強制的に編集部を追い出され、嫌々輪行サイクリングをはじめたヘタレ・フジワラ。稲村ヶ崎を訪れ、鎌倉の歴史に触れたことで、輪行サイクリングの魅力を感じ始めたようだ。後編は極楽寺から北鎌倉を巡り、終点逗子駅までの様子をお届けする。(前編はこちら



江ノ島電鉄は住宅が立ち並ぶなかを走るため迫力満点だ江ノ島電鉄は住宅が立ち並ぶなかを走るため迫力満点だ
稲村ヶ崎を訪れ、思わぬ魅力に触れることができた私ヘタレことフジワラ。約700年前に起きた政権転覆劇の一幕を感じ取り、高めのテンションで物思いに耽けているが、カメラ係として連行してきたカマタはどこか冷めている様子に見える。

確かに私が私のために考えたサイクリング企画であるため、カマタの気持ちが置いてけぼりなのはわかる。そうは言っても、このポカポカ陽気、素晴らしいロケーション、湘南でしかお目にかかることが光景を前にしてテンションが上がらないのはどういうことなんだろうか。

「もしかしたら歴史に興味が無いのかも」「湘南の良さがわかっていない?」などと思考を巡らせるが、ポーカーフェイスのカマタの気持ちを汲み取ることができない。群馬県出身、ことあるごとに安中をアピールするカマタは群馬至上主義者なのだろうか。群馬のチームに所属する後輩ムラタも、口を開けば「群馬は最高です!自転車に乗るなら群馬しかない!」とまで言う。おそらく彼らは二人そろって群馬に心を捉えられてしまっているのかもしれない。

稲村ヶ崎駅から極楽寺駅までも並走できる併用軌道区間がある稲村ヶ崎駅から極楽寺駅までも並走できる併用軌道区間がある 気温が高く、低速で走っていても汗ばむ陽気。水分補給として選んだのは江ノ島鎌倉サイダーと鎌倉梅サイダー気温が高く、低速で走っていても汗ばむ陽気。水分補給として選んだのは江ノ島鎌倉サイダーと鎌倉梅サイダー

数多くのドラマ、漫画の舞台となっている江ノ島電鉄・極楽寺駅も聖地巡礼。ミーハーな私は外せないスポットだ数多くのドラマ、漫画の舞台となっている江ノ島電鉄・極楽寺駅も聖地巡礼。ミーハーな私は外せないスポットだ 極楽寺坂切通し近くで「レトロ秘密基地 やこぜん」という昔懐かしいものを集めた遊び場を発見!極楽寺坂切通し近くで「レトロ秘密基地 やこぜん」という昔懐かしいものを集めた遊び場を発見!


カマタのテンションに疑問を抱きながらも、国道134号線を離れ江ノ電沿線へ足を向ける。江ノ電と一般道が交差し、作られた三角地帯に佇むカフェ”ヨリドコロ”をカマタに紹介したところで、私が「卵かけご飯だってー。美味しそうだね。こんなところで朝食を食べたいよね。」と他愛もない会話を振ると、カマタが冷静に返してくる。「メニューボードだけでも画になりますね。タイミング良く江ノ電が通過してくれたらバッチリなんですが…。」

この言葉により、遊び気分に浸る私に電流が走る。新人カマタはしっかりと仕事意識を持ってこのサイクリングに臨んでたのだ!入社半年にも満たない新人が、私よりもプロ意識が高いとは…肩身が狭い。”ヨリドコロ”での会話は強引に打ち切り、自転車にまたがって先行する。

ほんのりと汗をかきはじめたタイミングで、岩沢酒店というところで”鎌倉うめサイダー”なるものを発見。この”うめサイダー”は実際に鎌倉で収穫された梅で作られるとのこと。汗ばんだ体に染み渡るような酸味が心地よい一本だ。失墜した先輩としての地位を回復するために、カマタに”うめサイダー”をプレゼント。2本で360円也(これも経費で落とすんですけどね)。

極楽寺坂切通しは車道として整備されてしまっているため、新田義貞の侵攻を食い止めた様子は伺うことはできない極楽寺坂切通しは車道として整備されてしまっているため、新田義貞の侵攻を食い止めた様子は伺うことはできない
江ノ電との併用軌道区間を過ぎるとすぐに”極楽寺駅”が現れる。関東の駅百選に選出されている木造駅舎は”海街diary”や”最後から二番目の恋”など映画やドラマの撮影地となることが多く、ミーハーな私にとっては聖地巡礼の場所。もちろん写真は逃さない。

駅舎の写真をおさえたら、いよいよ鎌倉七口のひとつ極楽寺坂切通しにさしかかる。干潮した稲村ヶ崎の海側から幕府へ侵攻した新田義貞でさえも攻略することが叶わなかったと伝えられている切り通しだ。新田公は稲村ヶ崎の陸路も通過できなかった事からも、鎌倉幕府の防御は強固だったと言えるだろう。

ちなみに都市・鎌倉は北・東・西を囲う山々と南に面した相模湾によって守られていたことは有名だ。市街から市内へ至る主要道路は鎌倉七口と呼ばれ、いずれも切り通しとして守りを固めた交通路に整備された。ちなみに鎌倉七口は極楽寺坂、大仏坂、化粧坂、亀ヶ谷坂、巨福呂坂(こぶくろざか)、朝比奈、名越という7つで、稲村ヶ崎の切り通しは数えられていない。

切通を通り過ぎると長谷地区に入る。ここでは長谷寺と大仏が鎮座する高徳院が有名所。切通を通り過ぎると長谷地区に入る。ここでは長谷寺と大仏が鎮座する高徳院が有名所。 ロードバイクを置いて長谷寺参拝は盗難の恐れがあるため、門前のお地蔵さんに挨拶して去ることにロードバイクを置いて長谷寺参拝は盗難の恐れがあるため、門前のお地蔵さんに挨拶して去ることに

長谷寺門前には1000種類以上のオルゴールが揃えられた専門店「鎌倉オルゴール堂」が佇む長谷寺門前には1000種類以上のオルゴールが揃えられた専門店「鎌倉オルゴール堂」が佇む 江ノ島電鉄・長谷駅から大仏の高徳院までは土産屋が立ち並ぶ江ノ島電鉄・長谷駅から大仏の高徳院までは土産屋が立ち並ぶ


外敵の侵入を阻んだ天然の要塞は、鎌倉五山など仏教文化発展にも貢献したと言っても過言ではないだろう。観光地として有名な寺社仏閣と鎌倉を守った自然、2つ同時に巡ることができるのが、鎌倉サイクリングの良いところだ。

そのような歴史を感じさせる切り通しなのだが、現在は一般的な車道として整備されているため、当時の雰囲気は残っていない。残念といえば残念なのだが、新田義貞による鎌倉幕府攻略後、室町、安土桃山、江戸、明治と日本が統一され平和になったとも言える象徴として捉えても良いのかもしれない。

ロードバイクにまたがった我々は切り通しを難なくクリアし、鎌倉市街へと進行することに成功する。鎌倉の南西部には大仏が鎮座する高徳院や紫陽花の名所長谷寺が構えられており、鶴岡八幡宮と並ぶ観光地として名を馳せている。

二の鳥居から三の鳥居までは段葛が整備されており、鶴岡八幡宮の本宮まで一直線の道が続く二の鳥居から三の鳥居までは段葛が整備されており、鶴岡八幡宮の本宮まで一直線の道が続く 源平橋から本宮を眺める源平橋から本宮を眺める

花も咲き始め春到来を実感させられる花も咲き始め春到来を実感させられる 小町通りは観光客で人通りが多い小町通りは観光客で人通りが多い


市街に入ると観光客で賑わっているため、スピードを乗せやすいロードバイクでの走行は気をつける必要がある。また、ロードバイクから長時間目を離すと盗難される恐れがあるため、寺社仏閣内を見学できないことがロードサイクリングのデメリット。

今回は観光名所の”長谷寺”や”高徳院”は門前で手を合わせるだけにとどめ、鎌倉中心地の”鶴岡八幡宮”へと向かう。県道311号を走っていると洒落たカフェやレストラン、ゲストハウスなど観光地らしい店舗が目に飛び込んでくる。丁度、お昼時に通過したこともあり休憩を挟みたくなったが、鶴岡八幡宮へと向かいたいという私の意向で、カマタの意見を聞くこともなくスルー。

鶴岡八幡宮から由比ヶ浜まで一直線に伸びる参道”若宮大路”までたどり着くと、いよいよ鎌倉中心地にやってきたことを実感する。若宮大路は海側から一の鳥居、二の鳥居、三の鳥居という3つの大きな鳥居が建てられた距離1.8kmにも及ぶ参道。

クロワッサンたい焼き(しらす)を食べ歩きスタイルで頂くことにクロワッサンたい焼き(しらす)を食べ歩きスタイルで頂くことに 古都らしく風情ある木製の塀に囲まれてサイクリング古都らしく風情ある木製の塀に囲まれてサイクリング

山に囲まれた鎌倉らしく至る所で坂とトンネルが待ち構える山に囲まれた鎌倉らしく至る所で坂とトンネルが待ち構える フランドルのクラシックを連想させる急坂が、銭洗弁天の前に現れるフランドルのクラシックを連想させる急坂が、銭洗弁天の前に現れる


二の鳥居から三の鳥居にかけては、道の中央部を盛り土で1段高くした歩道・段葛として整備されており、本宮を正面に見ながら参道を歩くことができる。段葛の面白いところは二の鳥居地点では道幅を広く、三の鳥居前では狭くし、道を長く見せる遠近法を取り入れていること。二の鳥居から約700m先の鶴岡八幡宮の本宮まで開けた風景を見ることができるため、鎌倉に来たという実感が湧くオススメのスポットだ。

鶴岡八幡宮は長谷寺や高徳院と同じようにスキップ。源平池のほとりで満開になっていた梅を見るだけに留め、小町通りへと足を向ける。この商店街も観光客で溢れており、マイペースなカマタとはぐれないようにするだけで精一杯。レストランで昼食をと考えていたが、どこも行列が形成されており、すぐに入れる様子はないため、腰を据えての昼食を断念。

たまたまクロワッサンたい焼き(しらす)という文字が目に飛び込んできた。「クロワッサンで?たい焼き?しかも、中身はしらす?だ…と…?」なんでも有名なおやつらしいが、一般社会から隔絶されているローディーの私は初めてみる単語だ。興味をそそられたので購入し、カマタと一緒に頬張ってみることに。確かに、たい焼きの形をしたクロワッサン、中身は釜揚げのしらすだった。美味しく頂くことができたので、次なる目的地・銭洗弁財天宇賀福神社(以下、銭洗弁財天)を目指すことに。

鳥居を目指してヒルクライム!鳥居を目指してヒルクライム!
”銭洗弁天”は、境内の洞窟で湧き出る聖水”銭洗水”でお金を洗うと、金運が上昇すると言い伝えられている神社。所得が増えれば、良い自転車を買うことができるし、日帰りの飛行機輪行サイクリングだって身近になる。銭洗弁天は夢を見させてくれる場所なのだ。このご利益にあやかりたいため、私は銭洗弁天へと向かう。

銭洗弁天は鎌倉中心部を守る源氏山の中腹部に位置し、登坂しなければたどり着けない場所に構えられている。途中、フレンチレストランとして改修された古我邸や、行列をなすほど人気の茶房雲母を脇目に入れながら黙々と足を進める私とカマタ。

住宅街の中を走っていると突如として現れる斜度15%以上の急坂が、源氏山に差し掛かったことを伝えてくる。銭洗弁天までの距離100m足らずの短さだが、斜度20%超の部分も存在する上り坂は、フランドルのクラシックを想像させる迫力だ。ハンドルにしがみつくような前傾姿勢でペダルを漕ぎクリアできた時は「ロードバイクでゆっくり走っても楽しいが、やはり辛い中走ってなんぼ」とも思うほど高揚感を覚える。

金運アップを祈念する私フジワラ。お金持ちになりたい(切実)金運アップを祈念する私フジワラ。お金持ちになりたい(切実) 市街地を離れ山に入ると自然豊かで、気持ちよくサイクリングできる市街地を離れ山に入ると自然豊かで、気持ちよくサイクリングできる

外敵の侵攻を阻む化粧坂切り通しは、急峻な坂かつ滑りやすい岩が露出しており歩きにくいことこの上ない外敵の侵攻を阻む化粧坂切り通しは、急峻な坂かつ滑りやすい岩が露出しており歩きにくいことこの上ない 北鎌倉駅近くにも幾つものトンネルが掘られ、生活道路として機能している北鎌倉駅近くにも幾つものトンネルが掘られ、生活道路として機能している


境内に入るトンネルまでたどり着いたところで私は「ロードバイクから目を離し、小銭を洗っている最中に自転車を盗まれたら元も子もないぞ」と気がついた。富豪になるためには銭洗いが必要だ。しかし、私を遠くに連れて行ってくれる自転車が盗まれるのを許すことはできない。夢を追うか、今ある幸せを離さないか、究極の二択を迫られた私は後者を選択。私の旅はまだまだ続くのであった。

未練がましい私は、少しでもご利益があるようにとトンネルの外側から金運アップを祈念し、源氏山の山頂を目指すべくロードバイクに再びまたがる。山頂で自転車を置き、歩みを進めたところで現れるのは、現在も昔の様子が残る化粧坂切り通し。急峻な坂、ゴロゴロと転がる岩、歩けそうなところはツルツルとしている。なるほどここを行軍するのは非常に難しい。極楽寺坂切通しも、同じように急峻な坂であったならば、新田義貞が突破できなかったのもうなずけるほど、険しい道となっている。

せわしなさそうに足を進める私の後ろをマイペースでついてくるカマタ。彼は新田義貞が挙兵した上野国(現・群馬県)出身のため、侵攻できなかった切り通しは憎くて仕方がないのかもしれない。同郷の新田義貞を想うほど、カマタは群馬愛に溢れているに違いない!と私は結論づける。

背が低いトンネルも。バリエーションが豊かでトンネルマニアにオススメかも背が低いトンネルも。バリエーションが豊かでトンネルマニアにオススメかも 鎌倉五山・第二位の円覚寺山門前をいく鎌倉五山・第二位の円覚寺山門前をいく

小腹がすいたタイミングでお茶屋を発見!小腹がすいたタイミングでお茶屋を発見! みたらし団子とあんみつをいただきましたみたらし団子とあんみつをいただきました


ひと通り源氏山を楽しんだあとは北鎌倉駅近くのお茶屋で、みたらし団子とあんみつを頂きサイクリング終盤戦に備える。この後は鎌倉時代に発展した禅宗・臨済宗の大本山・建長寺と、第二位・円覚寺を見てから、逗子駅を目指すルートだ。

禅宗と言えば自分の心と向き合うための修行の坐禅。煩悩ばかりの私は、己の心を正すために必要な修行であり興味をそそられるが、何事にもクールなカマタには必要がないのか興味がなさそう。門の奥から凛とした空気が漂い、引き込まれそうになるが、時間が差し迫っていたこともあり、足を早めることに。いつか坐禅は体験してみたいものだ。

北鎌倉から鎌倉市街、由比ヶ浜へ抜けた頃には既に夕暮れ時。”シンゴジラ”があらわれた場所と思われる西の浜の方に夕日がかかり、浜辺には肩を寄せ合いカップルが黄昏れている。これぞ湘南という光景を目の当たりにして私もほっこり。逗子マリーナに足を運びリゾートサイクリングらしい気分を味わった後は、逗子駅まで猛ダッシュ。なんとか日没までにサイクリングを終了させることができ、一安心。

鎌倉五山・第一位の建長寺。現在も坐禅文化を支える寺だ鎌倉五山・第一位の建長寺。現在も坐禅文化を支える寺だ
走行距離は約23km、最短ルートの倍以上走ったことになる計算だ。走行時間も普段なら2時間もかからないはずだが、10時半から17時までたっぷりと時間を使って江ノ島・鎌倉を満喫してしまった。走り始める前は短距離では何も楽しめないと考えていた自分が恥ずかしい。

自宅発着でたどり着ける場所には行き尽くし、マンネリ化していたサイクリング。輪行サイクリングという手段は、「発着点を柔軟に変えることができ、自転車にまたがっていられる時間を増やすことができる素敵な遊び方だ!」と今更ながら気がついた。

自宅から出発地点まで、ゴール地点からの帰路は輪行で、出発地点までだけ輪行で自走で帰宅、自走で目的地まで行き輪行で帰ってくる。さまざまなパターンで遊ぶことができる輪行は、低下したサイクリングモチベーションを高めてくれるものだった。

由比ヶ浜から稲村ヶ崎を眺める。シンゴジラが再浮上したのもこのへんだろう由比ヶ浜から稲村ヶ崎を眺める。シンゴジラが再浮上したのもこのへんだろう 逗子マリーナは古都・鎌倉とはいってん南国リゾートらしい建物が立ち並ぶ逗子マリーナは古都・鎌倉とはいってん南国リゾートらしい建物が立ち並ぶ

日没前に無事ゴール地点JR逗子駅に到着!自転車を片付け帰路につく日没前に無事ゴール地点JR逗子駅に到着!自転車を片付け帰路につく 帰りも輪行でらくらく帰宅!バイバイ!帰りも輪行でらくらく帰宅!バイバイ!


終点の逗子駅に着いた時点で、お昼ごはんも食べていなかったことを思い出し、駅併設の蕎麦屋で空腹を満たしてから、プライベートでは絶対に乗ることが無い”JR横須賀線のグリーン車”に乗り込む。経費は使うためにあるのだ。「次回輪行サイクリングを行う際は、ランチ休憩を含んだ時間配分が課題だな」なんてことを考えながら、いつの間にか眠りに落ちていたのであった。


text&photo:Gakuto"ヘタレ"Fujiwara
photo:Kosuke.Kamata
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