フランス北部、ベルギー国境に近い一帯で、第110回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が開催される。27ものパヴェ(石畳)区間を含む257.5kmの難コースは、今年も刺激的なバトルを生み出すだろう。トム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)の快進撃はまだまだ続くのか?

合計27セクター・総延長51.5kmのパヴェ区間

パリ〜ルーベ2012コースマップパリ〜ルーベ2012コースマップ image:A.S.O.「クラシックの女王」と呼ばれるパリ〜ルーベは今年で開催110回目。第1回大会が行なわれたのは、近代オリンピックと同じ1896年。格式の高いクラシックレースとして独特の地位を誇っている。

「女王」またの名を「北の地獄」。他のレースでは決して見ることが出来ない荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のレースだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。

パリ北部のコンピエーニュをスタートする257.5kmのコースはフラットそのもの。パヴェ区間を縫うようにして蛇行しながら、ベルギー国境近くのルーベを目指す。

レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続く。しかし、そこからゴールまで、休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。ゴール地点ルーベに至るまで、合計で27のパヴェ区間が登場。その総延長は51.5kmに及び、レース後半部の3分の1がパヴェに覆われている計算になる。

パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」で、石と石の間の土は風雨によって浸食。鋭く角の立った石や段差が、パンクや落車を引き起こす。毎年少しずつ修復が加えられているが、中には規則性を失って波打ったものや、陥没した穴もある。

砂塵が舞い踊り、砂埃の煙幕が上がる砂塵が舞い踊り、砂埃の煙幕が上がる photo:Makoto.AYANOこれほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ない。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。

石畳は決定的なメカトラを引き起こすことも石畳は決定的なメカトラを引き起こすことも photo:Cor vos登場する27のパヴェ区間は、それぞれ長さが200mから3700mまで様々。その長さや路面の荒れ具合に応じて、難易度が1〜5までランク付けされている。

中でも有名なのが、アランベール、モンサン・ぺヴェル、そしてカルフール・ド・ラルブル。昨年この5つ星パヴェに、オルノワ・レ・ヴァロンシエンヌが仲間入りした。

いずれも全長が2kmを超え、その路面は特に荒い。「アランベールの森」を貫く直線的なパヴェセクター、5つ星アランベールは、ゴール85km手前に登場する。長さが2400mに達し、その路面は荒れ放題。ここで数々の名選手が落車やトラブルにより勝機を失い、そして同時に、多くの決定的な動きが生まれた。

そして、終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度4の3区間(シソワン・ブルゲル、ブルゲル・ワヌエン、カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場するカルフール・ド・ラルブルだ。長さ2100mのこの難所を越えると、ゴールまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、カルフール・ド・ラルブルで勝負が決まる可能性が高い。

荒れたパヴェレースの最後を締めくくるのは、皮肉にも、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でゴールラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。

登場するパヴェ27区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
27 97.5km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
26 104km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
25 106.5km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
24 111.5km Saint-Python 1500m ☆☆
23 119.5km Vertain à Saint-Martin-sur-Écaillon 2300m ☆☆☆
22 126km Capelle-sur-Écaillon à Ruesnes 1700m ☆☆☆
21 142km Aulnoy-lez-Valenciennes(オルノワ・レ・ヴァロンシエンヌ)2600m ☆☆☆☆☆
20 145.5km Famars à Quérénaing 1200m ☆☆
19 149km Quérénaing à Maing 2500m ☆☆☆
18 152km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
17 163.5km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
16 172km Trouée d’Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
15 178.5km Millonfosse à Bousignies 1400m ☆☆☆
14a 183.5km Brillon à Tilloy-lez-Marchiennes 1100m ☆☆
14b 185.5km Tilloy - Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆
13 192km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
12 197km Orchies 1700m ☆☆☆
11 203km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2600m ☆☆☆
10 208.5km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
9 215km Mérignies à Avelin 700m ☆☆☆
8 218km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
7a 223.5km Templeuve - L’Épinette 200m ☆
7b 224km Templeuve - Moulin de Vertain 500m ☆☆
6a 230.5km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆☆
6b 233km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆☆
5  237.5km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4  240.5km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3  242.5km Gruson 1100m ☆☆
2  249.5km Willems à Hem 1400m ☆
1  256.5km Roubaix 300m ☆

王者ボーネンが史上最多タイの4勝目に移動

ロンドを制し、絶好調を維持するトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)ロンドを制し、絶好調を維持するトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Makoto.AYANO最有力優勝候補は、紛れもなくトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)だ。

ここ数年輝きを失っていたボーネンは、今シーズン勝ちまくっている。特にクラシックレースでの活躍が顕著。UCIワールドツアーのE3プライス・フラーンデレン、ヘント〜ウェベルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレンでハットトリックを達成している。

今シーズン好調を見せるフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)今シーズン好調を見せるフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Cor Vos2005年、2008年、2009年のパリ〜ルーベで優勝した「獅子」が、数年の眠りから覚めた。パヴェを走るテクニック&走力はもちろん世界トップレベルであり、持ち味のスプリント力で勝負を決める。

ロンドで3位に入ったアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)ロンドで3位に入ったアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム) photo:Makoto.AYANOボーネンはオメガファーマ・クイックステップの手厚いサポートを受ける。チームメイトのシルヴァン・シャヴァネル(フランス)やニキ・テルプストラ(オランダ)は、他チームに移籍すればエース級の実力者。オメガファーマ・クイックステップは戦略的に多くのカードをもつ。ボーネンが厳しいマークに合った場合は、シャヴァネルらにチャンスが転がり込むことも充分に考えられる。

宿敵ファビアン・カンチェラーラ(スイス)が鎖骨骨折で戦列を離れた今、オメガファーマ・クイックステップの牙城は揺るぎない。なお、仮にボーネンが優勝した場合、ロジェ・デフラミンク(ベルギー)がもつ史上最多4勝目の記録に並ぶ。2度目のロンド=パリ〜ルーベ同年制覇は史上初の快挙だ。

2011年大会を独走で勝利したヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー・現ガーミン・バラクーダ)2011年大会を独走で勝利したヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー・現ガーミン・バラクーダ) photo:Cor Vosではボーネンに立ち向かう対立候補は誰か。ロンド2位のフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)は、パリ〜ルーベでもボーネンの最大のライバルとなるだろう。ポッツァートは今シーズン序盤に鎖骨を骨折したが、コンディションを保ったままレースに復帰。ロンドでは自ら積極的にレースを動かした。

北のクラシックを得意とするダニエル・オス(イタリア、リクイガス・キャノンデール)北のクラシックを得意とするダニエル・オス(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei.Tsujiロンド3位のアレッサンドロ・バッラン(イタリア)は、強力なBMCレーシングチームを率いての出場だ。チームには、2009年大会3位、2010年大会2位のトル・フースホフト(ノルウェー)や、過去7回表彰台に登っているジョージ・ヒンカピー(アメリカ)、パリ〜ルーベのエスポワール(U23)レースで優勝しているテイラー・フィニー(アメリカ)、そしてフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)らがいる。

昨年優勝したヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・バラクーダ)は、今年ブレイクしつつあるセプ・ファンマルク(ベルギー)やハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)を従える。BMCとガーミンはいずれもアメリカチームだが、様々な展開に持ち込めるチーム力を有している。

カンチェラーラを欠くレディオシャック・ニッサンは、グレゴリー・ラスト(スイス)やダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)をエースに指名する。ロンドでタイミングを逃したペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)は欠場。ダニエル・オス(イタリア)がイタリアチームのエースを担う。

2007年大会の覇者スチュアート・オグレディ(オーストラリア、グリーンエッジ)の他、実績のあるフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)やマーティン・チャリンギ(オランダ、ラボバンク)らも上位に絡んでくるだろう。

天気予報によると、現地の天候は晴れ。現在(土曜日)は時折雨が降るコンディションで、若干路面が濡れた状態でレースが行なわれることになるだろう。

シクロワイアードでは、レース当日にテキストライブを開催。綾野真フォトグラファーによる現地レポートやレースレポートもお楽しみに!


text:Kei Tsuji