前日の予報とはうらはらに、シャアラムのホテルの窓から見えるブルーモスクはさんさんと朝日を浴びていた。覚悟していた雨ではなく、今日は暑くなるかもしれない。昨日プレスセンターでメディア担当のシャロンが「ユーコは明日クアラルンプールの周回2周目以降、ユヅルサンが降りたあとバイクに乗ってよし」とささやいてくれたので、雨支度をどうするかしばし悩む。結局は厚手の雨具も持って出動することにした。

スタートを待つ愛三工業レーシングチームのメンバー3名と別府匠監督スタートを待つ愛三工業レーシングチームのメンバー3名と別府匠監督 photo:Yuko Sato第10ステージはUiTMアラムをスタートし、クアラルンプールでは1周6.5km×6周の周回コースを走ってフィニッシュする104.6kmのコースだ。

スタートからクアラルンプールへの途中に2つの山岳賞ポイントと1つ目のスプリントポイントがあり、クアラルンプール周回に入ってから、フィニッシュラインを通過する2回の周回が第2、第3スプリントポイントとなっている。

笑顔でスタートを待つ西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)笑顔でスタートを待つ西谷泰治(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Satoスタート地点は広々とした広場。スタート時刻の13時まであと40分ほどだ。物販のテントが並び、チームカーもすぐ近くにかたまって停まっている。

ゲート付近から愛三工業レーシングチームの3人が姿を見せた。盛、鈴木はまだ熱があって休養しているという。じつはレース後にきいたところ、今日は西谷も熱があったそうなのだが、それは語らず元気な笑顔で取材に応じてくれた。

最終ステージに挑む宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)の表情は明るい最終ステージに挑む宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)の表情は明るい photo:Yuko Sato「今日はアタック合戦になると思います。そうそう逃げの展開にはならないでしょうが、逃げには乗っていければと思います。逃げが決まる様子がなければ、ゴールスプリントを狙いたいです。」ちょうどこの第10ステージの2月1日は西谷の誕生日。「いいお誕生日になるといいですね?」と聞くと、「はい、できれば。怪我なく行きたいと思います!」

続いてスキル・シマノの選手たちも現れた。土井は冗談めかしてひとこと「疲れました(笑)!」と昨日のアタック合戦のレースを語った。「今日は、どうですかね、勝てるかな(笑)。チームが勝てるようにアシストしますが、勝つためには運も必要ですから。」

スタート地点にやってきた土井雪広(スキル・シマノ)スタート地点にやってきた土井雪広(スキル・シマノ) photo:Yuko Sato今日で最終日ですが、と聞くと「そうですね、このあとスペインで大事なレースがあるので、ヨーロッパ初戦に向けて、いいレースができたんじゃないかと思います!」。

ステージ上の出走ボードにサインをしているのはファルネーゼヴィーニ・ネーリの面々。「疲れ? とれてますよ、全然、楽勝!」と宮澤。「昨日あのメンバーだったら逃げるべきじゃなかったね。それまで無理してたし、スプリントにした方が可能性があった。でも、自分が勝つチャンスはここしかなかったからね。

笑顔で最終ステージに挑む福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)笑顔で最終ステージに挑む福島晋一(トレンガヌ・プロアジア) photo:Yuko Sato「残り500mまでに集団をどう伸ばすかが大事な仕事です。ファビッリとグアルディーニの前に入って道をあけたり、そんな走り方もできている。いろいろ体験してきたので、いま自分だったらこうして欲しい、ということは分かります。歳の功を生かして、タイミングとかいろいろなことに意味があるから、その先にもっといいイメージを作ってやっていきたいですね。」

続いて、福島が車から降りてきた。「きのうはアタックしすぎて乗り損ねて、まだまだ甘いんですよね…」と苦笑。「調子はどんどん上がってきていて、いい練習になっています。」

対向車線の人たちは車から出て来て完全に観戦モード対向車線の人たちは車から出て来て完全に観戦モード photo:Yuko Satoスタートゲートの上には雲の間から青空ものぞいている。スタートに選手が集まり始めたころ、そろそろプレスカーの出発の時刻だ。

前日までの平坦コースに比べると、全体的なアップダウンがそれなりにあるという印象のコースだ。
赤土の広がるひらけた野原があったり、大きな波のように登る坂があったり、前日までの風景と少し違う。なにより、雲の間にのぞく空が青い。青空を見たのは久しぶりな気がする。

途中、片側を規制している箇所では、対向車線で停まっている車から人々が出てきていて、中央分離帯の低い壁の手前にすずなりになっている。あなたたち運転はいいんですか?!と聞きたくなるような、完全なレース観戦モードだ。

クアラルンプールの象徴、ツインタワーの前を走る選手たちクアラルンプールの象徴、ツインタワーの前を走る選手たち photo:www.ltdl.com.my

暑い!今日は日傘。暑い!今日は日傘。 photo:Yuko Sato14時15分ごろ、プレスカーはクアラルンプール市街のなかのフィニッシュゲート近くに到着。雲は出ているが、日焼けしそうなお天気だ。日差しをさけようと傘を指す人、アイスクリームの屋台も出ている。

クアラルンプール市街の周回は6周回で、フィニッシュまで1周おきにスプリントポイントがある。この2周目にバイクに乗れるはずだ。フィニッシュゲートからあまり遠くへいかないように、と撮影位置を探していると、大会スタッフがフィニッシュの撮影位置へ行けという。

なぜ「ユヅルサン」がすでにここに?なぜ「ユヅルサン」がすでにここに? photo:Yuko Sato選手もまもなく来そうなので、ひとまずフォトポジションへ。すると、あれ? 1周目までバイクに乗っているはずの大先輩カメラマン、シャロンのいう「ユヅルサン」の姿がなぜかすでにそこにあるではないか。「バイク、こわれちゃってさ。エンジンかかんなくて。車でここまで来た。」

1周6.5kmで6周。選手の脚ならそう時間のかかる距離ではない。歩いてコースに出るのはやめて、フィニッシュ地点で撮影することに決めた。

クアラルンプール周回コースを駆け抜ける選手たちクアラルンプール周回コースを駆け抜ける選手たち photo:Yuko Satoスプリントポイントは1周おきだ。集団は大きく分かれることなくほぼ一つ。第2スプリントは、第3スプリントは.マナン、シュピレフスキー、サレー、そしてそのあとを宮澤が4位で通過してゆく。

そしていよいよフィニッシュ。ちらりとうしろをふりかえった青いジャージが、フィニッシュの手前で両手をあげ、そのままフィニッシュへ飛び込んでくる。グアルディーニ5勝目だ。そしてその後方には綾部の姿も見える。綾部9位、まもなくフィニッシュした福田は14位だ。

ツール・ド・ランカウイを走り終えた土井雪広(スキル・シマノ)ツール・ド・ランカウイを走り終えた土井雪広(スキル・シマノ) photo:Yuko Sato暑さで汗だくになった土井は「疲れた!」とコーラを一気に流しこんだ。「いろいろ大変でしたね?」と言うと「よくやったでしょ?」といたずらっぽい笑顔。

「今日ほんとはやめていいって監督に言われたんです。でも、最後まで走りたいですからね。今年のツール・ド・ランカウイを振り返ってみると、もともと、チームの勝利のためで、自分個人が勝つために来たわけではなかったので。いい練習になりました。思ったよりレースは走れているし、オフの間のトレーニングが充実したものだと確認できました。そういう意味では有意義なレースだったと思います。戻って6日からチャレンジマヨルカ、20日からアンダルシアステージレースが控えています。」

ツール・ド・ランカウイを走り終えた福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)ツール・ド・ランカウイを走り終えた福島晋一(トレンガヌ・プロアジア) photo:Yuko Sato福島は開口一番「残り3kmでパンク!」と苦笑。「今日この日のために、ためて、ためて来たのに…調子はいいんですよ、何でパンクするかなあ…。チームメイトも落車しちゃって…」弱ったなあ、という表情の福島だが、あっという間に人に囲まれ、一緒に写真を撮ってとせがまれる。

カメラを向けられると、弱った表情をおさえこんで、次々とにっこり。そういうところのプロ意識はさすがだ。人気者の福島の記念撮影は、いつまでも続いていた。

宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)はステージ69位宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)はステージ69位 photo:Yuko Sato「疲れた!めちゃくちゃ疲れた! 最後の400mにすべてを集中しました。」と宮澤。「短かったなあ」とこの大会を振り返る。

「シーズンのいいスタートが切れたと思います。レースを通して、すげえよかったなと思います。自分がひとつの役割で集中して走れました。スプリントになったらグアルディーニがいるし、チームの中に役割分担ができていました。逃げるといったら全開で逃げるし、スプリントといったらスプリント全開で。今日はぼくはこういう役割、というのがクリア。チームのみんなの得意、不得意もわかったし、何をすべきかがはっきりして、いろいろ収穫の多かったレースだと思います。」

レース後の綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)レース後の綾部勇成(愛三工業レーシングチーム) photo:Yuko Sato愛三工業レーシングチームの別府監督もレースをこう振り返る。

「今回は、前半の平坦ステージのスプリント勝負でチームで隊列を組んで狙ったけれどうまくいかなかったのですが、第4ステージで綾部が優勝したことで、勝てなかった気持ちを晴らすことができました。綾部の自信にもなったし、ゲンティンハイランドのステージでリーダージャージを着てチームをアピールできたと思います。」

表彰を待つ間、主催者に「今回呼んでくれてありがとう」の挨拶にいき、VIPシートで記念撮影する愛三の選手とスタッフ表彰を待つ間、主催者に「今回呼んでくれてありがとう」の挨拶にいき、VIPシートで記念撮影する愛三の選手とスタッフ photo:Aaron Lee「後半は総合狙いがなくなったので、アタックに反応したりゴールスプリントに備えたり、それぞれの役割を果たしました。比較的上位にいたので団体成績はよく、積極的に攻められたと思います。次回はそれをもっとよくしていって、その上で区間優勝の走りができたらと思います。」

「選手の怪我や病気は残念ですが、チーム全体の責任だと思うので、そのへんのケアはきちんとしていきたいと思います。今日も西谷が38度1分の熱があったのですが走りました。西谷と盛はこのあとアジア選手権、ほかのメンバーは3月8〜13日のジェラジャ・マレーシアに出場します。西谷のほかは同じ顔ぶれで、西谷の代わりに中島康晴が出ます。」

「また、監督に就任して初めてのレースでしたが、落車の怪我で病院、優勝インタビュー、優勝者のドーピングコントロールの立ち会い、罰金など、監督として必要ないろいろなできごとがたくさん起きたので、次回から一人でもゆとりをもってできるようになればと思います。」

「UCIのウエブサイトに掲載されているUCIアジアツアーランキング(1月25日付)では、愛三はスキルシマノに続いての2位なのですが、アジア1位も夢じゃないところに来ています。今大会のリザルトが加算された来月のランキングがどうなるか、楽しみです。見てみてください。」

photo&text:Yuko.SATO