スコットの誇るエアロレーサー、FOILをインプレッション。TTバイク然としたフォルムが生み出す走行性能はどれほどなのか。チームDSM・フィルメニッヒを支える当代きってのエアロロードの素顔に迫る。



スコット FOIL RC

世はまさにエアロ黄金時代。エアロでなければレースバイクにあらず、というのはもはやレーシングバイクブランドにとっての共通認識となり、各社がこぞって空力競争に邁進している。

そんな花盛りのエアロロードというカテゴリーを創出したのが、サーヴェロのソロイストやフェルトのARといった翼断面形状のチュービングを採用したバイクたちであったのは間違いない。一方で、今日のエアロ事情、つまり軽量オールラウンダーにも高度なエアロダイナミクスが付与されるような状況を生み出したゲームチェンジャーとなったのが、スコットのFOILだ。

エアロダイナミクスを最大化するシートチューブの造形
極限まで薄くされたシートポスト
UCIの新規定を最大限に活かした形状のフォークブレード



2011年にデビューした初代FOILは、ロードバイク界に初めて「カムテール」というチューブ形状を持ち込んだ。翼断面チューブに対し、より丸パイプに近い形状のカムテールチューブは、空力性能はほぼそのままに、剛性バランスに優れ、軽量に仕上げられるというメリットを持っていた。

逆に言えば、当時の翼断面形状のエアロロードが空力性能を高めるために他の要素を犠牲にしていたのに対し、初代FOILはレーシングバイクに求められる要素を高次元でバランスさせつつ、空力性能を付加するという総合力の高さをもった「エアロオールラウンダー」の草分け的存在であったと言えよう。

多くのファンを得たFOILは、その後第2世代にフルモデルチェンジ。よりエアロシェイプへと進化した第2世代は、予想外の勝利でその評価を盤石のものとした。2016年のパリ~ルーベにおいて、マシュー・ヘイマンが駆った二代目FOILは、石畳をものともせずに飛ぶような走りを披露。エアロロードが不利とされる悪路での振動吸収性やトラクション性能といった要素において、並み居るライバルたちが使用していた石畳仕様のスペシャルバイクに決して劣らないと証明してみせた。

ケーブはフル内装とされつつ、ポジション変更にも配慮されたシステムを採用
前方投影面積を最小限に抑える



ダイレクトマウントハンガーを採用する
マッシブなチェーンステー



ディスクブレーキ化やケーブルフル内装といったアップデートを施されつつ、長いモデルライフを送った第2世代FOILだったが、ついに昨年フルモデルチェンジを発表。2023モデルとして、第3世代がデビューを果たした。

最新のFOILが目指したのは、最高のエアロマシンであること。初代のコンセプトであったエアロオールラウンダーというコンセプトを前年にモデルチェンジしたADDICTへ譲ることによって、FOILはエアロロードとして純度を高めることが可能となったのだ。

2021年に緩和されたUCIのバイクフレームレギュレーションに適合する新時代のエアロレーサーとして、エアロダイナミクスを高めるためにあらゆる技術が取り入れられた。スコットのTTバイクであるPLASMAの開発で得たエアロテクノロジーがフル投入され、新型FOILは長足の進化を遂げた。

トップチューブはフラットに仕上げられる
ダウンチューブもまた新規定の中で最大の効果を発揮する形状とされている



バイクだけでなく、ライダーまでを一つの系としてとらえ、実走行時に最速となる設計が各所に施されている。ボリューミーなヘッドチューブは、後ろに位置するライダーが生み出す空気抵抗を減らすボルテックスを生み出す役割を担いつつ、ダウンチューブやシートチューブ、シートステーはより薄く、より縦長となり、空気抵抗を徹底的に削減。

徹底的なドラッグ低減の結果、前作に対して40km/h走行時に16Wのエネルギーセーブを可能とする性能向上を果たしたという。これは、前作の40km/h走行時の出力で40kmを走った場合、1分18秒のアドバンテージを生み出すことを意味する。

このように、エアロ性能に磨きをかけたFOILだが、実のところ重量や快適性といった側面においても進化を遂げており、エアロオールラウンダーという、初代からの血脈はしっかりと受け継がれている。カーボン積層などを見直すことで、剛性を確保しつつ前作に対して重量を9%削減し、登坂性能を強化。

分割式シートポストによってライトの装着などを可能としつつ、前後方向へのしなりやすさを確保
BB周辺はたっぷりとしたボリュームに
ダウンチューブはフロントホイールで生まれる乱流を整える



快適性に関しては、新たに開発されたシンクロス製のハンドルとシートポストが大きな役割を担っている。FOIL専用に設計されたステム一体型ハンドルのクレストンiC SLエアロは、扁平形状とされたバートップ部分が高い空力を発揮しつつ、縦方向への柔軟性も確保。積極的にしなることで、手から伝わるダメージをカットしてくれる。

ダンカン SL エアロCFTシートポストは3ピースという特徴的な構造が与えられている。シートポスト本体は串のような形状で、シートチューブに合わせた形状のシムと組み合わせてバイクに装着する。細いシートポストが前後にたわみやすいようにシムの上部はしなやかな素材とされている。更に、そのシムと交換できるリアライトユニット"キャンベル20 エアロiL"も用意されており、エアロを損なわず安全性を確保可能となっている。

空力、重量、快適性と、エアロレーサーに必要となる要素全てを進化させた三世代目のFOIL。今回インプレッションするのは、日本に導入される完成車パッケージの中では最上級となるFOIL RC 10。HMXカーボン製のフレームにアルテグラDI2、そしてシンクロスの50mmハイトモデルである" Capital 1.0 50"を組み合わせた、レースレディパッケージの一台だ。それでは早速インプレッションに移ろう。


― インプレッション

「FOILシリーズらしい高い剛性が光るスプリンターマシン」鈴木淳(なるしまフレンド)

「FOILシリーズらしい高い剛性が光るスプリンターマシン」鈴木淳(なるしまフレンド)

まさに、見た目通りの性格の一台です。もう「平坦はまかせておけ」というバイクで、きっと皆さんが想像する通りの乗り味ですね。

フレームとしてはセカンドモデルということで、この上のグレードのカーボンを使ったハイエンドがあるそうですが、正直なところ今の私のレベルでは踏み負けること間違いなし、という剛性感が際立ちますね。

平地で40km/h巡航を楽々とやってのけるようなレベルのライダーが乗ってこそ、実力を引き出せるようなバイクですね。そういった意味で、レース志向のサイクリストにこそオススメしたい一台です。

とはいえ、意外に走り自体のクセが強いということは無いのが面白い所です。これぐらい振り切ったエアロロードだと挙動の節々にちょっとした扱いづらさが顔を出す部分がありますが、FOILは違和感なく馴染めます。

「剛性感とエアロ性能が突出したレーシングバイク」鈴木淳(なるしまフレンド)

特にそういった違和感が出やすいのが、バイクを倒した時ですが、例えばダンシングしても素直にバイクを振れますし、コーナーでもアンダーが出ることなくニュートラルに曲げていけます。

登りに関しては、車重も軽いわけではないですから得意分野とは言えないですね。ただ、全く登れないという訳でもなくて、やはりパワーがあれば進ませられるというイメージですね。しなりを活かしてリズミカルに走らせるバイクとは対極に位置する踏み味で、とにかく乗り手の出力を一滴もロスせず受け止めるような剛体を踏みつけていく、そんな一台です。

これだけ踏み味は硬いのですが、乗り心地、快適性という側面ではしっかりとバランスが整えられているのも興味深い点ですね。28Cのタイヤが影響している部分は大きいでしょうが、クリンチャーですし、フレーム自体の振動吸収性もしっかりしているのでしょう。

総じて、剛性感とエアロ性能が突出したレーシングバイクですね。ウィークポイントとしては車重が嵩むことが挙げられますが、それ以外のハンドリングやバイク自体の挙動といった部分は非常に素直な性格に仕上げられています。

空力に優れたバイクなのでトライアスロンにも良さそうですが、ランへの足残りを考えるとむしろ短距離のタイムトライアルの方が使いやすいのではないでしょうか。パワーのある大柄なレーサーが乗って、スプリントで勝利を狙うような、そんな使い方が一番しっくり来そうですね。


「扱いやすさが光るスプリンターマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「どこまでも加速できるようなキャパシティがあるスプリンターマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

これぞエアロロードと言える一台でした。ブラケットを握っての巡航時でも自分の想像以上にバイクがどんどん前に進んでくれますし、高速域からのスプリントで更に加速をしようと思った時にも限界を感じられないくらいスピードが伸びていってくれます。

時速40kmに達した時にこのフレームの性能が100%引き出されるような感覚があります。高速域ではエアロのおかげでスピード維持は楽になりますし、何よりも安定性した状態で高速巡航が行えるようになります。

その走行性能を生み出しているのはエアロロードらしい剛性感だと思います。フォークを含めたフロント部分やボトムブラケット周りがガッチリとしていて、ペダリングに対してフレームのウィップはほぼなく、踏み心地としては重厚感がある印象です。トラックバイクのような剛性感ですね。

ペダリングパワーが逃げることがないので、入力し続ける間はエアロ性能も相まってどこまでも加速してくれるようなポテンシャルがあります。ただこの硬さのフレームを乗りこなすためにはパワーが必要で、体重が軽ければ4倍、5倍くらいのパワー(W)を踏み切れる力が求められます。

「エアロロードだが、ダンシングでバイクを振りやすい」高木三千成(シクロワイアード編集部)

そのパワーが発揮されるのであれば、シッティングで踏み続けるようなタイプや、ダンシングで大きくバイクを振りながら踏んでいくようなタイプのペダリングでもパワーを受け止めてくれるため、ペダリングの仕方に対するキャパシティがあるのがFOILの良さです。

具体的にはエアロロードにありがちなバイクが倒れにくさなど癖があるのかと思っていましたが、その気持ちを良い意味で裏切るように実際にはハンドリングやダンシングでバイクを振る動作を自然なフィーリングで行える、オールラウンドレーサーらしい側面があります。

特に登りに入ると見た目から受ける印象とは異なって、軽めのギアでシャカシャカとペダリングしてあげたほうが意外と進んでくれました。その時ばかりはクライミングバイクのようなので、ロメン・バルデが山岳地帯でもFOILを選んでいた理由が体感できました。パワーでねじ伏せればどこでもポテンシャルを発揮してきるプロスペックのバイクなのでしょう。

今のトレンドはエアロ+軽量なバイクになっていて、純粋なエアロロードはエアロを極めたバイクになりがちです。FOILも見た目は純粋なエアロロードなのですが、扱いやすさは断然優れているという、ありそうでない唯一の存在になっていると思います。

パワーを出せるタイプのレーサーが乗ってあげることで、FOILの性能は光るでしょう。登りの斜度が緩いサーキットエンデューロでは足を温存できる場面は多く、勝負所でライダーの味方になってくれると思います。

スコット FOIL
フレーム:FOIL RC Disc HMX
コンポーネント:Shimano Ultegra DI2
ホイールセット:シンクロス Capital 1.0 50
重量:7.9kg
サイズ:XS/49 - S/52 - M/54
価格:990,000円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木淳(なるしまフレンド)鈴木淳(なるしまフレンド) 鈴木淳(なるしまフレンド)

日本屈指のスポーツバイクショップとして知られるなるしまフレンドを代表として率いる。ツール・ド・台湾に参加するなど実力派レーサーとして知られ、MTBやシクロクロスでも活躍。今はサイクリングを楽しみつつ、トライアスロンにも参加中。24年の目標は富士ヒルクライムでブロンズを獲得すること。

なるしまフレンド神宮店
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高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。