現在ヨーロッパで開催されているUCI U23ネイションズカップ。欧州を中心とする強豪国の代表選手が集結するアンダーカテゴリーのトップレースだ。この第2、第3戦に参加した木下智裕(エカーズ)がレースを振り返る。

4月6日のロンド・ファン・フラーンデレンU23、10日のラ・コート・ド・ピカルディ、13日のALMツアーと続いたU23 ネイションズカップに参加した日本チーム。木下智裕、西村大輝、山本元喜、寺崎武郎、秋丸湧哉、黒枝士揮、六峰亘が各レースに参加した。以下、木下より届いた参戦レポートを紹介する。


La côté de Picardie

スタート前の西村大輝と木下智裕スタート前の西村大輝と木下智裕 photo:JCFコースの前半50kmは平坦基調。中盤からはフランスらしいアップダウンを繰り返し、最後は4回山岳ポイントのある、20kmの周回を2周回してゴール。

ラ・コート・ド・ピカルディを走る。結果は66位ラ・コート・ド・ピカルディを走る。結果は66位 photo:Tim De Waeleキーポイントとなるのは海からの風、細い農道、また天気が不安定なので雨が降った場合は、怯まず積極的に走る必要があるコースだ。

スタート直後からアタックが掛かっているが、今日は動かない。風も強くなくてイージーな展開だったが、集団には物凄い緊張感があり、落車が頻繁に起きている。そのようなトラブルを避ける為にもずっと集団前方30番手以内で走り続ける。今日は位置どりのリズムも良く、集団をよく見ることが出来ていた。

中盤60km地点を過ぎてから、各チームアタック合戦に疲労が見え始めたので、「風は強くないけど、ここは気をつけなくてはならない」と思い前への動きに警戒した。集団から数人が抜け出して、そこに向けて数人が抜け出し、3度目抜け出してについて行った。本日アタック二回目だ。自分の中で決めていた通りの最低限の動きができている。

ちょうど道の細い区間に入ったところで、濡れた路面をハイペースで走り少しずタイムギャップが開いて19人の先頭グループが出来た。アメリカ2名、フランス2名、ベルギー2名、デンマーク、オランダ、オーストラリア、オーストリア、ウクライナ、ルクセンブルク、ノルウェー、完全に主要国が入った逃げになった。

逃げに乗せていない国はドイツ、カザフスタン、イギリス。

一時的に後ろは見えなくなって正直これは決まると思ったが、横風もさほど強くなくて、考えていたよりも集団有利な展開で、80km地点でカザフスタンとイギリスの追撃により吸収。なかなか簡単な展開にはさせてくれない。

その後もアタック合戦は続く。乗り遅れない、アクシデントを減らす意味でも集団前方をキープしながら25km地点からの最後の周回に備えた。調子は良い。今日は成績を出す。位置どりしていて以前よりも強くなっていることを感じる。

激しい位置どりの中、集団前方で最後の勝負所の周回コースに入る。4回ある最初の登り、かなりペースアップがあると、心して掛かるが、なんとかこなせるペース。やはり調子も悪くない。ここでは脚を温存して前で登り切らず、中盤でクリア。

2回目の登りに入る頃にはまた集団前方まで上がり登っているうちに余裕を感じて前の展開に乗って行く。ここで動き過ぎた。下りきって先頭から10番手。アタックに乗れる位置。ちょっと動いて集団に捕まって一番肝心な3回目の登り。入口で完全にストップして、少しスプリントしてから登り始めが、苦しい。一回目で感じた軽さはなくなり、猛烈に苦しい我慢の3分間。

頂上が見えてなんとか食らいついて登り切ったが、その時に前方で起こった5mの中切れを自分の力で詰められない。自分の前の前にいた選手はその空間を埋めてギリギリ最終便で集団に残っていった。

一発の我慢の脚の差だ。

今日一日のレースに、今までフランスで3年間経験させてもらったことを全てぶつけるつもりで走ったのに、結果に結びつけることが出来なかったのが本当に悔しい。ここに合わせてきたのだから、もちろん調子も良かった。

今こうしてレースレポートを書いているだけでも本当に悔しさと、あの中切れをを埋めることが出来なかった自分への腹立たしさと、情けなさが込み上げる。完全に追い込まれました。次戦のオランダのネイションズカップでしっかり走りたいと思う。


La côté de Picardie
開催日:2013/4/10
開催場所:フランス Picardie
カテゴリー:UCI U23
リザルト:66位





ZLM tour

コースの前半50kmは平坦基調。中盤からはフランスらしいアップダウンを繰り返し、最後は4回山岳ポイントのある、20kmの周回を2周回してゴールの180km。60km地点以降に1~1.5kmの石畳のセクションが2箇所あった。

ZLMツアーコースマップ 沿岸部の強風区間が舞台ZLMツアーコースマップ 沿岸部の強風区間が舞台 レース前から風向の予想図と地図を照らし合わせ、危険箇所を頭に叩き込むという単純作業だ。風のレースは常に自分の方向感覚を研ぎ澄ましながらレースを走る必要がある。スタート地点で先頭に並ぶ。世界トップレベルの、しかも横風のレースで後ろに並ぶなんて自殺行為だ。

ZLMツアーを走る木下智裕 ZLMツアーを走る木下智裕  photo:joyce jasonスタート3分前、観客の1人が「8km地点にある、2kmの長い陸橋の風がキツイよ」と教えてくれた。前日から予測はしていたので特に驚くことも無かったが、横風をモロに受ける橋のセクションまでの具体的な距離がわかったのは大きかった。レースの距離は180km約180kmとロングレースだが、勝負をしようと思うならトラックレースの4km速度競争を走るつもりで攻める必要がある。

スタートの笛が吹かれる。

先導車の後ろ10cmを走行して絶対に譲らない気持ちのでニュートラル走行が2km。先導車が急加速する。レースの本スタートの合図だ。フルスプリントして先頭に立ち、スタートから西風を使い集団をぶっ壊す気持ちで前から15番以内で先頭交代を繰り返す。

横風のレースは先頭で風を受けて先頭交代を繰り返す方が、後ろに要るよりも脚を使わないことを、ヨーロッパの経験上知っている。「攻撃をして生き延びるか、攻撃を受けて滅びるか」それだけ極端でシンプルなのが横風のレースの特徴。

オランダとベルギーのチームタイムトライアルの状況に割り込み先頭交代を続ける。後ろに下がり過ぎないように、どこからどこが横風ローテーションなのか見極めながらの先頭交代。しっかりとエシュロン(横風時の集団の隊列)の限界人数も感覚的に判断出来ていて、主要国がエシュロンの空気抵抗の少ないポジションの限界位置でブロックしているのもよく見えていた。

中盤80km地点には集団の数は半分なったものの、3つに別れていたグループは一つになった。今度はレースは西に向けて直進して行く。今日の風は西風なので向かい風だ。車2台がすれ違うことが出来ない細い道、次の横風区間に備えて嵐の前のような異様な静けさだった。もしここが横風だったら。想像しただけで恐ろしいほどの道の細さだった。

周回コースに入る前、イギリスチームの選手がアタックする。それを見て僕もアタックした。付いてきたのはニュージーランドの選手のペースが猛烈に速いので、Take it easy! と伝える。ここで脚を使うつもりはびた一文無い。

前日のコース試走で、周回コースの入り口(140km地点)から道が細くなり、横風のキツい土手の上を5km走行する区間がある。オランダ、ベルギーチームが道幅一杯に並んでペースアップ された場合、集団が破壊される危険がある(この時点での映像は5:40程から一列棒状で集団が削られるの様子が映っている)のでかなり危険。

もしそのような攻撃を仕掛けられた時のリスクを考え、ここに辿り着くまで何度も横風によって集団の分裂という危険な目にあっている自分は、このセクションの前にアタックして先行しておいて、横風区間でペースの上がり人数が絞られた集団に、追いつかれるようにしようと考えアタックした。

NZ人は基本的にTT能力が高く、かなりハイペースで走るが、自分は苦しくならないように踏まないように気をつけた。この逃げで重要視すべきポイントは一点。逃げ切る事ではなく、追いつかれた後のポジショニングのみだ。やがて先行していたイギリス人に追いつき三人になるが、引き続き自分は脚力をセーブしながらその時に備える。

しばらく走っていると、後ろからオレンジ色のジャージが集団を壊しながら先頭交代を繰り返して迫ってくる。やはりオランダとオーストラリアが組んで集団を壊そうとしている。追いつかれてから加速するのでは遅いので、追いつかれる前に加速してエシュロンの15人に肘を入れて割り込み、オランダの先頭交代に加わる。

さっきまで頑張っていた強かった、NZ人はこの肝心な場面で後退していった。ここでまた一気に集団の人数が減った。

アタックせずに何も動いていなかったら、チームメイトも居ない自分は、きっと後方に取り残されていただろう。一見脚を使うように見えることだけど、アタックという判断をすることが出来たのはとても良い判断だった。

脚をセーブしながらラスト36km。ゴールポイントを通過する。あと2周回でレースが終わると思ったら力が湧いてくる。ここからが本当の勝負。ネイションズポイント獲得に向けてがんばるぞ!と、気合を入れ直したい所だが、速くてそれどころではなかった。

ここからは前で展開したもの勝ちだ。集団で人数を揃えている国を確認する。オランダ、オーストラリア、ベルギー、カザフスタンが4人以上残っているので、この強豪国3カ国以上が入った逃げはかなり危険。自分からは動かない。逃げを決まるか決まらないか、見極めて動くしかない。チーム単独では針の穴を通すような戦いを強いられる状況だったが、レースは何が起こるかわからない。

スプリンターを持つオーストラリアチームが集団スプリントにしたい雰囲気があり、カザフスタン、ロシア、オランダにベルギーが入る逃げに、単独で追走アタックした。単独のスイスも動きとしては僕と同じで、逃げグループを見極めてアタックして単独で追ってくる。その動きによって僕らの10人の逃げは吸収された。

一発で決めるだけのアタックをした後はかなり苦しい。しかし位置を下げないように気持ちのを持つように心がける。かなりハイペースを維持したまま18kmの周回を完了して、ゴールまであと18km。後で映像で確認したら、集団の10番手以前で通過していた。脚は一杯一杯だけど、勝負出切る良い位置だった。

ラスト18kmでレースが決まる

横に並んだロシア人と目が合う。ここからはスローモーションで覚えている。「アタックするな」と思った瞬間、アタックしていった。オランダ、ベルギー、カザフスタン追走。

ワンテンポ遅れて、後手に回ったオーストラリアが追走アタック。オーストラリアが抜け出したことにより、集団が逃げを追うモチベーションを持った国の選手が減った。そのペースアップで面食らって、10番手から一気に位置を下げてしまった。

さらに、逃げに一人乗せているカザフスタンが、そこに向けて追走アタック。これこそ「逃げグループに駒を増やして行く」本物のヨーロッパの走りだった。

これがどれだけ頭が強い選手のやることなのか。前に17人先行していて、諦めずそこに向けてアタックして2人で追いつく。17人対2人。有利不利の問題でない。本当に強い気持ちを持ってるか持っていないか。
自分にとっては完全に欠落している部分だ。

後ろに下がってしまっていたので、もちろんその動きにも対応出来なかった。逃げに乗り遅れた猛烈な悔しさと、カザフスタンのアタックに尊敬する気持ちが入り混じり、15kmは苦しかった。最後は出せる力を全てスプリントに使い、27位でレースを終えた。

ちなみに最後に抜け出した、カザフスタン人は逃げに追いついていた。何が何でもという気持ちを尊敬する。見習おうと思う。

「何度こんな悔しい思いをしたら気が済むのか?」とラスト5kmから自問自答していた。しかし、ダメな所ばかりではなく、ここまで出切ることを全て行い、最終局面で集団に残って戦っていることを考えても、徐々に強くなってチャンスは増えていると感じられた。

この手応えを確実なものにするために、またヨーロッパの本物のレースで結果を求め、必ずプロに上がろうと思う。


浅田監督のコメント

今日のレースは日本人が最も苦手とする風の展開で、日本チームとしては欧州レース経験の重要性が浮き彫りになった。初参加のネイションズカップ3連戦は、毎回が世界選手権だった。外見ばかりプロ化にこだわる日本ロードレース界に有望な若い選手を埋め込むわけには行かない。


ZLM tour
開催日:2013/4/13
開催場所:オランダ
カテゴリー:UCI U23
リザルト:27位


World Cycling Center /EQADS  木下智裕

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