33年ぶりにバスク地方を通過したブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージは、序盤の逃げに乗ったバスク人イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)が圧巻の逃げ切りで地元に華を添えた。総合はいくつかの動きがあったものの、順位に変動はない。

ゴルカ・ヴェルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)がエースのアントンのために献身的なアシストを見せるゴルカ・ヴェルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)がエースのアントンのために献身的なアシストを見せる photo:Tour of Spain/Graham Watsonスペイン一周レースであるブエルタ・ア・エスパーニャが、実に33年ぶりにバスク地方を通過する。世界でも屈指の自転車ロードレースが盛んな地域として知られるバスクは、これまで多くの名選手を輩出してきた。1990年代前半のツール・ド・フランスを5連覇したミゲル・インドゥラインもまたこの地域の出身。独自の言語・文化を持つバスクはスペインからの独立の気運が高く、政治的理由でしばらくブエルタのルートに取り入れられることはなかった。

歓声に包まれて登りを進む歓声に包まれて登りを進む photo:Kei Tsujiプロチームでバスク籍のエウスカルテルにとって、バスクを通るこの日と翌日の第20ステージは特別。いつもツールのピレネーステージで道をオレンジに染めるサポーターたちへ、地元でその勇姿を見せる好機でもある。

リーダーチームのジェオックスTMCが集団前方で眼を光らせるリーダーチームのジェオックスTMCが集団前方で眼を光らせる photo:Tour of Spain/Graham Watsonノハをスタートし、バスク最大の都市ビルバオにゴールする第1ステージ。158.5kmのコースは3級山岳を2つ越え、周回コースに入り同じ2級山岳を2回登った後に、ビルバオにたどり着く。レースは早く動き出したいエウスカルテル勢を尻目に、まずは20km地点の中間スプリントポイントを巡る争いで幕を開けた。

総合3位のブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)がフルームのために牽引総合3位のブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)がフルームのために牽引 photo:Tour of Spain/Graham Watsonマイヨロホのファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)を13秒差で追いかけるクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)にとって、中間スプリントポイントのボーナスタイム6秒は喉から手が出るほど欲しいもの。チームスカイがハイスピードを維持して中間スプリントポイントへとやってくるが、先頭で通過したのはポイント賞ジャージを着るホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)。彼もまた、マドリッドでの表彰台のために力を惜しまない。2位はコーボのアシストであるダビ・デラフエンテ(スペイン)が入り、3位には総合表彰台とポイント賞を狙うバウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)。フルームはボーナスタイムを獲得できず。

1回目の2級山岳エル・ビベロ峠を先頭で登るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)1回目の2級山岳エル・ビベロ峠を先頭で登るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji中間スプリントポイントを終えると、いよいよ逃げが決まる。飛び出したのはイゴール・アントン(スペイン)とゴルカ・ヴェルドゥーゴ(スペイン)のエウスカルテルコンビと、総合17位のマルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)、アレクサンドル・ディアチェンコ(カザフスタン、アスタナ)の4名。エウスカルテルが満を持してバスクのエースを先頭グループに送り込む。

2回目のヴィヴェロ峠で猛然とアタックを仕掛けるクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)をマイヨロホのファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)がチェック2回目のヴィヴェロ峠で猛然とアタックを仕掛けるクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)をマイヨロホのファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)がチェック photo:Tour of Spain/Graham Watson逃がしてスプリントポイントとゴールのボーナスタイム枠を埋めて欲しいリーダーチームのジェオックスと逃げ切りたい先頭グループの思惑が一致し、先頭の4名は順調にその差を開いていく。2つの3級山岳を超えた80km地点でその差は6分に開く。ブルセギンによりダニエル・マーティン(アイルランド)の総合14位が危険にさらされるガーミン・サーヴェロが集団のコントロールに加わり、タイム差を詰めていく。50kmを残して、タイム差は4分30秒。

33年ぶりのバスクステージを制したバスクチームのバスク人エース、イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)33年ぶりのバスクステージを制したバスクチームのバスク人エース、イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Tour of Spain/Graham Watsonこの日2度登る2級山岳ヴィヴェロ峠に入ると、ヴェルドゥーゴがアントンのために献身的な牽きを見せる。この日2回通るとあって、沿道にはバスクのファンは鈴なり。エウスカルテル2名の果敢な走りにツールの山岳ステージに劣らぬ熱狂的な声援が送られる。

ステージ2位のマルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)が肩を落とすステージ2位のマルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)が肩を落とす photo:Kei Tsuji集団ではフルームのためにチームスカイがペースを上げて速い展開に持ち込んでいく。少しずつ数を減らしていく集団は、先頭の4名に2分36秒遅れで通過。マイヨロホのコーボはフルームをぴったりとマークし、不穏な動きを警戒する。

19分12秒遅れの集団でゴールした土井雪広(スキル・シマノ)19分12秒遅れの集団でゴールした土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsuji下りと平坦区間でさらにタイム差は減少。残り32km地点で1分47秒まで詰め寄った集団からは、アルベルト・ロサダ(スペイン)とロドリゲスのカチューシャ勢がアタックを見せるも、実らず。2回目のヴィヴェロ峠にさしかかった先頭グループではヴェルドゥーゴの牽きに、ディアチェンコが脱落。

残り20kmを切り、登りでヴェルドゥーゴが力尽きると、アントンがアタック。ブルセギンを突き放し単独で山頂を目指す。メイン集団ではロドリゲスのアタックに反応したトーマス・ローレッガー(オーストリア、レオパード・トレック)、クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)、マチュー・ペルジェ(フランス、アージェードゥーゼル)の3人が追走グループを形成する。

アタックしたアントンは集団との差を開きながら、檄の飛ぶ人垣をかき分けるように快調に進んでいく。アントンが粘るブルセギンに30秒の差をつけ、山頂を通過する頃、集団ではフルームが猛然とアタック。しかしコーボがこれをチェック。ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)が追いつき、3名は前から遅れてきたペルジェをかわして下りに入る。アントンからは1分53秒遅れ。

登りでの攻撃が不発に終わったフルームは下りでペースを上げられず、残り10kmで集団に吸収される。コーボはマイヨロホを守る走りに徹し、この日の危機を脱した。

独走のまま下りに入ったアントンを追うのはTTスペシャリトのブルセギン。独走力に定評のある元イタリアTTチャンピオンだが、この日は地元の声援を受けたアントンが目覚ましい走りを見せる。得意の登りではなく下りと平坦区間で力強い走りを見せ、逆にブルセギンに対して差を開く。

残り4kmで33秒の差は、残り3kmで39秒に。およそ2分後方のメイン集団からはアイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック)とドミニク・ネルツ(ドイツ、リクイガス・キャノンデール)が抜け出し、3位を走っていたセレンセンに合流。

ビルバオの大通りに詰めかけたバスクの観客の前にアントンが単独で姿を現すと、大声援が彼を包む。昨年、マイヨロホを着ながら落車リタイヤに終わり、今年は序盤から不調で総合争いからは脱落したエウスカルテルのエースは、狙っていた地元のステージで輝きを取り戻した。

何度もガッツポーズを繰り返し、チームジャージをアピールしてゴールしたアントンが区間優勝。登りで遅れをとったブルセギンは41秒遅れの2位でゴール。1分30秒遅れの3位争いは、追走グループからネルツが先着している。1分33秒遅れのメイン集団はデラフエンテを先頭にゴール。フルームの攻撃はあったものの、マイヨロホ争いは13秒のまま大会は残すところ2日となった。

ブエルタ最終週に逃げるチャンスをうかがう土井雪広(日本、スキル・シマノ)は19分12秒遅れの161位でゴール。バスク地方の応援団の盛り上がりを肌に感じた一日になったようだ。「明日は最後のハードな一日。きつさを楽しみに変えてまた頑張ります」と前向きなツイートを残している。


イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)

ビルバオの大通りに独走でゴールするイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)ビルバオの大通りに独走でゴールするイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji「このブエルタでは総合優勝するつもりだったから、このビルバオの街にはマイヨロホを着てやって来るはずだった。でもこのブエルタでは僕が望んだように進まなかったので、このステージ優勝に狙いを切り替えたんだ。アングリルとペーニャ・カバルガの山頂ゴールが僕に意志と、このステージでやり遂げられるという確信をもたらしてくれた。それでもこのステージで勝利するだけの力がどこにあるのかは自分でもわかっていなかった。それはきっと一番にはチームメイトのゴルカ・ヴェルドゥーゴの素晴らしいアシストから生まれ、そしてとてつもなく大きなファンの声援から生まれたんだ。

シャンパンを開けるイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)シャンパンを開けるイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsujiいつもの練習コースである『僕の』ヴィヴェロ峠では、家に帰ってきたみたいだった。家族、友人、ファンが声で僕を押してくれた。チームにとってこれは歴史的快挙だよ!僕にとってもそうで、実はこれがプロになって初めての逃げでの勝利なんだ。将来に向けて新しい可能性を感じているよ。そしてエウスカルテルは今年、全てのグランツールでのステージ優勝を成し遂げたんだ。

今朝、僕は緊張していた。このステージで勝つには逃げに乗るしかないとわかっていたけれど、僕にはその経験が不足していたんだ。33年前にブエルタのビルバオのステージで勝ったバスク人、ホセエンリケ・シマの後を継ぐだけの脚があったことは幸運だったね。トレーニングで何百回と走ったビルバオの通りが交通規制され、そこを単独先頭で走り抜けたときの不思議な気持ちは生涯忘れることはないと思う。数々の建築や、グッゲンハイム美術館…みんな眼に焼き付いている。今日という一日は僕の心に深く刻み込まれて残り続けるはずだよ。」

ブエルタ・ア・エスパーニャ2011第19ステージ
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)             3h53'34"
2位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)              +41"  
3位 ドミニク・ネルツ(ドイツ、リクイガス・キャノンデール)          +1'30"    
4位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック)                   
5位 クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)          +1'31"      
6位 ダビ・デラフエンテ(スペイン、ジェオックスTMC)             +1'33"   
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック)      
8位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)          
9位 エロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)        
10位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)                
161位 土井雪広(日本、スキル・シマノ)                   +19'12" 


個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)              77h59'12"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                   +13"
3位 ブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)               +1'41"
4位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)                     +2'03"
5位 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)                +3'48"
6位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レオパード・トレック)            +4'13"
7位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)       +4'31"
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)        +4'45"
9位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                  +5'20"
10位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)                  +5'33"
11位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、レオパード・トレック)           +5'50"
12位 クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)            +7'04"
13位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・サーヴェロ)          +7'22"
14位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)                +8'52"
15位 セルゲイ・ラグディン(ウズベキスタン、ヴァカンソレイユ)           +8'57"
16位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)           +10'31"
17位 ワウテル・ポーエルズ(オランダ、ヴァカンソレイユ)              +11'42"
18位 ロバート・キセロフスキー(クロアチア、アスタナ)               +13'27"
19位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)                +14'31" 
120位 カルロス・サストレ(スペイン、ジェオックスTMC)               +19'51"
150位 土井雪広(日本、スキル・シマノ)                      +4h19'28"

ポイント賞(プントス)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          110pts
2位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)              108pts
3位 ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)         92pts


山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)         63pts
2位 マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)   56pts
3位 ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)       42pts


複合賞(コンビナーダ)
1位 ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)        7pts
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)           14pts
3位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク)             16pts

チーム総合成績
1位 ジェオックスTMC       233h31'31"
2位 レオパード・トレック       +10'19"
3位 エウスカルテル          +16'23"


text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji,Cor Vos, Unipublic