PARIS(パリ)は1994年にピナレロのラインナップに初めて登場し、フラッグシップモデルとしてプロレースで大きな成果をもたらした。そしてハイフォロドーミング成型のアルミフレームとして再デビューし、さらにFPカーボンとしてフルカーボンモデルに昇華した。
そして2011年、ドグマ60.1からフィードバックした、秀逸の設計である「Asymmetric System(左右非対称システム)」を導入し、復活を遂げた。ピナレロでも長く名前を引き継ぐロングセラーのレーシングモデルである。

ピナレロ PARIS 50-1.5 Carbonピナレロ PARIS 50-1.5 Carbon (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

ユニークな左右非対称形状「アシンメトリックシステム」についておさらいしてみよう。駆動系が右側に集中しているために生じる左右の不均等な力の掛かりをフレームで補正するために、CAD(コンピューター支援設計)や FEM(有限要素法による構造解析技術)によりフレーム設計を行ない、最適化した形状が、ピナレロ独自のアシンメトリックシステムだ。この特徴的なデザインは、フロントフォーク、トップチューブ、シートステー、チェーンステーに及んでいる。

有限要素法によって導き出された流麗なデザイン有限要素法によって導き出された流麗なデザイン カーボンモノコック構造を用いたメインフレームカーボンモノコック構造を用いたメインフレーム


ONDA FPKモノステーも左右非対称設計ONDA FPKモノステーも左右非対称設計 ケーブル類は可能な限り内蔵処理されているケーブル類は可能な限り内蔵処理されている


そして、パリにはリアルレーシングモデルのプリンスカーボンと同等の50トングレードのTORAYCA50HMハイモジュラスカーボンが用いられている。
アシンメトリックシステムと50トングレードのHMカーボンによって、ドグマやプリンスにひけを取らないリアルレーシングバイクとしてパリ50-1.5カーボンはリリースされている。

左右非対称設計のONDA FPK1フロントフォーク左右非対称設計のONDA FPK1フロントフォーク 流れるような造形美を見せるフロントビュー流れるような造形美を見せるフロントビュー 大口径のモノステーを用いる大口径のモノステーを用いる


そしてこの2012年モデルはさらなるブラッシュアップが施され、ONDA FPK1フロントフォークのフォーククラウンを1-1/8インチから1-1/2インチへと口径をアップした。いわゆる上下異径のテーパードヘッドとなり、ステアリング性能とフォーク剛性をさらに高めている。

さらにiCR(by Pinarello LAB)システムによりすべてのケーブルはフレーム内部を通るようになった。このシステムを採用することで、パリ50-1.5カーボンの美しいフォルムを引き立てる。エアロダイナミクス効果も高まるだろう。

UCI公認の印であるステッカーが貼られるUCI公認の印であるステッカーが貼られる ボトムブラケット周辺も強化しているボトムブラケット周辺も強化している


その美しいフォルムはPinarello LAB SOE(シミュレーション・オプティマイズ・エボリューション)システムでデザインされている。エレガントでコンパクトなラインを具現化し、ONDA FPKモノステー、アシンメトリック・チェーンステーを採用する。
さらにMost Croxover oversizeボトムブラケットを採用し、ペダリングパワーを余すことなく推進力へと変換してくれる。これだけのテクノロジーを投入しながらも、フレームの重量は1,040g(サイズ54)に収まっている。

まさに2009年にリリースされたプロスペックモデルのプリンスカーボンと同等性能であるにも関わらず、価格はセカンドグレードともいえる。これだけの構造特性と素材、そして生産技術が産み出したパリは、セカンドグレードと一言でいえない性能とエレガントさを誇る。パリによって、セカンドグレードの位置づけはさらにレベルアップしていくだろう。

駆動側を強化した左右非対称設計駆動側を強化した左右非対称設計 大きくラウンドしたリアセクション大きくラウンドしたリアセクション アシンメトリック構造であることを示すキャッチーなアイコンアシンメトリック構造であることを示すキャッチーなアイコン


パリは、従来のメカニカルコンポーネントを使用するフレームセットと、iRaeady 電動コンポーネント専用フレーム、そして注目の電動コンポーネント、シマノ・アルテグラDi2を搭載する完成車がセレクトできる。フレームサイズが豊富であることもピナレロの特徴である。小柄な方や女性向けのEasyFit 42cmサイズから59.5cmまで、11サイズが用意されていることは嬉しい。

ドグマ60.1からフィードバックした秀逸の設計である「Asymmetric System(左右非対称システム)」を導入し、ドグマやプリンスにひけを取らないリアルレーシングバイクとしてリリースされたパリ50-1.5カーボンを、2人のテスター達はどう評価するのだろうか?さっそくインプレッションをお届けしよう。




―インプレッション


「パリはロードバイクのど真ん中にあるバイク」 鈴木祐一(RIDE RIDE)

「パリはロードバイクのど真ん中にあるバイク」 鈴木祐一「パリはロードバイクのど真ん中にあるバイク」 鈴木祐一 パリ 50-1.5カーボン(以下、パリ)を一言で表現すると、「バランスが良いバイク」という言葉に尽きる。突然コメントを求められても、あまりにも「普通」過ぎて表現がうまく出てこない。悪くいえば特徴がない。良く言えば完璧に近いオールラウンドなバイクといえる。

例えば、運動パフォーマンスをヘキサゴングラフで描いたとしたら、綺麗な六角形になるだろう。上りや下りに平坦、加速減速に優れ、どんな場面でも選り好みせず淡々とこなすことができた。すべてに対し性能が均等に分布しているといえる。

例えばウエットな路面でもフィーリングをつかみやすいなど、懐の深い設計となっている。まさしくピナレロの良さを凝縮したようなバイクだ。

求められるスピード域を考慮したとき、ドグマに代表されるレーシングバイクは高いレベルを要求される。逆にエントリーバイクになってくると、ビギナー用ということで安定感などを重視する上に良い素材を使う予算も限られてしまい、重量は軽くしたくても妥協せざるを得ない。
だがパリならレーシングから、ロードツーリング、長丁場のグランフォンドなどをカバーできる性能が十分にある。

パリは、特にグランフォンドのように、あらゆる事態を想定していないとこなせないような厳しい環境にも適したバイクだと思う。死角がないバイクだ。フレームの剛性はメチャクチャ硬いというわけではない。むしろ優しさを備えた質感だ。パリならエントリーユーザーも乗りこなせるだろうし、上級者も満足できる。

特徴を際立たせることで、相反する要素というものが必ず出てしまうのがロードバイクだ。このバランス感が絶妙であり、例えばレーシングバイクがすべてに適しているわけではなく、ツーリングにはあまり適してないことがあったりする。ロングライドに特化したものやレーシングに注力したものがある中で、パリというフレームはロードバイクのど真ん中にあるバイク。すべてのロードバイクの中心的な性能をもつ存在といえる。

低速、中速、高速と区別なく、そのスピードを自然に維持でき、しかもストレスは皆無という不思議な作り。ポジティブな意味で完成されていて、ピンポイントで狙った性能を実現できるピナレロの底力を感じる。バイクを何台も所有できない人は、このパリを選ぶことで様々なシーンでライディングを楽しめるはずだ。さらに趣きの異なるホイールを複数用意すれば、世界はもっと広がるだろう。

ロードバイクは多岐にわたるパーツ群の中からチョイスできるという面白さもある。このパリもDi2ではなくともフレームの性能を十分に発揮できるので、予算に応じたチョイスでパリのアッセンブルを考えるのも面白そうだ。


「不満点が見当たらない、全方向性ロードバイクだ」 山本健一(ロードバイクジャーナリスト)

ピナレロのレーシングバイクづくりのイメージは、とにかくバランス重視で、ウィークポイントを見つけるのが難しい。そして、ミドルグレード以下はその性能に対して価格的にもリーズナブル。ドグマやこのパリは、レーシングモデルとして確固たる地位を確立している極めて希少な存在で、フレームにはスピードを生み出すためのギミックが満載されている。

パリに用いられているカーボン素材は、プリンスと同様の50トングレードだ。良質のカーボンによって剛性を強く保持したい箇所はしっかりと、軽量化を施しても問題のない部分は薄く仕上げ、見た目のボリュームに反して重量的には軽く仕上がっている。

主にカーボンの積層によって剛性の分布を最適化していることもあり、踏み心地にもそれが現れているように感じる。ボトムブラケット付近やヘッドチューブ周辺から感じられる芯の強さは、踏力に対する反応性が良く、高速巡航スピードまでじつにスムーズに加速できる。

「悪いところを見つけにくい全方向型。ピナレロの特徴を強く示す優秀なカーボンバイク」 山本健一「悪いところを見つけにくい全方向型。ピナレロの特徴を強く示す優秀なカーボンバイク」 山本健一

パワフルなヘッド周りは、ダッシュしたときのパワーをロスさせずにしっかりと受け止める。ONDA FPXカーボンフォークも剛性感に大きく関与しているだろう。その形状は見るからに強く、筋骨隆々な四肢を想像させる。不要なねじれを一切排除するようなたくましさによって、あらゆるシチュエーションに対応し、余裕を持って対処することができる。

特にダンシングを多用する上りでは、ライダーをしっかりと支え、ヘッド周りの剛性感とともにペダリング効率を高めてくれる感覚がある。パリは、悪いところを見つけにくい全方向・全天候型バイクといえる。晴れの日はもちろんのこと、風雨にさらされても、その場面において最高のパフォーマンスを発揮してくれそうだ。ピナレロがこれまでにつくり出したバイクのパフォーマンスは、まぎれもなくパリの運動性能にフィードバックされているだろう。

ピナレロのラインナップは、ライダーのスキルや運動能力によって最適な1台をセレクトすることが可能であるといえる。例えばプロユースモデルをドグマとするなら、ハイアマチュアからレース指向の強いサイクリストに最適なのがパリという位置づけでよいだろう。むしろアマチュアのためのハイエンドモデルといってもよさそうだ。

運動性能はもとより、選ぶ基準を大きく左右するカラーラインナップも豊富だ。好みのカラーが見つかれば、愛着は一層深まるだろう。PARIS 50-1.5 Carbonは、ピナレロの特徴を強く示す優秀なカーボンバイクといえる。

ピナレロ PARIS 50-1.5 Carbonピナレロ PARIS 50-1.5 Carbon (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
PARIS 50-1.5 Carbon
カラー:BOB 572(レギュラーフレームセット)
White Red Matt 574(レギュラーフレームセット、iReadyフレームセット)
Sky MATT 570、Movistar 569(レギュラーフレームセット、Ultegra Di2完成車)
577 Pink(レギュラーフレームセット 42EasyFitのみ)
チューブ:Carbon 50HM1.5K
カーボンフォーク:Onda Carbon 50HM1.5K 1-1/8″ 1- 1/2″ Asymmetric integral system
サイズ:42.5EF, 44SL, 46.5SL, 50, 51.5, 53, 54, 55, 56, 57.5, 59.5
重量:1,040g (サイズ54)

シマノ アルテグラ Di2 完成車仕様
メインコンポ:シマノ Ultegra Di2
クランク:シマノ Ultegra コンパクト GlossyGray
ホィール:MOst Wildcat F3(カムシン相当)
ハンドル:MOst Xylon アルミコンパクト
ステム:MOst TigerUltra ALカーボン
サドル:MOst Ocelot

価格
フレームセット 348,000円(税込み、レギュラー)
iReadyフレームセット 368,000円(税込み、電動専用フレームセット)
完成車 548,000円(税込み、シマノ アルテグラ Di2)




インプレライダーのプロフィール


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


山本健一(バイクジャーナリスト)山本健一(バイクジャーナリスト) 山本健一(バイクジャーナリスト)

身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。


ウェア協力:ビエンメB+(フォーチュン)


text:Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto AYANO