5月9日にヴェネツィアで開幕するジロ2009。100周年記念大会は例年以上に有力選手が集結した。アームストロングにバッソ、サストレにライプハイマー、そしてジロおなじみのイタリアンスターたち。栄光のピンクジャージ、マリアローザを争う総合優勝候補を挙げればキリが無いぐらいだ。

7日にサンマルコ広場でチームプレゼンテーションが行われたことでリストの揃っていなかったチームの出場選手も判明。ここではまず個人総合時間賞、マリアローザの行方を有力選手の紹介とともに占ってみよう。

イヴァン・バッソ(リクイガス)イヴァン・バッソ(リクイガス) photo:liquigas

イヴァン・バッソ(リクイガス)


最右翼はまずイタリアのジャーナリストの90%が優勝候補に推すというイヴァン・バッソ(イタリア)だ。
2008年ジャパンカップでレース界に復帰したバッソは日本のティフォージ(ファン)たちに出場停止期間中もハードトレーニングを怠らなかったことを証明する素晴らしいパフォーマンスを見せた。2006年のジロ制覇以来、3年ぶりにピンクに身を包めるか?

今春のバッソは4月第4週のジロ・デル・トレンティーノ2009で総合優勝を飾った。1級山岳ペジョ・フォンティで見せた快調なペース、そして安定感ある走りはジロ王者の完全復活を十分予感させるものだった。個人タイムトライアルにも強く、モチベーションも高いバッソは優勝候補ナンバーワンの存在と言えそうだ。




リーヴァイ・ライプハイマー(アスタナ)リーヴァイ・ライプハイマー(アスタナ) photo:Team ASTANA

リーヴァイ・ライプハイマー(アスタナ)


バッソに総合争いで対抗すると予想されるのはランス・アームストロング(アメリカ)率いるアスタナ、そのエースをつとめるであろうリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ)だ。
身長171cmの小柄な身体ながら、タイムトライアルと山岳をともに得意とするライプハイマーは、ツール・ド・フランス2007総合2位の実績が証明するように真のステージレーサーだ。

今季はツアー・オブ・カリフォルニアで総合優勝し、実に同レース3連覇を達成した。さらに3月末のブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンで総合優勝を飾っている。





ランス・アームストロング(アメリカ、アスタナ)ランス・アームストロング(アメリカ、アスタナ) photo:Cor Vos

アームストロング&アスタナ、鉄壁の布陣


チームからの報酬は無、癌患者救済のための自身のアームストロング基金「リブストロング運動」告知のためにレースを走るアームストロングは、ジロ前の鎖骨骨折からの復帰戦に選んだSRAMツアー・オブ・ザ・ジラでライプハイマーのアシストに徹し、自身も2位に。そしてジロはライプハイマーのアシストとして走り、総合優勝を狙う走りをしないことを表明している。

アシストにアームストロング、ポポヴィッチ、ブライコヴィッチ、ルビエラなど、旧ディスカバリーチャンネルの盟友を揃えたアスタナ勢は、ライプハイマーのための鉄壁のアシスト体制になるだろう。もしライプハイマーが崩れることがあれば、そのときこそはアームストロングの出番だろうか? ここまでレーススピードでのトレーニングが十分でないアームストロングにとって、ジロは調整不足のつらいレースになるのか、それともかつてのような打倒不可能なほどの強さを発揮するのか、世界じゅうの注目が集まる。

いずれにせよアスタナの動きが今年もジロの総合争いの行方を決するといってよいだろう。

カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ)カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ) photo:vueltapaisvasco.diariovasco.com

カルロス・サストレ(サーヴェロテストチーム)


アームストロングがツール・ド・フランス7連覇チャンピオンなら、昨年のツール覇者カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)の参戦にも注目だ。チームワークで勝ち取った2008年ツールの総合優勝。しかし今年は新チームからの参戦だ。ジロの布陣を見る限り、チーム力が若干劣るのは否めない。しかしベテラン持ち前の安定した走りとタフさで、総合でも上位に来るのは確実だろう。サストレは3大グランツールのうち、ジロだけは表彰台に立ったことが無い。走りによっては山岳賞の可能性もある。初めてエースとして走るジロは、ツールよりもクライマーのサストレ向きのグランツールに間違いない。

デニス・メンショフ(ラボバンク)


デニス・メンショフ(ロシア)にも注目だ。2008年はツール、ジロともに表彰台を逃してはいるが、2007年ブエルタチャンピオンの実力は本物だ。山岳で崩れる日が無ければ総合上位は硬い。しかしメンショフも来るツールに照準を合わせていることは間違いなく、イタリアンスターたちよりはモチベーションで劣るのかもしれない。



ダミアーノ・クネゴ(ランプレ)ダミアーノ・クネゴ(ランプレ) photo:Lampre

ダミアーノ・クネゴ(ランプレ)


ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)にも注目しよう。クネゴは2004年ジロ覇者。僅か22歳の若さでジロを制してからすでに5年目を迎えた。昨年はツールにフォーカスするためにジロをスキップした。
小柄な身体でジロ向きのクライマーと目されてきたが、近年はジロ・ディ・ロンバルディアやアムステルゴールドレースでの勝利、2008年世界選手権 2位など、ワンデーレースでの活躍が目立っている。ステージレーサーかワンデイレーサーかの選択を迫られている面はあるが、今年のジロはエースで乗り込んできた。春のクラシックでの様子を見る限り若干の調整の遅れがありそうだが、昨年のエース ブルセギンを最強のアシストに、山岳に強い選手で固めたチームの層は厚い。2008年ジャパンカップ覇者が再びピンクに身を包むことに期待したい。



ジロ2007覇者ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)ジロ2007覇者ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) photo:Makoto.AYANO

ダニーロ・ディルーカ(LPRブレークス)


2007年のジロ覇者、ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)は春から仕上がりも上々。チームが招待されなかったせいで2007年に制したリエージュ・バストーニュ・リエージュなどの出場は逃したが、そのぶんジロ・デル・トレンティーノ第4ステージでの山頂ゴールを制するなど、十分な仕上がりを見せている。ツールを目指すことが無いディルーカにとって、ジロは最大の目標。2008年は不発に終わったが、再びマリアローザを獲得したいという意志は固い。

また、ディルーカは出身地に近いイタリア中部アブルッツォ州ラクィラを襲った大地震のチャリティー募金もジロ期間中に行う。リブストロングのような「アブルッツィアーモ」と書かれたリストバンドを販売し、被災者救済に役立てるつもりだという。

クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・スリップストリーム)


今年のジロを賑わすアメリカ人として、クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ)の存在も挙げておこう。ツール2008総合5位、タイムトライアルも安定した力を見せるヴァンデヴェルデはジロ2008第1ステージでスリップストリームがチームタイムトライアルを制し、マリアローザを着用した。かつてUSポスタルに所属してアームストロングのアシストをした経験も持ち、選手としての安定感も十分。もちろんツールも照準にあるが、イタリアに吹くアメリカ人旋風のひとりとなるだろう。

ベテランのイタリアン・スターに注目



2度のジロ覇者ジルベルト・シモーニ(ディキジョヴァンニ)2度のジロ覇者ジルベルト・シモーニ(ディキジョヴァンニ) photo:MakotoAYANO総合優勝は難しくとも、2001年、2003年の2度のジロ覇者ジルベルト・シモーニ(ディキジョヴァンニ)は、総合2位に1回(2005年)、総合3位に4回(1999年、2000年、2004年、2006年)の計7度のポディウム登壇経験者。イタリアで最高の尊敬を集める山岳スペシャリストは、ジロの勝負を決める重要なシーンに必ず居合わせることになるだろう。とくに今年はチームメイトのミケーレ・スカルポーニ(イタリア)が好調。場合によってはエース交代もあり得る。

2000年のジロ覇者ステファノ・ガルゼッリ(アックア・エ・サポーネ)も春先から好調そのもの。チームは2008年のジロに出場できず悔しい思いをしたが、今年は上りの多いコースでのステージ優勝と、ふたたびの表彰台の一角を狙うことだろう。

アームストロングらアメリカ人勢力の目立つジロだが、バッソをはじめとしたイタリアンスターと、例年より格段に充実度の高い有力選手たちの夢の競演に期待しよう。


text:MakotoAYANO
photo:MakotoAYANO,CorVos

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