ベルギーの連続テロで一時は開催が危ぶまれたドワーズ・ドール・フラーンデレン(UCI1.HC)は断続的なアタック合戦の末に小集団スプリントに持ち込まれ、イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)が勝利。ベルギーレース初戦の別府史之(トレック・セガフレード)は落車リタイアを喫した。



曇り空のフランドル地方を走る曇り空のフランドル地方を走る photo:Tim de Waele
前日に発生した連続テロの犠牲者を悼んで黒い喪章を付ける前日に発生した連続テロの犠牲者を悼んで黒い喪章を付ける photo:Tim de Waeleスタート前には1分間の黙祷が捧げられたスタート前には1分間の黙祷が捧げられた photo:Tim de Waele


ドワーズ・ドール・フラーンデレン2016コースマップドワーズ・ドール・フラーンデレン2016コースマップ image:Dwars door Vlaanderen「フランドル横断レース」と呼ばれる第71回ドワーズ・ドール・フラーンデレンが、ベルギー北西部フランドル地方のローセラーレからワレヘムまでの200kmコースで開催。石畳区間の他、「オウデクワレモント」や「パテルベルグ」など12の急坂が設定されたフランドルらしいセミクラシックだ。

レース序盤から逃げるアレクシ・グジャール(フランス、AG2Rラモンディアール)ら6名レース序盤から逃げるアレクシ・グジャール(フランス、AG2Rラモンディアール)ら6名 photo:Tim de Waeleレース前日にベルギーの首都ブリュッセルで連続テロ攻撃が発生し、テロ警戒レベルが最高度「4」まで引き上げられる中での大会開催。空港閉鎖の影響でメンバーが揃わなかったジャイアント・アルペシンは出場を辞退し、モビスターは同じ理由でメンバー4名での出場となった。

エティックス・クイックステップとロット・ソウダルがメイン集団をコントロールエティックス・クイックステップとロット・ソウダルがメイン集団をコントロール photo:Tim de Waeleレースはすっかり「逃げ屋」として定着したアレクシ・グジャール(フランス、AG2Rラモンディアール)ら6名が最大8分リードで逃げる展開。石畳と急坂が連続するレース後半に差し掛かるとタイム差は右肩下がりに。メイン集団のコントロールは主にエティックス・クイックステップとロット・ソウダルが担った。

フィニッシュまで80kmを切るとメイン集団から第2の動きを作りたい選手がアタックを繰り返し、マイク・テウニッセン(オランダ、ロットNLユンボ)やルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)らが「ベレンドリーシュ」で追走グループを形成するも、先頭に追いつくことができないまま宙釣り状態となる。

「エイケンベルグ」や「ターインベルグ」を進むうちに逃げメンバーは絞られ、やがて「オウデクワレモント」で先頭ではケヴィン・ヴァンビルセン(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)ただ一人に。

続く「パテルベルグ」で追走グループが吸収されると今度はオスカル・ガット(イタリア、ティンコフ)らがアタック。先頭ヴァンビルセンは吸収され、代わってニコラス・マース(ベルギー、エティックス・クイックステップ)やティエシー・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル)らが先行を開始したが、協調体制を築けずに失速。後続グループの合流によって残り10km地点で先頭は36名の小集団にまとまった。



レース終盤に形成されたティエシー・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル)を含む7名の先頭グループレース終盤に形成されたティエシー・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル)を含む7名の先頭グループ photo:Tim de Waele
カウンターアタックで飛び出したマイク・テウニッセン(オランダ、ロットNLユンボ)らカウンターアタックで飛び出したマイク・テウニッセン(オランダ、ロットNLユンボ)ら photo:Tim de Waele石畳をこなすフェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)石畳をこなすフェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waele



残り79km地点で落車した別府史之(日本、トレック・セガフレード)残り79km地点で落車した別府史之(日本、トレック・セガフレード) photo:Tim de Waele残り9km地点でグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が強烈なアタックを繰り出す。即座にマースが反応したものの、ファンアフェルマートの背中は離れていく。力強く最後の難所「ノケレベルグ」を駆け上がったティレーノ〜アドリアティコ覇者が集団に対して17秒のリードを得た。

アタックを仕掛けるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)アタックを仕掛けるニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waele「昨日の出来事(連続テロ)を受けて、今日はベルギー人にとって特別な1日だった。テロに屈しないという強い想いをベルギー人選手全員がもっていたと思う。だから今日は勝ちたかった」というファンアフェルマートは10秒リードで残り3kmを切る。

残り9kmから独走したグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)残り9kmから独走したグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo:Tim de Waele逃げ切りを阻止したいエティックス・クイックステップがメイン集団を引っ張り(テルプストラがほぼ先頭固定)、残り1kmでファンアフェルマートの背後に迫る。残り300mの最終コーナーを抜けてすぐ、9kmにわたって独走を続けたファンアフェルマートは吸収された。

勝利を確信したブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)勝利を確信したブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー) photo:Tim de Waeleファンアフェルマートの吸収と同時に人一倍低いフォームで先頭に立ったのはフェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)だった。しかし世界の注目を集めるオムニアム世界チャンピオンはもがきながらスピードを失っていく。

スプリント勝利を飾ったイェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)スプリント勝利を飾ったイェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waele「ベルギー初レースで石畳や雰囲気がとても気に入った。楽しかったし、将来に向けてとても良い経験になったよ。でも最後は脚力が残っていなかった」というガビリアを追い抜いて、ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)とエドワード・テウンス(ベルギー、トレック・セガフレード)が先頭へ。勝利を確信し、フィニッシュライン手前で両手を離したコカールの横で、後方から追い上げたデブシェールがハンドルを投げ込んだ。

最後まで踏み抜いたデブシェールが僅差でコカールに勝利。ベルギーチーム所属のベルギー人選手がベルギーに勝利をプレゼントした。「楽しみに待ち続けたこのレースでの勝利をとても嬉しく思う。昨日のテロを受けてレースキャンセルの可能性は理解していたし、亡くなった方々をリスペクトしたいと思っていた」とデブシェールは語る。

「今日はティエシー・ベノートとイェーレ・ワライスがアタックでレースを作り、スプリントになれば自分が勝負に出る作戦だった。グレッグ・ファンアフェルマートのアタックは強力だったし、捕まえられないんじゃないかとさえ思った。トレック勢の牽引でようやくグレッグを吸収してスプリント。最終コーナーの時点で先頭から10番手以下に沈んでいたから、せめて表彰台に上りたいという思いでスプリントしたんだ。この勝利はキャリアの中で大きなステップになるよ」と2014年のベルギーチャンピオンは語る。

GPワロニーやティレーノ〜アドリアティコでのステージ優勝経験があるデブシェールにとって、これがキャリアで最も大きな勝利。ドワーズ・ドール・フラーンデレンでは2014年に6位、2015年8位。2015年はヘント〜ウェヴェルヘムで5位、パリ〜ルーベで9位だった。

今シーズン初のベルギーレースを走った別府史之(トレック・セガフレード)は残り79km地点で落車し、その後リタイア。別府はレース後に「石畳の下りで前輪を持っていかれ落車して左半身を削った。落車後ダメージが大きくてすぐに立ち上がれなくてレースを終えた。レースはテウンスが3位に入ってチームもいい走りをしてたから、落車してしまったことが悔やまれる」とツイートしている。別府は4日後のヘント〜ウェヴェルヘムにも出場予定だ。

選手コメントは各チーム公式サイトより。



優勝を飾ったイェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)らが表彰台に上がる優勝を飾ったイェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)らが表彰台に上がる photo:Tim de Waele


ドワーズ・ドール・フラーンデレン2016結果
1位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)         4h48’27”
2位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)
3位 エドワード・テウンス(ベルギー、トレック・セガフレード)
4位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、サウスイースト)
5位 イェンス・ケウケレール(ベルギー、オリカ・グリーンエッジ)
6位 ジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレック・セガフレード)
7位 オスカル・ガット(イタリア、ティンコフ)
8位 スコット・スワイツ(イギリス、ボーラ・アルゴン18)
9位 マイク・テウニッセン(オランダ、ロットNLユンボ)
10位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)
DNF 別府史之(日本、トレック・セガフレード)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele