この日、最も力を使いそして最も勇気を持って走り続けた早川朋宏(法政大)が、インカレロードチャンピオンに。女子は上野みなみ(鹿屋体育大)が連覇。そして男子大学対抗総合は日本大が29連覇を達成した。

女子 2周を逃げる小島蓉子(日本体育大)女子 2周を逃げる小島蓉子(日本体育大) photo:Hideaki.TAKAGI女子 4周目、ペースを上げた上野みなみ(鹿屋体育大)に明珍裕子(朝日大)が反応女子 4周目、ペースを上げた上野みなみ(鹿屋体育大)に明珍裕子(朝日大)が反応 photo:Hideaki.TAKAGI女子 上野みなみ(鹿屋体育大)が優勝女子 上野みなみ(鹿屋体育大)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI厳しい美麻のコース
9月4日(日)、第67回全日本大学対抗選手権自転車競技大会の最終日は個人ロードレース。会場は長野県大町市美麻の公道周回コース。1周12.6kmで標高差は226m。起伏の激しい丘陵地帯のコースで、高い走力が求められる名コースだ。今までには08年のインカレで当時鹿屋体育大の角令央奈が、そして昨年の学生個人ロードで同じく鹿屋体育大の内間康平が優勝。また、09年の実業団レースでは佐野淳哉(NIPPO)が優勝、当時東京大学の西薗良太が2位になっている。選手名からこのコースのきつさが伺えるだろう。

もうひとつの注目は男子大学対抗総合順位だ。トラック競技終了時点で首位の日本大学は、2位の鹿屋体育大に13点差をつけた。しかし海外やUCIレースなどで学生の域を超えた活躍を見せ、ここ2年間学生では負け無しの鹿屋体育大勢のロードでの強さは明らかであり、両校の威信をかけた攻防も見どころとなった。

女子は上野みなみ(鹿屋体育大)が連覇
女子は4周50.4kmで行われた。1周目、パレード走行が終了してすぐの上りで小島蓉子(日本体育大)が抜け出し、そのまま独走。メイン集団は鹿屋体育大、朝日大学勢がおもに引く。チームメイトが逃げている田中まい(日本体育大)は有利に進める。
小島は2周目も逃げ続け、3周目に入ってから吸収されるまで、ほぼ2周を逃げた。最終周回、4周目の上りで上野、そして明珍裕子(朝日大)がアタックするが決まらず。もう一度上野がペースを上げると明珍だけが反応。さらに上り頂上でもう一度仕掛けた上野が明珍を切り離す。10秒ほどの差を保ったがゴール前の上りでさらに差を広げ、上野が優勝。昨年に続いて連覇達成だ。

男子 決定的な逃げができない前半
男子は13周163.8kmで行われた。序盤、有力選手は動かない。1周目、冨岡亮太(北海道大学)らが動き、2周目に米内蒼馬(明星大)と箭内優大(法政大)が逃げる。有力選手はメイン集団中ほどから後ろに位置する。
7周目後半、早川朋宏(法政大)が単独抜け出す7周目後半、早川朋宏(法政大)が単独抜け出す photo:Hideaki.TAKAGI10周目、早川朋宏(法政大)ら4人の逃げ10周目、早川朋宏(法政大)ら4人の逃げ photo:Hideaki.TAKAGI12周目、ペースの上がらないメイン集団。鹿屋体育大勢をマークする日本大勢12周目、ペースの上がらないメイン集団。鹿屋体育大勢をマークする日本大勢 photo:Hideaki.TAKAGI最終周回 早川朋宏(法政大)が上りでアタック最終周回 早川朋宏(法政大)が上りでアタック photo:Hideaki.TAKAGI早川朋宏(法政大)が優勝早川朋宏(法政大)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI29連覇を達成した日本大学29連覇を達成した日本大学 photo:Hideaki.TAKAGI大学の枠を超えて、4年生で記念撮影大学の枠を超えて、4年生で記念撮影 photo:Hideaki.TAKAGI4周目、入部正太朗(早稲田大)が単独抜け出し逃げる。メイン集団は静観し、おもに石橋学(鹿屋体育大)が引く。その後はペースが下がり、入部はタイム差を30秒から1分に広げる。
5周目、ペースの落ちたメイン集団から数名がアタック。このうち河賀雄大(立命館大)が抜け出して6周目に先頭の入部と合流。メイン集団は鹿屋体育大そして中央大、法政大勢が引く。ペースの戻ったメイン集団は入部を吸収して振り出しに。

中盤に早川朋宏(法政大)が独走
7周目、早川朋宏(法政大)ら法政大、中央大勢が集団のペースを上げて、さらに早川が単独抜け出す。集団から小西遥久(立教大)が合流するが、早川が単独で8周目に入る。
早川を追うメイン集団は、鹿屋体育大そして中央大勢が引く。ここで野中竜馬(鹿屋体大)がメイン集団から抜け出し追走、雨宮正樹(日本大)らも反応して5人が追走、9周目に早川に追いつき先頭は6人に。早川、野中、雨宮、堀内俊介・飯野智行・笠原恭輔(中央大)だ。

終盤にできた4人の逃げ
10周目、逃げに中央大の3名と優勝候補の早川が入っているため、メイン集団は鹿屋勢がペースを上げてこれを吸収。カウンターで10人ほどの逃げができ、さらに4人に絞られる。早川と堀内のアタックに木村圭佑(京都産業大学)と榊原健一(中京大)が加わった4人だ。メイン集団は鹿屋勢が先頭を引き、15秒ほどの差を保って半周ほど推移する。
しかし11周目に入ってから鹿屋勢が集団内に後退。メイン集団のペースが下がり、タイム差が一気に広がる。逃げの4人は協調してペースを上げて逃げ切り態勢に入る。

終盤の鹿屋体育大と日本大の動き
ペースの落ちたメイン集団から数名が抜け出していく。追走としてまとまったのは飯野、小西、中西重智(龍谷大)の3人。これに窪木一茂(日本大)が単独で合流、4人で追走する。ここまでに優勝候補の鹿屋体育大勢は入っていない。
メイン集団内では、序盤から鹿屋体育大勢と日本大勢の戦いが続いていたのだ。アタックして単独で抜け出したい鹿屋体育大は、ロード個人優勝と大学対抗での逆転の両方を狙う。いっぽうの日本大は、大学対抗首位の死守が最優先。そのため鹿屋勢は中盤までアタックを繰り出すものの、そのすべてを日大勢がチェックするため抜け出せないでいた。そして日大勢は鹿屋勢の前を走ることもメイン集団を引くこともない。結果、鹿屋勢は消耗していくことに。
先頭4人とのタイム差も1分以上のまま変わらず、鹿屋勢の優勝の可能性が低くなっていく。ラスト2周となった12周目でも鹿屋勢のラインの斜め後ろを日大勢のラインが併走する状態が続く。徹底マークの日大勢に対して鹿屋勢は動くことができず、優勝の可能性が遠ざかっていく。日大勢にとっては総合優勝の可能性が次第に高まってくる。

早川が上りで単独抜け出しゴールへ
逃げの4人は逃げ切りの意思で協調してペースを保つ。平坦部分はローテーションして、上り区間は早川がほぼ先頭固定でペースを作る。最終周回の上り、ラスト6km地点の勾配が急になる箇所で早川がダンシングでペースを上げると、ほか3人が離れていく。しばらく差は10秒程度のまま推移するが、下り区間を経て20秒にまで広がり、早川の逃げ切りが濃厚に。ゴール前の上りも力強く走りきった早川が、後続に20秒以上の差をつけてゴール。見事に学生生活最後のチャンスでビッグタイトルを手中にした。
2位以下は木村、そして堀内がそれぞれ手を挙げてゴール。それぞれに価値のある結果に。

誰が見ても最も力を使ったのは、優勝した早川だ。単独逃げる場面は「そのつもりではなかったが、どんな展開でも勝てるように練習をしてきた」と冷静に対処。最後は「絶対に勝てる」強い意志と自信で優勝。
自ら動いて作った逃げで、全行程の半分ほどを先頭で走り続けた早川。チャンピオンにふさわしい堂々たる走りは賞賛されていい。

日本大が男子大学対抗で驚異の29連覇達成
注目の大学対抗得点では、2番手につけていた鹿屋体育大に対して、ロードでさらに差を広げた日本大が優勝。1983年から続く連覇記録を29に伸ばす、驚異の強さを見せた。
勝因はトラックの層の厚さだ。特に1種目に2人出られる種目で、2人を確実に上位に送り込んだ。日本大はこの場面で鹿屋体育大に13点勝っている。つまりトラックの点差がここで生まれたのだ。そしてロードでは鹿屋体育大だけにマークを集中させ、加点させないどころか、窪木単独のアタックを成功させて逆に点差を広げることができた。

対する鹿屋体育大はまたしても総合2位となった。人数が少ないこと、そしてロードでの失速が響いた。ロードでは日本大のマークが鹿屋体育大だけに徹底的に集中した。「日大を引き連れずに鹿屋だけで抜け出して上位を独占すること」が必要だった鹿屋体育大。メイン集団では一度も前に出ず、鹿屋体育大のマークに徹底する日本大の前に屈することとなった。

インカレは「大学対抗大会」だ。そのタイトルを29年間守っている日本大の記録は驚嘆に値する。日本大は29年間、ほかすべての大学の攻撃を受けながらも連覇を達成しているのだ。

結果
男子個人ロード 163.8km
1位 早川朋宏(法政大)4時間26分03秒
2位 木村圭佑(京都産業大学)+22秒
3位 堀内俊介(中央大)+30秒
4位 榊原健一(中京大)+39秒
5位 中尾佳祐(順天堂大)+59秒
6位 窪木一茂(日本大)+1分06秒
7位 天野克紀(順天堂大)+1分08秒
8位 飯野智行(中央大)+1分16秒
9位 辻本尚希(順天堂大)+1分24秒
10位 雨宮正樹(日本大)+2分05秒

女子個人ロード 50.4km
1位 上野みなみ(鹿屋体育大)1時間35分15秒
2位 明珍裕子(朝日大)+28秒
3位 田中まい(日本体育大)+43秒
4位 福本千佳(同志社大)+51秒
5位 塚越さくら(鹿屋体育大)+1分30秒
6位 小島蓉子(日本体育大)+3分52秒

男子大学対抗総合
1位 日本大 74点
2位 鹿屋体育大 53点
3位 中央大 47点
4位 順天堂大 44点
5位 早稲田大 36点
6位 朝日大 24点

女子大学対抗総合
1位 鹿屋体育大 66点
2位 日本体育大 38点
3位 朝日大 16点


photo&text:高木秀彰