今まで誰よりも仕掛けてきた逃げが、はじめてゴールまでたどりついた。しかもひのき舞台のJプロツアー。澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)が東日本大震災不屈支援大会の舞洲クリテでロード初優勝を飾った。

予選1組 会場は舞洲スポーツアイランド予選1組 会場は舞洲スポーツアイランド photo:Hideaki.TAKAGI
一般社団法人全日本実業団自転車競技連盟の開幕戦が4月16日、大阪市の舞洲(まいしま)スポーツアイランドで行われた。3月11日の東日本大震災で、物理的な理由などにより3月から中止になっていた実業団大会。可能な状況であれば、開催することが復興支援につながるとして、この舞洲大会から始まったものだ。スタート前に黙祷が捧げられ、Jプロツアーレースそのものがチャリティーレースとして開催された。

決勝スタート前の辻善光(宇都宮ブリッツェン)と伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)決勝スタート前の辻善光(宇都宮ブリッツェン)と伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム) photo:Hideaki.TAKAGI会場は大阪湾に面した全く平坦のコースで、オーバル状の1周880mで、コーナリングと風対策がカギだ。16日(土)は最高峰のJプロツアー(JPT)のみで、予選2組各20人勝ち上がりの、決勝は35周30.8kmの40人で行われた。

有力どころは2つのコンチネンタルチーム。まずは辻善光を擁する宇都宮ブリッツェン。初山翔が新チームで初レース。そして対抗はランカウィステージ優勝の綾部勇成を擁する愛三工業レーシングチーム。こちらは3人参加ながらも、新加入の伊藤雅和と木守望の強力コンビが注目。
さらには小室雅成らの湘南ベルマーレ、そしてこのレースが整った体制での初参加と言っていいシェルヴォ奈良などが揃う。急遽決まったスケジュールのため、コンチネンタルチームが少ないが、辻と綾部という優勝候補に対してほかのチーム、というわかりやすい構図で、その展開が注目された。

15周目、追走の3人15周目、追走の3人 photo:Hideaki.TAKAGIローリングスタートで第2コーナーを抜けてから正式スタート。すぐに湘南ベルマーレ勢がアタック。吸収後の2周目には澤田がアタック。差を広げる。メイン集団からは少しの間お見合いとなり、澤田はその間に差を広げる。だれもが澤田の逃げは一時的なもので吸収されると見ていた。
しかし澤田の逃げは衰えず、1周1分10秒の正確なラップを刻んで徐々に集団を離していく。メイン集団からは散発的なアタックはあるものの半周程度で吸収されて、追う動きにならない。

35周のうちの11周目に五十嵐丈士(Fuji-Cyclingtime.com Japon)がアタック。それに斉藤祥太(湘南ベルマーレ)と小渡健悟(エルドラード)が反応して、3人の今季移籍したメンバーが追走集団を作る。

20周目、逃げ続ける澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)20周目、逃げ続ける澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM) photo:Hideaki.TAKAGI澤田の逃げは続く。そのうちに澤田とメイン集団との差が1分近くになり、澤田の前方にメイン集団が見える状態に。まさかの集団ラップも見えてきたがようやくメイン集団もややペースを上げる。

会場には強い風が吹き荒れる。バックストレートで斜め右からの向かい風に。メイン集団は綾部などがリードして斜めの隊列になるが後方が続かず、ラップの危険は去ったものの、澤田を追い上げる動きにならない。

追走の3人も澤田とメイン集団の間に位置したままでこう着状態に。結局、差は詰めたもののそのままゴールへ。澤田がそのまま逃げ切って優勝。35周のうち、じつに33周強を逃げ切っての価値ある優勝だ。続く2番手争いは斉藤が制した。
27周目、風上でペースを上げる綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)27周目、風上でペースを上げる綾部勇成(愛三工業レーシングチーム) photo:Hideaki.TAKAGIメイン集団はラスト2周で飛び出した辻、木守、小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム八王子)の順にゴール。この辻からの順位が大方の1位からの予想だっただろう。
5周毎のポイント賞は澤田が満点を獲得、完全優勝だ。

優勝した澤田は、実はロードレース初優勝。しかもそれがJPTとあって大金星だ。澤田は大学に在学しながら、昨年まではマトリックスパワータグに所属、今シーズンに現チームへ移籍した。トラックレースでは持ち前の持続スピードの高さで中長距離種目で活躍。昨年の実業団トラックの個人ポイントでは首位に立っていた。
ロードレースではレース序盤の切り込み隊長としてほとんどのレースでアタックを仕掛け、逃げに乗る動きをしてきた。
澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)が逃げ切り優勝澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)が逃げ切り優勝 photo:Hideaki.TAKAGI数にすればこの2年間だけでもおそらく百回以上、大小の逃げを作ってきた。いままではいずれも途中で吸収されていたが、今回はじめてその逃げがゴールまでたどりついた。
勝つためには逃げること。言葉では簡単だが実践するには体力も、そして勇気も必要。強風の中、なんと2周目から逃げを敢行した澤田の勇気は称えられていいだろう。

「応援に励まされた」優勝の澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)
「今までロードでの優勝はないです。平坦の独走は自信があるので、一か八かの勝負で飛び出しました。チームメイトが走りで支援してくれたおかげです。逃げていて残り15周と見たときは泣きそうでしたが、皆さんの応援に励まされてゴールまで踏めました。自由に気持ちよく走らせてもらえる分、責任はありますがやりがいはあります」
また、「東北で被災された人たちには、勇気を持って自分の力を信じればできることもあると思います」とコメントを寄せた。

2位集団ゴール2位集団ゴール photo:Hideaki.TAKAGI「澤田は神がかった走り」辻貴光シェルヴォ奈良監督
盲腸炎のため出走しなかった監督の辻貴光は「チームとして新参者なので、小さくならずに印象に残るレースをしようと話し合いました。今日は風が強いので、前に出たほうがいいと思いましたが、その通りに。でもまさかあのまま一人で行ってしまうとは。神がかっていましたね。見ていて感動しました。チームを立ち上げて本当に良かったです」と嬉しく語る。
地域密着型のチームを立ち上げていきなりの勝利。大勢のサポーターの前で幸先良いスタートになった。

「澤田選手が強かった」栗村修宇都宮ブリッツェン監督
絶対エース辻善光と若手スピードマンで臨んだ宇都宮ブリッツェンの栗村修監督は
「必勝体制で臨みましたが、負けました。澤田選手が強かったです。綾部選手など愛三の3名を見すぎてしまった。チームとしては辻でなくほかの選手で狙っていた。チームとして動くべきタイミングで動かなかった、レースを見誤ったのが敗因。これもレースです」
全員が新メンバーで優勝のCIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)全員が新メンバーで優勝のCIERVO NARA PROCYCLINGTEAM) photo:Hideaki.TAKAGI「チームとしては悔しい結果だったが、地域密着型のチームが優勝して、2位以下も初めての選手たちが入って、これはこれでモチベーションの上がることとは思う」
「震災後、活動に対していろいろな意見をいただいたが、やはりレース活動はしなければと、感じた。選手もレースがあればモチベーションを保てる。悔しい結果だったけれど、来て良かった」

「レースに出られることに感謝したい」五十嵐丈士(Fuji-Cyclingtime.com Japon)
この日3位の五十嵐は、宮城県亘理町在住。3月は震災対応が中心だったが、4月から新チームでのレース活動を開始。すでにツアー・オブ・タイランドを終えて、舞洲が国内初戦だった。
澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)、数え切れない逃げの末に、ようやくつかんだ勝利だ澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)、数え切れない逃げの末に、ようやくつかんだ勝利だ photo:Hideaki.TAKAGI「やはり今日は勝ちたかったです。前をよく見ていなかったのが敗因と思います」
「自分がレースに出られる状況に、各方面に対してまず感謝したいです。自分の走りで被災された人たちを元気付けたい気持ちがあります。そして選手であるからには一番高いところを目指したいです。選手としてこれからも頑張ります。まずは次週の白浜です」と五十嵐は力強く語る。

「可能な限り開催していきたい」斧隆夫実業団連盟理事長
3月から予定されていたレースを中止にして、今回の舞洲で実業団の開幕戦を開く決断をした斧隆夫理事長は
「開幕の3月からレースを中止にしてきたが、登録していただいた選手へ参加の機会をつくるため、舞洲をプラスした。いろいろな意見があったが、震災後1週間程度の早い時期に、大阪府車連と実業団の両方が可能だったので開催を決定した」
「今日、開催して良かったと思う。復興の意味はもちろんあるが、決してくじけない、折れないという意味で”不屈支援大会”の名称にした。今後の実業団大会については決定すれば告知するが、可能な状況であればこれからも開催していくのが基本方針」と語る。

E3予選3組 朝からレース日和E3予選3組 朝からレース日和 photo:Hideaki.TAKAGIJCFエリート&U23 ゴール、高塚亮輔(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)が優勝JCFエリート&U23 ゴール、高塚亮輔(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI
F決勝 豊岡英子(パナソニックレディース)が優勝F決勝 豊岡英子(パナソニックレディース)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGIE1決勝 NIPPO育成チームのTEAM FONDRIESTメンバーが揃うE1決勝 NIPPO育成チームのTEAM FONDRIESTメンバーが揃う photo:Hideaki.TAKAGI
E1決勝 終盤逃げる水田圭祐(Tyrell Kagawa Racing)。2011年から地元ブランドのタイレルを母体に立ち上げたチームだE1決勝 終盤逃げる水田圭祐(Tyrell Kagawa Racing)。2011年から地元ブランドのタイレルを母体に立ち上げたチームだ photo:Hideaki.TAKAGIE1決勝 ゴール、藤岡徹也(TEAM FONDRIEST)が優勝E1決勝 ゴール、藤岡徹也(TEAM FONDRIEST)が優勝 photo:Hideaki.TAKAGI

結果
JPT 35周 30.8km
1位 澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)41分29秒
2位 斉藤祥太(湘南ベルマーレ)+18秒
3位 五十嵐丈士(Fuji-Cyclingtime.com Japon)
4位 小渡健悟(エルドラード)+19秒
5位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)+43秒
6位 木守望(愛三工業レーシングチーム)+44秒
7位 小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム八王子)
8位 小室雅成(湘南ベルマーレ)+47秒
9位 大久保陣(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)
10位 若杉厚仁(宇都宮ブリッツェン)+48秒

ポイント賞
1位 澤田賢匠(CIERVO NARA PROCYCLINGTEAM)30点
2位 五十嵐丈士(Fuji-Cyclingtime.com Japon)13点
3位 小畑郁(なるしまフレンドレーシングチーム八王子)3点

photo&text:高木秀彰

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