6月8日、超級山岳ル・グラン・コロンビエールが登場する本格山岳ステージで、プロ3年目の23歳アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ・ビッグマット)が独走勝利。マイヨジョーヌ争いも加熱し、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)に対し、ライバルたちが攻撃を仕掛けた。

超級山岳グラン・コロンビエールを走る選手たち超級山岳グラン・コロンビエールを走る選手たち photo:Cor Vosクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第5ステージは、サン・トリヴィエ・シュル・モワナンからリュミリーまでの186.5km。この日から3日連続で登場する山岳ステージが、ドーフィネの覇者を選び出す。

中盤にかけて登坂距離17.4km・平均勾配7.2%・標高1501mという難易度を誇る超級山岳グラン・コロンビエールを越え、続けざまに3級山岳リシュモンを越える。

超級山岳グラン・コロンビエールで逃げグループを追うアレクサンドル・ジェニエ(フランス、アルゴス・シマノ)ら超級山岳グラン・コロンビエールで逃げグループを追うアレクサンドル・ジェニエ(フランス、アルゴス・シマノ)ら photo:Cor Vosこの超級山岳グラン・コロンビエール→3級山岳リシュモンという流れは、7月11日に行なわれるツール・ド・フランス第10ステージと共通。ツール本戦はリシュモンの20km先がゴール。今回はリシュモンの45km先にゴールが置かれている。7月のマイヨジョーヌ狙いの選手にとっては格好のリハーサルだ。

スタート地点サン・トリヴィエ・シュル・モワナンは、ツールを含めたASO主催レースのニュートラルサービスを担っているマヴィック社のお膝元。同社は2017年までASOとパートナーシップを組むことを発表している。

不調に追い討ちをかける落車の影響で遅れるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)不調に追い討ちをかける落車の影響で遅れるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン) photo:Cor Vos雨降りのレース序盤はアタック合戦が激化。土井雪広(アルゴス・シマノ)もこのハイスピードバトルに加わったが、結果的には逃げには乗れなかった。

当時の状況を土井は「今日は逃げに入るため前半に全力を費やした。最初の山岳ポイントの入り口でヴィノやバレードが入った逃げが決まりそうだったけど、吸収され、僕はもう次のアタックに行く力は残っていなかった」と回想する。

メイン集団を徹底的にコントロールするチームスカイメイン集団を徹底的にコントロールするチームスカイ photo:Cor Vos61km地点でダニエル・ナバーロ(スペイン、チームサクソバンク)やエゴイ・マルティネス(スペイン、エウスカルテル)を含む10名のアタックが決まると、ようやくメイン集団はスローダウン。タイム差は6分まで広がる。

この序盤からのハイスピードな展開により、ファンホセ・コーボ(スペイン、モビスター)やステイン・デヴォルデル(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)がレースを去っている。

グラン・コロンビエールの下りで攻撃に出たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)グラン・コロンビエールの下りで攻撃に出たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vos急勾配の登りが続く超級山岳グラン・コロンビエールでブリース・フェイユ(フランス、ソール・ソジャサン)を含む追走グループが形成されるも、チームスカイが徹底的にコントロールするメイン集団がこれらの動きを許さない。第3ステージでスプリント勝利を飾ったエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)らが力強くメイン集団を率いた。

総合争いが動いたのは、雨に濡れた超級山岳ル・グラン・コロンビエールの下り。ここでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)を含む強力なグループが飛び出し、ウィギンズを含むメイン集団から一時的に1分のリードを稼ぎ出す。

マイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)が下りをこなすマイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)が下りをこなす photo:Cor Vosしかしチームスカイがこの動きを容認するはずもなく、リッチー・ポルト(オーストラリア)の強力な牽きによってタイム差は縮まり、3級山岳リシュモンでウィギンズ自ら動いてエヴァンス=ニーバリのグループをキャッチ。カウンターアタックでルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)らが飛び出すも、先頭の逃げグループに追いつくことはなかった。

8名まで数を減らした逃げグループは、1分ほどのリードを保ったままリュミリーのゴールを目指す。ラスト8kmで飛び出したナバーロが吸収されると、今度はヴィショがカウンターアタック。一瞬の隙を突いてリードを広げたヴィショが、そのままゴールまで6kmを独走し、後続を26秒振り切ってゴールした。

独走でゴールするアルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ・ビッグマット)独走でゴールするアルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ・ビッグマット) photo:Cor Vosヴィショは今年プロ3年目の25歳。プロデビュー直後のツアー・ダウンアンダーで「最も名前が知られておらず、最も給料が少なそうな選手」として、オーストラリア人たちのどっきり企画の標的になった選手だ。この3年間でプロレース3勝している。

UCIワールドツアーレース初勝利を飾ったヴィショは「フランスの伝統的なドーフィネで独走勝利。逃げにチャンスがある今日のようなアップダウンコースでチャンスを掴みたいと、チーム全体が願っていた。逃げグループの中で一番スプリント力があると思ったものの、協調体制が崩れていたので、親友のアントニー・ルーが3年前のブエルタでそうしたように、イニシアティブを取ってアタックした。世界のトップライダーの一員になるための小さな一歩を踏み出せたことを喜ばしく思う」とコメントしている。

鉄壁のチームスカイに守られたウィギンズは、最後までライバルたちの先行を許さず集団でゴール。山岳初日に総合成績の変動は見られなかった。逃げに乗り、グラン・コロンビエールを先頭通過したホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)が山岳賞トップに立っている。

前日の個人タイムトライアルで落車し、右の臀部と肋骨を痛めたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)は13分59秒遅れでゴール。「肋骨は折れていないけど、ひどく痛んだ。内出血で青く変色している。でも今はレースのリズムを掴むために距離を稼ぐ必要がある。これがシーズン序盤からリタイアも考えただろうけど、ツール4週間前のタイミングでそんなオプションは無い。昨日の落車で手首を折った選手もいるので、自分はラッキーだったと思いたい。ツールの試走としてグラン・コロンビエールを走ることが出来て良かった」と、痛々しいコメントを残している。

選手コメントはレース公式サイト、レディオシャック・ニッサン公式サイトより。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第5ステージ結果
1位 アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ・ビッグマット)         4h42'17"
2位 エゴイ・マルティネス(スペイン、エウスカルテル)              +26"
3位 デミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)
4位 レミ・ディグレゴリオ(フランス、コフィディス)
5位 ホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)
6位 アルベルト・ロサダ(スペイン、カチューシャ)
7位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、チームサクソバンク)
8位 マキシム・メデレル(フランス、ソール・ソジャサン)
9位 マキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)              +46"
10位 ブルーノ・ピレス(ポルトガル、チームサクソバンク)
116位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                  +16'56"

個人総合成績
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            18h54'23"
2位 トニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)        +38"
3位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)           +1'20"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +1'44"
5位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)              +1'45"
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                +1'48"
7位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)             +2'02"
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)        +2'22"
9位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)             +2'47"
10位 ジェローム・コッペル(フランス、ソール・ソジャサン)          +2'55"
147位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                  +38'51"

ポイント賞
トニー・ギャロパン(フランス、レディオシャック・ニッサン)

山岳賞
ホセ・サルミエント(コロンビア、リクイガス・キャノンデール)

新人賞
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
チームスカイ

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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