UCIワールドツアーのボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャが、3月25日、幕を閉じた。結果は土井雪広(プロジェクト1t4i)がチーム内トップの総合38位。別府史之(グリーンエッジ)は1週間をチームメイトの大会制覇に捧げた。それぞれの1週間の闘いを振り返る。

最終日も先頭集団でゴール、土井雪広

前日のレース後、バイクに乗った強盗に襲われたチームサクソバンクのチームカー前日のレース後、バイクに乗った強盗に襲われたチームサクソバンクのチームカー photo:Kei Tsujiチームサクソバンクの宮島正典マッサーは今日も陽気にテキパキとスタート前の準備をこなす。

見ると、BMWのチームカーのサイドミラーが割れている。物騒なことに、バイクに乗った輩が窓から手を入れ、車内のものを盗もうとしたらしい。運転していた監督がパワーウインドウを閉め、それに怒った強盗が割って去って行ったという。

話しながらスタートを待つ土井雪広(プロジェクト1t4i)と別府史之(グリーンエッジ)話しながらスタートを待つ土井雪広(プロジェクト1t4i)と別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiバルセロナは、観光地として名高いが、お世辞にも治安が良いとはいえない。そんな人口160万人(都市圏人口421万人)の大都市バルセロナを見下ろす標高512mの山が、最終ステージ最大の山場である2級山岳ティビダボだ。

頂上には巨大な電波塔(内部が展望台になっている)や小さな遊園地(入場は無料)、サグラット・コール教会がある。日曜日ということもあり、ジェットコースターから爽やかな悲鳴が聞こえてくる。

バルセロナを見下ろす2級山岳ティビダボを登るメイン集団バルセロナを見下ろす2級山岳ティビダボを登るメイン集団 photo:Kei Tsuji日曜日の雰囲気を醸し出す2級山岳の頂上目がけて、メイン集団ではアタックが繰り返された。プロジェクト1t4i(近々新しいチーム名とスポンサーが発表される予定)の土井雪広もその中の一人。

「チームの中で自分しかアタック出来る人がいなくて、監督の了承を受けてアタック。先に飛び出していた2人に追いついたけど、ガーミンの牽きで吸収された」という。別府史之(グリーンエッジ)曰く「凄い勢いでアタックしていた」。

第1ステージ 土井雪広(プロジェクト1t4i)第1ステージ 土井雪広(プロジェクト1t4i) photo:Kei Tsuji結局アタックは決まらず、集団内で2級山岳をやり過ごした土井は、最後の3級山岳も集団内でクリア。最終的に40名に絞られた集団が、バルセロナの街中目がけてテクニカルダウンヒル。下りきったその先のゴールで、ジュリアン・シモン(フランス、ソール・ソジャサン)が勝利した。

「最後の下りはめちゃくちゃ速かった。ラインが一本しかなくて、登りの頂上からずっと一列。ゴール前に平坦路があと3kmあれば位置取り出来ていたかもしれないけど、下りきってそのままゴールだったので、スプリント出来なかった(28位ゴール)」。

第4ステージ 土井雪広(プロジェクト1t4i)第4ステージ 土井雪広(プロジェクト1t4i) photo:Kei Tsujiプロジェクト1t4iの中で唯一先頭集団でゴールし、チーム内最高位の総合38位という成績を残した土井。いつの間にかチーム内で“スプリンター”に分類されていることに戸惑いながら、土井は続ける。「やっぱりワールドツアーレースは別世界。他のレースとのレベルの違いを感じた。スプリントで結果は出せなかったけど、登りではトレーニング通りの走りが出来た。出場している選手全員が全開で走るこの時期のワールドツアーレースで総合38位は、確実に強くなっているのを感じる」。

「コンディションは良い。トレーニングで結果も出ている。あとはレースでタイミングさえ合えば」と、プロジェクト1t4iのクリスティアン・ギベルトー監督も同意する。その言葉には根拠に基づいた強さがある。

土井はレース後すぐのフライトでオランダに戻り、夜9時には帰宅。「今後の出場スケジュールは、メルへランド(3月31日)、ケルン(4月9日)、アムステル・ゴールドレース(4月15日)、フレーシュ・ワロンヌ(4月18日)、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(4月22日)、全日本選手権ロード(4月29日)。そして予定ではツアー・オブ・カリフォルニア(5月13〜20日)に出場する」。土井は週明けに1時間ほどリカバリーライドし、次なるレースに合わせる。

勢いに乗るチームの勝利に貢献、別府史之

別府史之(グリーンエッジ)のヘルメットには漢字で「別府史之」と書かれている別府史之(グリーンエッジ)のヘルメットには漢字で「別府史之」と書かれている photo:Kei Tsuji「グリーンエッジはすごく良いチームだと思う。メンバーがそれぞれの役割をもって、嫌がらずに仕事をこなしている。チームの中に団結力があって、モチベーションも高い。チームにとって素晴らしい1週間だった」。そう話すのは、チームメイトのアルバジーニの総合優勝をアシストとして支えた全日本チャンピオンの別府史之。

グリーンエッジは、ツアー・ダウンアンダーに続くUCIワールドツアーのステージレース総合優勝。ティレーノ〜アドリアティコでは初日のチームタイムトライアルで優勝し、ミラノ〜サンレモ制覇も果たした。

チームメイトの勝利を喜ぶ別府史之(グリーンエッジ)チームメイトの勝利を喜ぶ別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiシーズン勝利数はオメガファーマ・クイックステップ(21勝)、チームスカイ(13勝)、リクイガス・キャノンデール(13勝)に続く8勝だが、それは全てUCIワールドツアーレースもしくはオーストラリア選手権での成績だ。

開催期間は1週間だが、コロコロと毎日変わる気象条件によって、体感的により長く感じられたボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ。雪による第3ステージのコース短縮が、グリーンエッジの大会制覇に大きく影響したのは間違いない。

第4ステージ メイン集団を牽引する別府史之(グリーンエッジ)第4ステージ メイン集団を牽引する別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiしかしアルバジーニはステージ2勝を飾って鮮烈な印象を残し、山岳でもライバルの攻撃に食らいついた。白地に緑のラインの入ったリーダージャージはプロトンの中で目立たないが、アルバジーニが大会の主役であったのは紛れも無い事実。

チーム力と実力が無ければ決してなし得なかった成績。アルバジーニが第1ステージで築いた1分32秒のリードは、第6ステージでサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)に縮められた2秒をのぞいて、全く減っていない。

全日本チャンピオンジャージを着る別府史之(グリーンエッジ)全日本チャンピオンジャージを着る別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「最初は総合ではなくステージ狙いだった」と素直に打ち明ける別府。グリーンエッジの1週間をこう振り返る。「でも結果的に、第3ステージのコース短縮のおかげで総合リードをそのまま守ることが出来た。他のチームからはラッキーなプレゼントに見えるかも知れないけど、ロードレースはそんな要素を含めて含めてロードレース。アルバジーニは今までアシストとして走ってきただけあって、人格があって、毎日メンバー全員に声をかけて感謝の気持ちを示してくれる。チームの気持ちが一つになって、それで良い結果が出ている感じ」。

ゴール後、待ち構えたマッサージャーと抱き合う別府史之(グリーンエッジ)ゴール後、待ち構えたマッサージャーと抱き合う別府史之(グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji別府は、レース後、イタリアのヴァレーゼに向かうチームカーに便乗し、陸路でフランスに帰国。しばらく休んで、再びUCIワールドツアーのステージレースに出場するためスペインに戻る。「今後は、パイスバスコ(4月2〜7日)、アムステル・ゴールドレース(4月15日)、フレーシュ・ワロンヌ(4月18日)、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(4月22日)、ツール・ド・ロマンディ(4月24〜29日)、そしてジロ・デ・イタリア(5月5〜27日)が続きます。スケジュールがタイトなのでロマンディをパスする可能性も有るけど、確実にジロに出場します」。

「やっぱり、リーダージャージを守る仕事もいいけど、もう少し自分の走りを見せたい」と、1週間にわたってアシストの仕事をこなす中、自分の走りが出来ないやるせなさを見せた日もあった。「この全日本チャンピオンジャージを着るのが、ツール・ド・ロマンディまでということもある。自分の目標であるジロのステージ優勝に向けて走りたい」。別府の頭の中には、“ジロのステージ優勝”という明確な目標がある。

text&photo:Kei Tsuji in Barcelona, Spain