長い長い冬が終わり、サイクリングにピッタリな季節がやってきた。サイクリング記事を書くべくシクロワイアード編集部も動き出す。1人やる気のなかったにも関わらずお鉢が回ってきてしまったヘタレことフジワラが神奈川県の湘南地区をサイクリング。そのレポートをお届けしよう。



半強制的に編集部を追い出され、輪行サイクリングをすることとなったフジワラ。取材経費で精算できることをいいことに特急ロマンスカーで江ノ島入りする半強制的に編集部を追い出され、輪行サイクリングをすることとなったフジワラ。取材経費で精算できることをいいことに特急ロマンスカーで江ノ島入りする
春を迎えるに当たり、編集部が一丸となって取り組んでいる最優先課題が”サイクリング企画”。自転車に乗るモチベーションが下降線を辿る最中にある私ヘタレことフジワラは、正直言うとサイクリング企画についてはまったく乗り気ではなかった。

編集長に企画の提出を求められたが、自転車にすら乗らなくなった私が提出する企画は魅力的なものとなるはずもなく、提出しては突き返されるの作業をひたすら繰り返すことに。企画をダメ出しされ、気持ちがササクレだってイライラしている私を見かねたのか、編集長が「フジワラ君のスケジュール調整して、この日開けておいたから、好きなようにサイクリングしてきなよ。地元が近い湘南エリアの輪行サイクリングなんていいんじゃないかな。」と提案をしてくれた。

確かに勝手知ったる湘南エリアなら気持ちよく走ることができる場所だ。自信を持って片瀬江ノ島駅発着、三浦半島一周サイクリングを提案してみたが一蹴。「なんか違うな―。片瀬江ノ島駅発・JR逗子駅着でなんか考えて。もう企画見せなくていいから、とりあえず走ってきなよ」と結局はダメ出しを食らう。

4列シートとなっているため、本を読めるほどくつろげる4列シートとなっているため、本を読めるほどくつろげる 新宿から600円ほどで特急を利用できるため、気軽にラグジュアリーな旅を演出することができる新宿から600円ほどで特急を利用できるため、気軽にラグジュアリーな旅を演出することができる

片瀬江ノ島駅は龍宮城を連想させる趣の駅舎となっている片瀬江ノ島駅は龍宮城を連想させる趣の駅舎となっている 人通りが少ない場所に移動し、輪行袋から自転車を取り出す。平日は人通りが少ないため、輪行サイクリングを行いやすい人通りが少ない場所に移動し、輪行袋から自転車を取り出す。平日は人通りが少ないため、輪行サイクリングを行いやすい


そんな事があり編集部を追い出された私は今、新人のカマタを引き連れ、編集長が提案した片瀬江ノ島~逗子ツーリングを行うため、小田急線新宿駅から出発した特急ロマンスカーに乗り込んでいる。業務命令で仕方なく足を運んでいるとは言え、今回の旅費は全て経費で落とせるため、贅沢三昧の特急をチョイスだ。

ロマンスカーは新宿から2時間足らずで片瀬江ノ島駅まで行くことができる特急。新幹線のような4列シートとなっているうえ全席指定席。予約をすれば確実に座ることができ、旅情たっぷりの移動を楽しめる。輪行にピッタリな列車である。新宿駅から片瀬江ノ島駅までの運賃は特急料金を含め1250円となっているため、比較的手頃な価格でラグジュアリーな移動を楽しむことができる。

ロマンスカーはいつ乗っても良いものだ。座席の目の前に人が立つこともなく、駅構内で購入したコーヒーとサンドイッチを頬張ってもよい、ストレスフリーな環境とはこのこと。編集部で暇そうにしていたためカメラ係として連れ出したカマタとの会話も弾み、あっという間に片瀬江ノ島駅に到着してしまう。

竜宮城スタイルの駅舎を眺めながら、湘南サイクリングをスタートする竜宮城スタイルの駅舎を眺めながら、湘南サイクリングをスタートする
座席の後部に押し入れた輪行袋を引っ張り出し降車すると、冬のカラッとした冷たい風ではなく、湿度高めでほんのり暖かい風が身を包む。冷え切った東京都下では考えられない気候を味わえただけでも、湘南に足を運んだ甲斐があったといっても過言ではない。

しかし、江ノ島まで来てしまったはいいものの、私は最短10kmでゴールしてしまう短距離でどのように楽しめば良いのかわかっていない。わかっているのは、今回の企画は輪行がメインであり、調子に乗って三浦半島を一周してしまったら、旅費を経費として落とすことができなる可能性があるため、編集長提案の片瀬江ノ島駅発・JR逗子駅着は守らないといけないということ。

短距離で記事として成り立たせるため、頻繁に足を止めてネタと写真を押さえることも今回の旅に必要だ。突然編集部を追い出され、事前にロケ地の勉強することができなかったため、取材はジャストアイデアで進行していくことなる。大学時代まで神奈川県大和市に住み、事あるごと湘南に足を運んでいた私の経験だけが頼りだ。

江ノ島をひと目見てから、本格的にサイクリングがはじまる江ノ島をひと目見てから、本格的にサイクリングがはじまる
発着点を決められたサイクリングで楽しめると思っていない私は、いそいそと輪行袋から自転車を取り出し組み立てる。長らく目にすることがなかった龍宮城を模した片瀬江ノ島の駅舎を眺めながら、カマタが自転車を組み立てるのを待つことに。

朱色で彩られた駅舎は私が幼少期、20年ほど前には既に竜宮城の形をしていたのは記憶にある。いつからこの形なのか気になったので、改めて調べてみるとユニークな駅舎が登場したのは1929年のことだという。私がはるか昔から片瀬江ノ島駅は龍宮城だったのだ。

幾度となく塗り直しが行われているからだろうか、色褪せていない駅舎はシンボルとして90年近く江ノ島にそびえ建ち、今でもフォトジェニックな観光ポイントとして多くの人々に愛されいる。この日も記念撮影する人が多く、我々も観光客気分で1枚シャッターを切ってからサイクリングをスタートさせる。

国道134号線沿いにはお洒落なカフェや魚介料理屋が多く立ち並ぶ。名物はもちろんシラスだ国道134号線沿いにはお洒落なカフェや魚介料理屋が多く立ち並ぶ。名物はもちろんシラスだ お目当てのジェラート屋さん「The Marcket SE1」に足を運んだが、残念ながら臨時休業お目当てのジェラート屋さん「The Marcket SE1」に足を運んだが、残念ながら臨時休業

2軒となりには老舗和菓子屋「扇屋」が待ち構えている。店舗の一部は江ノ島電鉄で使用された実際の車両が使われている2軒となりには老舗和菓子屋「扇屋」が待ち構えている。店舗の一部は江ノ島電鉄で使用された実際の車両が使われている 扇屋の名物は店舗と同様、江ノ電もなかだ扇屋の名物は店舗と同様、江ノ電もなかだ


ロードバイクで巡るのに不向きな江ノ島の島内には立ち寄らないが、せっかく来たのだからとひと目拝むことに。浜まで出るとピーヒョロロロロという鳴き声ともに、観光客が手に持つ食べ物や海面近くに浮上してきた魚を狙ったトンビが現れる。頭上で旋回し、一気に下降、獲物をキャッチする所作はカッコよく、いつまでも見たくなってしまうが、この後の予定もあるため先を急ぐことに。

次なる目的地は、江ノ島に訪れる観光客ならば外してはならない「江ノ電もなか」をつくる和菓子屋の扇屋だ。江ノ島電鉄(以下、江ノ電)の江ノ島駅から腰越駅に向かう併用軌道区間にある扇屋は、店舗の一部として江ノ電で実際に使用されていた車両を利用したユニークな店構えをしており、観光スポットとしても知られている。

1日に限られた量しか売られないレアな”江ノ電もなか”を編集部へのおみやげとして購入。現地にいる我々は2軒隣のThe Marcket SE1でジェラートをいただこうと考えていたが、なんと臨時休業!雨男フジワラの運の悪さがこんなところで発揮されてしまったのだ。ちなみにThe Marcket SE1はピザも振る舞われるので、サイクリングの休憩にピッタリなスポットなのである。

江ノ島電鉄の江ノ島駅から腰越駅にかけての区間は併用軌道となっている江ノ島電鉄の江ノ島駅から腰越駅にかけての区間は併用軌道となっている
これまで最高の雰囲気を味わってきただけに、このバッドラックによる精神的なダメージが大きいが、気を落とす暇も無いため次の目的地へと足を向ける。がっかりした様子を演出していたはずなのだが、カマタは励ましてくれることも無かった。私の人望がないのか、カマタが薄情なのかは分からないが……。

扇屋から稲村ヶ崎へ向かうためには一度、江ノ電の併用軌道区間を経て、国道134号に出る必要がある。わずか400m足らずの併用軌道区間にも関わらず、我々が通るタイミングと江ノ電の通過タイミングと重なったため、私のテンションは一気にアップ!ジェラートを食べ損ねたことを忘れ、ハシャギながら江ノ電をカメラのフレームに収め、シャッターを切っていると、カマタが冷めた目でこちらを見ているではないか。この若者は喜怒哀楽激しい精神的にお子様な私に愛想をつかせている様子だ。

稲村ヶ崎に向かう途中、魚を天日干ししている魚屋さんの軒先や、スラムダンクで有名な江ノ電・鎌倉高校前駅の脇にある踏切、行列に並ばないと入ることができないほど繁盛しているカレー屋・珊瑚礁など撮影スポットも多い。ここでは新人カマタに対し、撮影時の構図を厳しく指導する。今後のためにも先輩風を吹かせておく事は大切だ。

漁港が近くにあるだけに魚屋の軒先では天日干しが行われていたりする漁港が近くにあるだけに魚屋の軒先では天日干しが行われていたりする スラムダンクでお馴染みの鎌倉高校前駅にある踏切は聖地巡礼スポットだスラムダンクでお馴染みの鎌倉高校前駅にある踏切は聖地巡礼スポットだ

七里ガ浜のカレー屋珊瑚礁は行列をなすほどの人気店だ七里ガ浜のカレー屋珊瑚礁は行列をなすほどの人気店だ 明治天皇の短歌は、新田義貞が刀を海に差し込み、潮を引かせたという伝説のシーンが詠まれている明治天皇の短歌は、新田義貞が刀を海に差し込み、潮を引かせたという伝説のシーンが詠まれている


江ノ島から腰越を越えた七里ヶ浜の海沿いは、燦々と輝く太陽、目の前に迫る波打ち際などザ・湘南というイメージが当てはまるスポット。オープンカーに乗り、BGMに加山雄三、サザンオールスターズ、TUBEなどを流しながらドライブしているイメージが頭に浮かぶのがここだ。

リゾート地らしい店舗が立ち並ぶ七里ヶ浜を通り過ぎると、切り立った崖の稲村ヶ崎が現れる。ここを通り過ぎると鎌倉幕府が守ってきた鎌倉地域となる。13世紀ごろの稲村ヶ崎は道幅が狭い切り通しであり、外敵の侵攻を阻んできたという歴史を持つが、現在は2車線の国道134号となっておりロードバイクではスピードを上げて通過しがちなポイント(注:ヘタレ藤原基準)。湘南の風を受けながら稲村ヶ崎を越え、由比ヶ浜が目の前に飛び込んできた時の高揚感を味わうのが、湘南サイクリングの醍醐味だ。

しかし、今日はのんびりサイクリングなので立ち寄ることにする。稲村ヶ崎は七里ヶ浜と由比ヶ浜の砂浜を分断するようにそびえる岬のことをいう。一見するとただの崖なのだが、源氏と北条氏が13世紀に築いた鎌倉の都市防衛の要衝だったのだ。稲村ヶ崎で外敵を阻むことができたのは、通行路を狭い切り通しとすることで数多くの兵士たちによる突破を防ぎつつ、砂浜を分断していることで浜伝いの行軍を不可能にしていたため。

甲冑を着用した兵士が海の中を行軍するのは不可能だと実感させられる甲冑を着用した兵士が海の中を行軍するのは不可能だと実感させられる
この天然の要塞は鎌倉幕府を約150年間守り続けたものの、1333年に幕府を打倒するべく挙兵した新田義貞によって突破されてしまう。稲村ヶ崎攻略後、都市・鎌倉に侵入した新田は幕府を滅亡させ、武家政権だった鎌倉時代に終止符を打つことになる。

新田が稲村ヶ崎を突破することができたのは、潮が引き、稲村ヶ崎の崖下に軍勢が渡ることができる浜が現れたからだと伝えられている。稲村ヶ崎の切り通しは防御拠点として機能していたが、天の思し召しによって勝敗がわけられてしまったのだ。

「その時歴史が動いた」といっても過言ではない日本史における重要スポットにテンションが高まった私は、勇み足で波打ち際まで進んでみる。岩場に打ち付ける波は力強く、岩肌の天面は常に濡れており、海側から攻略するのは不可能だと想像できただけに、新田は強運の持ち主だったか鎌倉幕府は1333年に滅びる運命だったことが決められていたと思わざるをえない。

稲村ガ崎から眺める江ノ島は美しい稲村ガ崎から眺める江ノ島は美しい
今まではただ通り過ぎるだけであった稲村ヶ崎。自分の目で捉えることで、感じられるものは多いと気づかせてくれた良スポットであった。あえて短距離に設定した編集長は、ちょっと足を止めることで得るものは多いと知っていたのだろう。やさぐれていた私に何を言っても無駄だと判断し、実際に感じ取らせようという名采配だったのかもしれない。

私は稲村ヶ崎を越えた後は国道134号線を気持ちよく走り、鎌倉の中心地を訪れるというルートを予定していた。しかし、稲村ヶ崎のように思いがけない魅力がまだ他にもあるかもしれないと考え急遽ルートを変更。海岸線を離れ、江ノ電沿線に再び足を運ぶのであった。

後編では江ノ電沿線で見つけた切り通し、寺社仏閣などを巡ります。


text&photo:Gakuto"ヘタレ"Fujiwara
photo:Kosuke.Kamata
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