日本をルーツに持つアメリカンバイクブランド「フジ」が2016年の新モデルとして送り出したライトウェイトオールラウンドバイク「SL」。2011年のブエルタを制した「ALTAMIRA」の後継モデルから、ミドルグレードの「SL2.5」をインプレッション。



フジ SL2.5フジ SL2.5 photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
創立以来、117年を数える老舗バイクブランド、フジ。1899年当時、電灯の輸入販売を手掛けていた日米商会からスタートしたブランドは、世界的に大きな存在感を見せる総合バイクブランドへと成長を遂げた。2009年にはプロツアーチーム、「フジ・セルヴェット」に供給。2011年にはファンホセ・コーボ(スペイン)のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を支えた、実績あるレーシングバイクブランドとして確固たる地歩を築き上げたのだ。

2011年のブエルタ制覇に大きく貢献したオールラウンドバイク「ALTAMIRA」が、「Worth The Weight」というコンセプトを軸に更なる軽さを追い求めてモデルチェンジを果たしたのが「SL」シリーズである。シリーズ最上位モデルの「SL1.1」においては、フレーム重量695gという数値を実現した超軽量バイクとしてデビューを果たした。

下側1-1/2"のヘッドチューブが高いハンドリング性能に繋がる下側1-1/2"のヘッドチューブが高いハンドリング性能に繋がる トップチューブにはさわやかな水色でモデル名がペイントされるトップチューブにはさわやかな水色でモデル名がペイントされる フレームと同じC-10カーボンを使用したFC-440フォーク ブレードにはリブが内蔵されるフレームと同じC-10カーボンを使用したFC-440フォーク ブレードにはリブが内蔵される


その驚くべき重量を実現したのは、「High Compaction Molding(HC製法)」というフジ独自のカーボン成型技術によるところが大きい。このテクノロジーは、応力が集中する各チューブの接続部の内側に出来るシワやヒダ、剛性向上に寄与しない余計な樹脂を徹底的に取り除き、カーボンの積層を強力に圧縮することでチューブ内壁を滑らかに仕上げるというもの。HC製法自体は、2013年モデルのALTAMIRAから採用されてきたが、SLではシートチューブやフォーククラウンなど、この製法を採用する箇所を増やすことで更なる性能向上を図っている。

また、フレームの各部位を繋ぐジョイント部分を削減することも軽量化に繋がっている。前三角を一体成型し、左右のシートステー+チェーンステーという3ピース構成とすることで、ALTAMIRAでは8箇所に存在したジョイント部分を半分の4箇所にまで抑えている。各ピースを大きくすることによって、カーボン素材の持つ性能を引き出すことに成功している。

アウター受けやケーブルハンガーといった、ロードバイクに欠かせないフレーム小物にまで軽量化の手は及んでいる。1gの削減を徹底して追求するべく、全てのスモールパーツには厳選された軽量な素材が使用されている。なお、アウター受けなどはデタッチャブルとなっているため、機械式と電動式、どちらのコンポにもストレスなく対応する。

ヘッド集合部はかなりオーソドックスな造りとなっているヘッド集合部はかなりオーソドックスな造りとなっている オーヴァルコンセプツのホイールとヴィットリアのタイヤがアッセンブルされるオーヴァルコンセプツのホイールとヴィットリアのタイヤがアッセンブルされる


リアエンドまわりもすっきりとした造形に仕上がっているリアエンドまわりもすっきりとした造形に仕上がっている クランクはオーヴァルコンセプツ、チェーンリングはプラクシスワークス製クランクはオーヴァルコンセプツ、チェーンリングはプラクシスワークス製


ただ軽いだけでは、プロレースで成績を残すことは出来ない。SLには、ライダーたちのパワーを受け止め、前へと進む力を生み出すための高い駆動効率と、下りでアドバンテージとなるハンドリング性能が与えられている。それらを司るフレーム剛性は、SL1.1において先代からヘッドチューブで9%、BB周辺で11%、フォークで18%の向上を果たしているという。

ダウンチューブを従来の円断面から8角形断面へと変更することで、平面部分に成型が困難な超高張力なカーボンを使用することを可能とした。シートチューブやトップチューブ、フォークなどにも同様の平面部分が設計されるほか、BBにはPF30規格を採用することで軽量化と同時にパワー伝達効率を向上させている。

ハンドリング性能に直結するフロントフォークには、ブレードに強化リブが内蔵される「RIBテクノロジー」が採用され、ブレーキング時にかかる前後方向への力、コーナー時にかかる横方向への力、どちらにもしっかりと対応する剛性が与えられている。HC製法で作られるフォーククラウンは1-1/2”とされ、シャープかつ安心感のあるハンドリングフィールに貢献している。

扁平な薄型シートステーと、中央に向かって絞られたトップチューブ扁平な薄型シートステーと、中央に向かって絞られたトップチューブ PF30を採用するBBPF30を採用するBB


極細のシートステーはALTAMIRAから受け継いだもの。横方向に扁平された楕円断面のシートステーによって、縦方向への柔軟性を大幅に向上させている。軽量バイクながら、荒れた路面でもバタつかない良好なトラクション性能と、長距離ライドに対応する快適性を獲得している。

また、優れたバイクに欠かせないのは、優れたジオメトリー設計である。フジはSLに対して、2種類のフォークオフセットと3種類のヘッドアングルを組み合わせることで、5サイズ全てにおいて最適なトレイル値を実現している。特にハンドリングに癖が出やすいスモールサイズのバイクに対して、コストが嵩むことを厭わずに専用のフォークが用意されるというのは、真摯なブランドである証左といえるだろう。

また、サイズごとに異なるカーボン積層とチューブ径を採用することで、体格差から来るパワーの差を是正し、どのサイズのバイクに乗っても同じフィーリングを味わえるように設計されていることも、大きな特徴の一つと言えよう。

極細のシートステーはALTAMIRA譲り極細のシートステーはALTAMIRA譲り BB周辺に向かうにつれて四角断面へと変化していくシートチューブBB周辺に向かうにつれて四角断面へと変化していくシートチューブ 八角形断面を採用するダウンチューブ八角形断面を採用するダウンチューブ


SLシリーズのセカンドモデルである「SL2.5」には、C10-High-Modulus Carbonが採用される。トップモデルのSL1.1に用いられるC15に対して素材強度に重点を置いて開発されたC10は、同社のMTBなどにも採用されていることからもわかるように、多少のラフな取り扱いにもびくともしない耐久性を持っているため、バイクの扱いに慣れない初中級者でも安心出来るだろう。

SL2.5の深いネイヴィーブルーを纏ったフレームに組み合わせられるのは、シマノ 105にオーヴァルコンセプツのクランクとホイール。完成車重量は8.1kgと同クラスのバイクの中ではかなり軽量な部類に仕上がっている。それでは、ブエルタ優勝バイクのDNAを受け継ぐミドルグレードバイクをインプレッションをお届けしよう。



ー インプレッション

「相反する要素を高い次元で融合させたオールラウンダー」
錦織大祐(フォーチュンバイク)

とにかく乗りやすさが際立つバイクですね。正直驚きました。軽量モデルというとヒラヒラとした軽さ、一歩間違えば不安定感ともとれるフィーリングを持つバイクが多い中で、とても安定感のある乗り味と走りの軽さを持ち合わせているバイクです。

「相反する要素を高い次元で融合させたオールラウンダー」 錦織大祐(フォーチュンバイク)「相反する要素を高い次元で融合させたオールラウンダー」 錦織大祐(フォーチュンバイク) 兎に角フロント周りがしっかりしていて、バイクの挙動が分かりやすいことがこのバイクのキャラクターに大きな影響を与えていると感じます。フロントフォークからヘッドチューブにかけてのラインで、バイクがビタッと安定していて、一本筋が通っているような印象を受けます。

そのしっかりとしたヘッドチューブからメイン三角の下側によって剛性を担保する一方で、扁平加工したシートステーや、カーボンの積層によって路面からの突き上げを消そうとしていることが分かりやすい。振動が地面からフレームを通してライダーへ上がってくる途中で、不快なものを打ち消そうとしていることが伝わってきます。

ダンシングでバイクをこじるような乗り方をしても、ライダーを支えてくれるパートの方向性とボリュームがしっかりとしているので、パワーが抜けてしまうような感覚は一切ないですね。あえて重箱の隅をつつくように弱点を挙げるとすれば、ダンシング時の剛性感とシッティング時の振動を打ち消している感覚のギャップが大きいので、ダンシングからシッティングへと移行した時に少し違和感を感じてしまう可能性はあります。

下りでのライントレースもとてもしやすい。軽量バイクにありがちな腰高感も無いですし、とても素直なフィーリングに仕上がっています。アセンブルされているブレーキを交換すれば、もっとコーナーの奥まで安心して突っ込めるでしょうね。ジオメオトリーだけ見ると、かなり安定志向のバイクかとも思ったのですが、そんなこともない。絶妙なバランスの上に成り立っているフレームなのでしょう。

フレームがとても素晴らしい出来なので、カスタムしがいのあるバイクでもありますね。軽量なカーボンホイールでもいいですが、剛性感の高いハイエンドアルミホイールを組み合わせてみると、ハンドリングのキレや、リニアな加速感がより際立つのではないでしょうか。出来ればブレーキは交換したいところですが、クランクに関してはサードパーティ製ながら、十分な性能を持っていると感じました。

乗り手を選ぶような扱いづらさもないですし、フィーリングは軽くて、ハンドリングも素直。レースに使うももちろんいいですし、ロングライドにだって不満が出ることはないでしょう。この懐の広さは、前作から進化したポイントだと思います。

フレーム単体で25万円と言われても、結構お安いですね、と思ってしまいそうな質感の走りを味わえます。皆さんがカーボンに求めるものはそれぞれあると思うんです。それは「軽さ」だったり、「反応性の良さ」だったり、「快適性」だったり。それらの相反する要素をとても高い次元で融合させている、オールラウンダーと呼ぶに相応の完成度を持った自転車でしょう。


「スペックだけでは分からない、フレーム性能が魅力の完成車」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

一踏み目から、鋭い加速感がワクワクさせてくれるバイクですね。ダウンチューブから反響して聞こえてくる音が、いかにも高弾性カーボンを使って薄くしています!という甲高い音で、やる気を刺激してくれます。フジのバイクには初めて乗ったのですが、とても良いバイクですね。

25cのタイヤが装着されているのを見たときは、もう少し重さを感じるかと思ったのですが、その予想はあっさりと覆されました。ワイドリムホイールとの組み合わせも相まってか転がりも良いですし、コーナーでの安定感もある。ハンドリングがクイックでレーシーな印象なので、太めのタイヤによる安定感が加わるとちょうど良いのではないでしょうか。23cのタイヤだと、縦方向の突き上げが強くなりそうですね。

加速感が魅力的だと言いましたが、登りでも前から引っ張られるような感覚があります。ケイデンスを高めにして登ると、とても気持ち良く登ることができますね。ダンシングの振りも軽いので、ヒルクライムの途中でアタックを仕掛けるような走り方も得意でしょう。

「スペックだけでは分からない、フレーム性能が魅力の完成車」 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「スペックだけでは分からない、フレーム性能が魅力の完成車」 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
質の良いカーボンを使うことで生み出される高い剛性感が、ダイレクトな進み方へと結びついている印象です。乗り込めば乗り込むほどに、乗り手に馴染んでいく良いバイクだと感じました。ヒルクライムバイクというくくりではありますが、クリテリウムからヒルクライムまで、レースバイクとしてオールラウンドな性能を持っています。

一方で、快適性に関しては不得手な部分といえるでしょう。高弾性なカーボンを使っている分、突き上げはかなり強めです。細身のシートステーを採用していますが、それでもリアバックからの振動は消し切れていないと感じました。ただ、これはエンデュランスバイクと比べればということであり、レースで使うのであれば必要十分な性能を持っています。

最上級カテゴリーで戦うのでなければ、このバイクで通用しないレースは無いでしょう。フレームの素性が良いのでホイールを交換すれば、きっちりとリターンを返してくれるでしょうし、タイヤを交換するだけでも性能アップが見込めます。

ヒルクライムで使うのであれば、WH-9000-C24-CLで軽さと剛性バランスを取るのも良いでしょうし、アップダウンのあるロードレースであれば、フルクラムのレーシングゼロも良いでしょう。ワイドタイヤの使用が前提となっているような設計にも感じますので、カンパニョーロのシャマルC17というのもマッチしやすいかもしれません。

完成車で約30万円のカーボンバイクとしては、フル105でもなくスペックだけみると割高に感じてしまうバイクですが、その分フレームに対してコストが掛けられたバイクなのだと感じます。スペックだけでは見えてこない良さがあるので、機会があればぜひ一度試乗してみてほしいですね。

フジ SL2.5フジ SL2.5 photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
フジ SL2.5(完成車)
メインフレーム:C10 ultra high-modulus carbon, integrated head tube w/ 1 1/2” lower, oversized press fit BB30 shell, double water bottle mounts
リア三角:C10 high-modulus carbon thin seatstays, oversized chainstays, carbon dropout w/ replaceable hanger
フォーク:FC-440 carbon w/ tapered carbon steerer & carbon dropout
メインコンポーネント:シマノ 105
クランク:オーヴァルコンセプツ 520, forged 6066 arms, 50/34T
ブレーキ:シマノ BR-561
チェーン:KMC X11, 11-speed
ホイール:オーヴァルコンセプツ 327 aero alloy clincher, 20 / 24h
タイヤ:ヴィットリア Zaffiro Pro Slick, 700×25, 60tpi, folding
ハンドル、ステム、シートポスト、サドル:オーヴァルコンセプツ
サイズ:46cm、49cm、52cm、54cm、56cm
完成車重量:8.1kg
カラー:Navy / Blue
価 格:295,000円(税別)



インプレライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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ショップHP

吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。

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ワタキ商工株式会社 ニコー製作所


ウェア協力:アソス
アイウェア協力:カブト

photo:Makoto.AYANO
text:Naoki.YASUOKA
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