4月15日(日)オランダ・リンブルグ地方を舞台に、第47回アムステル・ゴールドレース(UCIワールドツアー)が開催される。日本からは土井雪広(アルゴス・シマノ)が出場予定。フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)が精彩を欠く今、カウベルグで決するアップダウンコースを制するのは誰だ?

「1000のカーブ」と「31の登り」を含む256.5kmのアップダウンコース

アムステル・ゴールドレース2012コースマップ 1周目・青、2周目・緑、3周目・赤アムステル・ゴールドレース2012コースマップ 1周目・青、2周目・緑、3周目・赤 image:www.amstelgoldrace.nlいよいよアルデンヌ3連戦が始動する。アムステル・ゴールドレースを皮切りに、3日後の水曜日にフレーシュ・ワロンヌ、1週間後の日曜日にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが開催される。いずれも起伏に富んだコースレイアウトであり、活躍する選手も「北のクラシック」とは異なる。

オランダと聞いて思い描くのは、チューリップが咲き、風車が穏やかに回る平原だ。確かに国土の大半は標高0メートル、もしくはそれ以下。国名Nederland(英語でNetherlands)が「低地の国」を意味するほど、国土の大部分は起伏に乏しい。

観客が詰めかけたマーストリヒトのスタート地点観客が詰めかけたマーストリヒトのスタート地点 photo:Cor Vosしかしそんなオランダ最大のロードレースであるアムステル・ゴールドレースは、上りが勝負の鍵を握る起伏に富んだレースだ。オランダはオランダでも、レース開催地は同国南部の丘陵地帯。ベルギーとドイツに隣接したリンブルグ州を駆け巡る3つの周回コースが設定される。登場する短い登りの数は31カ所。256.5kmのコースはまさにアップダウンの連続だ。

マーストリヒトをスタート後、ゴール地点カウベルグに向けて徐々に小さくなる周回を進む。3つの周回コースが複雑に入り乱れるため、プロ選手でもレース以外の日にはコースを間違えるほど。

絶え間なくワインディングとアップダウンが続く絶え間なくワインディングとアップダウンが続く photo:Cor Vos特に終盤の小周回に登場するヴォルフスベルグ、クルイスベルグ、アイゼルボスウェグ、ケウテンベルグはいずれも急勾配で、登りでのアタックとカウンターアタックが集団の人数を減らしていく。文字通りサバイバルレースが展開される。

そして、最後はアムステル名物のカウベルグを駆け上がってゴール。選手たちはこの登りを計3回通過することになる。登坂距離は1200mで、高低差は68m。平均勾配は5.8%と、それほど厳しい登りではない。

昨年、カウベルグでアタックを成功させたフィリップ・ジルベール(ベルギー、当時オメガファーマ・ロット)が勝利昨年、カウベルグでアタックを成功させたフィリップ・ジルベール(ベルギー、当時オメガファーマ・ロット)が勝利 photo:Cor Vos今年はこのカウベルグに至る終盤のコースレイアウトに変更が加えられた。昨年まではケウテンベルグ通過後、Sibbergrubbeの下りを経てカウベルグに向かったが、今年はその下りがカット。ケウテンベルグからカウベルグまでの距離が12.3kmから9.6kmに短縮されている。これにより、登りで遅れた選手たちの先頭復帰が難しくなり、より人数が絞られた状態で最後のカウベルグに突入すると見られている。

コースは全体的に道幅が狭く、「1000のカーブ」と呼ばれるほどコーナーが連続。アップダウンとワインディングを繰り返すため、ときに「ジェットコースター」と形容される。

これらの試練を“フレッシュな状態”で乗り越え、最後のカウベルグに全力をぶつけることが出来るかが勝負の分かれ道。一瞬の判断ミスが敗戦に繋がることもあり、アタックチャンスを感じ取る優れた嗅覚も問われる。

ちなみに、レース名がオランダの首都アムステルダムに由来すると勘違いしがちだが、その名前はメインスポンサーのアムステル社からきている。アムステル社はオランダを代表するビール会社。レース公式サイトを閲覧するためには年齢を記さなければならない。

不調のジルベールに代わってカウベルグで主役になるのは?

スタートを待つフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)スタートを待つフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos起伏に富んだアルデンヌでは、軽量級のクラシックレーサーや、グランツールで総合上位を狙えるオールラウンダーがレースを支配する。

31カ所の登りをこなす登坂力と耐久力、そして最後のカウベルグでのパンチの効いたスプリント力が勝利への必須条件だ。

アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsuji過去2年連続で圧勝しているフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)は、3連覇を狙ってマーストリヒトに降り立つ。昨年史上2人目のアルデンヌ・クラシック3連勝を果たしたジルベールは、本来であれば優勝候補の筆頭。しかし今年はシーズン序盤から精彩を欠き、シーズン0勝に終わっている。

直前のブラバンツ・ペイルでようやく回復の兆しを見せたが、昨年見せた圧倒的なパワーは影を潜めている。「現実的に言って、自分は優勝候補ではない」と、本人も不調を認めている。ジルベールに代わって、カデル・エヴァンス(オーストラリア)やフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)がBMCレーシングチームのキャプテンを担うことになりそうだ。

パイスバスコで好勝負を繰り広げたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)とサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)パイスバスコで好勝負を繰り広げたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)とサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:www.vueltapaisvasco.diariovasco.comアルデンヌ・クラシックでは毎年スペイン人選手が上位に絡むが、実はまだこのアムステルでスペイン人優勝者は出ていない。2008年大会3位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)をはじめ、スペイン勢の走りに期待したい。

直前のブエルタ・アル・パイスバスコでステージ2勝&総合優勝したサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)と、同大会ステージ2勝&総合2位のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)の2人にも注目。カチューシャからは、直前のブラバンツ・ペイル2位のオスカル・フレイレ(スペイン)も出場予定だ。

ミラノ〜サンレモ初制覇を果たしたサイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ)ミラノ〜サンレモ初制覇を果たしたサイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiツアー・ダウンアンダーとミラノ〜サンレモを制し、現在UCIワールドツアーランキング2位のサイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ)は昨年大会3位。「このクラシック3連戦はシーズン前半の大きな目標」と明言している。

ブラバンツ・ペイルで落車し、手を痛めたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)は、2006年大会覇者の兄フランクや、クリストファー・ホーナー(アメリカ)を引き連れての出場。まだアンディはアムステルの表彰台に登ったことはない。

土井雪広(プロジェクト1t4i)土井雪広(プロジェクト1t4i) photo:Kei Tsuji2008年大会覇者のダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)やヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)ら、イタリアからもトップクラシックレーサーが集結。リクイガス・キャノンデールのペーター・サガン(スロバキア)は、すでにダークホースとは呼べないほどの存在感を放っている。

フランスからは、ブラバンツ・ペイル優勝のトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)やシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)らが出場。いずれも好調なのは間違いなく、1981年のベルナール・イノー以来となるフランス人による大会制覇に期待がかかる。

オランダチームのオランダ人選手、ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)は地元での勝利を渇望しているはず。その他にも、ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)やライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)ら、登坂力のあるオールラウンダー系選手が多く顔を揃える。

「このクラシックが大きな目標だったから、それに向けてキツいトレーニングが続いた。そのおかげでピークに近い状態でレースに挑める」と話すのは、4回目の出場となる土井雪広(アルゴス・シマノ)。昨年はブラバンツ・ペイルで膝を骨折し、このアルデンヌ3連戦を棒に振っている。オランダの自宅からほど近いこの地元レースで、幸先良い3連戦のスタートを切ってほしい。

text:Kei Tsuji in Maastricht