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グラベルレースの最高峰イベント、アンバウンド・グラベル(Unbound Gravel )のオフィシャルタイヤスポンサーとなったiRCタイヤ。定評あるBOKEN DOUBLE CROSSをはじめ同社のタイヤを使用し、挑戦を続けるグラベル界のレジェンドレーサー、ピーター・ステティナ選手にグラベルタイヤのノウハウを余すところなく披露してもらった。

iRC BOKEN DOUBLECROSS TLR

アンバウンド・グラベルとベルジャンワッフルライドの公式タイヤに選ばれたiRC BOKEN DOUBLECROSS

舗装・未舗装路が適度にミックスしたグラベル向けのオールラウンドモデル。センター部分は繋がるようなデザインで転がりの良さを確保。ミドルからサイドにはBOKENベーシックモデルよりアグレッシブなノブを備えることで、ガレ場や砂利道での走破性を向上させている。タイヤサイドをプロテクション素材X-GUARDで強化している。チューブレスレディ。

サイズ(重量)700×38C(465g)、42C(530g)
参考価格¥6,820(税込)

→IRCタイヤ グラベルカテゴリー

BOKEN DOUBLE CROSSとはどんなタイヤ?
iRCタイヤ 大滝薫さん、山田浩志さんが解説

大滝:グラベルタイヤのBOKENシリーズは、グラベルの黎明期に弊社が海外でスポーツバイクタイヤ販売の足がかりにするためにグラベルレースに真剣に取り組んでいこう、というタイミングで生まれました。それ以来グラベルを取り巻く状況も変化し、コースは年々厳しくなり、難易度が上がっていったことでBOKENベーシックモデルの36Cや40Cだけでは対応できなくなったため、ラインナップを増やそうということで、より悪条件に対応できるトレッドパターンを備えたBOKEN DOUBLE CROSSを2022年にリリース。38Cと42Cがあり、アメリカ向けには33Cもラインナップしています。

「DOUBLE CROSS」のネーミングには「シクロクロスにもグラベルにも」という意味がありますが、日本ではシクロクロスはSERACシリーズを主力とするため、33Cの販売はありません。

アンバウンド・グラベルをサポートしたiRCの豊川さゆみさん、大滝薫さん、山田浩志さん photo:LifeTime

BOKENには他にSLOPCHOPとBOKEN PLUSがあります。「泥を切る」という意味のSLOPCHOPは、天候がいつも悪いアメリカ東海岸の要望に応えたタイヤで、ウェットな泥やトレイルにも対応します。そしてドライなスムース路面用のBOKEN PLUSは当時650Bサイズからスタートし、後発で700Cをリリース。現状のラインナップが出揃いました。

iRCのグラベルタイヤラインアップ

BOKENシリーズの推奨路面チャート

山田:DOUBLE CROSSはBOKENシリーズのなかでもこれ一本で幅広いコンディションに対応できるタイヤとして評価されてきました。「MTB的なコンディションでも使えるタイヤ」という発想で、オフロード傾向が強く、ややルーズ路面やロックセクションの下りにも対応するハイグリップでありながら、センター部にノブを密に配置したトレッドパターンで転がり抵抗を低く抑え、ハードパックや舗装路ではノーマルのBOKENよりも転がりが軽いというオールラウンド性が特徴です。

耐パンク性に優れるX-Guardをタイヤサイドに配置しながらトレッドセンターには繋がっていないため、センタートレッドのパターンと併せてタテの柔軟性をもたせることで快適な乗り心地も実現しています。ピーター(ステティナ)も「DOUBLE CROSSは万能で、今のままで何も変える必要がない」と言ってくれており、 とくに42Cはアンバウンド・グラベルのコンディションにあったタイヤだと気に入ってくれています。

ピーター・ステティナ インタビュー「グラベルレースのタイヤの選び方」

ピーター・ステティナ

グラベル界のレジェンドのひとり、ピーター・ステティナ ©Snowy Mountain Photography

グランツール8回完走。ガーミン・シャープ、BMCレーシング、トレック・セガフレードなどワールドツアーチーム所属のプロロードレーサーから絶頂期の2019年にグラベル&マウンテンバイクレーサーに転身、移行しプライベーターとして活動する。

アメリカ・コロラド州生まれで幼少期よりオフロードに親しみ、「グラベルはライフスタイル」というテーマでグラスルーツな活動を展開、多くのファンをもつレジェンド的存在。180cm・64kgで脚質はクライマー。ビール好き。アンバウンド・グラベルの過去最高位は2019年の2位。

→PeterStetina.com

CW綾野:私にとって2度めのアンバウンドグラベルで、レースは100マイルを走ります。またカンザスに来ることができて嬉しいです。ところでピーターさんは日本に何度来たことがありますか?

ステティナ:日本には2015年のジャパンカップにBMCレーシングのメンバーとして来日、走ったことがあります。とても素晴らしいレース、楽しくて忘れがたい体験でした。今度はグラベルレースで日本を訪れたいと願っていますので、私が出れそうなレースを探しているんですよ。本当に素晴らしい思い出でしたから!

グラベル界のレジェンドレーサー、ピーター・ステティナ photo:Makoto AYANO

CW綾野:私もフォトグラファーとして撮っていましたから記憶に残っています。今日はグラベルレースのタイヤ選びについてアドバイスを下さい。

ステティナ:アンバウンド・グラベルについて? グラベル全般について?

CW綾野:とくにアンバウンドについて、しかしグラベル全般に通じるように。あなた自身のタイヤ選択と、一般参加者へのアドバイスの両方を教えてください。

ステティナ:OK! まずアンバウンドについて。グラベルレースのタイヤ選択はロードレースと違って、地形を構成する土質や石などの要素によって左右されるんだ。道が森に覆われているか、空に開けているかによっても変わってくる。砂っぽいのか、岩っぽいのか。それによってトレッドパターンを選ぶ必要があるんだ。速く走るにはなるべく転がり抵抗が少ない、よく進むタイヤを選びたい。

登りに入るたびにアタックを仕掛けたピーター・ステティナとラクラン・モートン ©Snowy Mountain Photography

アンバウンド・グラベルをもっとも特徴的づけているのは、景色の素晴らしいフリントヒルズを走り抜けるレースだということ。このフリントヒルズ独特の「フリントストーン=燧石(ひうちいし)」とは、先住民が矢尻に用いてきた鋭く尖った石。これが本当に鋭利で、つまりそれによってのカットパンクがとても多いということ。ここではリム打ちパンクではなく、ナイフで切った様なパンクが発生することになる。それがタイヤサイドでなく、トレッドのセンター(真ん中)に多く発生するというのがもっともやっかいな点だなんだ。

グラベル界のレジェンドレーサー、ピーター・ステティナとBOKEN DOUBLECROSS photo:Makoto AYANO

速く走るには軽く転がるタイヤを使いたいが、このパンクを防がなくてはならない。これが僕が60TPIのIRC BOKEN DOUBLECROSSを選ぶ理由だ。60TPIのTPI=とは、ケーシングの厚みが十分で丈夫であることを意味する。120TPIといったケーシングの「軽さとしなやかさ重視のタイヤ」より丈夫であることが選ぶ理由の大きな一つ。このケーシングのタフさがパンクを防いでくれるんだ。

そしてブロック(ノブ)がトレッド上に密に配置されているのがポイント。これによりフリントストーンが突き刺さることを防いでくれる。考えてみてほしい。もしこのノブの間隔が「疎」であれば、尖った石はトレッドの薄い部分に達しやすくなり、容易に内部まで貫通してしまう。BOKEN DOUBLECROSSがパンクに強いのはまさにこの点の設計によるもので、だから僕がこの2年このタイヤをレースに用いてきた最大の理由なんだ。

42CのBOKEN DOUBLECROSS トレッドのセンター部にはノブが密に配置される photo:Makoto AYANO

一般的な「スムーズなタイヤ」と呼ばれるレース用タイヤはあまりにも尖った石に対してトレッドが無防備すぎてパンクが多発する。ところがBOKEN DOUBLECROSSはトレッドの突き刺しに対して万全な設計の、フリントストーンに強いほとんど唯一無二のタイヤ。他のすべてのタイヤにはリスクが有るんだ。

200マイルプロクラス7人の先頭グループ。後半は灼熱の天候下での戦いとなった ©Snowy Mountain Photography

とくに最近、ロードメンテナンスのために新たに大量の砂利が道路(コース)に撒かれたようだ。その砂利は尖った石が多く、よりパンクのリスクが増えたような感じがしている。明日また試走してみてグラベルの状態を確かめてみるけど、ルーズ(ずるずる)でチャンキー(ぶ厚い)な砂利の箇所が多いようなんだ。つまり太めの42Cタイヤが必要になるってこと。38Cで行けるかなと思っていたけど、ラフでバンピーなグラベルならよりエアボリュームのあるタイヤが必要になると思っている。

センタートレッドのノブが密に並ぶため鋭利な石によるパンクに強い唯一無二の構造だ photo:Makoto AYANO

だから僕はレースは42CのBOKEN DOUBLECROSSで行こうと思っている。多くの一般参加者にも42Cを勧めるよ。もっと言うならラスト7、80kmは砂利が締まって安定しているから38Cのほうが速いかもしれないけど、全体を通して考えるならラフでテクニカルだから、振動吸収性に優れて走破性が高い42Cをオススメしたい。それがアンバウンド・グラベルのタイヤ選びに対するアドバイスだね。

CW綾野:38Cタイヤを選ぶ場合のことをもう少し詳しく教えてください。どういったシーンでなら細身の38Cを選びますか?

ステティナ:38Cはブロック(ノブ)の間隔が少しタイト(狭い)んだ。だからスムーズな路面で転がりが少し軽い。そして重量も少し軽い。だから僕は硬い路面のハードパックや舗装路、そして「ビッグマウンテン」、つまり獲得標高差の大きなグラベルレースに使うようにしている。

手前が42C、奥が38C。太さとともにトレッド上のノブ配置パターンが異なる photo:Makoto AYANO

でも君のような100マイルレーサーや、200マイルレーサーであっても15時間完走目標のようなアベレージレーサーたちなど、転がり抵抗の軽さよりもエアボリュームによる快適性が必要な人には42Cがオススメだ。つまり振動に対して体力をセーブすることが必要なサイクリストに。

タイヤとは「オリジナルサスペンション」なんだ。路面の石を乗り越える時、タイヤがまず振動を吸収することでスムーズに走れる。サスペンションフォークの前に、身体、腕、脚をうまく使って振動を吸収する前に、まずタイヤがその最初のサスペンションの役割を果たしてくれるんだ。そんなことを意識してタイヤを選ぶといいよ。

CW綾野:38Cと42Cのタイヤ重量の差を気にしますか?

ステティナ:ぜんぜん。とくにアンバウンドではね。その重量差がどれくらいだったかも正確には覚えていないぐらいだよ。たぶん60gぐらい? (正確には65g)。レース前には紙に書いてチェックしたりもするけど、レースが平坦コースな場合は気にすることはない。アンバウンドは200マイル(320km)で3,000mの獲得標高がある。それは距離を考えれば「概ね平坦」と言っていいレベル。そういう場合はタイヤ重量は気にすることじゃない。重量にシビアになったほうが良いレースはいくつかあるけど、アンバウンドはそうじゃない。エアボリュームやトレッドパターンで選んで問題ない。ところで君は何のタイヤでいくの?

CW綾野:フロントに42C、リアに38CのBOKEN DOUBLECROSSをセットしました。昨年の経験をもとに選びました。少しリアを軽くして漕ぎを軽くしたいと思っています。

ステティナ:いいね、僕も同じ選択を考えている。だから悪い選択じゃないと思うよ(笑)! もっとも明日また試走をしてみてから決定するけどね。今日は前後両方に38Cをセットして走ったけど、ちょっと振動がキツかったんだ。だから前輪を42Cにしようと思ったんだ。悪いアイデアじゃないと思う!

CW綾野:ここに居るiRCのスタッフたちとどのようなタイヤ開発を行っているか教えて下さい。

ステティナ:スポンサーとなってくれて4年、僕がグラベルレースを始めたとき以来の良い関係だよ。単なるスポンサー以上のね。かつてロードレースの選手だった頃は、供給されるプロダクツのメーカーに「この製品はこんなところが良い」と言ったところで、それ以上のものではなかった。ところがIRCとはもっと親密。彼らはカリフォルニアの僕の家まで来てくれて、グラベルの未来はどうなる、どこへ向かうといったことについて話し合った。そして僕が走った世界中のグラベルレースや、世界中の地形のことについて話し合ったんだ。そのうえでどんなタイヤが良いのか、何がIRCに欠けているのかなどを話し合ったんだ。

ピーター・ステティナとiRCの開発&サポートスタッフの皆さん photo:Makoto AYANO

僕の個人的な好みなどについても理解してくれているし、そのうえで求めるプロトタイプなども素早く造ってくれる。僕が好きなプロダクツづくりの「プロセス(過程)」にも関わることができているんだ。一方通行ではなく、全方向的な関係というべきものかな。それはとてもナイスで、リアルな関係なんだ。そうしたことが役に立っているんだと思う。問題は僕がぜんぜん日本語が喋れないんだけどね(笑)。

ピーター・ステティナが手に持つのはグラベル用のインサートだろうか? photo:Makoto AYANO
CW綾野:新しいタイヤのアイデアはありますか?

ステティナ:君はメディアの人だからそれは言えないな(笑)。でも、いくつかあるよ。

大滝: iRCから話せることとしては、MTBタイヤのノウハウを生かしたBOKEN G-CLAWや、120TPIのタイヤなどを準備しています。

ステティナ:60TPIのタイヤはここアンバウンドグラベルでは丈夫さでベストだけど、120TPIの軽いタイヤが有効なグラベルレースもある。とくにビッグクライム=獲得標高の大きなレースなどではね。120TPIのBOKEN DOUBLECROSSもいいね。じつは2週間前のレースではそれを試したんだ。かなり良かったよ。そんなテストをいつもやっているんだ。レースを楽しみながらね。

200マイルプロクラスの先頭集団。実力が拮抗して誰も抜け出せない ©Snowy Mountain Photography

CW綾野:空気圧について教えてください。

ステティナ:僕はタイヤの空気圧をシェアしないようにしているんだ。なぜか? それは意味がないから。それは個人的すぎるんだ。タイヤ空気圧はライドスタイルで変わるもの。まずタイヤの種類や取り付けるリムの形状で大きく違う。ワイドリムになってなおさらだ。乗り方も違う。段差をジャンプして越えることができれば良いが、飛べずにタイヤで踏んでいく人ならもっと高圧にする必要がある。もし同じ体重だとしてもまったく違う空気圧になる。それでも僕は多くの組み合わせ例を知っている。空気圧計算アプリもたくさんあって、それらは空気圧設定の最初のスタートにはなるけどね。

石の上を走ってもリムに触れないように、コーナーをフルスピードでクリアしてもヨレずに走れるように。そして逆に空気圧を高めてバンプで跳ねないように、可能な限りスムーズに走れるように決めるんだ。そうした数々の前置きをしたうえで僕の空気圧を明かすと、レースは42Cでフロント28.5Psi(1.97BAR)、リア29psi(2BAR)。38Cの場合はフロント33psi(2.28BAR)、リア34psi(2.34BAR)でいくつもり。でも改めて繰り返すけど、「君も真似すべき」とは言えない。君は君の乗り方で決める必要があるんだ。

そしてレース日の朝に再考する必要がある。天候やコースの情報を集めてね。そうしたことを元に考えるといいね。

200マイルプロクラスはステティナ含む7人の先頭集団で展開した ©Snowy Mountain Photography

タイヤ、リム、シーラント、リムテープなど、普段から使ってみてベストな組み合わせを見つけるといい。そして馴れておく。ひとつ言いたいのは、レースでは初めて使うものは避けること。経験のないものをレースでトライしないことだ。試走して空気圧にも馴れておくこと。今回は15マイル地点あたりがいつもよりガレているという情報があるから、そうした箇所でパンクしない高めの空気圧も想定して、試走で馴れておくといい。グラベルはロードより足回りのエキップメントに左右されるね。

CW綾野:パンク修理キットには何を持ちますか?

ステティナ:リペアキットにはダイナプラグとCO2カートリッジ式インフレーターを持つ。それらをジャージのポケットに直接入れるんだ。サドルバッグに入れてバイクに取り付けたりしないのは、10秒で修理できるように。それがバッグから出して...とやっているとタイムを失う。プラグはシーラントが効かなかったときの手段で、チューブを使うのは稀なケースだけど、持たないわけにいかない。とくにプロカテゴリーはパンクを直してくれる「親切な人」を待つわけにいかないからね(笑)。

ステティナの愛用するダイナプラグ。アメリカで人気のチューブレス修理キットだ photo:Makoto AYANO

ほとんどのパンクはシーラントが塞いでくれるし、スペアチューブを入れて直すのは最終手段だね。シーラントはオレンジシーラント(Orange Sealant)製を使っています。素晴らしいけど、日本では入手不可能みたいだ。僕は今まで幸運に恵まれているのかもしれないけど、IRCのチューブレスタイヤには全幅の信頼をおいているよ。

オプションとして用意したBOKEN Plus。スリックトレッドのタフなタイヤだ photo:Makoto AYANO

ここまでに説明したことがアンバウンド・グラベルでのタイヤ選びのすべて。ひとつ付け加えるとすると、BOKEN PLUSを選択肢として用意してある。センター部が広いスリックでトレッドラバーが分厚く、カットパンクに強い。ただのスリックタイヤではなく、トレッド内部にまでカットが及ぶことがないんだ。ほぼノブが無いスリックトレッドだから泥対策にもなる。タイヤ重量は少しあるけどアンバウンドではデメリットにならないから。

泥区間を抜けたピーター・ステティナ。キャニオンのプロトタイプバイクにBOKEN Plusタイヤをセットして走った。ポケットには泥を掻き出すスティックを持つ photo:Makoto AYANO

ピーターのレースについて

このインタビューはレースの2日前に行った。「今回のレースは勝利が狙える最後のチャンス」と意気込み、「アンバウンドはBOKEN DOUBLE CROSS F:42C、R:38Cでいく」と話していたステティナだが、レース当日の午前3時までに降った雨で泥区間が酷くなっているという情報をうけ、スタート直前になって対策としてスリックのBOKEN Plus前42C、後38Cに変更して走った。それでも泥区間では途中2分ほど停まって泥の除去に時間を費やしたという。

レースは中盤以降7人のトッププロたちによる先頭集団に絞られ、ステティナはクライマー脚質であるため登りで幾度となくアタックをかけたものの、他をふるい落とすことができず、7人の集団スプリントに持ち込まれた時点で勝ち目はなく、優勝者キーガン・スウェンソンと同タイムの7位に終わった。

インプレッション

BOKEN DOUBLE CROSSで走ったアンバウンド・グラベル100マイル CW編集部 綾野 真

2度目のアンバウンド・グラベル100マイルレースに参加した綾野真(CW編集部) photo:Sayumi Toyokawa
昨年に続き2度めの100マイル挑戦ということで、準備は1年前からしていた。バイクは新調したが、タイヤに関しては日本でのグラベルライドで気に入って使っていたBOKEN DOUBLE CROSSで行こうと早めに決めていた。そして春のタイミングでiRCがアンバウンドグラベルの公式タイヤに選ばれたというニュースが飛び込んできた。

ピーターの話に出たフリントヒルズ特有のグラベル。日本では体験できない北米のフラットダートでの高速走行は確かに特殊だけれど、日本のグラベルと似ている点もある。それはガレている林道が多いことで、フリントヒルズ並みに耐パンク性が求められるほど条件が厳しいということ。

土や砂系のトレイルと違って、砂利や尖った石の多い林道グラベルを好んで良く走りに行っていたため、BOKEN DOUBLE CROSSのタフさは心強かったし、タフでありながら舗装路や締まった路面での転がりの軽さもあり、かつ砂利の登りでもスリップせずにトラクションがよくかかることがアンバウンド向きだろうと思って使うことを決めていたのだ。

Fサスペンション仕様のバイクに、フロントタイヤにはBOKEN DOUBLE CROSS 42Cをセット。快適性重視だ photo:Makoto AYANO

リアには38C(465g)をチョイスして完成車のデフォルト状態より195gの軽量化で漕ぎの軽さを狙った photo:Makoto AYANO

前輪に42C、後輪に38Cという前後異サイズを選んだのは、前輪と後輪ではそれぞれ役割が違うため。ロードでもそうだろうが、オフロードではそれがより顕著だ。最初に路面の凸凹に接する前輪にはショックアブソーバーの役割を求めたいし、ついてくる役割の後輪は細く軽くして漕ぎの軽さを求めたい。その選択はピーターに「僕も同じ組み合わせでいくつもり」と言ってもらえたことで太鼓判を押して貰った気分だった。

結局、ピーターはレース直前になって泥対策のためにBOKEN PlusのF:42C、R:38Cに急遽変更することになったが、ホイールごと用意してあったという。ワークスでない限りそこまで臨機応変な対応ができないというのがアマチュア。タイヤ交換の手間や、そのために生じるリスク(シーラント定着不足によるエア漏れ、ビード上げ失敗etc)を考えれば、直前の作業は避けたい。今回は3週間前にタイヤをセットし、シーラントもたっぷり充填して完全に安定した「いい状態」で渡米した。

レース前日に参加したiRCシェイクアップライド。交流や情報交換しながら走れるのが魅力 photo:Makoto AYANO

現地ではレース前々日から「シェイクアップライド」という名の試走会があちこちで開催される。タイヤのノウハウが得られることも見越してiRC主催のグループライドに参加し、空気圧を調整しながら走った。昨年とルートは変わらないが、ドライな天候が長く続いたということで、路面は完全ドライ。前夜に軽く雨が降っていたにも関わらず、午前中でさえそう感じるほどに路面は乾ききっていた。やはり実際に走って確かめる必要があるのだ。

レース前日の試走で確かめたグラベルは硬く締まった状態だった photo:Makoto AYANO

いつもなら空気圧は1.9barだが、ピーターの言うとおり、路面に新たに撒かれたメンテナンス用の砂利の硬さが気になり、パンク防止の為に少し高めて2.2barで行くことにした。サスペンションフォーク搭載バイクであることで、圧が少し高めでも振動がほぼ気にならないのはメリットだ。

大集団のまま高速でグラベルを進む。まるでロードレースのようなスピード photo:Makoto AYANO

前日試走でベストな状態を確認できたと思ったのだが、予想外だったのは泥。レース前夜に降った雨はD-hill区間を醜い泥に変貌させた。前日にこの区間を試走した人は口を揃えて「何事もなく走れたのに」と話していたから、ほとんどの人には想定外だった。しかし2015年にこの区間が採用された際に泥が大問題となったことを経験している選手たちは、このスポットの情報を見逃さなかったようだ。

泥のD-Hillセクションではほとんどの選手たちが押し歩きを強いられた ©Aaron Davis

過酷な泥は約8マイル(13km)続き、押し担ぎを強いられたことで選手たちの体力を奪った。私自身は泥対策をフレームとタイヤのクリアランスを大きく取ることで対策、それが功を奏したが、今になって思えばシリコンやオイルを塗布して泥が付着しにくい手段を取るんだったと後悔。タイヤ交換ができない対策まで深読みしておくべきだったのだ。そして来年はもっと丈夫な泥掻き出し専用のヘラを持って走ろう。

担ぎや押し歩きを強いられたD-Hillの泥区間。しかし区間8位で通過することができた photo:Makoto AYANO

泥区間を押して進むが、前輪がみるまに泥で太っていく photo:Makoto AYANO
木のナイフで泥を掻き出すが、粘りが強くて負けてしまう photo:Makoto AYANO


泥区間を除けば、タイヤ選択と空気圧設定はほぼ正解で、路面状況にあった状態で軽く走ることができた。何度も足攣りしたが、後輪側を38Cで軽いものにしてあったことも正解。後半も執拗に続くアップダウンでなんとかペダルを回し続けられた。ピーターは「概ね平坦だからタイヤ重量は気にしない」と話していたが、自分の脚力ではやはりこだわりたいもの。デフォルトの50Cタイヤ(650g)からなら190gの軽量化は、集団での高速走行時にも走りの軽さを感じ、脚をセーブできた。

直線的なアップダウンが延々と繰り返す photo:Snowy Mountain Photography

泥区間以外、フィニッシュまで通して走った100マイルコースの印象は、フラットダートこそよく締まって快適に走れるが、昨年よりガレている箇所が多かったとも感じた。

フィニッシュまで走ってタイヤ周りのトラブルは無し。数回パンクする人も多いなか、パンク無しは幸運だと思うと同時に、やはりBOKEN DOUBLE CROSSの耐パンク性能を心強く思った。ピーターに「センターのノブが密になったトレッドパターンが耐パンク性能の高さの秘密」と言われたことに納得。サイド部はX-Guardに覆われているためカットの心配は少なく、ガレ場に躊躇なく突っ込んでいけた(それでも大きな石を避けるのは大切)。

ノートラブルで100マイルレースを完走、フィニッシュして充足感を味わう photo:Makoto AYANO

センターがライン状になったタイヤは他にあるが、BOKEN DOUBLE CROSSのセンターノブは繋がっていないので柔軟に動くのもいい。空気圧を高めにしても柔軟性が保たれるため扱いやすく、乗っていて楽しくなるほどの快適性が確保されている。コンパウンドはクロスカントリー系MTBタイヤとも共通とのことで、硬さが無いのも快適な乗り心地に寄与していると思う。よく弾むように走る快適な乗り心地がiRC系のタイヤ共通の気に入っているポイントだ。

レース後のBOKEN DOUBLE CROSS パンク等のトラブルはゼロだった photo:Makoto AYANO

そして何よりチューブレス/チューブレスレディを得意とする同社だけに、BOKEN DOUBLE CROSSも例に漏れず取り付けから管理まで、扱いやすくまったく問題が発生しなかったのも改めて信頼度を高めた点。オフロードサイクリングのなかでももっとも苛酷な条件で使われるグラベルタイヤだからこそ、安心して使用、走りに集中できることがどれだけ心強いことか。今回は特別にピーターへのインタビューをセットしていただき、かつレース参加の過程においても選手としてサポートしてくれたiRCのスタッフに感謝したい。
提供:iRC text:綾野 真(シクロワイアード編集部), photo:Snowy Mountain Photography