1990年1月26日生まれのペーター・サガン(スロバキア)と、1990年12月25日生まれのモレーノ・モゼール(イタリア)。この数年で一気に頭角を現した2人の22歳に、2013年も引き続き注目したい。




ペーター・サガン(スロバキア)

クラシックを狙うと宣言するペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)クラシックを狙うと宣言するペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール) photo:Kei Tsujiロサンゼルスで行なわれたチームプレゼンテーションを前に、世界各国から集まったジャーナリストに各選手のインタビュー時間が15分ずつ割り当てられた。選手の中で最も多くのインタビューリクエストを受けていたのは、イヴァン・バッソ(イタリア)ではなく、サガン。(時々眠たそうだったが)イヤな顔一つせず、サガンは休憩無しで数時間質問に答え続けた。

昨年ツアー・オブ・カリフォルニアでステージ5勝、ツール・ド・スイスでステージ4勝、そして初出場したツール・ド・フランスでステージ3勝を飾り、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)を手に入れた22歳は、この数年で揺るぎない風格を手に入れいていた。

2010年1月、ちょうどサガンがツアー・ダウンアンダーでプロデビューを飾った際、インタビューを行なったことがある。当時はまだまだ顔に幼さが残り、言葉も喋れない状態で、意思疎通に苦労した思い出がある。チームメイトからいじられるキャラだったサガンは、そのダウンアンダーでトップ選手と肩を並べる走りを見せ、強烈なインパクトを残した。

まずは当時の写真を見ながら、サガンにこの3年間を振り返ってもらう。


体つきが大きく変わったように見えますね
2010年ツアー・ダウンアンダー トップ選手に混じって連日勝負に絡んだペーター・サガン(スロバキア)2010年ツアー・ダウンアンダー トップ選手に混じって連日勝負に絡んだペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji今よりずっと小さく見える。2010年にプロ入りした時は体重が72kgだった。毎年少しずつ体重を増やして、昨シーズンは76kg前後で推移。でも決して太ったわけじゃなくて、筋肉を付けたんだ。

ちなみに今の体重は?
2012年ツール・ド・フランス ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)2012年ツール・ド・フランス ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vos・・・今はオフシーズンなので78kgぐらいある。でもそれは全然問題ない。もちろんシーズンインに向けて体重を落とすし、ツール・ド・フランスが始まる頃にはシャープになっている。まだ若いので、身体的な伸び代は残されていると思う。でも、伸び代の大きさは自分にも分からない。どこまで自分の身体が進化して行くのか、自分でもまだ分からない。

イタリア語がかなり流暢になりましたね!
3年前、イタリアに着いたとき、全くと言っていいほどイタリア語を話せなかった。「チャオ」も「ボンジョルノ」も知らなかったんだ。でも3年間イタリアに住み、何もかもを自分自身でこなしているうちに身に付いた。プロスポーツ選手として活動する上で、言語は必須条件。いま話せるのはイタリア語と英語と…英語と…英語と…あ、スロバキア語だ(笑)ユキ(増田成幸)は12月のトレーニングキャンプで一気に喋れるようになって感心したよ。

体つきだけでなく、自信をつけたことによる落ち着きを感じますが
確かにすごく落ち着いたと思う。プロ入り当時は、自転車競技を何も理解していなかった。自分が強ければそれだけでいいと思っていた。今はチームの仕組みを理解し、チームメイトの力を借りて、目標をしっかり設定して、それに向かってやるべきことをやっている。心を落ち着けてレースを走ることをこの3年間で学んだ。

2010年ツアー・ダウンアンダー 落車で20針縫いながらも鋭い走りを見せるペーター・サガン(スロバキア)2010年ツアー・ダウンアンダー 落車で20針縫いながらも鋭い走りを見せるペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji2010年ツアー・ダウンアンダー トップ選手とともにゴールするペーター・サガン(スロバキア)2010年ツアー・ダウンアンダー トップ選手とともにゴールするペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji2010年ツアー・ダウンアンダー ペーター・サガン(スロバキア)2010年ツアー・ダウンアンダー ペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji




サガンは2008年のMTBクロスカントリー世界選手権でジュニアチャンピオンに輝き、同年シクロクロス世界選手権ジュニア2位、パリ〜ルーベジュニア2位。ステファノ・ザナッタ監督の目に止まり、キャノンデールチームのメンバーとしてMTBクロスカントリーに出場すると同時に、育成チームであるマルキオーロチームでロードレースを走った。すぐに頭角を現した彼に、ザナッタ監督は3年契約をオファー。その結果、プロ1年目でパリ〜ニースとツール・ド・ロマンディ、ツアー・オブ・カリフォルニアでステージ優勝してみせる。その後の活躍はご存知の通りだ。

プロ4年目を迎えるあなたが一番勝ちたいレースは?
最後の最後にペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)が登場最後の最後にペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)が登場 photo:Kei Tsujiフランドルかパリ〜ルーベ。自分の脚質的にクラシックが向いている。短い登りやスプリントに自信があるので、アルデンヌクラシックでも勝ちたいけど、フランドルとルーベに懸ける想いの方が強い。その2レースで勝つために、今より劇的に身体能力を向上させる必要はないと思っている。毎年強くなっていると感じるし、成績もよくなっている(フランドル2011年リタイア・2012年5位、ルーベ2010年タイムアウト・2011年86位)。あとは経験が必要。

オフシーズンのトレーニングについて
ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング) photo:Cannondale Pro Cycling2012年シーズンが終わってから、そう、つまりジャパンカップが終わってから、3週間まったくバイクに乗らず、11月中旬にオフトレをスタートさせた。1週目はジムに行って数時間だけバイクに乗ったり、ゆっくりと始動。その後チームのトレーニングキャンプに合流して、ジムやライドで強度の高いトレーニングをこなした。それからまたスロバキアに戻って、MTBに乗ったり、ジムに行ったり。そして1月2日にカリフォルニアに到着。ここは天候が良いのでトレーニングを順調にこなせた。

カリフォルニアの印象は?
カリフォルニアは大好き。昨年ステージ5勝した相性の良い場所に戻って来たことに満足している。ハリウッドのスタジオを見学してスターに会ったり、スーパークロス(モトクロスレース)を観戦したり、トレーニング以外のところでとても刺激が多い。ちなみに、小さい時からモトクロスは憧れのスポーツで、選手になりたいと真剣に思っていた。でも出費がかさむので親の許可が下りなかった。

MTBやシクロクロスの経験について
間違いなく、バイクをコントロールするという点で、MTBとシクロクロスの経験は生きている。バイクの上での身のこなしが他の選手と違うと感じる時がある。他の選手が落車するようなリスキーな下りでも、限界まで攻めて行けるテクニックがあるんだと思う。でも今はプロロード選手であり、MTBとシクロクロスに出場するような時間が無い。

ロード選手として自分を定義するなら?
難しい質問だな…。スプリンターではないし、ルーラーかな?時々パンチャーと言われることもあるけど、まぁ、クライマーではない。“サガン”というカテゴリーを新設して欲しい(笑)




モレーノ・モゼール(イタリア)

エースとしての走りに期待が集まるモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)エースとしての走りに期待が集まるモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji引っ張りだこのサガンの陰に隠れて、部屋の隅でひっそりとインタビューを受けていたのがモゼール。サガンと比べるとまだ場慣れしていない感が否めない22歳だが、同い年のスロバキア人に負けない素質の持ち主であるとガゼッタ紙の記者ルーカも太鼓判を押す。

モゼールを表現する時に真っ先に出てくるのが「フランチェスコの甥」という言葉だ。1970年代から80年代にエディ・メルクスのライバルとして活躍し、1972年に51.151km/hのアワーレコード記録を樹立(ファニーバイク使用により、後に非公認に)。さらに1977年にロード世界選手権、1984年にジロ・デ・イタリアを制覇。ミラノ〜サンレモ、パリ〜ルーベ、フレーシュ・ワロンヌ、パリ〜トゥール、ヘント〜ウェベルヘム、ジロ・ディ・ロンバルディアでも勝利しているフランチェスコの甥にあたる。ちなみにモゼール一族は自転車一家であり、フランチェスコの兄弟アルドとエンツォ、ディエゴ(モレーノの父)、そしてモレーノの兄弟レオナルドはいずれも元プロ選手だ。

モゼールは地元イタリアチームで走り、2011年にスタジエール(研修生)としてリクイガス・キャノンデールに合流。2012年にプロデビューを飾るとメキメキとその才能を開花させる。ワンデーレースのトロフェオ・ライグエリアとフランクフルト・グランプリで優勝。GPモントリオール2位。そして、ツール・ド・ポローニュではステージ2勝を飾り、総合優勝に輝いた。2012年のUCIワールドツアーランキングは26位。イタリア人選手の中ではニーバリ、クネゴ、スカルポーニに次いで4番目の成績だ。

「趣味はプレイステーション。音楽はコールドプレイが好き」と話す22歳に、2013年シーズンについて聞く。

自転車一家出身のあなたにとって、憧れの選手は?
2012年ツール・ド・ポローニュ 最終日前日にステージ2勝目を飾り、総合首位に立つモレーノ・モゼール(イタリア、リクイガス・キャノンデール)2012年ツール・ド・ポローニュ 最終日前日にステージ2勝目を飾り、総合首位に立つモレーノ・モゼール(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Riccardo Scanferla昔はパンターニの姿を追い続けていたけど、実際にプロとして1シーズンを過ごした今は、フィリップ・ジルベールがヒーローになった。プロトンの中の同僚という存在だけど、勝たなければならないところで勝つ彼をとても尊敬している。

スポンサー変更によって、チームの雰囲気は変わりましたか?
2012年ツール・ド・ポローニュ総合優勝に輝いたモレーノ・モゼール(イタリア、リクイガス・キャノンデール)2012年ツール・ド・ポローニュ総合優勝に輝いたモレーノ・モゼール(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Riccardo Scanferla想像していてよりずっとアメリカンなチームになったと感じる。まさか自分がハリウッドでカーペットの上を歩くなんて想像していなかったよ(笑)でもスタッフや選手に大きな変更が無いから、中の雰囲気はイタリアのまま。これからは、イタリアの小さなレースで勝つことの価値が下がって行く。スポンサーの意向で、アメリカや日本のレースを走ることも増えると思う。

大活躍の2012年シーズンを経て、2013年シーズンの目標は
昨シーズンより今シーズン、今シーズンより来シーズンと、いつも成績を上げることが求められるのがこの世界。だからポローニュで連覇を果たすことだけでは充分とは言えない。簡単なことではないけど、もっと多くのレースで勝つことが求められる。

勝ちたいと夢見ているレースは?
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝ちたい。昨シーズン初出場したけど、感触はとても良かった(60位)。今シーズンもおそらくアムステル・ゴールドレースではピーター(サガン)がエース。でもフレーシュとリエージュでは僕とダミアーノ(カルーゾ)がエースになる。そして、クラシックや小さなステージレースだけでなく、今シーズンはツール・ド・フランスに初出場する予定。やはり将来的にグランツール制覇という夢がある。

同い年のペーター・サガンについて
ペーターは奇才だ(笑)同い年だけど、僕よりもプロとしての経験が2年多い。彼は僕と比べ物にならないほど秀でた存在であり、これまでの成績や脚質が異なるので対等な関係ではない。でも同い年の2人が同じチームにいて、互いに刺激しあえる環境はアドバンテージになる。彼と走ることが出来て本当に嬉しい。




2013年、キャノンデールプロサイクリングはビッグレースに出場するエース選手を発表。バッソはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャに出場予定で、サガンとモゼールはツールやワンデーレースでエースの座を分け合う予定だ。

2013年ビッグレース出場メインメンバー
パリ〜ニース:バッソ・ヴィヴィアーニ
ティレーノ〜アドリアティコ:サガン・モゼール・カルーゾ
ミラノ〜サンレモ:サガン・モゼール・ヴィヴィアーニ・カルーゾ
ヘント〜ウェベルヘム:サガン・ヴィヴィアーニ
ロンド・ファン・フラーンデレン:サガン・ヴィヴィアーニ
パリ〜ルーベ:キング・ボドナール・コレン
アムステル・ゴールドレース:サガン・モゼール・カルーゾ
フレーシュ・ワロンヌ:モゼール・カルーゾ
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:モゼール・カルーゾ
ジロ・デ・イタリア:バッソ・ヴィヴィアーニ
ツアー・オブ・カリフォルニア:サガン・キング
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ:カルーゾ
ツール・ド・スイス:サガン・モゼール
ツール・ド・フランス:サガン・モゼール・カルーゾ
USAプロチャレンジ:サガン・モゼール・キング
ブエルタ・ア・エスパーニャ:バッソ
ジロ・ディ・ロンバルディア:バッソ・カルーゾ・モゼール




キャノンデール・スーパーシックスEVO

2013年のメインバイクは引き続きスーパーシックスEVO。フレームに変更は無く、コンポーネントはスラム・レッド。ホイールがビジョン、タイヤがケンダに変更されている。

キャノンデール・スーパーシックスEVOキャノンデール・スーパーシックスEVO photo:Kei Tsujiタイヤはケンダ、ホイールはビジョンに変更タイヤはケンダ、ホイールはビジョンに変更 photo:Kei Tsujiハンドル周りはFSA製品で統一ハンドル周りはFSA製品で統一 photo:Kei Tsuji

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