2014年にデビューしたフジのエアロロードバイク、TRANSONICをインプレッション。グランツールで何度も使用され、ブエルタ・ア・エスパーニャでの山岳賞獲得に貢献した、アンダー25万円バイクの進化を問うた。



フジ TRANSONIC ELITEフジ TRANSONIC ELITE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
日本発祥のアメリカンブランド、フジ(FUJI BIKES)。あまり知られていないがその歴史は非常に古く、1899年に東京で開業した卸問屋に端を発するブランドだ。戦後には「日米富士自転車株式会社」と名前を変更し、1970年代には現在の名称である「FUJI」としてアメリカへの本格進出を果たし、多数のレースで勝利を量産。1997年にアメリカのアドバンス・スポーツ傘下へと入り、現在はアキボウによって国内展開が行なわれている。

その歴史の中、1980年代後半からは積極的にプロチームとの協力関係を築いており、近年ではスペイン籍のセルヴェットやネットアップ・エンデューラ、そしてカハルーラルへと機材供給を行っている。幾多のグランツール出場や、ファンホセ・コーボのブエルタ総合優勝などによって、そのブランドネームは飛躍的に知名度を向上させてきた。

曲線を多用したリアバックのフォルム曲線を多用したリアバックのフォルム 微妙なアールを持たせた、砂時計型に近いヘッドチューブのフォルム微妙なアールを持たせた、砂時計型に近いヘッドチューブのフォルム シンプルなストレート形状のフロントフォーク。内側は富士山をイメージした幾何学模様がシンプルなストレート形状のフロントフォーク。内側は富士山をイメージした幾何学模様が


現在フジがラインナップするロードバイクのラインナップは大きく分けて3種類。軽量オールラウンダーの「SL」とエアロロードの「TRANSONIC」、そして快適性を重視した「ROUBAIX」だ。中でも今回インプレッションを行ったのが、2014年にデビューするやネットアップ・エンデューラに供給され、ツール・ド・フランスを走ったTRANSONIC(トランソニック)ELITEだ。

TRANSONIC(遷音速)という名称の通り、トラックバイク「TRACK ELITE」やTTバイク「NORCOM STRAIGHT」を開発する際に繰り返し行った風洞実験のフィードバックを投入したことが最たる特徴だ。また、プロユースのエアロロードとしては破格のフレームセット24万円という価格であることも話題であり、ホビーレーサーにうってつけなバリューモデルと言えるだろう。

エアロロード然としたフォルムを纏う。シートポストは専用式エアロロード然としたフォルムを纏う。シートポストは専用式 非常に力強いデザインのヘッドチューブ周り。ヘッド規格は上側1-1/8、下側1-1/2インチ非常に力強いデザインのヘッドチューブ周り。ヘッド規格は上側1-1/8、下側1-1/2インチ

BB規格はPF30。周辺のボリューム感は非常にマッシヴBB規格はPF30。周辺のボリューム感は非常にマッシヴ ブレーキは前後ダイレクトマウントタイプを採用しているブレーキは前後ダイレクトマウントタイプを採用している


リアホイールに沿うようにベンドしたシートチューブ、リアブレーキを覆うフィン、緩やかな曲線を描くダウンチューブなど、直線的、かつ有機的なフォルムを有したTRANSONIC。トップチューブ以外全てのチューブに翼断面形状を採用しており、前後のダイレクトマウントブレーキや、フォークブレードとショルダー周りのインテグレーテッド設計、臼式のシートクランプなど、フレーム形状の工夫によって徹底的に空力性能を煮詰めた。

また、専用パーツ増加の一途を辿るエアロロードバイクの中にあって、一般的なヘッド/ハンドル規格、一般的なキャリパーブレーキの採用など、重要部には普及規格を採用していることも、一般ユーザーにとっては歓迎すべき点だ。タイヤクリアランスは28cまで対応し、フロントディレーラー付近にはチェーンウォッチャーが標準装備されている。

予めオリジナルチェーンウォッチャーが装備されている予めオリジナルチェーンウォッチャーが装備されている リア三角の内側にも幾何学模様がデザインされているリア三角の内側にも幾何学模様がデザインされている


もちろん空力のみならず、ネットアップ・エンデューラの選手たちによるテストが繰り返され、走行性能の底上げも行われている。カーボンにはフジ独自のウルトラハイモジュラスカーボン「C10」が投入されているほか、ボリュームある各部設計、各チューブ接合部のアールを大きくとることでバランスを最適化するなど、山岳ステージを戦うにふさわしい軽快感がプラスされたという。

そうしてフジのラインナップに追加されたTRANSONICは、現在3シーズン目を迎え、2015年にはブエルタ・ア・エスパーニャでの総合山岳賞獲得に貢献。2017年モデルはオールブラックにフォーク、リアバックの内側のみダズル迷彩のようなグラフィックが施されたシンプルなカラーリングが特徴だ。

リアブレーキを取り囲むようにフィンが設けられているリアブレーキを取り囲むようにフィンが設けられている リアホイールに合わせて曲線を描くシートチューブリアホイールに合わせて曲線を描くシートチューブ ダウンチューブに黒の濃淡で表現された各種アイコン類ダウンチューブに黒の濃淡で表現された各種アイコン類


試乗車のアッセンブルは、カハルーラルと同じOVAL製カーボンクリンチャーホイールに、コンポーネントはスラム RED eTAPという組み合わせ。ハイクオリティ、ハイコストパフォーマンスを掲げる、注目のプロユースエアロロードを試した。



ー インプレッション

「足残り良く、巡行性能が高い。乗りやすいエアロロード」藤岡徹也(シルベストサイクル)

エアロロードらしい乗り味を楽しめるバイクです。空力性能はもちろん乗り味も影響していると思うのですが、巡行性能が高く、そして高速域に持ち込んでからそのまま踏み続ける際に強みを発揮してくれます。ガッチリ硬い印象こそ無いのですが、かと言ってブレたり、たわみ過ぎてしまうこともなく足残りが良いフレームだと感じました。

「足残り良く、巡行性能が高い。乗りやすいエアロロード」藤岡徹也(シルベストサイクル)「足残り良く、巡行性能が高い。乗りやすいエアロロード」藤岡徹也(シルベストサイクル) 一昔前のエアロロードと言うと癖が強かったのですが、TRANSONICに関しては軽量オールラウンダーとの違いこそあれど、非常に乗りやすいですね。しなりを無視してペダルを踏みつけると加速が詰まる印象があるものの、バイクのリズム感と合わせて綺麗にトルクを掛けていくと、気持ち良く進んでくれます。トルクフルな走りが特徴ですね。

足残りが良く、パワーを掛けても長続きするので、ロードレースではロングスパートが得意な方には最適ではないでしょうか。サーキットエンデューロや平坦レースならば、ぜひ私も使ってみたいと感じます。ショートディスタンスのトライアスロンにも向くでしょうし、優しい性格なので長い山岳でも必要以上に脚が削られることがありません。

直進安定重視のハンドリングということもあり、俊敏な加速やコーナーでの細かい切り返しは軽量オールラウンダーに敵いませんが、それでも一世代前のエアロロードと比べて大きく進化しています。フレームセット24万円のプロユースフレームも貴重ですし、市場価値は高いと言えるでしょう。

路面からの振動はある程度伝えてきますが、そこはレーシングバイクですから目をつぶれる部分ですし、国内のほとんどの舗装路だったらあまり問題にはなりません。大手ブランドほどの知名度はありませんが、リーズナブルで、乗りやすくて、巡行性能が高いと三拍子揃ったバイクだと感じます。

俺は平坦のスピードで勝負するんだ!という方だったり、そういう走りに憧れている方にはとてもおすすめできます。ロングライドではなく、人と、もしくは自分と平坦路で競い合うことが好きな方に最適なバイクだと感じました。

「ロングにクリテにエンデューロに。平地寄りのオールラウンドな性格」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)

エアロロードらしい平地巡航性を持ちながらも、乗り心地もよく走りの軽さも感じます。この価格でこれだけの走りを見せてくれるのは驚きですね、ハッキリ言ってこのフレーム「買い」だと思います。さすが海外のプロが使うだけあり、十分な性能を持ち合わせていますね。

見た目のエアロフォルムとは裏腹に扱いやすさがあり、オールラウンドで使用できるバイクだと感じました。ダウンチューブの形状と太さのおかげでしょうか、反応も良くダンシングもしやすいですね。また、手で持った感じ以上に乗ってみた際の走りの軽さがあります。勾配のゆるいヒルクライムなんかでも問題なくいけます。

「ロングにクリテにエンデューロに。平地寄りのオールラウンドな性格」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)「ロングにクリテにエンデューロに。平地寄りのオールラウンドな性格」渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)
今回アッセンブルされたホイールが良かったのもありますが、乗り心地の良さも感じました。キャスターが立っているため、ハンドリングにはクイックさがありますね。ハイトの高いホイールでその点は多少マイルドになっていましたが、これをハイトの低いホイールに変えるともっと切れ込んでいくハンドリングになると思います。ライン取りも思い通りのところを狙っていけます。

フレームの踏み味としてはバネ感がありますね。踏んだ後次の足に掛かる感じで、ガシガシ踏んでいけます。大きなパワーを受け止めてくれるため、重いギアでも問題なく、足残りも良いです。たわみはそこまで感じませんが、足に返ってくるような硬さでもないので身体に優しいかなと。踏んでいくと高い巡航性を見せてくれるため、トライアスロンをやる方にもいいかもしれません。

メカ的な部分を見ると、ブレーキがダイレクトマウントなのでよく止まります。リアブレーキがダイレクトマウントなのにチェーンステイ下ではなく、普通にシートステイに付くため整備性も良いのが嬉しいですね。BBがプレスフィット30のため、異音が気になる方はグレードの高いものに交換したほうが良いでしょう。

エアロロードですが平地から登りまで対応できるオールラウンドバイクと言えます。用途を選ばないため万人にオススメできます。そうは言ってもレーシングフレームですので、ゆっくりポタライドというよりは速く走ることを目的とした乗り方に向いています。

同ブランドのハイエンドフレームだけあって非常に良いフレームです。それでいて他社フラッグシップモデルの半額くらいの値段なのでコストパフォーマンスは抜群です。最初の1台で購入しても、フレームはそのままにコンポやホイールのグレードアップでレースでも十分に戦っていけるでしょう。

フジ TRANSONIC ELITEフジ TRANSONIC ELITE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
フジ TRANSONIC ELITE(フレームセット)
フレーム素材:C10 ultra high-modulus carbon
BBシェル:PF30
フォーク:FC-330 carbon monocoque w/ tapered carbon steerer
ヘッドセット:FSA 1-1/8"upper, 1-1/2" lower, integrated w/ carbon top cap
シートポスト:Transonic aero carbon, 300mm(46-52cm), 350mm(54-61cm)
サイズ:46cm、49cm、52cm、54cm、56cm
カラー:Avantgarde Black
価 格:240,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

藤岡徹也(シルベストサイクル)藤岡徹也(シルベストサイクル) 藤岡徹也(シルベストサイクル)

シルベストサイクルみのおキューズモール店店長の28歳。プロロードレーサーとしてマトリックスやNIPPOに所属し国内外のレースを転戦し、ツール・ド・フクオカでは優勝、ツール・ド・熊野の個人TTで2位などの実績を持つ。今もシルベストの一員として実業団レースに参戦中。スタッフとして乗り方や最適なアイテムの提案、走行会を通じて「自転車の楽しさを伝える」ことをモットーに活動している。

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渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)渡辺匡(スポーツサイクルサカモト) 渡辺匡(スポーツサイクルサカモト)

新潟県三条市のスポーツサイクル サカモトで、メカニック作業から接客まで幅広く担当する。自転車にのめり込んだきっかけはオートバイレースのトレーニング。ロードバイクやMTB、小径車などジャンルを問わず探求し、特にブロンプトンに関しては造形が深い。接客では製品のメリットとデメリットを丁寧に説明した上で、ユーザーに適したサービスや製品を提案することを大切にしている。

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text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO

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