コース上に画鋲が撒かれ、パンクや落車が相次ぐ波乱の展開となったツール・ド・フランス第14ステージ。逃げグループの中からタイミング良く飛び出したルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)が今大会ようやく勝利を掴んだ。トラブルで遅れた選手はペースを落とした集団内でゴールしている。

第14ステージ・コースプロフィール第14ステージ・コースプロフィール image:A.S.O.ピレネー山脈に到着したツール・ド・フランス一行。第14ステージは脚試しとばかりに標高1500mクラスの山岳を2つ越える。ゴール65km手前の1級山岳ポール・ド・レルス(登坂距離11.4km・平均勾配7%)と、ゴール39km手前の1級山岳ミュール・ド・ペゲール(登坂距離9.3km・平均勾配7.9%)だ。

レース序盤、メイン集団の前方ではアタックが繰り返されるレース序盤、メイン集団の前方ではアタックが繰り返される photo:Makoto Ayano注目はツール初登場「壁(ミュール)」の名前がつくミュール・ド・ペゲール。平均勾配は7.9%と「ツールにしては少しきつい程度」だが、頂上手前3kmの平均勾配は12%オーバー。最大勾配18%区間も登場する。

とは言えこの「壁」はゴールまで39km離れており、決定的な動きは生まれにくい。逃げ切りが決まりやすいこのコースで、マイヨヴェールが動いた。

逃げグループを率いるペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)逃げグループを率いるペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayanoレース序盤のアタック合戦で最もアクティブに動いたのはペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)。掴まっても再び飛び出す積極性を見せ、35km地点で遂にセルジオ・パウリーニョ(ポルトガル、サクソバンク・ティンコフバンク)とステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)を引き連れて集団から抜け出す。

これにフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)、シリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)を含む8名が飛び出し、56km地点で先頭は11名に。このハイスピードな展開によってフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)らが遅れるシーンも見られたが、逃げを見送ってペースを落とした集団に問題なく復帰している。

メイン集団内で1級山岳ポール・ド・レルスをこなす新城幸也(日本、ユーロップカー)メイン集団内で1級山岳ポール・ド・レルスをこなす新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoタイム差はグングン広がり、99km地点のスプリントポイントに差し掛かる頃には13分30秒に。ここは争うこと無くサガンが先頭通過する。チームスカイがコントロールするメイン集団に逃げを捕まえる意思は無し。その後もタイム差の拡大は止まらなかった。

一つ目の1級山岳ポール・ド・レルスで動きは生まれず、逃げ切りをほぼ確定させた先頭グループは大きなリードをもったまま1級山岳ミュール・ド・ペゲールへ。

1級山岳ミュール・ド・ペゲールで逃げグループのペースを上げるステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)1級山岳ミュール・ド・ペゲールで逃げグループのペースを上げるステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vos急勾配の登りでLLサンチェスがペースアップすると、先頭はLLサンチェス、ジルベール、サンディ・カザール(フランス、FDJ・ビッグマット)、ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)の4名に。マイヨヴェールのサガンは一旦は千切れるも、何とか頂上までに先頭に合流。

サガンを振るい落としたいカザールが、頂上まで500mを残してアタック。観客でごった返すミュール・ド・ペゲールを先頭で通過し、そのまま単独でダウンヒルに向かう。しかし後続を振り切れず、ゴールまで14kmを残した下りで先頭はカザール、LLサンチェス、サガン、ジルベール、イサギーレの5人に戻った。

するとラスト11kmの短い登りでLLサンチェスがタイミング良くアタック。ジルベールやサガンが牽制するその一瞬を付いて、LLサンチェスが一気にリードを広げる。LLサンチェスがそのまま独走でゴールした。

独走でゴールに飛び込むルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)独走でゴールに飛び込むルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) photo:Makoto Ayano

メイン集団を牽引するベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)メイン集団を牽引するベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ) photo:Makoto Ayano一方、15分以上後方のメイン集団は、世界チャンピオンのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)が牽引してミュール・ド・ペゲールへ。ここでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)らが攻撃を仕掛けたが、マイヨジョーヌのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)が落ち着いて対処する。

そしてここで異変が発生する。ミュール・ド・ペゲールの頂上付近でエヴァンスが後輪のパンクでストップ。このエヴァンスのパンクを皮切りに、至る所でパンクが発生した。

18分15秒遅れでゴールするメイン集団18分15秒遅れでゴールするメイン集団 photo:Makoto Ayano確認されるだけで30名以上がパンクに遭い、そのうちパンクのタイヤが原因で落車したロベルト・キセロフスキー(クロアチア、アスタナ)が鎖骨骨折でリタイアしている。

エヴァンスにはすぐにチームメイトが駆けつけたが、そのチームメイトの後輪もパンク。実に1分30秒近くストップして再スタートしたエヴァンスだったが、下りで今度は前輪がパンクする。

メイン集団内でゴールするブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)メイン集団内でゴールするブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosコースディレクターのジャンフランソワ・ペシュー氏は、一連のパンクの原因が、故意に撒かれた画鋲のようなものであると判断。メイン集団はマイヨジョーヌの呼びかけによりペースダウンする。

下りで飛び出した総合9位のピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)も引き戻され、ゴール前でエヴァンスは集団に復帰。総合上位陣はみなLLサンチェスから18分15秒遅れの集団でゴールした。

敢闘賞に輝いたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)敢闘賞に輝いたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayano天を指差すお馴染みのポーズでゴールしたLLサンチェスは「開幕当初から、逃げに乗ってステージ優勝したいと願っていたんだ。1週目に(手首を)負傷したけど、ここまで耐えてきた。今日は自分のためにデザインされたようなコースだったので、何かを成し遂げたいと強く願っていた」とコメントする。

すでに5名がリタイアし、LLサンチェスを含めて4名しかレースに残っていないラボバンク。負傷者続出で不運続きのチームを鼓舞する勝利を飾ったLLサンチェスは、この先のステージでもアタックを継続する。「サガンとジルベールが逃げに乗ったので、スプリント勝負では勝ち目が無いと思った。だから山岳でペースを上げ、ゴール前でアタックしたんだ。これで僕はステージ通算4勝。もっと勝ち続けたい」。

総合上位の成績に変動は無し。今回の画鋲に関してはすでにフランス警察が捜査を始めている。「ライバルの不運を利用してリードを広げようとは誰も思わない。何が起こったのかさっぱり分からなかったが、待つことが最良だと判断した。仮に外部の要素がレースに悪影響を及ぼしたのなら、本当に悲しい事件だ」。不可抗力により遅れたライバルを待ち、マイヨジョーヌを着てピレネー初日を終えたウィギンズはそうコメントした。

選手コメントはレース公式サイトより。

ツール・ド・フランス2012第14ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)             4h50'29"
2位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)           +47"
3位 サンディ・カザール(フランス、FDJ・ビッグマット)      
4位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)
5位 ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
6位 セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル、サクソバンク・ティンコフ)       +02'51"
7位 セバスティアン・ミナール(フランス、アージェードゥーゼル)
8位 マーティン・ベリトス(スロバキア、オメガファーマ・クイックステップ)    +03'49"
9位 エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)             +04'51"
10位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)            +28'18"
126位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                      +1'45"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            64h41'16"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                 +2'05"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)     +2'23"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)         +3'19"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)         +4'48"
6位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)       +6'15"
7位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)      +6'57"
8位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)              +7'30"
9位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)                +8'31"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)               +8'51"
93位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +1h47'36"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)

新人賞 マイヨ・ブラン
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)

チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン

敢闘賞
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos