2012年ツールの最長ステージは、ただのつなぎステージでなく、序盤に2つの1級と山岳、そしてゴール直前に3級峠が用意された。この逃げに向いたプロフィールはスプリンターたちを苦しめる。13日の金曜日。まるでアルプスを足早に抜けてピレネーへと急ぐかのようにツールは西へ向かう。

激しい序盤のアタック合戦 山岳で集団は分解

レース序盤にアタックするマルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)らレース序盤にアタックするマルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)ら photo:Cor Vosレース後にウィギンズが「世界中の人々はラスト100kmしか観ていないだろうけど、最初の100kmは今までの各ステージ1つに匹敵するくらいハードだった」と語ったように、スタート直後からの激しいアタック合戦、そしてその勢いで21.5km地点から上り始める1級グラン・キュシュロン峠に突入した。

最初の1級山岳通過後、クリスティアン・コレン(スロベニア、リクイガス・キャノンデール)を含む逃げグループが形成最初の1級山岳通過後、クリスティアン・コレン(スロベニア、リクイガス・キャノンデール)を含む逃げグループが形成 photo:Makoto Ayano距離12.5km、平均勾配6.5%の峠で、集団は分裂。逃げグループの形成と、後方では脱落した選手たちによるグループの再構成が盛んに行われていた。下りのリスクを減らすために山頂手前でアタックしたウィギンズは、チームスカイの鉄壁アシストに守られてダウンヒルをこなす。

先行して通過したとき、この下りの路面の悪さが気になった。つづら折れのコーナーと、くぼみの多いラフな路面。チームスカイはよく情報を掴んでいる。この下りでダヴィ・モンクティエ(コフィディス)が落車リタイア。

226kmもの最長ステージなのに、最初の山岳で集団は分解。抜けだしたのは19人。しかしバラバラになった選手たちが声を掛けあってグループにまとまり、集団復帰を目指そうと必死の追走を試みる。ユキヤはこの上りで遅れ、後方のグループに取り残されていた。この先、長く苦しむポジションだ。昨日の疲れが残っているのか、今日は山が登れていない。

ツール・ド・フランスはアルプスを離れ、ピレネーを目指すツール・ド・フランスはアルプスを離れ、ピレネーを目指す photo:Makoto Ayano
女房役のベルンハルト・アイゼルにマンツーマンで牽引されたカヴェンディッシュも遅れて通過。チームスカイは今年ウィギンズのための編成だが、こういったステージではアイゼルはカブの専任サポーターだ。

ずいぶん遅れてタイラー・ファラー(ガーミン・シャープ)とケニーロバート・ファンヒュンメル(ヴァカンソレイユ・DCM)がチームカーの後ろに揃ってスリップストリーム。さらに遅れてトム・フィーラース(アルゴス・シマノ)がひとりで下る。

集団復帰を目指すベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)集団復帰を目指すベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoチームカーのスリップを使ったことで罰金処分を受けたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)チームカーのスリップを使ったことで罰金処分を受けたシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Makoto.Ayano


ペナルティ覚悟でチームカーのスリップを使って追走するが、あまりにも差が着いていた。フィーラースはその後自転車を降り、リタイヤ。カヴェンディッシュとシャヴァネルはどこかの区間でチームカーのスリップを使ったことで罰金処分を受けた。


TTが得意な二人のマッチスプリント

ペローとの一騎打ちを制したデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ)ペローとの一騎打ちを制したデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ) photo:Makoto.Ayano19人からさらに抜け出たミラー、キセロフスキー、ゴティエ、マルティネス、ペローの5人逃げグループの勝負をつけたのはゴールわずか4km手前の緩い坂。抜けだしたミラーとペロー。ペローはマウンテンバイクとの兼任選手で、北京オリンピックのMTBクロスカントリーでジュリアン・アプサロンに次いで銀メダルを獲得。

ツール前にもMTBワールドカップを転戦している。しかしともに逃げたミラーが注意を払ったのは2009年フランス選手権ではシャヴァネルを下しチャンピオンになっているというTT能力。抜けだしたともに35歳のベテラン2人は、一騎打ちのスプリント対決へ。TTライダーのふたりらしい長い長いマッチスプリント。ミラーはゴールを越えると雄叫びを上げ、その先で倒れこんだ。

メイン集団の6い争いのスプリントにも注目が集まった。グリーンエッジのチームメイトのアシストを受け、先行したマシュー・ゴス。飛びつくサガン。先行するゴスに伸びがなくなったとき、サガンは前に並びかけようとする。

8分遅れのメイン集団の先頭でゴールを目指すマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)8分遅れのメイン集団の先頭でゴールを目指すマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Makoto Ayanoポイント賞のリードを広げることに成功したペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)ポイント賞のリードを広げることに成功したペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayano


しかしゴスは一瞬バイクを振ってこれを封じた。失速したサガンは抜くのを諦め、手を上げてゴスを避難しながらゴールした。進路妨害? 微妙だったが、やはり裁定はゴスの降格。一気に30ポイントを失うことに。254対198ポイント。これでサガンのマイヨヴェール首位はよりいっそう堅くなった。


不満を漏らすユキヤ「山が登れなかった」

10分15秒遅れてゴールした新城幸也(ユーロップカー)は憮然とした表情でゴールを切った。ステージ100位で、総合も100位。悪くはない順位。しかし何かできたかと言われると何も出来なかった。とくに最初の1級グラン・キュシュロン峠で遅れてしまい、チームとしての仕事ができなかったことに苛立っている様子だった。

10分15秒遅れでゴールした新城幸也(日本、ユーロップカー)10分15秒遅れでゴールした新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Makoto Ayano10分15秒遅れでゴールした新城幸也(日本、ユーロップカー)10分15秒遅れでゴールした新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Makoto Ayano


「山が登れなかった。チームのアシストも出来なかった。グルペットじゃないけど、そこそこは登れているけど、前の集団にいれたわけじゃないから、アシストもできない。必死だった。なんてレースだ...。」

「平坦路は走れているので問題ないんです。位置取り争いをする時も確かにキツイけれど踏めているんです。調子は悪くないから、僕の順番が回ってくるのを待ちますよ。チームは交代で逃げる選手を決めているので、僕の番が回ってくるのは明日、あさって、その次ぐらいですね。逃げに乗れる脚はあります」。


トム・シンプソン没後45年 五輪を控えたイギリス人としての勝利

ゴール後に倒れ込むデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ)ゴール後に倒れ込むデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ) photo:Cor Vos実に9年ぶりのツールでのステージ優勝を挙げたミラー。ヘジダルとダニエルソンが落車による負傷でツールを去り、ファラーも連日の落車でスプリントで勝機を逸している。ファンスーメレンも負傷している。不運続き、傷だらけのガーミン・シャープに明るい光を灯した。

そしてイギリス人がマイヨジョーヌを着ているこのツールで、イギリス人のステージ4勝目。母国イギリス出身のかつての名選手トム・シンプソンがモンバントゥーで謎の死を遂げてから45年目の節目の年の勝利に感慨が深いと強調した。

メディアに囲まれるデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ)メディアに囲まれるデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ) photo:CorVosロンドン五輪イギリスチームのメンバーとして出場が決まっているカヴェンディッシュ、ウィギンズ、フルームの活躍に続き、イギリス人としての勝利に誇らしげだ。

「イギリス代表チームの5人のうち4人が今ツールに参加していて、その4人全員がステージ優勝を上げたことになるね! カヴはスプリントで勝利。ウィギンズはマイヨジョーヌだ。そしてマイヨジョーヌ最大の脅威は2位のフルームだ。そして僕が勝った。本当にドリームチームだ」故トム・シンプソンは、アンフェタミンを摂取してモンヴァントウーの登りに挑み、肉体の限界を超えて死んだという説が有力。しかし事実は定かで無い。



「僕を元ドーパーと呼ぶのを止めるな。人々に僕らのスポーツを信じてもらいたい」

ステージ優勝を飾ったデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ)ステージ優勝を飾ったデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ) photo:Makoto.Ayanoツール通算4勝目。ミラーの前回のツールでのステージ優勝は2003年のこと。昨年はチームTTでチームの勝利に貢献したが、再びのステージ勝利までにじつに9年の歳月が流れた。

ミラーは記者会見で、記者たちに対して堂々と呼びかけた。「僕を元ドーパーと呼ぶのを止めるな」と。TTスペシャリストとして輝かしい戦績を挙げていたミラーは、2004年の家宅捜索でビアリッツの自宅にEPOを所持していることが発覚し、2001年から2003年までの間にEPOを使用したことを認めた。その後、過去の過ちを反省し、反ドーピング運動の旗手としての活動をはじめることになる。

ドーピング検査を待つデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ)ドーピング検査を待つデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・シャープ) photo:Makoto Ayano2006年にサウニエルデュバルでレース界に復帰。その後つねに選手間における反ドーピングの啓蒙活動を続けてきた。そして2008年に反ドーピング・100%クリーンなチームをモットーに掲げるチームスリップストリーム、現在のガーミン・シャープに加入した。WADA(世界アンチ・ドーピング機関)にも協力。昨年は自らのドーピング時代を詳細に綴った著書「Racing Through The Dark」を出版した。

マイヨジョーヌを受け取ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)マイヨジョーヌを受け取ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoミラーは言う。「僕は間違いを犯した。僕は元ドーパーで、今はクリーンだ。今は僕たちの競技が置かれている状況と、僕たちが改革のために行動してきたことを誇らしく思う。僕たちは過去を忘れてはならない。僕は過ちを犯した人間のひとりだ。だからこそ、今は僕がクリーンだということと、このスポーツが過去とは異なることを知ってもらいたい。僕たちはこのスポーツをもっと誇らしく思うべきだ」

「人々に僕らのスポーツを信じてもらいたい。自転車レースは大きく変わったんだ」。

フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)のソックスはマイヨアポワ仕様フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)のソックスはマイヨアポワ仕様 photo:Makoto Ayanoドーピング経験者には常に攻撃的で辛辣な態度を隠さないウィギンズも、ミラーの勝利にはお祝いの言葉を語る。ウィギンズは2年前のシーズンまでガーミン、そして以前はコフィディスに所属した僚友でもある。しかしウィギンズのチームスカイ移籍に関して両者は仲違いもした。

ウィギンズは金曜日にイギリスの新聞The Guardian紙のスポーツブログのコラムに寄稿。そのなかで「イギリスではフランスのリシャール・ヴィランクのような元ドーピング違反者が再び歓迎され、英雄になることはない」と書いた。

しかしウィギンズは言う「復帰以来彼が表してきたことで、デイヴはその定説のとても数少ない例外になると思う。彼はイギリスの反ドーピング機関にも協力して積極的に活動している。彼はこのスポーツの助けになろうとしているんだと思う」。


photo&text:Makoto.AYANO
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