲートを通過して行く。

濡れた路面はパンクを誘発し、チームカーに向かって手を挙げながらプロトンから脱落して行く選手が続出。ゴールまで20kmを切ったところで、エヴァンスはメカトラでバイク交換。しかしいずれの選手も無事に集団に復帰した。

オメガファーマ・ロットとBMCレーシングチームが集団を率いるオメガファーマ・ロットとBMCレーシングチームが集団を率いる photo:Makoto Ayanoオメガファーマ・ロットとBMCレーシングチーム、そしてガーミン・サーヴェロによる追撃により、ラスト11km地点で逃げグループのリードを1分を割り込む。フーガーランドらの懸命の逃げは、ゴールまで4kmを切ってすぐに吸収。

ラスト2kmから始まるミュール・ド・ブルターニュは、フラムルージュ(ラスト1kmアーチ)まで勾配10%ほどの登りが直線的に続く。ここで真っ先に動いたのは、ディフェンディングチャンピオンのアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)だった。

ミュール・ド・ブルターニュでアタックするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ミュール・ド・ブルターニュでアタックするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vosすでに総合でライバルたちから遅れを取っているコンタドールが腰を上げると、すぐさまジルベールらが反応。コンタドールのハイペースがメイングループを絞り込む。しかしライバルを突き放すほどの決定力はなく、10名が先行する形でフラムルージュをクリア。

牽制しながら緩斜面を進む10名の先頭グループ。スプリント力のあるジルベールやフースホフトがその中に残ったが、登りで消耗したため精彩を欠く。ラスト200mからエヴァンスが早めのスプリントを仕掛け、コンタドールが応戦。

ミュール・ド・ブルターニュで牽制するカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)とアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ミュール・ド・ブルターニュで牽制するカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)とアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vos今大会のマイヨジョーヌを争うと見られる2人による一騎打ちは、両者ハンドルを投げ込むほどの接戦に。コンタドールが片手を挙げてゴールしたが、写真判定の結果、エヴァンスのステージ優勝が決まった。

ツールのステージ初優勝を飾ったエヴァンスは「最後のスプリントは前を見て踏み続けた。コンタドールが迫ってきていたのを察したけど、何とか持ち堪えたんだ。接戦だったので、どちらが先にゴールラインを切ったのか判断がつかなかった。審判に結果を告げられるまで勝ったと言う自信がなかったよ」と打ち明ける。

エヴァンスは記録上ステージ通算2勝目。2007年大会の個人TTで優勝を飾ったアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)が後に失格処分となったため、ステージ2位のエヴァンスが昇格している。つまりこの日が初めてのツールステージ表彰台。

先頭でゴールに飛び込むアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)先頭でゴールに飛び込むアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Makoto Ayano

「ラスト20kmあたりでメカトラが起こったんだ。誰かと接触してリアディレイラーが歪み、変速に支障を来した。走り続けることに問題はなかったけど、ゴール勝負では全てが完璧でなければならない。ジョージ(ヒンカピー)は彼の経験から『今すぐバイクを交換しろ!』とアドバイスをくれた。バイク交換後はブルグハードが牽いてくれて、登りの手前ではジョージが仕事をしてくれた」。ステージ優勝の表彰台に上がったエヴァンスは笑顔を絶やさない。

ステージ優勝に輝いたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ステージ優勝に輝いたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos「あくまでも目標は総合成績。このステージ優勝はボーナスだ。トラブルなく先頭でゴールすることが出来てファンタスティック。この勝利はチームメイトのおかげ。自分の走りに自信を得たし、チームメイトへの信頼は厚い」。

これまでツールではツキに見放され、トラブルでタイムを失ってきたエヴァンス。しかし今年はここまで順調にレースを進めている。コンタドールとの総合タイム差は依然として1分41秒ある。この日はアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)との総合タイム差を8秒拡大させた。

ゴール後、追い込んだトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)が苦しみに伏せるゴール後、追い込んだトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)が苦しみに伏せる photo:Cor Vosそんな好調のエヴァンスに食らいつき、マイヨジョーヌを守ったのがトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)。スプリンターの中では屈指の登坂力を誇る世界チャンピオンは、「今日は最高のクライミングが出来たと思う。アタックに反応せず、自分のリズムで登り続けたんだ。急勾配区間で少し距離が開いてしまったけど、勾配が緩んだところでアウターにかけ、スプリントして前に追いついた。その追走で今日一番の力を使ったので、ステージ優勝を狙うのは不可能だった」と振り返る。

29歳の誕生日をチームメイトたちと祝うフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)29歳の誕生日をチームメイトたちと祝うフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vos「さすがに登りでクライマーに対抗するのはかなりの骨折りだった。でも今こうしてマイヨジョーヌを受け取ることが出来て満足だ。明日からの目標は、マイヨジョーヌを守り、そしてタイラー(ファラー)でステージ優勝を狙うこと。他チームからの攻撃が予想されるけど、タフなゴールが設定された土曜日のステージまでジャージを守れると思う」。

ステージ優勝候補の筆頭に挙げられたジルベールはスプリントに絡めずステージ5位。29回目の誕生日を勝利で祝うことが出来なかったジルベールは「コンタドールが急勾配区間でアタックしたとき、出遅れてしまった。土曜日(第1ステージ)と同じ脚があったなら、カウンターアタック出来ていたと思う。エヴァンスのスプリントはパワフルだったよ」と、かつてのチームメイトを讃えた。

選手コメントはレース公式サイト、ならびにフランス・レキップ紙より。


ツール・ド・フランス2011第4ステージ結果
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)   4h11'39"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)
3位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
4位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)
5位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
6位 トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)
7位 マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム)
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
9位 ユルゲン・ファンデワール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
10位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)
11位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)          +06"
12位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)
13位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
14位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)           +08"
15位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)
16位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
17位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
18位 ドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ)
19位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・サーヴェロ)
20位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)      13h58'25"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)          +01"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)       +04"
4位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)         +08"
5位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)          +10"
6位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
7位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)           +12"
8位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)
9位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
10位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック)

11位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)             +13"
15位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)       +18"
17位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)             +20"
18位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)        +32"
20位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   +39"
23位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)      +1'03"
26位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)           +1'12"
41位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)   +1'42"
55位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)             +2'29"
57位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)          +2'36"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)            82pts
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)     80pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)     77pts

山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)     2pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)     1pt
3位 ミカエル・ドラージュ(フランス、FDJ)               1pt

新人賞 マイヨ・ブラン
1位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)         13h58'37"
2位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)     
3位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、HTC・ハイロード)      +01"

チーム総合成績
1位 ガーミン・サーヴェロ                      41h05'55"
2位 チームスカイ                             +02"
3位 レオパード・トレック                         +04"

敢闘賞
ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)

text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Cor Vos