名物ウィランガヒルが設定されたツアー・ダウンアンダー最終日前日の第5ステージ。最後のウィランガヒルで形成された16名が逃げ切り、フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)が勝利。先頭グループでゴールしたキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)が総合首位を守ったが、総合リードは8秒に縮まった。

インタビューを受けるマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)インタビューを受けるマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsuji平坦コースが数多く登場するツアー・ダウンアンダーの中で、最も高い難易度を誇る第5ステージ。アデレード南部のマクラーレン・ヴァーレをスタートし、海沿いの大周回を2周、後半に内陸の丘陵地帯を含む小周回を2周する。

後半の小周回の前半に登場するのが、登坂距離3km・平均勾配7.6%というウィランガヒルだ。毎年アタックが繰り返されるツアー・ダウンアンダー最大の上りであり、KOM(山岳ポイント)が設定された頂上からゴールまでは20kmしか離れていない。

海岸線を駆け抜けるヨースト・ファンレイエン(オランダ、ヴァカンソレイユ)やマイケル・ヘップバーン(オーストラリア、UniSAオーストラリア)海岸線を駆け抜けるヨースト・ファンレイエン(オランダ、ヴァカンソレイユ)やマイケル・ヘップバーン(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji過去には何度も逃げ切りが決まり、総合成績に大きな打撃を与えて来た。スプリンターたちにとっては最大の難関であり、ライバルたちを蹴落とすことが出来れば総合ジャンプアップの最大のチャンスになる。総合争いにおいて最も重要な闘いになるのは間違いなかった。

爽やかな風が吹き抜けるマクラーレン・ヴェールを131名の選手たちがスタート。ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)のファーストアタックで幕開けた。

ガーミン・サーヴェロがコントロールするメイン集団ガーミン・サーヴェロがコントロールするメイン集団 photo:Kei Tsujiアタック合戦の末に、7km地点で8名が先行する。逃げグループを先行させることでライバルスプリンターのボーナスタイム獲得を阻止出来るため、ガーミン・サーヴェロは快く8名の先行を容認。タイム差は最大2分36秒をマークした。メンバーは以下の通り。

ジョン・マーフィー(アメリカ、BMCレーシングチーム)、タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)、ヨースト・ファンレイエン(オランダ、ヴァカンソレイユ)、セバスティアン・アエド(アルゼンチン、サクソバンク)、デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)、ホアン・オラク(スペイン、カチューシャ)、マイケル・ヘップバーン(オーストラリア、UniSAオーストラリア)、ダヴィデ・ヴィガノ(イタリア、レオパード・トレック)

美しい海岸線を駆け抜けるメイン集団美しい海岸線を駆け抜けるメイン集団 photo:Kei Tsuji

集団前方でウィランガヒルを上るキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)集団前方でウィランガヒルを上るキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsuji海沿いのスナッパーポイントに設定された2つのスプリントポイントはヴィガノとマーフィーがそれぞれ先頭通過。スタートの時点で総合16位・28秒遅れのヴィガノは合計5秒のボーナスタイムを獲得し、暫定で総合8位にジャンプアップした。

ガーミン・サーヴェロの他、HTC・ハイロードやランプレも集団牽引に合流。タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)は自分の勝負を捨て、チームメイトたちのために集団牽引に加わった。

2回目のウィランガヒルを先頭で駆け上がるリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)、ベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック)、ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)2回目のウィランガヒルを先頭で駆け上がるリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)、ベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック)、ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsuji最初のウィランガヒルが近づくと、エウスカルテルが集団牽引を開始。逃げていた選手たちは、ゴールまで43kmを残した最初のウィランガヒルで全て飲み込まれてしまう。

メイン集団は山岳賞ジャージを着るルーク・ロバーツ(オーストラリア、UniSA)を先頭にKOMのアーチを通過。ロバーツは貴重な16ポイントを加算し、山岳賞のリードを広げた。

集団内で2回目のウィランガヒルを上るマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)集団内で2回目のウィランガヒルを上るマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク) photo:Kei Tsujiレースが動いたのはウィランガヒルの下り。集団からランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)やセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、モビスター)を含む7名が飛び出し、20秒のタイム差で先行した。

しかしガーミン・サーヴェロやラボバンクが牽引するメイン集団は容赦なく逃げとの差を詰める。結局アームストロングら7名は最終周回突入前に吸収。レースはフリダシに戻った。

スプリントを繰り広げるマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)、フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)スプリントを繰り広げるマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)、フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク) photo:Kei Tsujiリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)は最後のウィランガヒルで勝負に出た。ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)とベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック)を引き連れ、ポルトが平均勾配が7%を超える上りでアタック。そのままポルトはKOMを先頭で通過する。

15秒遅れでポルトら3名を追ったのは、マイヤー、ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)、マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)という総合トップスリーを含む18名。この中に総合4位のロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)や総合5位アンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)の姿は無かった。

ゴスとマシューズをスプリントで破ったフランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)ゴスとマシューズをスプリントで破ったフランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsujiポルトを含む逃げはゴールに向かって懸命に踏み続けたが、ラスト10km地点でリーダージャージを含む18名のメイングループに吸収されてしまう。グライペルを含む20名ほどの集団を25秒引き離したまま、メイングループはゴール地点ウィランガに続く平坦区間に突入した。

ゴール5km手前の最終コーナーでボブリッジが単独落車し、メイングループから脱落。ラスト2kmを通過すると、15名に絞られたメイングループからゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)がアタック。イサギーレは数秒のリードを得てラスト1kmのアーチを通過した。

ステージ優勝を飾ったフランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)ステージ優勝を飾ったフランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsujiしかしイサギーレのロングスパートは徐々に失速。後続のスプリンターたちが腰を上げてスプリント体勢に。早めに仕掛けたベントソを、ゴスとマシューズが追い上げる展開。ゴール前の数メートル手前でマシューズがベントソに並んだが、僅かに届かず。ベントソが少し自信なさげに片手でガッツポーズを作った。

昨年のルイスレオン・サンチェス(スペイン)に続くスペイン勢の勝利。モビスター(元ケースデパーニュ)としては2年連続のウィランガステージ制覇だ。

リーダージャージを守ったキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)リーダージャージを守ったキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiベントソは喜びと安堵感に満ちたコメントを残す。「今日は今までのステージよりも脚の感触が良かった。自分にとってもチームにとっても非常に意味のある勝利だ。新たなスポンサー(モビスター)を獲得したチームにとって、これは価値ある勝利だ。シーズン初戦での勝利は最高のスタート。これでようやく落ち着いて走ることが出来る。」

勝利したベントソは「観客が非常に多くて、レース環境として最高だった。」とレースを振り返る。この日のコースに集まった観客は127000人。ウィランガヒルは文字通り観客で埋め尽くされた。

スプリント賞トップに立ったマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)スプリント賞トップに立ったマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsujiリーダージャージのマイヤーはメイングループ内でゴール。リーダージャージを守ったが、ステージ2位のマシューズが6秒、ステージ3位のゴスが4秒のボーナスタイムを獲得したため、総合タイム差は縮まっている。最終ステージを前に、マイヤーとゴスの総合タイム差は8秒の総合リードを得ている。

11秒遅れの第2集団でゴールしたグライペルは総合5位から総合8位にダウン。1分48秒遅れでゴールしたマキュアンは総合4位から総合35位にダウンした。総合優勝の行方はマイヤー、ゴス、マシューズの3名に絞られたと言っていいだろう。

マイヤーは「今日は理想的なレース展開だった。ゴスとマシューズが総合タイム差を詰めたけど、彼らのボーナスタイム獲得を最小限にとどめることが出来たと思っている」と、チームの走りに満足する。「今日の走りを見る限り、明日はリーダージャージを守れると思う。脚も良く回っているし、明日全てがうまく行くことを祈るばかりだ。」

「今日は勝利がすぐそこにあったのに、スプリントのポジション取りに失敗した。沿道のバリアに寄せられて、本来の力を発揮出来なかったんだ。でも3位に入ってボーナスタイムを獲得出来たので、最悪の結果とは言えない。」そう振り返るのは、マイヤーを射程圏内に捉えたゴス。「総合タイム差は小さい。明日はリーダージャージを狙って走る。今度は自分がリーダージャージを着る番だ。」総合逆転に自信を見せている。

ツアー・ダウンアンダーは第6ステージのクリテリウムで幕が下ろされる。レースは4.5kmの平坦な市街地コースを20周。途中2つのスプリントポイントが設定されており、最後のゴールスプリントまで総合争いの行方が分からない白熱したレースが繰り広げられるはずだ。

ツアー・ダウンアンダー2011第5ステージ結果
1位 フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)    3h06'10"
2位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)
3位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)
4位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)
5位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)
6位 ロバート・ハンター(南アフリカ、レディオシャック)
7位 ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)
8位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)
9位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック)
10位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)

個人総合成績
1位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) 16h00'40"
2位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)         +08"
3位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)            +10"
4位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)         +12"
5位 フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)         +17"
6位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)             +18"
7位 ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)          +26"
8位 アンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)       +27"
9位 アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)           +28"
10位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

新人賞
キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)

スプリント賞
マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)

山岳賞
ルーク・ロバーツ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

敢闘賞
リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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