キャノンデールの2013年、スーパーシックスEVOのラインアップに、新素材を採用した次なる『世界最軽量』フレームが加わる。一方で、手の届きやすい価格となるスタンダード・カーボンのモデルもリリース。スーパーシックスEVOが、さらに多くのユーザーの許容範囲を広げるべく、熟成の時期を迎える。

さらなる軽量化へ、スーパーシックスEVO ブラック・エディション登場

ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)が使用したスーパーシックスEVOペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)が使用したスーパーシックスEVO photo:Kei Tsuji今年上半期のロードレースシーンは、チーム・リクイガスーキャノンデールの快男児、ペーター・サガンの活躍に目を奪われた。ゴールスプリントでは最速のラインを巧みに選び、ゴールラインに近づくほどに加速するスピードでツール・ド・フランスのステージを3勝。映画『フォレスト・ガンプ』の走るシーンを真似るなど、ユニークな優勝ポーズの数々とともにツール前半の話題となった。

そのサガンが乗っていたのは、言うまでもなくこのスーパーシックスEVO。昨年、フレーム重量695gという、その軽さを武器に発売を開始し、「世界最軽量」の量産フレームの名を欲しいままにした。

そして2013年、スーパーシックスEVOは、さらなる軽量化への道を進む。それが、新素材『ナノ・カーボン』を素材に使った最高峰フレーム<スーパーシックスEVO ブラック・エディション>である。限定100本の販売、フレーム単体価格449,000円。

スーパーシックスEVOブラック・エディションスーパーシックスEVOブラック・エディション photo:Kei Tsuji

ダイヤモンドを上回る強度!? 新素材『ナノ』カーボン

スーパーシックスEVOブラック・エディションスーパーシックスEVOブラック・エディション photo:Kei Tsuji新たに採用された『ナノ』カーボンとは、高い重量剛性比と強靭さを誇る次世代カーボン素材。特に引っぱり強度に優れ、ダイヤモンドを上回る強度を持つッ! とは、発表時のトークであるが、とにかく強度をより高めたカーボン素材の採用により、これまで同様の強度、剛性、性能を、より軽量に実現できたとする。してその重量は、560mmのペイント済みフレームの実測で656g。量産フレームの軽量記録を、またもや更新。

しかし、この「最軽量」にスポットが当たり、スーパーシックスEVO(もちろんナノ版も)を「軽量バイク」として評価してはいけない。重量、強度、剛性、路面追従性、空力抵抗などロードバイクに要求される全ての性能をバランスよく、総合的に優れた性能を目指す。それがキャノンデールの一貫したポリシーだ。

スーパーシックスEVOブラック・エディション、水色のラインが唯一のアクセントスーパーシックスEVOブラック・エディション、水色のラインが唯一のアクセント photo:Kei TsujiスーパーシックスEVOブラック・エディション、無地のダウンチューブスーパーシックスEVOブラック・エディション、無地のダウンチューブ photo:Kei Tsuji


サガンの最速ゴールスプリント、その秘密はフレーム技術にあり

下りでアタックを仕掛けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)下りでアタックを仕掛けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vosキャノンデールが生み出す数々の技術の中で、今回特に注目したいのが「スピードSAVE」。路面からの衝撃と振動吸収を主な目的として開発された、SAVEマイクロサスペンションという技術の中でも、特にレーサーのために開発されたテクノロジーだ。

フロントフォークとリアステーで構成されるスピードSAVEは、まるでF1マシンのようにパワー伝達性能を重視したシステムだ。結果として巡航スピードを上げ、コーナリングスピードを上げることにも貢献する。最高の巡航スピードでゴールスプリントの直前に、最速ラインを(場合によってはブレーキもかけずに)駆け抜けた、あのペーター・サガンの走りの秘密がここに隠されていたというわけだ。ロードバイクでは、スーパーシックスEVO、CAAD10に搭載されている。

スーパーシックスEVO スピードSAVEを採用したチェーンステースーパーシックスEVO スピードSAVEを採用したチェーンステー photo:Kei Tsuji

スーパーシックスEVOをみんなのものに。 末弟モデルの登場

スーパーシックスEVO Di2完成車スーパーシックスEVO Di2完成車 photo:Kei Tsujiさらに、今回デビューした2013年モデルには、価格の面でもバランスのよいニューモデルが新たに加わった。フレーム素材にインターミディエイト・モジュラス・カーボンの使用量を増やし、手の届きやすい価格を実現した、スーパーシックスEVOの末弟モデルだ。

これにはキャノンデールのハイエンド・カーボンフレームの証である「HI-MOD」の称号こそ付かないが、それでもフレーム重量は900g以下というから、十分に軽量なフレームだといえる。こちらは、アルテグラ Di2を搭載した完成車として用意され499,000円。

素材の違いにより、3種類のフレームラインナップに広がったスーパーシックスEVO。さらなる軽量化を追求したナノ・カーボン、昨年から展開しているスーパーシックスEVOハイモッド、そしてフレーム素材を見直し、価格を抑えた末弟モデル。幅広いユーザーに対応可能となった2013年は、まさに熟成の時期を迎えたといえるだろう。

スーパーシックスEVO Di2完成車スーパーシックスEVO Di2完成車 photo:Kei Tsuji

さて、これら2013年モデルの完成度はどのようなものだろう? 今回はあえて「HI-MODの付かない」アルテグラ Di2を搭載した末弟モデルをターゲットに、ブランドキャンプに参加した各ショップ関係者達のコメントから探ってみよう。

オーベストの西谷雅史さんとスペース松戸店の佐藤成彦さんオーベストの西谷雅史さんとスペース松戸店の佐藤成彦さん photo:Kei Tsuji<オーベスト>西谷さん
『つまりバランス力がいいと思うんです。乗りやすくなっているんですよ。やはり何かの性能に特化しすぎると乗りにくくなるんじゃないかと思うので、その辺を考えて、全体のバランスを取ったのではと思います。ダンシングもしやすくて、左右に降りやすい印象でした』

<スペース松戸店>佐藤さん
『Hi-MODとの差がぜんぜんわからない。よくでき過ぎている。重量があるので上りでは差は出ると思うんですけれど、平地などでは差は出ない。たぶん選手レベルでもわからないって言うんじゃないかな。レベルが高いですよね。でもホイールのせいなのか柔らかく感じたので、今度はホイールを変えて乗ってみたい』

<スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ>鈴木さん
『下りが速い。路面の追従性がいいって言うのかなぁ、とにかく下りが速くて、曲がりやすくて、安定感がある』

<キャノンデール中目黒店>徳田さん
『下りが楽しいですね。ガンガン踏めて、攻め込めるんです。上りも楽だし。ダンシングしなくても、グイグイ上りました』


<サイクルハウス ミヤタ>宮田さん
『これまでのHi-MODのスーパーシックスEVOと全く変わらないですね。コストパフォーマンスがいいというか、これで十分出来上がっているというか』

<タキサイクル>中務さん
『今、スーパーシックスEVOのアルティメイトに乗ってるんですけど、言われないと違いがわからない。角が取れてるというか、スムーズですね』


<正屋>岩崎さん
『普段乗ってるんですけれど、下りが安定している。オン・ザ・ラインで、サッと曲がれる感じ。思ったよりもマイルドで、シッティングのフィーリングが良くてトルクが良く乗っている感じ』



キャノンデールの一時代を築いたフルカーボンロードが低価格で登場!

昨年のスーパーシックス“EVO”の登場以前に、キャノンデールのハイエンドを担ったスーパーシックスは、振動吸収とコントロール性を両立したアワーグラス・シートステーや、BB周辺の剛性を高めるための極太形状のビートボックスBBなど、当時のキャノンデールの最新技術が満載。

今でも十分に通用するスーパーシックス・テクノロジーを搭載しながら、ティアグラの完成車で199,000円という価格を実現したモデルが登場。さすがに当時「HI-MOD」を素材に使ったチームモデルとはカーボン素材が違うとはいえ、フレーム重量は1,050gを実現。大切な友人から「初めてロードを買いたいんだけど、何にしたらいい?」と聞かれた時に、自信を持って奨められる1台であり、しかもパーツのグレードアップという自転車道楽まで提供してあげられるというわけだ。

世界最高峰のアルミロードバイクCAAD10に、Di2完成車が仲間入り

CAAD10ブラックエディションCAAD10ブラックエディション photo:Kei Tsujiキャノンデール・ロードバイクのもうひとつの代名詞とも言えるのが、アルミフレームのCAADシリーズ。カーボン素材が全盛の今、アルミはコスト重視の廉価モデルに採用される例が多くなったが、キャノンデールの考えは全く違う。世界最高峰のアルミロードバイクを目指し、現代の技術で作られた最新アルミロード、それがCAAD10だ。

CAAD10 新色のブラック/RAWカラーCAAD10 新色のブラック/RAWカラー photo:Kei Tsuji油圧による成形技術のハイドロフォーミングと、機械成形によるチュービング、そしてアルミの肉厚を自在に変えるテーパーバデッドや複雑な熱処理など、キャノンデールがこれまで培った数多くの技術を結集した最先端のアルミフレームだ。そのCAAD10にアルテグラDi2を搭載した”CAAD10 ブラック・エディション”が加わったことが2013年のトピック。

『ブラック・エディション』とは、キャノンデールが新たに打ち出したシリーズ名である。選ばれし上級モデルの、ラインナップ最上級に位置するブラック・エディションは、言葉通りマットブラックのフレームに、完成車モデルは黒いパーツで構成される。

平凡なカーボンフレームでは到底太刀打ち出来ないスムーズな走行性能を実現したCAAD10は、もはやアルミフレームという枠を越え、支持するファンも多い。

CAAD10 SAVEが採用されたチェーンステーCAAD10 SAVEが採用されたチェーンステー photo:Kei TsujiCAAD10 新色のブラック/RAWカラーCAAD10 新色のブラック/RAWカラー photo:Kei Tsuji


そんな乗り味を、おそらくここ数年、カーボンフレームしか乗っていないであろうプロ選手たちはどう表現するのだろう。そこで、第二の『あえて聞く』、チームキャノンデール・スペースゼロポイントのライダーに、その乗り心地を語ってもらった。

原川浩介 選手
キャノンデール・スペースゼロポイントの原川浩介選手キャノンデール・スペースゼロポイントの原川浩介選手 photo:Kei Tsuji『これまでのチームで、アルミフレームに乗っていたんですが、進み方が一般的なアルミとはぜんぜん違うんですよ。踏んだときの感覚、踏み始めが軽くて、もがいたときにどんどん進むような感じです。アルミバイクなのに、振動吸収性がすごい高くて、アルミじゃないって思ってしまうぐらい、性能のいいバイクだと思いました。

これは初心者から上級者まで、全ての人が乗れるバイクです。上級のレーサーの方でも、レースで活躍できるぐらいの性能だと思います。このスペックなのにこの価格、自分で買うなら、これがいいなって思いました』

小室雅成 選手
キャノンデール・スペースゼロポイントの小室雅成選手キャノンデール・スペースゼロポイントの小室雅成選手 photo:Kei Tsuji『アルミのフレームに乗るのは、実は8年ぶりです。当時のアルミフレームは、固くて路面の突き上げがキツくて、ストレスのある印象だったんですけど、久しぶりに乗って、こんなに進化したんだってビックリしました。

わざと段差を走ったり、道路の穴に入ってみたんですけど(笑)、このスピードSAVEが効いてるのか、本当にアルミなのかなっていう振動吸収でした。たぶんロングライドで、このショック吸収性が生きるんじゃないかと思いました。上りでフルもがきもしましたが、ボク程度の足ではぜんぜんたわまないですしね。実戦でもすぐに使えるバイクだと思いましたよ』

鈴木真理 選手
キャノンデール・スペースゼロポイントの鈴木真理選手キャノンデール・スペースゼロポイントの鈴木真理選手 photo:Kei Tsuji『全体的にマイルドな乗り心地で、アルミにありがちなゴツゴツ感が全くないんです。そのマイルドさが、疲れを和らげてくれるようなイメージでしたね。バランスよく、フレーム全体でうまく振動を吸収しつつ、踏んだ力をフレーム全体で伝えるような、良くできたフレームです』

『アルミなんですけど、ロングライドでも走れるという感覚ですね。エントリーモデルとしてはおすすめです。いきなりカーボンに手を出しにくいという方、それでも長距離を自転車で楽しみたいという人でも、おすすめです。とにかく疲れない、ゴツゴツ感がないんです。レースもこなせるエントリーモデルですね』


というところで、キャノンデール2013新作ロードバイクの主なトピックは以上だ。次回は、完全新作『トリガー』の発表で完全となった、キャノンデールの『オーバーマウンテン』=26インチラインと、現在の主流とも言える29erの存在感についてレポートする。

text: Pandasonic Nakamura
photo: Kei Tsuji

最新ニュース(全ジャンル)