レイクディストリクトを駆け抜ける獲得標高差が3,200mを超える丘陵コースで2人が逃げ切り。総合タイムを見据えるスティーブ・クミングスを引き離したエティックス・クイックステップのジュリアン・ヴェルモトが自身2度目のステージ優勝を飾った。



ピーターラビットの舞台にもなったレイクディストリクト(湖水地方)を走るプロトンピーターラビットの舞台にもなったレイクディストリクト(湖水地方)を走るプロトン photo:Kei Tsuji
スタート地点カーライルの街にやってきた選手たちスタート地点カーライルの街にやってきた選手たち photo:Kei Tsujiリーダージャージを着て登場したアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)リーダージャージを着て登場したアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第3ステージツアー・オブ・ブリテン2016第3ステージ image:Tour of Britainツアー・オブ・ブリテンはスコットランドからイングランドに入る。第2ステージの舞台は風光明媚なレイクディストリクト(湖水地方)。一帯には緑と褐色の草地に覆われた山と、羊や牛が放たれたこんもりとした丘、そしてたっぷりと水をたたえた湖が広がる(まさにピーターラビットの世界)。

スタート直後、UCIワールドチームが集団先頭を固めるスタート直後、UCIワールドチームが集団先頭を固める photo:Kei Tsuji気温16度ほどの寒空の下、カーライルの街を123名がスタートしていく。海流や気流が影響するため単純に高緯度=寒いという図式は当てはまらないが、北緯55度と言えば北海道よりも北。いつ雨が降ってもおかしくなく、いつ晴れ間がのぞいてもおかしくはないどんよりとした曇り空がこの時期のデフォルトだ。

レース序盤は集団後方に控えるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)レース序盤は集団後方に控えるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji前日同様スタート直後にUCIプロコンチネンタルチームやUCIコンチネンタルチームがファーストアタックを仕掛けたが、この日はUCIワールドチームがすかさずチェックに入る。12km地点で形成されたのはUCIワールドチームを中心にした15名の逃げグループだった。

前日に落車したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)が登りで苦しむ前日に落車したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)が登りで苦しむ photo:Kei Tsuji「平坦区間がない」と言われるほどアップダウンを繰り返し、獲得標高差が3,200mを超える188.2kmコースは決してスプリンター向きではない。しかもフィニッシュの27km手前には1級山岳ストラグル(4.8km/平均8.2%)が登場する。

絶えず上下左右に波打つコースで、前日に「どんな展開になるか分からない」と語っていたリーダージャージのアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)が逃げに乗った。他にもディメンションデータ、チームスカイ、BMCレーシング、キャノンデール・ドラパック、ジャイアント・アルペシン、ロットNLユンボ、トレック・セガフレード、エティックス・クイックステップが逃げに選手を送り込んだ一方で、モビスターやワンプロサイクリング、バルディアーニCSFは集団コントロールを強いられた。

タイム差が4分まで広がる中、グライペルは3つの中間スプリントを全て先頭通過してみせる。カテゴリー山岳ではシャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)が積極的に動いてポイントを加算。レース後半に入るとメイン集団がペースを上げて追い上げる。最大の難所である1級山岳ストラグルが近づく頃には、タイム差は1分にまで縮まっていた。



15名の逃げグループを率いるアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)15名の逃げグループを率いるアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji


アップダウンコースをこなすワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)らアップダウンコースをこなすワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)ら photo:Kei Tsuji「ストラグル(苦しむ/力を振り絞る/もがく)」という名前の通り、最大勾配が20%に達する山道で逃げグループとメイン集団は崩壊。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)もアシストとしてペースメイクに加わり、ディメンションデータがメイン集団のペースを上げる。するとそこから、霧と観客に包まれた登りで総合優勝の一角ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が動いた。

いくつもの古い橋を渡ってケンダルの街を目指すいくつもの古い橋を渡ってケンダルの街を目指す photo:Kei Tsujiメイン集団を抜け出したデニスは逃げていた選手たちを追い抜きながら1級山岳ストラグルを登坂。霧で真っ白な頂上通過後に先頭5名(ムーリセ、ロッシュ、モスカ、リンデマン、ヴェルモト)に追いつく。

アシストとして登りでペースを作るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)アシストとして登りでペースを作るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsujiしかしデニスは総合ライバルたちを完全に振り切ることはできず、ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)やスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)、トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)、ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)、トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)らも下りで先頭グループに追いついた。

振り返ってクミングスを確認するジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)振り返ってクミングスを確認するジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsujiこうして人数を増やした先頭グループ(メイン集団とも言える)から攻撃を仕掛けたのはクミングスだった。しっかりと降り始めた雨の中、数度のアタックの末に抜け出したクミングスにはレース序盤から逃げていたジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)だけが食らいつく。

ステージ優勝を飾ったジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)ステージ優勝を飾ったジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji1級山岳ストラグル通過後も延々と続くアップダウンコースをタンデム走行したクミングスとヴェルモト。主にクミングスが前を引いてフィニッシュ地点ケンダルに向かう。総合ライバルたちを含む追走グループとのタイム差は広がっていった。

ステージ3位に入ったダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)がヴェルモトの勝利を祝うステージ3位に入ったダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)がヴェルモトの勝利を祝う photo:Kei Tsuji後続を引き離すべくクミングスが残り1kmからの登りでペースを作り、勾配が緩んだところでヴェルモトがステージ優勝めがけてアタック。クミングスには反応する力は残っておらず、2秒差をつけたヴェルモトが独走でフィニッシュを駆け抜けた。

「2年前にもステージ優勝したこのブリテンには特別な気持ちで挑んでいた。ファンは温かい声援を送ってくれるし、コース自体も好き。イギリスの地形は地元フランドルに似ているから相性がいいのかもしれない」と、コルトレイク出身の生粋のフランドリアンで、プロ入りから一貫してクイックステップで走る27歳のヴェルモトは語る。

「今日のコースは、2年前にステージ優勝した時と同じように、常にアップダウンを繰り返していた。自分を含む先頭グループにクミングスらが追いついた時、正直言って脚は空っぽの状態だった。でもこのチャンスを逃すわけにはいかないと気持ちを引き締めた。クミングスは強力だったけど、苦痛を乗り越え、勝利したんだ」とヴェルモト。エティックス・クイックステップはこの4日間で4勝を飾ることに成功している(ボーネン、ブランビッラ、キッテル、ヴェルモト)。

ステージ優勝とリーダージャージをヴェルモトに譲る形となったクミングスは「チームの力を借りて良いポジションで勝負に挑んだものの、ステージ優勝に届かず申し訳ないことをした」とチームメイトへの謝罪の言葉を並べる。しかし、総合争いにおいてはライバルたちから1分近いリードを稼ぐことに成功した。

第7ステージの15km個人タイムトライアルでリードを広げることが予想されているクミングスは、第2ステージを終えて総合争いのポールポジションにつけている。なお、ステージ優勝を飾ったヴェルモトはリーダージャージに袖を通したものの「総合リードを守り抜く考えはない」とコメントしている。



フィニッシュ後に握手するジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)とスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)フィニッシュ後に握手するジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)とスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji
リーダージャージを手にしたジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)リーダージャージを手にしたジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji少し不満げな表情でベストブリティッシュライダー賞を受け取るスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)少し不満げな表情でベストブリティッシュライダー賞を受け取るスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第2ステージ結果
1位 ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)   4h40’50”
2位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)          +02”
3位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)    +58”
4位 シャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)
5位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)
6位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
7位 ギヨーム・マルタン(フランス、ワンティ・グループグベルト)        +1’02”
8位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)
9位 ディラン・ファンバールレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)
10位 ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)          +1’06”

個人総合成績
1位 ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)   8h33’20”
2位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)          +06”
3位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)   +1’04”
4位 シャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)       +1’08”
5位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
6位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)
7位 ディラン・ファンバールレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)     +1’12”
8位 ギヨーム・マルタン(フランス、ワンティ・グループグベルト)
9位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)            +1’16”

ポイント賞
1位 ジュリアン・ヴェルモト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)    15pts
2位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)             15pts
3位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)         14pts

山岳賞
1位 シャンドロ・ムーリセ(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)       19pts
2位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チームスカイ)             19pts
3位 ジャコポ・モスカ(イタリア、トレック・セガフレード)           17pts

スプリント賞
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)             9pts
2位 ヤスパー・ボーフンハス(オランダ、アンポスト・チェーンリアクション)   9pts
3位 コノール・ドゥーン(アイルランド、JLTコンドール)            6pts

チーム総合成績
1位 エティックス・クイックステップ                   25h46’01”
2位 ワンティ・グループグベルト                       +1’00”
3位 キャノンデール・ドラパック                       +4’27”

text&photo:Kei Tsuji in Kendal, United Kingdom