休養日明けの第10ステージはいきなりの山岳。序盤に新城らを含む25名の逃げが決まるが、超級山岳で分裂。終盤は逃げ巧者の駆け引きとなり、ヴォクレールが抜け出してステージを制した。総合はウィギンズが守った。

ステージ優勝・山岳賞・敢闘賞のトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)

超級山岳グラン・コロンビエール峠を登るトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)ら超級山岳グラン・コロンビエール峠を登るトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)ら photo:Cor Vosステージ序盤に「この逃げ集団は最後まで逃げてステージ優勝できる」と自分自身に言い聞かせた。その自信はあったけど、そんなに大きくはなかった。本当にたくさんの強豪選手ばかりだったから。ゴールライン手前の5mでようやく勝てると思った。ラスト500mはとてもハードだった。後ろを振り返ると、フォイクトと(ルイスレオン)サンチェスが見えた。もう負けたと思った。あの最後の数mは本当に長かった!

自身3度目のステージ優勝を飾ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)自身3度目のステージ優勝を飾ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor Vos好きなものがあるなら、持てるすべてを捧げる必要がある。僕は何年もこう言ってきた。僕にとって、いいツール・ド・フランスとは、パリに着いたときにまったく後悔がないと自分に言えるツール・ド・フランスだ。今日は、後悔のない僕のツールを達成できたと思う。だからといって、残りのレースで、僕がただ集団の中にいるという意味ではない。

ツール・ド・フランスが始まる2週間前のルート・デュ・スッドで、僕は脚の痛みのせいで自転車を止め、レースをリタイアせざるを得なかった。チームメカニックの車に乗り込んだときは、ツールまでの日が短すぎるので、ツールに間に合わせるのは無理だろうと思った。8日間を自転車から離れて過ごして、とても落ち着かなかった……でも、今日は僕が望んだ場所にいる。

逃げ集団の構成を見て、おもしろいと思った。この逃げは生き残れそうだったからだ。一方で、逃げ集団にいる選手たちの実力も高かったので、うかつには動けなかった。グラン・コロンビエール峠で先頭集団に入ると、山岳賞ジャージを獲得するチャンスがやってきて、何もしないより挑戦したほうがいいと思った。でも、もちろんステージ優勝はずっと考えていた。あいかわらず脚は痛かった。

ステージのあいだ協力できる相手が見つかったのはよかった。でも、ゴールの近くでは、僕は倒すべき相手として扱われた。僕がスピードを上げると、みんなが追ってくる。誰かがアタックすると、それを追うのは僕になっていた。だから、デヴェナインスがアタックしたときは、僕なしで行けと彼らに告げた。平坦ステージなら、あの瞬間にレースは終わっていたはずだ。デヴェナインスが逃げ切って勝っていただろう。でも、ゴール前に登りがあったのがよかった。監督のアンディ・フリカンジェが、挑戦して後悔が残らないようにしろと言ってくれた。あれがなければ、僕は負けていたかもしれない。

山岳賞ジャージは……マイヨジョーヌと比較はできない。でも、今朝の時点で、もう僕にはマイヨジョーヌを獲得するチャンスはまったくなかった。山岳賞ジャージは、このツールの前に2回着たことがある。しかし、こんなに遅い時期ではなかった。シャルティ(アントニー・シャルトー)のことが思い浮かんだ。彼が2010年のツールで山岳賞ジャージを持ってどうやってパリにゴールしたのかを考えた。彼のようなことが起きるなら、僕もトライできると自分に言い聞かせた。そう簡単に、このジャージを手放すつもりはない。

総合1位のブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)

笑顔でスタートを待つブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)笑顔でスタートを待つブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosヴィンチェンツォ(ニーバリ)とサガンが合流したときは、うまくいく可能性は高そうだった。でも、僕たちはここで少し賭けに出る必要があった。あらゆるアタックを追うことはできないからだ。幸い、僕たちは慌てることもなかった。あの下りを降りて、次の登りをしっかり走って、ようやく彼を集団に戻した。すべてがうまくいった。

マイヨジョーヌを着て距離をこなすブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)マイヨジョーヌを着て距離をこなすブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayano頭の中でつねに計算し続け、ビジネスライクに徹し、その瞬間の感情に流されてはいけない。でも、ユルゲン(ファンデンブロック)とは5分差があったから、少しだけ彼を逃がす余裕があった。ニーバリは単独で逃げたので、相当な力を使わないと最後の30km程度は単独で逃げ続けるのは難しいと考えた……そこでちょっとした賭けをした。彼を集団に戻して、釘付けできると思った——それが僕たちが実行したことだ。僕たちはああいう瞬間も冷静さを保っていた。そして、ツールでの勝利の確実な手助けとなるのは、そういう時間の積み重ねだ。同時、そういう瞬間の数々は潜在的に僕たちがツールを負ける可能性も秘めている。

チームメイトたちの仕事には言葉にできないほど感謝している。彼らの仕事には「ありがとう」でも足りない。僕らは1年中ずっと一緒にいて、トレーニングして、寝食をともにしてきた……彼らは素晴らしい集団だ。彼らなしでは、この位置にいることはなかったと思う。

今日は本当に単純明快なステージだった。序盤で逃げが決まったので、僕たちはスイスのとき[第8ステージ]みたいに奔走する必要はなかった。登りは厳しいから、おそらく下りでアタックがあるだろうと思っていた——この前のステージと同様に。だから、今日はすべてがシナリオ通りだったし、すべてがうまくいった。本当に不安になった瞬間はまったくなかった。

(英国でのツール・ド・フランスへの反応について)僕たちは巨大な泡の内部にいるようなものだから、英国の様子はまったくわからない。ただ、ツールに対する反応は理解できる。去年、僕は自宅にいてツールを見ていたからだ。僕は、とても多くの人がツールを自宅で見続けていることを知っている。とても素晴らしいと思う。それに自転車競技は徐々に人気が出て主流になりつつある。トラック競技でのクリス・ホイの偉業などは、僕たちの競技にとってありがたいし、英国のスポーツ界にとっても素晴らしいことだ。

ステージ3位のイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)

惜しくも届かず3位に終わったイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)惜しくも届かず3位に終わったイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン) photo:Cor Vos見ての通り、最後の数kmでは、誰もが脚を使い切っていた。互いにゴール地点でスローモーションのようなアタックをした。みんな限界ぎりぎりだった。大変な一日だったよ。

逃げ集団でゴールするには、激しく戦う必要があった。だから一日中、全力で走った。今年のツールの最初の大きな登り(超級山岳のグラン・コロンビエール峠)は苦しかった。あの登りの後、僕の集団の選手たちは僕より少し疲弊している様子が伺えた。だから、うまくいくか、失敗するかの仕掛けどきだった。つまり、全力を出して先頭集団を捉まえるか、完全に自滅するかのどちらかだった。幸運なことに、僕は先頭集団を捉まえて、少し回復してから再度アタックできた。最後には、まったく力が残ってなかった。でも、僕にとってはいい結果だった。それにチーム総合成績でも少しタイムを稼げた。

(超級の登りでの遅れについて)断言するけど、あのときは限界だった。前の(選手の)ホイールに焦点を合わせることも難しかった。痛みのトンネルのまっただ中にいて、後ろに付くだけで精一杯だった。その後、下りに入って降りきったところで、楽に呼吸できるようになったので次の戦略を考え出せた。最後の登りはあまり勾配もきつくなかったから、僕には好都合だった。そこで、すべてを出し切ることにした。出し尽くして結果が得られなくても、それでよかった。でも、先頭集団を捉まえると、少し回復できたのでポーカーのように駆け引きして3位でゴールした。

(他の選手も積極的になればいいと思うかと訊かれて)そんなことになったら僕にチャンスが回ってこないよ。ほとんどの選手は楽に走ろうとしていて、僕のように非常識で愚かなことには挑戦しない。でも、これが僕のイメージすることだし、それを最後までやり遂げることにしている。公式に宣言しておくけど、明日は逃げるつもりはない。明日は休む予定だ。僕の疲れた哀れな身体の声を聞くつもりだ。だから、たぶん積極性は少し収まると思う。

自分の身体がまだしっかり機能すること、そしてツール・ド・フランスの選手に選ばれたのが運ではなくて、その価値を持つからだと自分自身に証明できてよかった。そして、自分がチームの一員としてもまだ充分に働けて、チームの期待に応えられる。うん、自分を少し誇らしく思う。

ヴォクレールともに序盤から逃げた新城幸也(日本、ユーロップカー)

笑顔でゴールラインを切る新城幸也(ユーロップカー)笑顔でゴールラインを切る新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoあ〜ぁ、疲れた!大変でした。逃げのメンバーがみんな引かないんですよね。後ろと7分以上はタイム差が開かなかったから、「チームでふたり入っているところは引いてペース上げよう」と言ったんですが、リクイガスはサガンがいるから引かないと言うし、グリーンエッジも引かないと言うし。

笑顔でレースを振り返る新城幸也(ユーロップカー)笑顔でレースを振り返る新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoスプリントポイントを過ぎてから登り口でペースを上げて、そこから僕が引きました。でも思った以上に勾配がきつくて2kmぐらいしか引けなかった。メイン集団に抜かれるときにはピエール(ロラン)にボトルを渡して下がりました。あっ、トマ(ヴォクレール)はマイヨアポアも取ったんですね!(ちょうど山岳賞の表彰が始まる)。やった!

最初は逃げに乗る予定じゃなかったんです。アタック合戦で(ヴォクレールが)逃げに乗れなかった場合につなぐ(逃げを潰す)役割だったんです。何度もアタックをマークしてたらかなり脚を使っちゃって…。トマは最初動いてなかったからごちゃごちゃの混乱のなかで脚を使わなかったのが良かった。逃げが決まってからはそれなりに人数がいたから、ひとりひとりはそんなに脚を使わなかった。でも僕は多めに引きました。

みんな下りが速かった。下りでも脚を使いましたね。登り口まで全力で引けという指示だったんです。明日は27Tつけて走ります。あっ、トマは敢闘賞も獲得!?(ちょうど表彰が始まる)やったね! トマとは言葉をかわす余裕はなかったですね。あとで僕には感謝の言葉があるかな? あるかな〜? あるといいね〜。

嬉しいですよ。1つも優勝できないチームだってあるんだから。ピエールも調子良さそうに上ってた。いい山岳のスタートが切れましたね。今日はマラカルネの誕生日なんです。今夜はお酒が飲めるんじゃないかな! あっ、あの一本150ユーロのワインが出てくるかも。楽しみだ!

コメントは現地取材、プレスリリース、チーム公式サイト、選手個人サイト、TVインタビュー、twitterなどより。

text:Taiko YAMASAKI, Seiya YAMASAKI, Makoto AYANO

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