現存するクラシックレースの中で最も長い117年の歴史をもつ「ラ・ドワイエンヌ=最古参」ことリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが4月28日に開催される。春のクラシックシーズンの締めくくりにふさわしい、フィニッシュ地点をリエージュに戻した伝統の一戦をプレビューします。


フィニッシュ地点がリエージュに移動 正真正銘LBLに

「コート・ド・サンロシュ」を上る選手たち「コート・ド・サンロシュ」を上る選手たち
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019 photo:A.S.O.歴史あるクラシックレースは数あれど、LBLと略されるこのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。リエージュの第1回大会が開催されたのは今から117年前の1892年。ツール・ド・フランス(1903年〜)はもちろんのこと近代オリンピック(1896年〜)や日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長く、「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。

2度の大戦(実際にコース周辺が激戦地となった)などで歴史にブランクが空いたため、2019年は開催105回目。「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の1つに数えられており、格式の点ではアルデンヌクラシック3連戦の中で際立って高い。

ベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南方に広がる丘陵地帯だ。コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復。1992年からリエージュ近郊の街アンスでフィニッシュを迎えてきたが、2019年は久々にリエージュ市内にフィニッシュ地点が移された。コース変更の影響は後述する。

「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってフィニッシュ」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と共通だが、登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴だ。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」であると言える。ほとんどの登りは距離2km以上であり、1日の獲得標高差は4,500mに達する。コース全長も256kmと長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。


「PHIL」の路上ペイントが並ぶコート・ド・ラ・ルドゥット「PHIL」の路上ペイントが並ぶコート・ド・ラ・ルドゥット photo:Kei Tsuji

細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は11カ所ある。選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られる急勾配の「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11.1%)」を経て、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。

エディ・メルクスの記念碑が建てられた最大勾配17%の名物坂「コート・ド・ストック(平均勾配12.5%)」と、その前後の「コート・ド・ワンヌ(平均5.1%)」と「コート・ド・ラ・オートルヴェ(平均5.6%)」が2015年以来となる復活を遂げる。リエージュへのフィニッシュ地点変更と相まって、2019年の第105回大会は原点回帰、より伝統的なコースへと生まれ変わった。

本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、フィニッシュ37km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.9%)」から。地元の英雄フィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)の出身地に近く、「PHIL」と「ジルベール(カタカナ!)」のペイントが施されたこのラ・ルドゥットは最大勾配が17%に達する上りで、頂上通過後の吹きっさらし区間も選手たちを苦しめる。


「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」を先頭でクリアするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」を先頭でクリアするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)
ラ・ルドゥット通過後は「コート・ド・フォルジュ(平均7.8%)」と「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均11%)」が待ち構える。2018年まで最後の勝負どころとして残り7km地点に鎮座してきた「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」はコースから省かれた。つまり、残り15km地点で頂点を迎えるラ・ロッシュ・オ・フォーコンと、短い下り区間を挟んだ後の全長1.8km/平均5%の無名坂(通りの名称は同じくラ・ロッシュ・オ・フォーコン)がクライマーたちにとってのラストチャンスとなる。

例年は残り1.5kmを切ってから登場したアンスの緩斜面(勾配4%)で勝負が決したが、2019年はリエージュ中心部のアヴロワ大通りに向かって4kmの平坦路が続く。つまり、コース全体の難易度はそのままだが、コース終盤の難易度は下がっていると言える。例年アンスの緩斜面で勝負をかけていたクライマーたちは例年よりも早め早めに動いてくるだろう。つまり、例年以上にラ・ロッシュ・オ・フォーコンとその前後の登りでアグレッシブなアタック合戦が予想される。終盤の登りのボリュームが減少=小集団スプリント向きとは言えない。

心配されるのは週末にかけて下り坂の天候だ。日曜日のリエージュの天候は雨時々曇りで、降水確率は70%。気温も10度ほどまでしか上がらないため、選手たちは万全の雨&寒さ対策で6時間半におよぶレースに挑まなければならない。


リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019 photo:A.S.O.
登場する11ヶ所の登り
No. 距離 残り距離 名称 登坂距離 平均勾配
1 75km 181km コート・ド・ラ・ロッシュアンアルデンヌ 2.8km 6.2%
2 121km 135km コート・ド・サンロシュ 1.0km 11.2%
3 161km 95km コート・ド・モンルソア 1.7km 7.9%
4 169.5km 86.5km コート・ド・ワンヌ 3.6km 5.1%
5 176km 80km コート・ド・ストック 1km 12.5%
6 181.5km 74.5km コート・ド・ラ・オートルヴェ 3.6km 5.6%
7 194.5km 61.5km コル・ドゥ・ロジエ 4.4km 5.9%
8 207km 49km コル・ドゥ・マキサール 2.5km 5.0%
9 219km 37km コート・ド・ラ・ルドゥット 2.0km 8.9%
10 231km 25km コート・デ・フォルジュ 1.3km 7.8%
11 241km 15km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 1.3km 11.0%


優勝候補は好調アラフィリップや最年長バルベルデ?

登れるスプリンターにもチャンスがあるアムステルゴールドレースより、激坂に特化した爆発力を必要とするフレーシュ・ワロンヌよりも、このリエージュはズバリ登坂力がものを言う世界。そのため、必然的にグランツールで総合優勝を争うようなクライマー系オールラウンダーたちがリエージュに集まってくる。

5度の優勝者エディ・メルクスに続く4度優勝の成績を残しているのが、3日前に39歳の誕生日を迎えたばかりの世界王者アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)。出場選手の中で最年長のベテランにとって、コース変更は吉と出るか凶と出るか。フレーシュ・ワロンヌでは予想外の失速で11位に終わったが、誰もが攻め方を探り合うような新コースレイアウトではバルベルデの経験が生きるはずだ。


アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:CorVosジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos

大会連覇を狙うドゥクーニンク・クイックステップは贅沢な悩みを抱えている。ディフェンディングチャンピオンのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)は欠場するものの、チームにはジュリアン・アラフィリップ(フランス)とフィリップ・ジルベール(ベルギー)という勝てるエースが揃っているのだ。

フレーシュで大会連覇を射止めたアラフィリップは今シーズンすでに9勝(世界最多)。激坂の名手アラフィリップは2015年のリエージュで2位に入っている。ミラノ〜サンレモで勝利したように、アラフィリップは仮に小集団のスプリントでも勝ちを狙える。2011年にこの地元ワロン最大のタイトルを獲得したジルベールは、2週間前のパリ〜ルーベで4つ目のモニュメント制覇を果たした。フレーシュをスキップしたジルベールはフレッシュな状態でリエージュに乗り込む。2018年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位のエンリク・マス(スペイン)が再びアシストとして活躍することになりそうだ。

フレーシュでアラフィリップとの一騎打ちに敗れたヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)も今シーズン好調ぶりが目立つ選手。リエージュでは9位が過去最高位だが、現在最も登れているオールラウンダーであり、アムステル3位、フレーシュ2位、そしてリエージュ1位と行きたいところ。


ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ) photo:CorVosヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) photo:CorVos

過去の優勝経験者としては、ダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ)やワウト・プールス(オランダ、チームスカイ)も忘れてはならない。それぞれルイ・コスタ(ポルトガル)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)とのタッグで2度目の栄光を狙う。

ジルベールと並んで過去12回完走しているヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)やロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)といったグランツールの総合優勝候補たちの名前もずらり。マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)やバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、イエール・ファネンデル(ベルギー、ロット・スーダル)といった登坂力に秀でた選手たちも勝負に残るはずだ。

小集団スプリントに持ち込まれた場合はグレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)、そしてフレーシュ3位のディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)らにチャンスが回ってくるだろう。ここまでアルデンヌ2戦で勝負に絡めなかったペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はリエージュの出場をキャンセルしている。


グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム) photo:CorVosマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) photo:CorVos

text:Kei Tsuji

最新ニュース(全ジャンル)